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 (2011/7/28) 
「〜ことが26日までに分かった」

福島原発事故関係の報道はそのすべてに目を通すということもできないので、大局的な視点と直近のニュースの分析は『たね蒔きジャーナル』の小出裕章氏ラジオインタビューをずっと聴いております。

このインタビューをすぐにYouTubeにアップしてくださる方がいて、昨夜の放送を早速聴いていたところ、わたしの知らなかったニュースが話題になっていました。

<水野アナ> それから、もうひとつ伺いたいことがございます。
  これは報道の監視につながる話なんですけれども、
  経済産業省資源エネルギー庁が、2008年度から
  報道機関の原発関連の記事を監視する事業を行っていたことが
  分かった ー こういう報道が出て参りました。
  で、今年度は事業がどうなっているかといいますと、
  今回の事故を受けまして、ツイッターやブログなどの
  インターネット情報を監視するための補正予算が計上されている、
  ということです。
  こうした動きは、小出先生から見たら、どう見えますか?
<小出> いやな国だな、と思います。
<水野> わたしたちはほんとうに東電や国からちゃんとしたデータを欲しい
  欲しいと、ずっとたね蒔きジャーナルはこの事故直後から、
  小出先生の主張を繰り返してきたわけですけれども、
  なかなか正式にいろんな情報がでてきませんでした。
<小出> そうです。
<水野> その一方で、こうした事業が続いていたと、いうことですね。
   近藤さん、エネルギー庁の担当者は、ですね、「いや、そんな
  自由な発言を制約するものではないですよ」と、いうふうには・・・
<近藤>(笑い)そりゃ、制約されたらエラいことやな。
<水野> もちろんそうですが。
<近藤> それは当たり前のことで、わざわざなんでそんなことすんのか、
  意図が気になるよね。
<水野> なるほど。
  でまた、こうした事業を受注している団体があるそうですが、
   その団体のうちにある、ひとつの団体は
  東電の会長が理事を務めている、
  あるいはまたほかの団体は
  理事長を東電の元副社長が務めている、
  でまた、役員を経済産業省や、また原子力安全保安員の出身者も
  役員を務めている ー 
  こういうのは天下りと呼ぶんですか?
『20110727 たね蒔きジャーナル 京都大学原子炉実験所助教 小出裕章』
そんなニュースを知らなかったので、早速ソースを捜しました。

まず、たね蒔きは「毎日放送」だから、毎日新聞の記事を引用することが多いのですが、該当記事はこれと思われます。

『記事監視:エネ庁が08年から 今年度はツイッターも対象』
毎日新聞 2011年7月26日 10時26分
だが、記事の扱いはスクープ気分のない短いもので、別に先行報道があるような印象を受けます。その第一報をを検索で捜します。けれど、ヒットするのは、記事がそっくりコピーされているブログにばっかり。しかもソースの表示がありません。ようやく、コピーされているのはこの共同の記事らしいことが分かりました。
経済産業省資源エネルギー庁が2008年度から、報道機関の原発関連の
記事を監視する事業を行っていたことが26日までに分かった。
『エネ庁が原発記事を監視 11年度はツイッター対象』
2011/07/26 05:16 【共同通信】
「〜までに分かった」というメディア用語は、自らの調査取材ではなく、警察などの発表を横流しする受け身の報道によく使われる常套句。今回はソースを明記しないことから、どこかの後追い報道の臭いがします。

東京新聞は7月23日の本紙で自分の調査に基づく記事を掲載していました。その冒頭の要約にはこうあります。

経済産業省資源エネルギー庁が原発に関するメディア情報を監視して
きたことが、本紙の調べで分かった。本年度発注分を含めると、外部
委託費の総額は四年間に約1億3千万円に上る。昨年度までは、いずれも
電力会社役員らが理事を務める財団法人が受注していた。
『エネ庁が原発記事監視』
東京新聞 7月23日 切り抜きをアップしたブログ
傑作なのは、記事中の以下の取材での発言。
「今年はどうしてこの事業が注目されちゃったのかな」。取材すると、
資源エネルギー庁職員はけげんそうな表情でこう話した。
ジャーナリズムの使命は権力を監視することであるのに、権力がジャーナリズムを監視していること、その監視代に国民の税金が使われていることに、この職員はなんの違和感もないようです。それよりなにより、これを追及しないニッポンメディアはジャーナリズムの看板を降ろさないとなりませんね。

この東京新聞の記事はたしかに自力で調査取材した内容で、これが最初の報道かと思いましたが、調べると、どうやら最初のスクープ記事は日本共産党の「しんぶん赤旗」の以下の記事だったようです。

政府が新聞やインターネットを監視し、原子力発電に関する言論を収集
していたことが分かりました。経済産業省の外局である資源エネルギー庁が
「不適切・不正確な情報への対応」を口実にメディアを監視していたのです。
 この事業は、原子力施設立地推進調整事業のうちの「即応型情報提供事業」
です。資源エネルギー庁の調達情報によると、2008年度は社会経済
生産性本部が2394万円、09年度は科学技術振興財団が1312万円、
10年度は財団法人エネルギー総合工学研究所が976万円で受注しています。
『エネ庁が原発報道監視 税金使い「不適切情報」収集 全国紙・立地県地方紙・ネットも』
2011年7月14日(木)「しんぶん赤旗」
「26日までに分かった」のはまちがいではないけど、せっかくなら「14日から分かった」とでも書いたらどう?


 (2011/7/24) 
メディアの日米差 <女子サッカー>

アメリカでも女子サッカーファンが、帰国した選手が出演したテレビのインタビュー番組やトークショーをすぐにYouTubeにアップしてくれているので、彼女らがどんなふうにアメリカで反響を呼び起こしているのか、そしてメディアがどんなふうに取り上げているのかが手に取るように分かります。それが日本のメディアとの違いを浮き彫りにしてくれます。

とくにHope Soloは、その美貌だけでなく、試合で発揮した実力、そして権威におもねることのないストレートな物言いで多くのファンをとらえているようです。そのことで女子サッカーがもっと認知されるとともに、若い人たちがサッカーを志すきっかけを広げることにもなることでしょう。単に勝った、負けたということではなくて、「あんなプレーヤーになりたい」とこどもたちが啓発されるためには、メディアの役割も小さくはないはずです。その点ニッポンメディアは、なんか追っかけ取材ばっかだな。



 (2011/7/21) 
二人のヒロインのインタビュー <アメリカ女子サッカー>

日本でのなでしこチームの凱旋ぶりに比べて、アメリカのチームは母国でどのように迎えられたでしょうか。

ここで紹介した選手たちのコメント、そしてメディアの記事やコラムの論調そのままに、観客を興奮させたすばらしい試合を見せてくれたチームを暖かく迎え、健闘を讃えるインタビューや会見がYouTubeで見られます。

そのうちのひとつ。7月19日(USA時間)に放送されたインタビュー番組YouTubeには、FWのAbby WambachとGKのHope Soloのふたりが出演しています。このふたりは、たんに運動能力だけでなく、その発言からも高い知性を感じさせるアスリートでですが、このインタビューではユーモアのセンス全開で、会場を爆笑の渦に包んでいました。

司会: あなたの得点の多くは頭でですよね。
ワムバック: そうだけど。(司会者がサッカーに詳しくないそぶりなので、
 会場笑い)
司会: ぼくは大学の体育の授業でサッカーをちょっとやったことがあってね、
ワムバック: 大学で?ほんとにやったの?(会場笑い)
司会: そう、そのときヘディングなんかも練習させられるわけね。
 で、何年かあとになって、どうしよう、あれで頭がおかしくなっている
 かも知れない、って、・・・
ワムバック: (すかさず)なんですって?(会場大爆笑と拍手)
司会: はっはっは。それって問題ない?
ワムバック: まあ、クラクラするときもあるけど、いいボールをもらって
 ヘディングを決めるのはすばらしい快感でもあるの。
 脳ミソは、いまのところ大丈夫みたいね。(会場大爆笑と拍手)
負けたけど、勝ったのが日本でよかったという意味のコメントにたいして、司会者が尋ねたときに、ソロは宮間あやを引き合いに出して、こう言っていました。
ソロ: 日本チームの宮間あやとはいい友人で、背番号8、決勝では1点目のゴール、
 2点目のアシストを決めているんだけど、彼女は優勝が決まった直後
 チームのみんなが抱き合って喜んでいるときに、ひとり私たちのところに来て、
 敬意を表していたわ。私たちがどれだけ辛いか分かっていたから。そういうことが
 国を尊敬しあうことでもあるの。でも私は言ったの、「あや、あなたたちは
 ワールドカップで優勝したのよ。日本が初めて優勝したのだから、みんなと
 一緒に祝福しあって」
映像では熊谷が決勝PKを決めたあと、抱き合いながら喜ぶなでしこチームのシーンが画面を占めましたが、そのとき宮間だけがアメリカチームに駆け寄っていました。気をつけてビデオYouTubeを見ると、彼女が13番のモーガン選手とハグするところが、ほんの一瞬ですけど、映っています。

このスタジオでのインタビューの後、3人はブロードウェイに出て、走るイエローキャブの開いたドアめがけてシュート合戦をギャラリーに披露します。そのとき、ソロはイブニングドレスだったけど、シューズだけ履き替えて、裾をまくり上げてボールを蹴る姿の、なんと勇ましいこと。



 (2011/7/20) 
両チームともに賛辞をおくるべき<女子サッカー決勝>

なでしこチームが昨日帰国して、午後開いた優勝報告記者会見はなごやかな雰囲気に終止していました。その様子を忠実に伝えている記事のひとつはサンケイスポーツでした。

『世界一の掛け合いで爆笑連発凱旋会見』
サンケイスポーツ 7月20日(水)7時51分配信

米国との決勝のPK戦でヒロインとなったGK海堀が「PK戦前にリラックス
させてくれて心強かった」と話すと、すかさず指揮官は「(控えGKの)山郷と
福元が一緒に研究してくれていた。僕から学んだことはないと思う。そうだろ? 
はっきり言え」と鋭いツッコミ。すると海堀は「自分が戦えたのは、山郷さんや
福元さんがいたからだと思います」と言い直し、笑いの渦はさらに大きくなった。
さらに、決勝のペナルティキックを決めた最年少の熊谷選手を4番に起用したことについて、佐々木監督が、「他の選手たちはまあ順当なものとして受け入れていたが、熊谷だけは顔がひきつっていたな」といったときに熊谷選手の顔がまたも引きつっていたのがおかしかった。PK戦のヒロインはキーパーの海堀と熊谷だったが、この思い切った起用にたいして見事に答えた熊谷の決勝キックも劇的といえるエンディングでした。

ところで、この会見では各選手が、これまで困難な状況の下で女子サッカーの道を切り開いて来くれた先輩たちがいてくれての優勝だと、そろって口にしていました。

日本の女子サッカーが置かれている恵まれていない状況が知られるようになってきましたが、それはアメリカでも似たところがあるようです。男のスポーツに比べてまだまだ認知度の低い女子サッカー。ワシントンポストに掲載されたSally Jenkinsのコラムによると、オリンピックやワールドカップのないときは全く話題にもされず、今回も、大接戦でブラジルを破ったあとからフィーバーが始まった、といいます。それにたいして彼女たちは不平を口にすることはなかった。そうしないで、ただひたむきに走り続けた。プロスポーツとしての女子サッカーの将来のために、彼女たちはピッチで結果を残すべく、ただ走り続けた。そのことだけでも、彼女たちは尊敬を受ける価値がある、とテレビからでは見えない「プレー」に言及したあと、記事はワムバック選手の直の言葉を引用します。

“We’re pro athletes, something not many women have the privilege to 
experience,” Wambach said earlier in the week. “In order for me, in my 
life, to continue doing something so amazing, this job, it’s almost a duty 
to give these [younger] girls a platform to inspire themselves. ...It’s 
almost a pay-it-forward system at this point. Some people call it a burden, 
but I don’t call it a burden. It’s a responsibility and it’s something 
I and my teammates take very seriously.”

