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-67- (2019.1 - 2019.12) 


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 (2019/12/24) 
2019年の象徴:第二言語でたたかうヒロインたち 

環境活動家のスエーデンの女子高生は、大国の大統領の妄言に英語のメッセージで大人の対応をする。香港の民主化運動の女神は、独学で身につけた日本語で日本のメディアにも訴えかける。そして、安倍晋三総理のPR本の作者で元TBS記者山口敬之氏と、彼からレイプ被害を受けたことに対し、勇気を持って訴訟を起こし、民事で勝訴したジャーナリストの伊藤詩織氏。この二人が、判決の翌日の12月19日、日本外国特派員協会で英語(と日本語)で記者会見を開きました。

安倍官邸と繋がる山口氏だけに、日本のメディアの追及は及び腰の感がありますが、この問題を日本の人権問題として重視する海外のジャーナリストからは鋭い質問が飛びます。それを承知で会見の場に出てきた山口氏は、それを逆手にとって、自分の無実ぶりを装ったつもりだったのでしょうか、結果としてはその横柄な応答によって、記者たちの不信を増幅することになりました。

その一つの象徴的なシーンが、江川紹子氏の質問と山口氏の対応。(44:23から)

 江川:(メールの送り先の「キタムラ」氏についての最初の質問は省略。動画を参照) 昨日の記者会見で、山口さんが、「本当のレイプの被害者であれば、あんなふうに笑ったりしない」とおっしゃった、というふうに報じられています。山口さんがお考えになる、レイプの被害者がふつう取るべき態度というのは、どういうものだと思っていらっしゃるのか、先ほども、弁護士さんが、レイプの被害者は必ず全部正直に言うもんだ、とおっしゃいましたけれども、それもどういうところを根拠にしておっしゃっているのか、ご解説を頂きたく思います。
 山口:(2つ目の質問について)江川さんの質問は非常に不正確なんですね。私は、性犯罪被害にあった方が笑ったりしない、とか、幸せそうにしない、という発言は、いっさいしておりません。会見を確認してください。(江川氏の「そう報じられて. . . 」の声を遮って)まだ、しゃべっているので。いいですか。それに類する、そういう誤解を、もし江川さんがしたとすれば、昨日の記者会見では、私のところに、性犯罪被害を受けたという、女性の方からご連絡をいただいた、と。その方が、私に、えーっ、ご本人が性犯罪被害者ですので、えーっ、そのご本人として、本当に被害を受けた人の、表情や行動について、私にご説明くださったと、そのくだりについて、この類似の説明をしましたが、私が、性犯罪被害者が、こういう行動をするかどうか、私はまったく知らないので、それについて私は申し上げていませんので、ぜひそこは訂正してください。
 江川: では、なぜそこをわざわざ引用なさったんですか?
 山口: 私が記者会見でどこを引用するかどうかを、江川さんに、ご指示や批判される筋合いはありませんんね。
 江川: 理由を伺っているだけです。
自国語だと意味のない常套句を繰り返すことで、言い逃れや争点ずらしが可能ですが、同じ内容を外国語、第二あるいは第三言語で話す時には、言葉の上手下手の問題ではなく、言わんとする内容のボロが出やすいものです。特に上記の3人の女性に共通しているのは、単に外国語が流暢だということではなくて、そもそも、自分がどのような人間でありたいか、というコアの部分があって、それが母国語だろうと外国語だろうと、滲み出ています。書かれた文章だと偉そうな印象を与える人も、映像の中ではその表情、話し方、整合性で正体がバレてしまうことがしばしばです。それを見極めるのが、いわば映像「リテラシー」。


 (2019/7/15) 
女子サッカー王者のスピーチ ― Love more and hate less 

8年前の女子ワールドカップドイツ大会でなでしこが優勝したことが、震災に打ちひしがれていた日本をどれだけ勇気付けたか、その記憶はいまだ鮮明です。今回のフランス大会では決勝トーナメント1回戦でオランダに惜しくも敗れてしまいましたが、 3年前に宮間からバトンを受け継いだ岩渕が、期待どおりチームを牽引していたのが印象に残りました。

日本が敗退したので、メディアでは大会の扱いが小さくなったように見えました。けれど、ライブで見るには遅すぎる時間の時もありましたが、決勝トーナメントの他の試合は、録画を含めて、BSで見ることができました。やはり1番の注目はアメリカチームでした。とくに、キャプテンのミーガン・ラピノーが、トランプのホワイトハウスには招待されても行かない、と公言したことに対して、大統領が愚かな反応を見せたために、チームが人権と平等のために一丸となって戦っている印象を与えていました。ちょうど、8年前のなでしこが被災した日本のためにと士気を高めていたように、何かのために戦う気持ちを共有するチームは強いものです。

「ミーガンは喋る前にまず勝つべきだ。仕事を終わらせろ! (Megan should WIN first before she TALKS! Finish the job!)」とさえずったトランプは、もしもアメリカチームが優勝したら「天に唾する」ことになるとは思い及ばなかったのでしょう。北朝鮮の核廃棄という「仕事」を終わらせることもできずに、金正恩と握手するだけのテレビ向けショーをダラダラと繰り返しているだけの大統領は、イギリスの駐米大使からも「能無し」の評価を与えられる始末。

そのアメリカチームのニューヨークでの優勝パレードとラピノーのスピーチyoutubeの様子をニューヨークタイムズが伝えています。その見出しにはラピノーのスピーチの一節が使われていました。

 Rapinoe did not disappoint. In a memorable speech, she lauded her teammates, spoke of the politics of division and equal pay and let forth a profane tribute to New York City.
 “This is my charge to everyone: We have to be better, we have to love more and hate less. Listen more and talk less. It is our responsibility to make this world a better place,” Rapinoe told the crowd.
 ラピノーは期待に応えた。記念スピーチでは、チームメートを讃え、政治による分断、(男女の)平等な報酬について語り、ニューヨーク市に(大都市を封鎖してパレードを敢行したことに、禁句を交えた)破茶滅茶な賛辞を送った。
 「みんな一人ひとりへのエールだよ: 私たちはもっと良い人間になるべきよ。愛を広め、憎しみを減らそう。人の話にもっと耳を貸し、ことばを慎もう。この世界を少しでも良いところにすることが、私たちの責任なんだから」そうラピノーは集まった人たちに語った。
 Megan Rapinoe Steals the Show at the Women’s World Cup Parade, New York Times July 10, 2019


 (2019/6/26) 
平成令和という「時代」はない ― だがCBは時代をつくった 

歴史の時代区分にとっては、元号とその改元はなんの意味も持っていない。それを元号を「時代」と混同して、「新しい時代」だの「平成最後の〇〇」だ「令和初のXX」だと、お祭り気分のメディア報道にも呆れるが、その反面で、平成元号で区切った30年の間に起きた事件のおさらい番組などは、忘れていた過去を反省する機会にはなったかもしれない。

その30年という時間の区切りも、長いようで案外短いと思ってしまうこともある。先日の朝日新聞紙面に、珍しくホンダのCB750FOUR誕生50周年の記事が載っていた。当時は「超弩級」というキャッチフレーズだったそうで、確か現物を見た本田宗一郎が「こんなでかいバイクに誰が乗るんだ?」と開発陣に言ったという話がある。とは言え、さらに排気量の大きいバイクを見慣れた現在の大型二輪ライダーにとっては、かつての超弩級ナナハンは中型バイクに見えてしまう。

けれど、50年前のこの並列4気筒が、