「私たちはプロのアスリートとしてやっていますが、このような恵まれた経験を
できる女性は多くはありません」とワムバック選手はつい先日も語っていた。
「わたしがこのすばらしい競技をずっと続けるためには、若い(次の世代の)女性
プレーヤーが活躍できる環境を広げていくことはほとんど義務のようなものです。
これは今のところは、いわば pay-it-forward(無償で他人を助けることで、その
助けられた人がその恩を別の人に繋ぐ、という「たすきのリレー」)でやっている
ことです。これをお荷物と呼ぶ人もいますが、私はそれをお荷物とは呼びません。
それは責任と呼ぶべきであって、私もチームメイトも本気で取り組んでいることです」
『ワールとカップ決勝:すばらしいゲームに両チームともに賛辞を』
"World Cup final: Both teams deserve respect after enthralling game"
The Washington Post  By Sally Jenkins, Published: July 18  
そうして、結果としては破れたものの、アメリカチームの選手と監督の決勝戦の戦いぶりを賞賛して、カップを持ち帰ることがいかに難しいことか、以下のエピソードで記事を締めくくっています。
They didn’t underestimate the team they would be facing in Japan. Goalie 
Solo put it best. “They are the sentimental favorites of this tournament, 
and it’s pretty clear to us they’re playing for something bigger and better 
than the game. When you are playing with so much emotion and heart, that’s 
hard to play against.”

アメリカチームは対戦する日本チームを見くびってはいなかった。キーパーのソロは
それを端的にこう表現していた。「日本チームは決勝トーナメントで観客を味方に
つけてきている。そして私たちには、彼女たちが試合よりももっと大きなもの、大切な
もののためにプレーしていることがはっきり見える。そういう気持ちと気迫でプレー
するとき、チームは手強いものになる」
こういう両チームにしてはじめてあの観客を魅了した試合内容があったことを、遅ればせながら、気づかされます。


 (2011/7/18) 
神懸かり的なものを感じた<女子サッカー日本の劇的勝利>

たしかにこれは歴史に残る良い試合だったと思います。リードされるたびにハラハラさせられたけど、2度も同点ゴールで追いつくシーンには、テレビに向かって歓声を上げてしまいました。攻勢のアメリカのシュートが何回かゴールポストに跳ね返ったときは、なにか勝利の女神がなでしこに味方しているのではないか、と感じたほどですが、2点目の澤選手のゴールにいたっては、どこか神懸かり的なものを感じました。

ライブで見ていたので、試合後の日本の選手と監督のコメントなどはひととおりカットなしで聞くことができました。日本のニュース速報はそれらをコマ切れに報道している段階なので、もう少し実のある内容の記事はこれからでしょうが、アメリカではすでに整理された速報がされていました。

たとえば、ロイターが伝えたこの記事。

『サッカー=決勝で敗れた米国、なでしこジャパンの粘りに脱帽』
ロイター 7月18日(月)13時3分配信

 米国のGKホープ・ソロは同国代表チームのウェブサイトで「わたしたちは
偉大なチームに敗れた」とコメント。また、「何か大きな力が日本を味方して
いたと感じた」とし、「勝ちたかったけれど、他のチームが優勝するなら日本が
良かった」と述べた。
ここでいうアメリカ代表チームのウェブサイトとは、ここのことだと思いますが、そこにすでに、「女子ワールドカップの決勝でPK戦で破れたアメリカ選手が語る」と題して、監督・選手のコメントを伝えるページがありました。上の記事で引用されているゴールキーパーのHope Solo選手の発言は以下の部分と思われます。彼女も「何か大きな力が日本を味方していたと感じた(I truly believe that something bigger was pulling for this team)」と言っているのは、奇しくも同じ
『U.S. Women Speak after Penalty Shootout Loss to Japan in Women's World Cup Final』 
U.S. Soccer July 17, 2011

On the disappointment of the result:
“We lost to a great team, we really did. Japan is a team that I’ve always 
had a lot of respect for, and I truly believe that something bigger was 
pulling for this team. As much as I’ve always wanted this, if there was 
any other team I could give this to it would have to be Japan. I’m happy 
for them and they do deserve it.” 
「勝ちたかったけれど、他のチームが優勝するなら日本が良かった」とコメントするのはSolo選手だけでない。Lloyd選手の似たコメントがNew York Timesの記事にもありました。
『A Resilient Team Soothes a Nation』
New York Times  July 17, 2011 

With each victory in this World Cup, Japan’s confidence seemed to blossom 
like the pink flower for which the team is nicknamed. It had never before 
defeated a European team, but it put aside Germany and Sweden. Then it won 
the tournament, surviving the caprice of penalty kicks against the United 
States.
 “If any other country was to win this, then I’m really happy and proud 
or Japan,” Lloyd said. “Deep down inside, I really thought it was our 
destiny to win it. But maybe it was Japan’s.” 

今回のワールドカップで勝利するごとに、日本チームの実力は、そのチームの愛称の
ピンクの花が大きく開いていくかのようだった。彼女たちはこれまでヨーロッパの
チームに勝った試しがなかったが、ドイツとスウェーデンを退け、決勝では何が起るか
わからないPK戦の末、アメリカを下した。
 ロイド選手は言う、「もしもアメリカ以外の国が勝つ宿命だったのなら、それが
日本であったことをほんとうに喜びたい。心の底では、私たちの方に運命の神がいる
と信じていたけれど、日本の方にいたようね」
ドイツチームと同じように、「事実にたいして冷静なこの姿勢と、勝った相手へ賛辞を送る余裕」はやはりランキング1位のチームも同様です。ドイツと同じく女性監督のPIA SUNDHAGE氏は、上記U.S. Soccerのページで、なによりも「良い試合」だったことを評価しています。
On the positives to be taken from the match:
“I think we gave the crowd a good game today. It has to be a final to remember. 
Credit to our team and credit to the Japan team. I’m very happy with the way 
we played in the first half, which was a change if you compare it to the semifinal.
We won a silver medal and I hope I can feel that after a couple weeks. As everybody 
knows, at the highest level with penalty kicks it is a small difference between 
success and not success.” 

試合の良かった点について:
今日は観客に良い試合を見てもらうことができたと思っている。これは記憶に残る決勝戦と
なるだろう。私たちのチームにも、日本のチームにも、賛辞をおくりたい。前半のアメリカ
チームの戦い方には満足している。準決勝の試合と比べていただけると、違いが分かるはず。
銀メダルを獲得したという実感が今の私にはないが、1週間もしたら分かってくることを願う。
だれもが知っているように、PK戦のような極限の勝負では、勝ち負けは紙一重の差なのだから。
私も、このような「歴史的試合」を生中継で見ることができたことを嬉しく思います。

ところで、なでしこの選手たちは決勝戦の翌日にはドイツを発って帰国(19日朝成田着)というスケジュールだそうですが、彼女らはいつもエコノミークラスの席とか。世界的なヒロインに対して、日本サッカー協会はなんら考慮がないのかな? 機中泊となるヨーロッパやアメリカへのフライトは、体を平らにできないエコノミーシートでは、眠れなかったり、腰をいためてしまう。ビジネスクラスが空いているときに、エコノミー客をビジネスクラスにアップグレードしてくれる航空会社があって、わたしも2,3度恩恵にあずかったことがありますが、今回利用するエアラインは、なでしこの花たちに、なんらかのサービスを提供する度量があるでしょうか?



 (2011/7/13) 
調査報道志向ジャーナリズムの台頭

Yahoo!ニュースはたんにニュースのポータルサイトではなくて、取り上げるニュースの関連情報の選択には編集部の見識が見られることがよくあります。

たとえば、11日のこの記事

『玄海町長実弟企業が九電工事、15年で56億円』
読売新聞 7月11日(月)14時49分配信
のリンクに、以下のニュースサイトの記事がありました。
『玄海町長ファミリー企業、国と県の天下り先だった
 〜原発利権めぐる癒着の実態〜』
Hunter 2011年7月 1日 08:00
そこには、Hunterの独自調査による以下の事実が報じられています。
玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の再稼動問題で、鍵を握る存在と
なった岸本英雄町長のファミリー企業に、旧建設省と佐賀県のOBが
天下りしていたことが明らかとなった。
 原発利権にすがる地場ゼネコンと、国、県、立地自治体の不適切な
関係。中心にいるのは岸本町長その人である。
このファミリー企業とは岸本英雄町長の実弟が経営する建設会社「岸本組」のことだが、この「調査報道を志向するライターが中心となって」運営するニュースサイトは、
 その岸本組は、佐賀県、唐津市、玄海町といった自治体発注の工事を
受注する一方、九電や西日本プラント工業を得意先としている。
 西日本プラント工業は九電の子会社で、火力発電所・原子力発電所
の設備設計や製作、関連工事を行なうプラント企業だ。
『玄海町政「癒着の構造」 九電軸にうごめく政・業
〜玄海原発運転再開への疑問〜』
Hunter 2011年6月17日 10:00
と、鋭い追及を早くから行ってきた。

冒頭の読売の記事は、これ以前に岸本組にかんする報道が見当たらないことから、Hunterの報道に触発されて、調査に乗り出したものと見られます。今日も以下の続報があります。

『玄海町議親族企業も原発関連工事…4年で4億円』
読売新聞 7月13日(水)10時9分配信
 九州電力玄海原子力発電所が立地する佐賀県玄海町の中山昭和(てるかず)・
町議会原子力対策特別委員長(66)の次男が経営する建設会社「中山組」
(本社・玄海町)が、2009年度までの4年間で原発関連交付金を財源と
した工事を少なくとも12件、総額約4億200万円分を受注していたこと
がわかった。
新聞社、とくに大手新聞には「こどものお遣い」記事しか書けない記者が多いが、なかには独自に調査・取材する記者もいるでしょう。きっと後者は、このままでは自分の新聞社に先はない、との危機感に支えられているものと思います。わたしは、新聞社どころか、ジャーナリズムがこのままでは国に先はない、と危惧するものです。


 (2011/7/11) 
ドイツ:メディアも監督もおそるべし <女子サッカー>

サッカー女子ワールドカップでなでしこジャパンが、準々決勝でディフェンディングチャンピオンのドイツを破ったことが昨日朝からテレビやネットでおおきな話題になっています。身長と体格に勝るドイツの選手にたいして、小柄な日本選手が早いパスまわしと相手に負けない運動量で、ついにゴールをもぎ取ったシーンは感動的でした。

澤選手から芸術的なパスを受けて絶妙な角度でシュートを放った丸山選手は、ブロガーとしても知られる元東電社員。そのブログで、福島原発事故について4月2日に「天災なのに、自然災害なのに。なんでこんなに東電がたたかれるのか」と「素直な気持ち」を書いたら、批判が殺到して、炎上。けれど、翌々日の4日にはすなおに「今もなお、震災に苦しむ皆様に不愉快な思いをさせてしまいました」と反省して、くだんの記事を削除した、といいます。

そういえば、そんなニュースの見出しを目にした記憶があるが、そのときは記事までは追いませんでした。今そのブログ記事を読むと、たんに「一生懸命原発内で戦ってる東電作業員がいる」ことに捕われての、東電批判への反発だったようです。でもまあ、そんな失態にくじけず、それをバネにしてゴールをあげたことは賞賛されるべき。

それにたいしてドイツは、3連覇を期待されての重圧から、いくらか固くなっていたようにも見られました。では、いったい、格下のチームに破れた監督と地元メディアは、試合をどんなふうに反省・論評したか?

今日の夕刊各紙には、短いながら、ドイツチームの女性監督Silvia Neid氏のコメントが紹介されていました。

 ドイツのナイト監督は「ゴールを決めないと負けるのがサッカー。きょうはあと
何時間やっても決まらなかったと思う」と潔く敗戦を受け入れた。
 日本については「素晴らしかった。規律正しく、(ドイツが)攻めようとしても
戻りが速かった。日本選手のボール扱いのうまさには感心した」と賛辞を惜しまず
「この後も幸運を祈りたい」とエールを送った。
『なでしこ初の4強』
東京新聞 2011年7月11日 夕刊
そして、地元の放送局や新聞は、
 ドイツ公共放送ARDは「震災でチーム運営企業もまひ状態に陥ったが、日本は
W杯で不屈の強さを見せつけた」と報じた。また、プレーへの称賛も相次ぎ、FW
丸山桂里奈選手(28)の決勝ゴールは「天才的」(南ドイツ新聞)、MF澤穂希
選手(32)の絶妙なパスは「夢のようなパス」(DPA通信)と絶賛した。
 また、フランクフルター・アルゲマイネ紙は、日本が優勝候補を破った結果を
「偶然の勝利ではない。最大限まで力を出し尽くした結果だ」とたたえた。
『<サッカー>なでしこ、独メディアが絶賛…女子W杯』
毎日新聞 7月11日(月)10時48分配信
日本のメディアの伝え方は、「潔く敗戦を受け入れた」とか「(日本チームを)たたえた」との表現に見られるように、相手からの賛辞を手柄のように伝える習性があります。けれど、もし立場が逆だったら、日本のメディアはどんな報道・論評ができていたでしょう? 北京オリンピックで惨敗したジャパン野球チーム監督がどう敗因を語ったか、まだ記憶に新しい。

事実にたいして冷静なこの姿勢と、勝った相手へ賛辞を送る余裕に、わたしはドイツの底力を見る思いがします。原発廃絶を決めたのも、こういう「いさぎよさ」と無関係ではないのかも知れません。はっきり言えることは、ドイツチームはやがてまたチャンピオンの座を手にするだろうということ。



 (2011/7/9) 
そら、出てきた東電広報「津波の高さ13メートル」

ここ数日、いまさらの九電「やらせメール」スキャンダル劇と、菅直人おとくいのパフォーマンス寸劇「ストレステスト」がマスコミをにぎわせていた陰で、東電広報によるある重大なプレスレリースが小さく報道されました。それは、福島第一を襲った「津波の高さ」の推定値が13メートルにもなった、というもの。

両発電所の検潮所設置位置における津波の高さは、津波の調査結果および数値
シミュレーション結果から、福島第一原子力発電所が約13m、福島第二原子力発電所
が約9mと推定いたしました。
『当社福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所における津波の
調査結果に係る報告書の経済産業省原子力安全・保安院への提出に
ついて』
東京電力株式会社 プレスレリース 平成23年7月8日
例によって、明細は添付資料としてPDFで提供されています。その資料に立ち入る前に、まず、ニッポンメディアがこの情報をどう報じたか?
東京電力は8日、東日本大震災の津波が福島第一原発に到達した時の高さは、
海岸の検潮所で13メートルだったとする解析結果を公表した。海岸で想定
していた高さ5.7メートルは過小評価だったことが改めて裏付けられた。
これまで、海岸での高さについてはっきりした評価はなかった。
 『津波、高さ13メートルで福島第一に到達 東電が解析』 
朝日新聞 2011年7月8日23時18分                          
大手メディア、つまり記者クラブメディア、はどれも同じような扱いで、東電の発表をそのまま横流しする「こどものお遣い」記事。なんらコメントもなければ、いわんや、東電のプレスレリース文書への言及もありません。これでも新聞記者だ。

では、添付資料として公開された文書には何が書かれていて、なにが書かれていないか?

福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における
平成 23 年東北地方太平洋沖地震により発生した津波の
 調査結果に係る報告(その 2)【概要版】
平成 23 年 7 月 8 日 東京電力株式会社
という長たらしいタイトルの文書は「その2」とあるように、ここで取り上げた4月9日版のプレスレリースの続編なのですが、要は、不明のままの「津波の高さ」を「津波波源モデルの推定を数値シミュレーションにより」行ったら、13メートルとなった、というもの。
今回の地震・津波による広域(北海道~千葉県)の浸水高、遡上高、浸水域、
検潮記録及び地殻変動を最も良く説明できる津波波源モデルの推定を数値
シミュレーションにより行いました。結果は以下のとおりです。
  両発電所の検潮所設置位置における津波の高さ※は以下のとおりです。
   福島第一原子力発電所:約+13m
   福島第二原子力発電所:約+ 9m
  ※:計器の損傷のため、検潮所における実際の津波の高さは把握できておりません
そして、どうして近くの福島第二とこんなに違っているのか、また「推定」しているのです。そもそもの「津波の高さ」がシミュレーションによる推定値なのに、その推定値を説明するためにまた推定を重ねるなんて、そんな上塗りをして恥ずかしくないのかしら? ほころびは広がるばかり。

この文書でまず気づくのは、これまた前回同様、用語の解説とイラストです。またまた手が加えられています。今回は、その気象庁のイラストがこんなふうになっています。そしてまた今回も、その変更理由は明らかです。

津波の高さtepco図

そうです。津波の高さを論ずるためには、その定義「津波がない場合の潮位(平常潮位)から、津波によって海面が上昇したその高さの差」(気象庁HP)を無視できないのです。ところが、「浸水高」のO.P.基準は今更変えられないし、ましてや「痕跡高」に訂正などできません。東電広報も苦しいのです。

もっと苦しいのが、5月19日に公表した写真集。津波が北防波堤を乗り越えるシーンおよび、防波堤が決壊するシーンがあるが、これは前回指摘したように、津波の潮位が13メートルもあったようには見えない。だいいち、そんな潮位なら、潮が引いたときに、水深6〜7メートルしかない取水口が干上がって、冷却水が取り込めなくなりそう。

東電は、津波の高さが13メートルになるようシミュレーションの仮定やパラメータを工夫するのも結構だが、そんなことしなくても、隠している写真や映像を公開すれば、いくらでも解析してくれる学者がいるのです。それができない理由って、なんなんでしょう。今となっては、きっと東電も、あの連続写真さえ公開するんじゃなかった、と後悔していることでしょう。それとも、柏崎刈羽原発に13メートルの防潮堤、防潮壁を、本気で作る気があるのかな。



 (2011/7/2) 
津波を過大に演出した東電資料のほころび

福島第一を襲った津波の高さは14〜15メートルだった、との4月9日の報道になにか作為的なものを嗅ぎ取って検証を続けてきました。その締めくくりに今回は、4月9日の東電のプレスレリース文書と、それからさらにひと月以上もたった5月19日に公表した津波の連続写真について分析します。

というのは、これらふたつの公開情報について、その公開のしかたについて苦情を呈するコメントは見るのですが、肝心のその情報そのものについて分析や考察をした記事やサイトが見当たらないのです。(もちろんわたしの捜し方が十分でないのかも知れませんので、すでにどなたかがやっていらしたら失礼)むろん、東電が原発事故については情報操作していることは周知です。けれど、これだけの事件だと、つじつま合わせも大変なはず。

まずテレビによるニュース報道ですが、津波の高さを15メートルと報道したのはニッポンメディアであって、じつは東電のレリース文書にはそもそも「津波の高さ」については書かれていないのです。えっ?じゃあなんて書かれてあるの?というと、

福島第一原子力発電所では、主要建屋設置エリアの海側面において、
浸水高O.P.約+14〜15m(浸水深 約4〜5m)の浸水がほぼ全域で生じている
「当社福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所における津波の調査結果について」
 東京電力株式会社 プレスレリース 平成23年4月9日
つまり、浸水高と浸水深について数字を挙げているだけで、津波そのものの高さについては何にも言っていないのです。しかもそのその数字はO.P.基準の「浸水高O.P.約+14〜15m」。それを「15メートルの津波」と言い換えているのは大手メディアであって、ということは一般日本人もそのまま聞き入れていた、というのが事実です。

では、なんでそんなレトリックのような技が出てくるかというと、そこに「津波の高さ」の定義がからんでいるのです。このプレス発表文書には「用語の解説」があって、下の注とイラストが添付されています。

・O.P.(小名浜港工事基準面)
   T.P.(東京湾平均海面)の下方0.727mにある基準面
(気象庁HPに加筆)

東電版津波高さ定義
これを見てだれもが変に思うのは、なんで小名浜港の、それも「工事基準面」が、出てくるの? このイラストは東電のオリジナルではなくて気象庁のものを加工したもののようです。ではその気象庁オリジナルはどうなっているのかというと、

気象庁津波高さ定義

手を加えられた箇所と意図は明らかです。「平常潮位」が「基準面 O.P.」に変更され、「痕跡高」が「浸水高」に言い換えられています。平常潮位とは「津波がない場合の潮位」で、それを基準として「検潮所」で測定したのが「津波の高さ」の定義。そして、「痕跡高」では津波の高さっぽくないので、これを「浸水高」にすり替えることで、あたかもこれが津波の高さであるかのような印象を演出したものか。

では、平常潮位とO.P.とではどんな差があるのか? Wikipedia「福島第一原子力発電所」によると

当時、発電所の立地点では継続的な潮位観測を実施しておらず小名浜港のデータが
参考にされたが、その観測結果(1951年?1961年)は次のようになっており、
こうした情報を元に防波堤の設計などが実施された。
 ・ 高極潮位:O.P+3.122m(チリ地震津波)
 ・ 塑望平均満潮位:O.P+1.411m
 ・ 平均潮位:O.P+0.828m
 ・ 塑望平均干潮位:O.P+0.091m
 ・ 低極潮位:O.P-1.918m(チリ地震津波)
さらに沖800メートルに伸びている防波堤は、そもそも津波対策ではなくて冷却用の取水を目的としたものだが、その高さは、
 ・ 北防波堤天端高:O.P.7m
 ・ 南防波堤天端高:O.P.5m
これだと、福島第一の海岸の平均潮位はO.P.ではなくて、それよりも0.828メートル高いということか? すると南防波堤の高さも平均海面から5メートルもない?

プレス発表には添付資料があり、その資料1『福島第一原子力発電所 津波の調査結果 pdf』に「福島第一原子力発電所における津波の状況(概念図)」があります。

津波の状況概念図

ここに、「想定津波最高水位 0.P.+5.7m」とあり、ここでもO.P.基準の数値が使われています。その津波の水位を表す破線は当然(南)防波堤を超えています。もしも実際の海面の水位がO.P.ではなくてそれより0.828メートル高いものであったら、5.7mの想定限度津波どころか、5mの津波が余裕で防波堤を乗り越えてくることになります。なのに、この図では、高だか5メートルの防波堤が、あたかも14〜15メートルの津波の潮位で水没しているかのように描いています。ふつうなら見過ごしてしまうこういう細部のしかけを、作為と呼びます。

さらに、1〜4号機の敷地高がここでも「O.P.+10m」とありますが、実際の海抜は10メートルもないかも知れません。

同じ、資料1には「福島第一原子力発電所の浸水高、浸水域及び遡上高」を示す地図があります。幸いなことに、ここに防波堤まわりの等深線が描かれています。

福島浸水高と等深線

これを見ると、防波堤の沖の先端では水深10メートル、それが陸(防波堤)に向かってなだらかに浅くなっている様子が分かります。ここで、5月19日発表の連続写真から、5号機の南側高台から撮影された6枚を見ることにします。(縮小前の写真は こちらで)撮影地点は上の図に緑の円で示しました。

津波の写真12 津波の写真13 津波の写真14 津波の写真15 津波の写真16 津波の写真17

まず1枚目。波頭が崩れて(砕波)いるのが等深線8メートルあたりであることが見えます。その沖には白波は見えません。砕波は水深が8メートルと浅くなったところで発生しています。
次の写真は、南防波堤を津波が乗り越えるシーンです。けれど、一回ですんなり乗り越えたのではないようです。というのは、防波堤の沖側に白波が広がっています。第一波は一気に乗り越えたのではなくて、いったん押し戻されたが、後から続く水量に押されて、防波堤に溢れるまでになった。
3枚目。その防波堤が押し寄せる水量に耐えきれず崩壊。ちょうど山津波のように、せき止められていた水量が一気にタンクへと向かう。沖に貨物船か運搬船のような船舶が見える。やはり沖には砕波もなく、船は何事もないかのように航行している。
4枚目はその押し寄せた海水が足下の斜面で行き場を失ったシーン。3枚目から時間が経過しているが、その間、撮影したものがあるのかないのか、疑問が湧く。このタンクのある地点は海抜がないので、もろに浸水したうえに、陸側の崖から返す波でさらに溢れる。なお、撮影者は車が流されていることに興奮気味のようだが、車は1メートルほどの水で浮いてしまう。それは、車重が1〜1.5トンとして、車内に水面下で1〜1.5M3の空気があれば浮力が勝るから。
5枚目。いったん引き潮をなって、次の波の砕ける波頭。引いてくる海水にぶつかるので、よけいに白波が立つ。
6枚目。5枚目と同時の撮影と思われるが、引いていく潮が南北防波堤の開口部に集中するので、そこに白波が広がっている。だか、やはり沖合は青く静かなまま。

これらの写真が示すのは、津波の高さはせいぜい防波堤を超える程度の5メートル前後。けれど、標高の低い、かつ狭い陸の湾に溢れたために「浸水深」を高める結果となった、ということ。

さらに、撮影していた時間と撮影地点を考えると、いくつかの疑念がわいてきます。

まず、上でも触れましたが、撮影のコマ間の時間がありすぎる。もっとバチバチ撮っているのが自然だが、他の写真はどこへ行った?

もひとつは、ここは30メートルほどの標高の高台。ヘリから撮影した映像YouTubeを示します。(3月12日、1号機爆発前の映像) この高台は展望台のような位置なので、なにも眼下のタンクだけじゃなくて、肝心の原子炉建屋まで見渡せる位置です。それなのに、北側の5〜6号機付近の写真も、1〜4号機付近の写真も、ないのです。撮影していたのなら、それを公開してはならない理由があった。撮影していなかったのなら、撮影するほどの被害には見えなかった --- つまり、カメラマンにとっては、防波堤が決壊し、タンクや車が浮き上がったことのほうが、スペクタクルだった。

それにしても、何千人という人間がその場にいて、目撃しているのに、携帯(だかデジカメか知らないが)で撮影したのがたったの二人のわけがない。箝口令でも敷かれているものか?



 (2011/6/28) 
では、東電柏崎刈羽の津波対策の演出は?「15メートルの津波が明日来ても大丈夫」

柏崎刈羽原発の地形を以下に示します。赤の線が急斜面に沿ってトレースしたもの。敷地の北と南の端からは20メートルの等高線に繋いでいます。つまり、福島と同じような津波が襲ってくると、この範囲が浸水地域になります。

ここの敷地の高さは10メートルもなかった、と6/25に書きましたが、調べたら第1〜4号炉(下の4つ)の標高は5メートルということなので、15メートルの波どころか、その半分でも臨時の湾が出現します。でも、ここ柏崎で想定している津波の最高水位は3.3メートルだそうです。福島の想定は5.7メートルですから、ずいぶんと想定格差があります。

青い線は標高50メートルの等高線です。平面的な航空写真では一見して分かりませんが、地形図からはいかに背後の山が高いかが読み取れます。展望台が高くそびえるのは、削った土をここに積み上げているからです。

さて、この柏崎刈羽原発が、福島の事故を見て、あわてて敷地の海側に「防潮堤」を、原子炉建屋に「防潮壁」を築くとプレス発表したのは、4月21日のこの文書でした。

『柏崎刈羽原子力発電所における緊急安全対策に関する
 経済産業省原子力安全・保安院への報告について』
東京電力株式会社 平成23年4月21日
そこに、「緊急安全対策」とともに、「今後の対策」の大見出しがあり、後者が防波堤計画についての概略です。
【2.今後の対策】
 津波による浸水を防止し、更なる安全性を確保するための今後の津波対策につい
 て、以下の考え方を基に進めてまいります。
 I.防潮堤の設置
   海岸前面に設置する防潮堤により津波の浸入・衝撃を回避し、敷地内にある
  軽油タンクや建物・構築物等を防御する。
 II.建屋への浸水防止
   津波が敷地内に浸入した場合に、安全上重要な設備が設置されている建屋内
  への浸水を防ぐため、防潮壁の設置や扉の水密化を行う。
  (1)原子炉建屋の防潮壁の設置
    安全上重要な機器が設置されている原子炉建屋に防潮壁を設置し、津波に
   よる電源設備や非常用ディーゼル発電機などへの浸水を防ぎ、発電所の安全
   性を確保する。
 (2)原子炉建屋等の水密扉化
    原子炉建屋等の扉を水密化することにより、建屋内の機器の水没を防止す
   る。
そうしてその明細が資料として3点添付されています。その中のひとつ、
『柏崎刈羽原子力発電所における緊急安全対策について(実施状況報告)PDF』
に、この「防潮堤」「防潮壁」の概念図があります。わざわざ「概念図」と書いたのは、これらの図解が皆「イメージ」と断り書きがあるせいです。それはまだしも、すぐに気づくことは、この両者とも、高さの記載がないことです。イメージ図だけにないのではなくて、文書のどこにもありません。

     

もっとも、「防潮壁」については先に4月7日に発表しているのですが、そこでも東電側は「防潮壁の高さなどの詳細は詰めておらず、施工時期も未定としている」と地方紙が伝えています。(『柏崎原発1−4号機に防潮壁 津波対策新設へ』 新潟日報 2011年4月8日)

ようするに、福島を襲ったのが「14〜15メートルの巨大津波」と発表して、「だから原発事故やむなし」の言い訳にしようとしたのは功を奏したように見えるが、こんどはその数字が柏崎刈羽を襲うことになっているのです。

ところが、上の4月21日付けプレスレリースについて、朝日新聞(の地方版か?)がその防潮堤の高さについて「1〜4号機の敷地の海岸に高さ10メートル、5〜7号機に高さ3メートル」と数字を示して、こう書いています。

東電によると、1〜4号機がある敷地の高さは海面から5メートル、5〜7号機は
同12メートルのため、防潮堤はいずれも海面から15メートルの高さになる。
東日本大震災で、福島第一原発が高さ14〜15メートルの津波を受けたことを
 考慮した。長さは1〜4号機用が800メートル以上、5〜7号機用が500
メートル以上で、いずれも2013年6月までに完成する予定。
 また、1〜4号機の原子炉建屋への津波侵入を防ぐため設置する防潮壁の高さは、
地上10メートル程度になる見通しだという。 
『柏崎刈羽原発に高さ10メートル防潮堤 新たな津波対策』
朝日新聞 2011年4月22日 清水康志
いったいこの情報はどこから出ているのか? 記者会見での口頭発表なのか、記者が「予定」を「確定」と錯覚したのか、まったく情報源についての言及がありません。この記者は5月14日にも、「柏崎刈羽原発も津波対策の強化に乗り出した」として、電源車や消防車などを配備、津波訓練も3回行ったことに触れてから、
「15メートルの津波が明日来ても大丈夫」。柏崎刈羽原発の横村忠幸所長は
12日の定例記者会見で胸を張った。
『原発、想定3.3メートルのまま』  5月14日
という記事を書いており、防潮堤について同じ数字を繰り返しています。

そして「明日津波が来ても大丈夫」のことばどおり、早くもつい先日の6月23日、東電は防潮壁について、高さを明言するどころか、取りやめの方針を示したといいます。

 東京電力は23日、柏崎刈羽原発の津波対策として打ち出した防潮壁について、
1号機に設置しない方針を明らかにした。原子炉建屋への海水の浸入を防ぐ
防潮壁は、福島第1原発事故を受けて東電が発表した緊急安全対策の中長期
対策の柱。大きな方針転換といえそうだが、東電は建屋給気口などに止水板
などを新たに取り付けることで対応可能との認識を示した。
『柏崎原発1号機に防潮壁設置せず 止水板取り付けへ東電が方針転換』
新潟日報 2011年6月24日
同じニュースを、例の朝日記者はどう伝えたかというと、
東京電力は24日、柏崎刈羽原発1〜4号機の津波対策として、原子炉建屋の
周りに設置する予定だった高さ10メートルの防潮壁について「防潮板や
止水板で浸水が十分防げると判断すれば設置しない」との方針を明らかにした。
設計を進めるうちに防潮板などの対策が浮上し、見直したという。
 東電は4月、高さ15メートルの津波に備え、敷地が海面から5メートル
高い1〜4号機の建屋を10メートルの防潮壁で囲むと発表。緊急安全対策
 として政府にも報告していた。
『東電、設置撤回も視野』
朝日新聞 2011年06月25日 清水康志、藤井裕介
こんどは連名だけどこの二人、東電の発表文書をちゃんと読んでいるのか? 防潮堤・壁の設置は「緊急安全対策」ではなくて「今後の対策」の内容だし、政府への報告のどこにも「10メートルの防潮壁」などという記述はない。

大手メディアに比べて、地元の新潟日報がはるかに信頼できるのは、かつてこんな特集を組んだことにも現れています。

『揺らぐ安全神話 柏崎刈羽原発』全7部 新潟日報 2007年08月16日〜2008年6月22日
ではわたしの見立てはどうかというと。東電はそもそも水面上15メートル、地表10メートルの防潮堤・壁を設置するつもりなどなかった。この予定表のグラフの長さのいいかげんさをご覧ください(赤丸部分)。

その理由はかんたん。柏崎刈羽原発の横村忠幸所長が「15メートルの津波が明日来ても大丈夫」と豪語するのは、防潮堤がなくたっておれの在職中にそんな大津波など来っこない、という自信と安心に満ちているから。それは、大橋東大教授と同じ職業倫理。

加えて、そもそも地表10メートルの防潮堤も防潮壁も意味がない、と実は東電は分かっている。ほんとに15メートルの津波(浸水高)がくるような地震が中越沖で再度起きたら、そんな津波を待たなくてもこんどこそ地震によって柏崎刈羽原発は破壊・爆発しているから、作るだけ無駄、というもっともな理屈。

だから、「対策完了予定」が1年も2年も先で、設計もこれからという堤も壁も、これから計画変更と規模縮小が目立たないように、目立たないように、順次出されてくるはず。すでにその場しのぎの津波対策キャンペーンは用済みなのです。 こういう逃げ得倫理は、ヨーロッパではフランスのルイ15世の愛人ポンパドゥール夫人のことばで言い古されてきました。

「我が亡き後に洪水は来たれ」


 (2011/6/26) 
続 東電の津波被害の演出 - 吹き上がる波しぶきはどこから?

なんであんな波しぶきが上がるんだろう、しかも動画はたったの1秒ほどのコマ。撮影者はその前と後で何を撮っていたのかさえ分からない。まさか携帯のカメラを向けた瞬間にしぶきが上がってくれたわけではあるまい。4月9日のニュースで見てからずっとひっかかるものがありました

ニュースでは「波が上がっているのは発電所南側の斜面ということです」と東電側の説明を引用していました。昨日、地形図を使って、発電所の背後は急な斜面であることを解き明かしました。では「発電所南側の斜面」はどうなっているか、昨日使った地形図の南側の海岸線を下に示します。(左図 カチンで拡大)

     

展望台からこの方向をみると、波しぶきが上がっているのは赤い円のあたりと見当がつきます。そうして、海岸線というのは山を削った傾斜地ではありますが、波が打ち付けて砕けるような絶壁ではありません。Google Earthが3D映像を提供していますので、海岸線の様子を上図の中央に示します。これを地形図と見比べると、斜面の傾斜が急なところと、なだらかで奥まっているところがあるのが地図記号のとおりになっています。さらに、岸に打ち寄せる波の白波の様子から、ここの海岸線は遠浅の海底地形であることが分かります。つまり、5Mの津波でも、海岸に近づくとその波高が急に大きくなるはずです。

すると可能性のひとつは、この一様ではない海岸線の斜面に押し寄せた津波が、この地形の不揃いと傾斜の違いで、乗り上げる際に方向を変えてぶつかりあって波しぶきを上げたのではないか、ということ。

もうひとつは、この内陸湾のような敷地の地形のために(上図右)、敷地に進入した海水が溢れて海側に逆流してきて、寄せてきた波とぶつかりあってしぶきを上げている、という可能性。あるいはこれら二つの可能性の両方だったかも知れない。

それにしても、Google Earth に福島第一原発の爆発後の3Dグラフィックスまでもがすでに盛り込まれていたとは知りませんでした。東電が情報を隠ぺいしたり、情報操作をしていても、インターネットの時代ではいつまでも大本営発表を気取ることはできないのです。



 (2011/6/25) 
東電の津波被害の演出

東電が、福島第一原発を襲った津波の高さを14〜15メートルと発表してから、よほどの大波が襲ったような錯覚をだれもが持つことになりました。この数字は、1〜4号機の敷地高さ10メートルに、建物に残った海水痕の地表からの高さ4〜5メートルを足したものです。べつに15メートルの大波が来たのではなくて、海上で5メートルほどの津波が、陸に近づくと浅くなった海底によって波高が上がり、10メートルの高さの敷地まで遡上したことになります。では10メートルの敷地に上がってから海水はどこまで到達したのか? 

まず東電が発表した津波による浸水マップを左に示します(カチンで拡大)。津波が来た場所はたったのこれだけ。これで15メートルの巨大津波? しかも境界線が幾何学的です。

     

これはなんなんだろう?と国土地理院の地形図に当たりました。すると、平坦な原子炉敷地の背後は、土を盛った急斜面になっているのです。その崖のような斜面に沿って赤線でトレースしたのが中央の地形図。原発の浸水エリアとぴったり符合します。これはなにを意味するか? それは、原子炉の敷地は平坦で海抜が低く、その背後は山や丘なので、いわば「陸の湾」。津波が到達したら、その湾内より内陸に遡上できないので、押し寄せる水量がその「湾」に溢れる、ということ。

で、建物の壁4〜5メートルの高さまで水がきたという証拠写真が、昨日触れた、2ヶ月も経ってから公表した「連続写真」です。あの写真はどこを撮影したものか、捜しました。それが地形図の中の○印。右のGoogleマップの矢印地点です。ここは、防波堤から外れた場所ですが、この防波堤の形状ではかえって押し寄せる津波をこの地点へと集めたかも知れません。その上陸した海水が、崖で行き場所がなくて、建物の間の狭い路地に押し寄せた格好です。

「想定外の10メートルを超える津波」という言い方をしますが、なんのことはない、原子炉敷地の高さ10メートルまで水が来たことを言っていただけでした。そりゃあ、敷地に水が来るなんて、想像したくなかったでしょうよ。

なお、5,6号機の敷地の標高は13メートルで、その分被害が小さかったようですが、その5号機の南対面の崖の上から眼下のタンクが津波に飲み込まれる様子も「連続写真」に撮られています。この3つのタンクは海面からの高さのないところなので、べつにもったいぶって公表するような映像ではない。それよりも、このカメラマンはなんでその北側の、かんじんの原子炉の被災の様子を撮らないで、タンク水没を見物していたんでしょう?

上の写真左の浸水地図は東電が4月9日に発表したもので、その日同時に短い動画映像も公開してニュースになりました。それは津波が敷地南の海岸線斜面にぶつかって白いしぶきをあげる2秒足らずの映像。

『原発襲う津波の映像公開』YouTube ANN News 11/04/09
ニュースになったのは、福島原発を襲う津波としては初めて公開された映像だったから。これで「高さ15メートルの巨大津波が襲った」という第一印象が植え付けられました。それがずっと尾を引くことになります。でも、なんでたった1〜2秒のコマだけなんでしょう?

さて津波をじっさいより大きく見せるのはいいけど、困ったのは柏崎刈羽原発。わたしは5月の連休に構内バスツアーで見学したけど、あの原子炉敷地は10メートルなんてもんじゃなかった。もっと低い。切羽詰まってここでは、敷地の海側に「防潮堤」を設置する計画だが、ぐるりと敷地を囲むわけじゃない。しかも15メートルの高さもない。当然津波は乗り越えるか回り込んでくるから、原子炉建屋には「防潮壁」なるついたても設置するという。もちろん、これもぐるりじゃない。そうして、平らな敷地の背後は盛り土の山であるのは福島と同じ。いずこも同じ「陸の湾」。



 (2011/6/24) 
福島第一を襲った津波高は15メートルではなくて、想定された5メートル?

昨日、週刊現代から小石を投げつけられた大橋東大教授のことに触れました。教授は直撃インタビューには応じなかったものの、あとで誌にメールでコメントを寄せたといいます。雑誌の記事そのままを引用したサイトは見つからないのですが、要旨は

「今回の事故の原因は津波だけであり、地震動はほとんど関係しない。
 10mを大きく超える津波は専門家も予想しなかった。
 津波が電源系をほとんど全滅させることや、海水冷却系の機器を流出
 させることも想定されていなかった」
『小出裕章氏と大橋弘忠氏の誌上対決 (週刊現代)』
といいます。しかし、今では、福島原発は実際にはまず地震で破壊されていた可能性が明らかになりつつあります。さらに、「想定外の10メートルを超える津波」という発表も、事実ではないことが分かりました。
『福島第一原発の津波高14メートルは誤り〜市民が追及』YouTube
OurPlanet-TV 6月23日 08:35

1998年から原子力発電所に問題に取り組んで来た「東電と共に脱原発を
すすめる会(友共の会)」は6月17日、震災直後の事故経過に関して、
東京電力から事説明を受けた。質疑応答の中で、これまで東京電力が「
14〜15メートル」と説明してきた津波の高さは誤りであり、実際には現在も
数値が不明であること。また、電源のほとんどが津波ではなく地震で喪失
している事実などが明らかになった。
ひと月ほど前のことですが、東電が福島第一原発に到達した津波の「連続写真」なるものを、事故から2ヶ月もたった5月19日になって発表したときに、ちょっと違和感をもったことを覚えています。それらの写真は、津波を実際よりも大きなものとして印象づけようとして選ばれているみたいだ、とわたしの第六感が感知したからです。

それが、上記の市民グループによって、「14〜15メートル」というのは「浸水高」あるいは「遡上高」であって、じっさいの津波の高さは「気象庁の発表している津波高を基準に考えると、福島第一原発に押し寄せた津波は5メートル前後と想定される」ことが追及されています。

子犬は黙って逃げるだけでよかったのに、よけいな遠吠えをしたようです。



 (2011/6/23) 
ふたたび「打落水狗」ー 犬の打ち方を誤ると助けたことになる

4月18日の本コラムで「水に落ちた凶暴な犬は叩くべし。情けをかけて助けると、また噛みついてくる」という魯迅の警句を引用しました。近頃では、これに加えて、「しっかり打たないと、逆に助けたことになる」と感じています。

いまでは古い記事になりますが、6月9日にその動画を紹介した大橋弘忠東大教授YouTubeに、週刊現代がその6月11日号で直撃インタビューしています。図書館に週刊現代が置いてないので、直接記事を引用できませんが、ネットで話題にしているサイトからの伝聞では、結局インタビューに答えることなく、こう言って立ち去ったと言います。

「大学に話すなと言われている、授業が始まるから」等の理由で応じなかった
わたしが注目したのはインタビューに応じなかったという事実よりも、その理由として「大学に話すなと言われている」と言ったという事実。残念ながら週刊誌はここで追及が終わっているのですが、これが大学のメルトダウンであることに気づいていないようです。学問の自由を標榜する大学が、その教員に「話すな」と命令しているならこれは由々しき事態。しかも、機密情報でもなんでもなく、公開の場で公言してきた「科学的知識」についての議論ですから、それを制限した、あるいは制限を黙認したとなると大学の学長か総長の首が飛んでもおかしくない。

週刊誌の記者は、その場ですぐさま総長にインタビューすべきでした。子犬に小粒の石を投げつけたはいいけど、結局逃げる犬を傍観したことになります。

東京大学が原発推進派学者を多数抱えているのも、文科省管轄の国立大学法人であるためで、大学の自治とか学問の自由という概念が消滅しているようにも見えます。こんなことでは、お受験オリンピックで金メダルを目指して日々訓練している日本のこどもたちと予備校の教官たちは人生の目標の設定を変えた方がいいかも。

その東大は学内で測定公表していた放射線量についても、「健康に問題なし」とするコメントをつけていましたが、

学内の放射線を計測して公式サイトで公表している東京大学が、測定結果に
「健康にはなんら問題はない」と付記してきた一文を、全面的に削除して書き
換えた。市民からの問い合わせが相次ぎ「より厳密な記述に改めた」という。
学内教員有志からも「安易に断定するべきではない」と批判が寄せられていた。 
『東大サイトの放射線情報 「端的」過ぎる説明文訂正』
朝日新聞 2011年6月18日17時13 吉田晋
学内教員有志による総長への要請文はこちらにあります。これによると、大学は要請文に言及することもなく、こっそりと記述を変更したことがわかります。総長からの回答はまだ報告されておりません。
「東京大学環境放射線情報」を問う東大教員有志のページ


 (2011/6/22) 
たね蒔きジャーナルの拡大スペシャル

20日の月曜夜放送の「たね蒔きジャーナル」は与野党の衆議院議員震災復興担当者3人をゲストに、小出裕章氏と電話をつないでのスペシャル版。

2011年6月20日【月】たね蒔き的徹底討論フロム東京「脱原発の行方〜いま政治に求められることは?」YouTube
ゲストの3人の政治家というのは、たね蒔きの放送予定によれば、
民主党・山口壯衆議院議員(民主党筆頭副政審会長、震災復興特別委理事)
民主党・川内博史衆院議員(たね蒔きでお馴染み。消費税アップ不要論者で代替エネルギーにも詳しい)
自民党・西村康稔衆院議員(元通産官僚で原子力政策に精通。震災復興特別委委員)

小出裕章(京都大学原子炉実験所助教)
コメンテーター 平野幸夫/毎日新聞「ほっと兵庫」編集長
キャスター 水野晶子アナ
この「たね蒔き」はこのコーナーでなんども取り上げてきましたが、いつも感心するのは水野アナの司会ぶりと話し方。ゲストの発言の要点をリスナーのために復唱するタイミング、自分は知っているけどリスナーのために知らないふりをして質問して回答を何度もリスナーに届ける配慮、質問しっぱなしでなくゲストの回答についてのフォローなど、見習いたいことが多々あります。

今回は、「政治には関わりたくない、期待はしない」という小出氏を交えて、この政治家との議論番組を実現した「たね蒔き」は腐敗したニッポンメディアの中で光ります。

それを自負しているスタッフを代弁するようなかたちで、水野アナは番組の感想を次のように語っています。

政治家3人の方々と小出先生の議論、いかがでしたか?
「安全な原発」というものが存在するのか、否か?
ここのところの認識のズレは平行線のままで
なかなか先に進む政策につながらないなあ、
という印象を私は持ちました。
でも、原発政策に厳しい立場を貫いてきた小出さんと
政治家が、生放送で話し合い、共有できる部分を
確認できたことの、意味の大きさも感じました。
2011年6月20日【月】感想おしえてね


 (2011/6/21) 
川口市の独自規制値「年間1.64ミリシーベルト」は全国の先駆け

今日の毎日新聞朝刊にこんな記事がありました。

埼玉県川口市は20日、子供の放射線の年間被ばく限度を1.64ミリ
シーベルトとする独自の暫定規制値を発表した。国際放射線防護委員会が
示す人工被ばくの年間限度1ミリシーベルトに、大地からの国内平均値
0.34ミリシーベルトと宇宙からの平均値0.30ミリシーベルトを
加えた値。自治体では全国初とみられるという。
『<放射線>子供の年間被ばく限度…川口市が独自の規制値』
毎日新聞 6月20日(月) 20時39分配信 【鴇沢哲雄】
以前この自然放射線量については、その世界平均値の2.4mSv/年という数値が推進派の旗印になっていることを指摘してから、じゃあ、正確な測定数値と各成分の内訳はどこにあるんだろうか、と捜していました。が、一次資料、というか原典そのもの、を見つけられずにきました。しかしながら、こちらのページ
『自然放射線』
に「1988年第37回国連科学委員会」が発表したという「一次資料」からの引用として、世界平均値2.4の内訳が紹介されています。そこでは体外被曝と体内被曝に分けて、かつそれぞれの要素について数値を示しているので意味が明瞭です。体外被曝とは宇宙線や大地からの放射をいい、体内被曝は、食べ物や呼吸による体内への取り込みによるものです。

表にすればこんなに簡単なものを、これまで推進派は、ただ2.4mSvという数字を合唱することだけに専念してきたので、その内訳につての記述はいかにも、わかりにくく、わかりにくくするよう、工夫されていました。しかも、日本での議論なのに、日本平均1.5ではなくて、なぜかそれより高い世界平均値を援用して。

そうしてさらに上記サイトには、日本における宇宙線と大地からの自然放射線量の平均値について、それぞれ、約0.3と0.34ミリシーベルトという数値まで紹介されています。川口市の発表した数字と一致します。

川口市がどこの資料をもとにしたのか知りませんが(注)、福島原発事故から飛んできた死の灰による放射線量の測定はまず体外被曝の線量を計測しているわけですから、自然放射線のうち、外部被曝の数字を使ったのはしごくもっともなものと言えます。しかも、人口放射線の年間限度の1ミリシーベルトが前提になっています。

記事は続いて、

会見した岡村幸四郎市長は「他の自治体に混乱が起きないか」との質問に、
「ばらばらの値ではいけない。本来は国が基準を示すべきだ」と説明した。
と伝えていますが、国(というより文科省とか日本政府というべき)がとんでもない基準を示す前に、自治体が合理的な規制値を先んじて発表したことの意味は大きい。このニュースは今こそ小さく報じられているけど、波紋は広がるはず。

(注)2011年6月22日 追記】 川口市のホームページにこの声明が掲示されており、そこにこの自然放射線量の数字の根拠が示されていました。それによると、典拠は例の「放射線医学総合研究所」の資料でした。
『地域によって異なる自然放射線の線量』
放医研NEWSバックナンバー No.30 1999年3月号 放射線シリーズ−5 
よくまあこの資料を見つけたものです。敵を打つには敵から奪った剣がよく切れるといいます。


 (2011/6/18) 
電力会社の「こどものお遣い」

今日の昼のテレビニュースで海江田万里経産相が停止中の原発の運転再開を促す会見を行っていました。

 海江田万里経済産業相は18日、東京電力福島第1原発事故のような設計基準を上回る
シビアアクシデント(過酷事故)対策について、各原発への立ち入り検査などを実施した
結果、「水素爆発などへの措置は適切に実施されている」と評価した結果を公表した。
海江田経産相は「これにより、運転停止中の原発についても再稼働は可能」との見解を
 示した。
 しかし、原発立地の自治体では慎重姿勢が強く、定期検査などで停止している原発の
再稼働までには時間がかかる見通しだ。海江田経産相は結果の説明と再稼働要請のため、
来週末にも立地自治体を訪問する方針を明らかにした。
『<原発事故>定検で停止中の原発、政府が再稼働促す』
毎日新聞 6月18日(土)11時44分配信
おかしな文脈で、安全対策の確認ができたから原発を再稼働させたい、電力が不足する心配もあるし、というふうに聞き取れました。そうして、立地自治体に出向いて再稼働要請する、と言います。どんな立ち入り検査をしたのか分からないので、各社のニュースをいちいち見比べるより、まず原典に当たりましょ、と原子力安全・保安院の「過酷事故対策」の確認レポートを見に行きました。当然のことながらそのホームページに今日付けで発表されています。

これを読むと、まず海江田大臣の会見の論旨がずれていることに気づきます。このレポートはそのタイトル

<福島第一原子力発電所事故を踏まえた
他の発電所におけるシビアアクシデントへの対応に関する措置
の実施状況の確認結果について>
とあるように、福島の事故を教訓にした緊急安全対策であって、それが運転再開の条件になるかどうかは別問題です。で、どんなふうに実施されているか立ち入り調査をしたというのですが、報告の別紙1がそのレポートです。そこに、こんな「確認」をしたことが述べられています。

3 高線量対応防護服等の資機材確保及び放射線管理のための体制の整備
  事故発生時の初期段階に必要な一定数(10着)以上の高線量対応防護服を発電所へ
 配備するため手配済みであることを確認した。(5ページ)

4 水素爆発防止対策
  全ての交流電源が喪失した時において、炉心損傷等により発生した水素が
 原子炉建屋内に漏れ出した場合、原子炉建屋内への多量の水素の滞留を防止する
 ため、原子炉建屋屋上に穴あけにより排気口を設けることとし、穴あけ作業に
  必要な資機材(ドリル等)を配備し、または手配済みであることを確認した。
  穴あけ作業に関する訓練への立会い等により、原子炉建屋屋上に梯子を通じて登り
 作業資機材を運び上げる作業、建屋天井を模擬したコンクリートに資機材を用いて
 穴を開ける作業が実施可能(事例として、事務所出発から穴あけ完了までに約80分)
 であることを確認した。(6ページ)
高線量対応防護服ってどんな重装備かと思ったら、タングステンベストの写真が添付されています。かなりの重さだと思うけど、これでどれだけ高濃度の放射線を防ぐつもりなのか不安になります。しかも、水素がたまりそうになったら原子炉建屋屋上にドリルで穴をあける、といいます。水素が出ているなら、すでに燃料がむき出しになって圧力容器も破損しているってことじゃないかしら? いつ爆発するかもしれない建屋屋上に、重い防護服を来て登れって言うか? 穴をあけるまで80分かかった、と報告があるけど、高濃度の放射能がすでに漏れていたら、80分も作業ができるのか? 

いったい何人の保安院職員が何時間検査したのか、その報告は見当たりませんが、16日の伊方原発への立ち入り検査のようすが報道されていました。

この日は、同院伊方原子力保安検査官事務所の宮本典明所長ら3人が立ち入り。
 水素爆発防止対策として、原子炉格納容器と外部のコンクリートのすき間(幅約1メートル)
に水素がたまらないよう、停電しても電源車から電源を供給して空気再循環設備を運転する
手順書を確認。今後3年程度で、原子炉格納容器内の水素を処理する装置を設置する。
『伊方原発:保安院、立ち入り 過酷事故対策で検査 /愛媛』
毎日新聞 6月17日(金)15時47分配信
このように、すでに対策がとれたものもあれば、「手配済み」というものもあり、さらに「3年程度」かけて完了する対策もある、という「確認結果」なのです。

ようするに、運転再開を要請するための根拠に援用したつもりの「検査結果」ですが、その役には荷が重い。そもそも、福島事故がまだ進行中であって、依然として深刻な事態であるのに、その収束を優先すべき大臣が原発運転再開を要請するものか。

これについて、大阪の橋下知事がズバリ言い当てています。

 大阪府の橋下徹知事は18日、経産省の“安全宣言”について「時期尚早極まりない」と
強烈に批判。「福島の収拾も付けられていないこの時期に政治家がいうことなど、自治体
 は誰も聞きませんよ」(中略)
 また、関西電力からの15%の節電要請について「拒否する」と明言した直後、関電側から
事務方を通じ、「福井県に原発の再稼働を要請してほしい」と要請があったことを明らかにした。
 橋下知事は「もちろん断った」とする一方で、「原発依存度を下げるというニュアンス(の方針)
を出してもらえないか」と関電側に投げかけたところ、「申し出は取り下げる」と連絡があった
という。
 橋下知事は21日に関電側と面談する予定になっているが、一連の対応に対し「本当にふざけた
態度。自治体の長を子供の遣いぐらいにしか思っていない」と怒りをあらわにした。
『橋下知事「大臣らは原発周辺に住めばいい」 経産省の安全宣言批判』
産経新聞 6月18日(土)12時11分配信
自治体の長は大人だったけど、省の長たる大臣の記者会見は、ようするに電力会社に言われて「こどものお遣い」か。


 (2011/6/17) 
「わが国」論文の煙たさ

イタリアが国民投票で原発拒絶を決めたニュースが流れた13日の夜、同時に日本では奇妙な報道がありました。それは、日本で原発を全部停止すると、一般家庭の電気代は月千円アップになる、という試算が出た、とのニュース。

経済産業省所管の日本エネルギー経済研究所は13日、すべての原子力発電所が
運転停止し、火力発電所で発電を代行した場合、液化天然ガス(LNG)や石炭
など燃料調達費が増えるため、2012年度の毎月の標準家庭の電気料金が平均で
1049円上昇し、6812円になるとの試算を発表した。
『全原発停止なら…家庭の電気代1千円アップと試算』
読売新聞 6月13日(月)22時6分配信
えっ?「日本エネルギー経済研究所」? またまた、聞き慣れない研究所が現れた、と思って早速調べたら、経済産業省資源エネルギー庁所管の財団法人とあります。そうして、上記の試算レポートというのは、そのトップページにあるこの論文のこと。
上記の燃料費の増加が単純に料金に上乗せされるとすれば、コストアップ分は
3.7 円/kWh となる。その場合、標準的な家庭の電力料金は1ヵ月あたり 1,049 円 
(18.2%) 増加する。(1ページ)
『原子力発電の再稼動の有無に関する2012年度までの電力需給分析』
(日本エネルギー経済研究所 特別速報レポート 2011年06月13日)
研究所は所員数194名。24名の理事はほとんどが経産省出身者と電力会社、石油ガス関係社の役員で占められています。

その21年度(平成21年4月1日から22年3月31日)の収支報告をみると、収入が約30億円。そのうち受託事業収入が19.4億円、補助金収入が4.3億円、賛助会員会費収入が5.4億円で、これらが収入の94%を占めている。前者の2つが国庫からの支出と見られる。

おもしろいのは、上では21年度の決算書と事業報告書を引用しましたが、それはまだ直近の22年度の報告書がなかったからです。なのに、23年度(23年4月1日から24年3月31日)の事業計画書と収支予算書はすでに発表されているのです。この文書には日付がありませんが、(ふつうビジネス文書には日付と作成者を必ず入れるものだが)今年度に入ってから作成されたものでしょう。というのは、3月11日の福島原発事故について、急ごしらえのような言及があるからです。

II 重点研究課題
 3.研究課題の実現に向けた取組みの焦点
 (3)原子力・新エネルギー研究の強化 
  1) 東日本大震災が国内外の原子力開発に及ぼす影響について、正確な情報の
       収集と分析を行い、タイムリーかつ的確な情報発信を行う。
たったこれだけ。というより、原発事故がこれまでのエネルギー政策全体を揺るがすことになることが分からないようです。この研究所の事業内容の柱は「エネルギー需給の分析、予測」および「エネルギー政策および企業の経営戦略に関する諸課題の解明と提言」なので、今回の分析はそもそも、「標準家庭」の立場にたったものではなくて、上から目線での提言。それを指摘していたのが毎日新聞の記事。
東京電力福島第1原発事故の損害賠償を巡り、政府の東電支援策の前提となった
同社の財務試算が13日、毎日新聞が入手した内部資料で明らかになった。賠償
総額を10兆円と仮定し、原発から火力発電に切り替える燃料費の増加分を電気
 料金に上乗せ、12年度から約16%(一般家庭の場合月額1000円程度)
値上げして東電に収益を確保させる。東電はこの収益を原発事故の賠償に回す
仕組みで、事故による負担増を利用者に転嫁する構図となっている。
『<東電>賠償10兆円なら来年度、料金16%上げ…政府試算』
毎日新聞 6月14日(火)2時30分配信 【三沢耕平】
ところで、この「日本エネルギー経済研究所」の論文を読んでいたら、気になってしかたのない語句があります。それは「わが国」が繰り返し出てくること。曰く、
停止中の原子力発電所の再稼動がどうなるかで、 わが国の電力需給は大きな影響を受け、
ひいてはわが国経済・市民生活等へ広範な影響が 懸念されるところである。
おまえさん、わが国のなんなのさ? 以前、高木仁三郎がこんな指摘をしていました。
だいたい彼らの書いている論文の冒頭を見ると、必ず「我が国は」と始まって
います。「我が国における電力事業は」とか、「我が国の需給の状況を見ると」
などというふうに、常に我が国ではこうなっていて、と始まるのです。(中略)
 原子力の運命共同体論からまず入って、やらなくてはならないんだという結論
があって、一番最初にそういう大前提としての正当づけがなされて、そのあとで
いろいろな方策が述べられているのです。おもしろくもなんともない論理構造
ですけれども、こういう構造をほとんどの論文がとっています。
(『原発事故はなぜくりかえすのか』高木仁三郎 岩波新書 2000年 62ページ)
「我が国」はなんども出てくるが、原発を止めた「彼の国」もなければ、いわんや「我が国民」はいちども出てこない。かわりに「標準家庭」だって? どんな家庭のことだ?


 (2011/6/13) 
電力会社とメディアによる「電力不足」キャンペーンが始まる

現在運転中の原発は54基のうち19といいます。な〜んだ、それなら原発がなくても大丈夫なんじゃないか、とバレてしまってはたいへんなので、電力会社も夏の電力不足の不安をかきたることに必死です。関電は、停止中の原発の再稼働が遅れると夏場に電力不足に陥る恐れがある、として15%の節電を企業や家庭に「要請」。それに当然ながらカチンときたのが大阪の橋下知事。

大阪府の橋下徹知事は10日、関西電力が発表した15%の節電要請について
「根拠が分からず納得できない。協力しない」と表明した。関電の情報開示の
姿勢が後ろ向きだと問題視し「電力問題に知事は口を出すなというスタンスだ」
(中略)と不満をぶちまけた。
『橋下知事、関電の節電要請に「協力しない」「根拠分からない」』
(スポーツ報知 2011年6月10日17時42分)
なぜ15%なのか、発電能力はトータルでどれだけあるのか説明もなく、一方的に通告してくる関電の無礼さがあらわです。知事は関電の社長に公開討論に応じるよう要請したところ、拒否された、と記事は伝えています。

この15%という数字は、原発だけでなく火力発電所までが被災した東北電力と東電を念頭に政府が提示した数字ですが、他の電力会社も、これ幸いと、15%という数字を合唱して、暗に原発がないと困るんですよ、と印象づけようとしています。

たしかに、東北電力の事情は深刻でしょう。いくら被災地での電力需要が落ちているとはいえ、3つの火力発電所が停止したままです。このことはほとんどメディアで報道されていませんが、その3つとは、まず一つが 福島原発と間違って世界に報道されている原町火力発電所。2つめが、これまた福島原発が爆発したシーンとして、日本以外で間違って伝えられているENEOS仙台製油所のコンビナートに同居する新仙台火力発電所。そして3つ目が、そこから8キロほどのところにある仙台火力発電所。

このうちの原町火力発電所は石炭燃料のはずですが、重油が海に流出しているという報道もあり、発電所のものか、沈んだ石炭船からのものか、確認する職員もいない状況のようです。

東電は「火力発電所としては唯一の供給エリア外立地発電所」である福島の広野火力発電所が停止していますが、被害の状況について東電の発表もなく、復旧予定とともに不明のまま。もちろん追及するメディアもありません。

そんな情報隠匿のなかで、大手マスコミは、電力会社の言うままに「節電情報」を無批判に報道することで、あたかも電力が不足するということを暗黙の事実として植え付けることに加担しているかのようです。たとえば、こんな記事。

東電が予測する夏の最大消費電力は5500万キロワット。火力発電や水を
くみ上げて水力として使う揚水発電を総動員し、供給力を7月末に5520万
キロワット、8月末に5620万キロワットへ引き上げてカバーする計画だった。
だが、関電などから融通される100万キロワットが見込めなくなり、
停電リスクが高まっている。
『震災3カ月 大停電は防げるか 原発稼働54→19基夏の電力綱渡り』
(産経新聞 6月11日(土)7時56分配信)
原発を即刻全部止めても電力は不足しない、という事実をなんとか電力会社は隠さなければなりません。ところが、正直にデータを出せば自縄自縛に陥る。そこで、冒頭の関電のように、15%という数字をコピーしてきて、だから原発の運転再開やむなし、の「世論」をつくろうというのでしょう。

大手メディアはこの程度のものですが、いっぽう地方の新聞などはまだ健在です。鹿児島の南日本新聞は6月7日付けの社説で以下のように指摘しています。

佐賀県議会の原子力安全等特別委員会に参考人として出席した九電幹部は、原発が
停止したままでは夏場の電力供給が危ういと説明した。その通りではあるが、
原発が再開すれば電力不足は解消すると聞こえてしまう。県議から「電力不足を理由に
運転再開を迫るのはおかしい」との意見が出たのは当然だ。
そして、便乗数字の15%という節電の根拠について、こう突っ込んでいます。
九電は原発が3基止まったままでも供給能力は1728万キロワットあり、予想される
最大需要1669万キロワットを上回る。それでも節電が必要な理由は、「7月上旬
までしか火力発電の燃料確保ができていない」からだという。
 しかし、石油連盟の天坊昭彦会長は夏場のピークに向けた火力発電所への燃料供給に
支障はないとしており、九電の説明と食い違っている。
『[夏の電力不足] ふに落ちぬ九電の理由』
(南日本新聞 社説 6月7日)
これから夏に向けて、原発なしで電気は足りるのかどうか、という議論が事実とデータに基づいてなされることを期待します。橋下大阪知事が、「もし原発が本当に必要なら、消費地である大阪は府内に原発を造るという話をして、府民に問い掛けるしかない」(時事通信 6月13日16時51分 配信) と会見で述べたと言います。これ、『東京原発』そのまんま。(以前取り上げたこの映画はYouTubeから削除されていますが、いまはこちらYouTubeで見られます)


 (2011/6/9) 
「絶対安全」は事故を待つしかなかった

福島原発事故の後でも推進派学者が「揺るがない」 でいられるのはどうしてだろう、とずっと気にかかっていました。それも、東大、東工大など、文科省の誇る有名どころの大学教授です。そんな疑問にヒントを与えてくれるのは、以前紹介したドキュメンタリーの中で、今中哲二氏がこう言っていたことでした。

ぼくは、原子力開発の進め方がそもそもボタンの掛け違いだったんじゃないか、
と思っています。というのは、事故が起きたらとんでもなく危ないものを、
「絶対安全です」ということで始めたーーというのがそものの掛け違いだった。
リスクを明らかにしながら、なおかつ進めていく、というのが本来あるべき姿
ではないかな、と。
『なぜ警告を続けるのか〜京大原子炉実験所・"異端"の研究者たち』 (2008年放送)24:29よりYouTube
推進派の原発学者が「絶対安全」の啓蒙のためにどう思想動員されたか、その端的な例をYouTubeにアップされた6年前の公開討論会に見ることができます。そこで推進派側のパネリストとして大橋弘忠東大教授が、格納容器が壊れることは起きもしない確率、として、こう言い放っていました。
事故のときどうなるかということは、想定したシナリオに全部依存します。
そりゃ、全部壊れて、全部出て、全部が環境に放出されるとなれば、
どんな結果でも出せます。でもそれは、大隕石が落ちてきたらどうなるか、と
そういう起きもしない確率についてやっているわけですね。
皆さんは原子炉で事故が起きたら大変だと思っているかもしれませんが、
専門家になればなるほど、そんな格納容器が壊れるなんて思えないんですね。
「大橋弘忠東大教授 公開討論会での発言より」YouTube
上記の動画は、大橋氏が続いて「プルトニウムは飲んでも大丈夫」とまで言い切った発言部分のハイライトですが、この長時間の公開討論会は質疑応答まで含めて録画されていて、15クリップに分割されています。長いけれど、貴重な歴史的証言記録になっています。上記発言箇所は6/7の13:28にあります。
「玄海3号炉プルサーマル導入にかんする公開討論会(佐賀県)」2005年12月25日YouTube
この公開討論会の記録は「佐賀県の原子力安全行政」のHPで公開されています。

ついでながら、この場にはプルサーマルに反対の立場で小出裕章氏も参加されていて、大橋氏の聴衆を嘲るような態度と対照的に、終止真摯にかつ丁寧に発言されています。

さて、上のふたつの発言を並べていたら、過去に似たようなことを聞いたことがあったなあと気づきます。それは戦争中「日本は絶対勝つ」という思想統制が行われていたことに、あまりに酷似しています。どう戦況を見るか、ではなくて「勝つ」ことが決まっているのだから、南海の小島で次々と玉砕しても日本は負けていなかった。首都東京が空襲で焼かれても、傍観者でいられた。広島、長崎に想定外の原爆が落とされてようやく「絶対」の雲が晴れた。

上の動画での大橋発言は推進派の中で特殊なものとは思えません。こうした議論を聞いていると、やはり動員されている推進派学者というのは、実際に事故が起らない限りけっして「絶対安全」という主張を撤回するはずがなかった、と想像がつきます。逆に言えば、自分の在職中に事故が起らないでいてくれれば我が身は安泰だ、との安心感と自信が漲っています。チェルノブイリ事故の後でも、日本では「絶対」事故が起きない、と言い、そのチェルノブイリと同レベルのフクシマ事故が起っても、なお「想定外」の津波のせいにする神経は、広島に落とされた原爆すら傍観して、もう一発を待った愚かさと変わらない。



 (2011/6/8) 
またしてもよそのマンションに隠匿

5月13日に福岡市でよそのマンションに放置・隠匿されていたBORS400が発見されたことをお伝えしました。同じ福岡市で5月31日にZRX-IIを盗まれたNo.4'758のKさんから発見のお知らせをいただきました。またも、マンションに隠匿されていたところを通報で発見されました。

すいません。登録したばかりの登録番号4758の[K]です。バイクがみつかりました。
福岡県の東警察署管内の交番から今日の昼頃、「Kさん名義のバイクがみつかりました」
との連絡がありました。

その交番まで書類やらを書きに行き、色々聞きました。見つかったのはマンションの
駐輪場?であり、大家さんが通報してきたらしいです。乗り捨ててあったみたいです。
今指紋などとって調べてるそうです。

東署に見に行ったのですが、バイクの状態はキーシリンダーは壊されてなくなってます。
なぜかはわかりませんが、サイドカウルもはずれかけてるみたいです。一番ひどいのが
マフラーです。マフラーはショート管だったのですが、横からドリルか何かは分かりま
せんが大きい穴が空いてました。多分音をうるさくするためかな?と思いました。
ナンバープレートがすこしまがってました。

今後のご参考に( ;´Д`)
ご協力ありがとうございます。

もう二度と盗られたくないです。


 (2011/6/6) 
「20ミリシーベルト」はどこへ行く?

きのう配信された毎日新聞の記事に「おやっ?」と注意を引かれました。

東日本大震災による福島第1原発の事故で、福島県内の子供たちが受ける
放射線量を巡り、国と学校現場が混乱している。文部科学省は5月27日に
「今年度、年間1ミリシーベルト以下を目指す」とする新たな目標を決めた。
年間20ミリシーベルトを上限とする基準への不信感解消が狙いで、専門家
からのヒアリングも進めている。だが、突然の目標設定に学校は困惑し、
保護者の不安は根強いまま。教育委員会も「『1ミリシーベルト』の数字が
独り歩きしないようにしてほしい」と訴えている。
『「1ミリシーベルト」混乱 子供被ばく線量』 6月5日(日)11時21分配信 毎日新聞【木村健二、渡辺諒、長田舞子】
あれれ、文科省はいつ20ミリシーベルトを引っ込めたのかしら? 前回のコラムの続きとして、この子ども向け年間被曝限度20ミリシーベルトを決めた経緯を、文科省、原子力委員会の文書で追跡しており、それぞれのHPの発表をくまなくチェックしていたつもりでした。

で、5月27日にどんなニュースがあったかというと、おなじ毎日新聞の報道に、「文科省が県内の全小中高校に線量計配布」したとの記事があります。

東京電力福島第1原発事故を受け、文部科学省は27日、福島県の1169
小中高校などに放射線の累積量を測る線量計を新たに配布した。これまでは
放射線量が比較的高かった55小中学校などに配布、測定していた。
(中略)
新たな配布の理由について、文科省学校健康教育課の丸山克彦課長補佐は
「以前から県や各自治体の要望はあったが、線量計の手配に手間取った」と
説明した。
『文科省が県内の全小中高校に線量計配布』 5月27日(金) 20時36分配信 毎日新聞 【長田舞子】
もしも文科省が20ミリシーベルトを撤回したなら大ニュースだけれど、そんな報道はされていない。それで、もういちど文科省のHPを当たってみると、あった、あった。でも、この掲載のしかたはなんでしょう?

わたしがチェックしていたのはこのページ、『東日本大震災関連情報』、の中の「重要なお知らせ」なのですが、そこに5月27日付けの発表文書が、日付の表示もなく、しかも被曝限度20ミリシーベルトを決めた4月19日の通知文書よりも二つ下に並んでいたのです。これでは気づかなかったわけでした。

『福島県内における児童生徒等が学校等において受ける線量低減に向けた当面の対応について』
平成23年5月27日 文部科学省
そこには、あくまで4月19日通知「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について(通知)」を固持したまま、つまり20ミリシーベルトは撤回したわけではなく、福島県内の全ての学校等に対して,積算線量計を配布する、とあり、続いてこう書かれています。
暫定的考え方で示した年間1ミリシーベルトから20ミリシーベルトを目安とし、
今後できる限り,児童生徒等の受ける線量を減らし ていくという基本に立って,
今年度,学校において児童生徒等が受ける線量について,当面,年間1ミリシーベルト
以下を目指す。
目安、できる限り、基本、当面、目指す、等々の表現に工夫と苦労の跡が見られますが、これが「学校現場の混乱」を引き起こしているわけです。

以前、4月28日のコラムで、原発推進組の文書や資料だって、「それをつなぎ合わせると、原発とそれに群がる人たちの、おもしろくかつ奇妙に歪んだ全体像が見えてくる」と書きましたが、これもそのひとつ。まずは、上記4月19日の通知についての文科省の発表をご覧ください。

『福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について』
平成23年4月19日 文部科学省
そこには、文科省が起草した「暫定的考え方」通達文書を受けた原子力災害対策本部が、それを原子力安全委員会に助言を求め、了解が得られたので文科省が福島県教育委員会に通知した、という経緯を示す文書が列挙されています。(同様の内容は原子力安全委員会のHPにもあります)

おもしろいのは、安全委員会の短い助言の中に

(2)学校等にそれぞれ1台程度ポケット線量計を配布し、生徒の行動を代表する
 ような教職員に着用させ、被ばく状況を確認すること
と「留意事項」があるのに、最終的に文科省が発表した通知文書にはそれがないこと。つまり、原子力安全委員会が文科省に完全に無視されている力関係が見えてきます。官僚間格差もそうとう大きいものか。そうして、今になって線量計を全校に配布する、という発表をしたものの、20ミリシーベルトはどうするのかあいまいにした作文技術に、文科省官僚の必死の努力が垣間見えます。


 (2011/6/2) 
レンガはどこに消えた?

ウラン鉱山の残土、つまり放射能汚染廃棄物の処分に困って、それをレンガに加工して一般販売しているということも驚きだが、それを独立行政法人としての「日本原子力研究開発機構」が行っているとは、この日本の行政はなんとも見下げ果てたものだ。

そもそも、原子力・核開発の予算に群がっている独立行政法人ってどんなものがあるんだろう? 手軽にwikipediaの一覧でみると。

独立行政法人国庫からの支出職員数所管
日本原子力研究開発機構1,848億円4,683人文科省
放射線医学総合研究所118億円511人文科省
原子力安全基盤機構222億円465人経産省
原発推進は経産省とばかり思っていたが、文科省の縄張りが意外に広い。日本原子力研究開発機構の主管は文科省だが、じつは経産省も所管している。権益を経産省と分け合っているということか。

同じく文科省所管の放射線医学総合研究所って、そうです、4月28日に取り上げたように、放射能なんか怖くない、という啓蒙活動に学者生命を懸けて、いや「賭けて」かな、いる方が理事長に座る独立行政法人。医学というから、てっきり厚生労働省の管轄かと思いきや、これも文科省。文科省って、学校教育だけが縄張じゃないんだ、これだけ核開発の推進に加担していたとは、今更ながら驚き。

独立行政法人だけじゃない。日本原子力文化振興財団も、またしても経産省・文科省の所管の財団法人。

財団法人日本分析センターというのも文科省の傘下らしいが、放射能を測定して、「安全教育」を主な事業としている。たとえば、

臨時的な調査もあって、例えば、米軍が沖縄で劣化ウラン弾を誤射したとき、
その島や周辺水域の放射能調査を行なって、安全を確認しています。
という報告をしている。まだまだ出てきそう。文科省の原発加担度は大きい。そう言えば、学校の校庭でのこどもの放射線被曝限度を年間20mSvに堂々と引き上げたのは文科省だ。

で、ウラン残土レンガだが、やはり文科省が音頭をとって、「平成18年の文部科学大臣、鳥取県知事、三朝(みささ)町長、原子力機構理事長の合意に基づき」レンガに加工された。当初は機構内で引き取るような話だったようだが、結局消化しきれず、「一般販売」するも、買う者はいない。なのに、昨年末までに60万個を一般向けに出荷した、という。だが、その内実は、

昨年、相沢議員のもとに一通の内部告発文書が届いた。それは日本原子力研究
開発機構の下請け会社の社員からで、そこには「会社から人形峠のウラン残土を
リサイクルしたレンガを買うよう強制された。調べると、機構の幹部が会社に
乗り込んでレンガ購入を打診し、会社が断れずに買った」と書かれていた。
 (中略)
この人形峠では、毎時0.1マイクロシーベルトの低レベル放射性廃棄物は厳格
に保管されているのに対し、最高値で毎時0.35マイクロシーベルトを検出した
ウラン残土をリサイクルしたレンガが通信販売や店舗で一般に売り出されている。
放射線値の高いほうがなぜ一般流通できるのか?

この疑問に、匿名を条件にして機構本部の職員が答えてくれた。

「簡単な話。低レベル放射性廃棄物は、『原子炉等規制法』で厳重な管理が求めら
れますが、残土やレンガはその対象外だからです」

ウラン残土は法の網から漏れていたのだ。そして、150万個ものレンガは内部
告発のとおり、果たして機構内部だけで使えなかったのだ。
 『ウラン残土“リサイクル”レンガが一般流通するワケ』
★[原発のゴミ]が引き起こす地獄絵図 (2011.06.02 Zak SPA!)




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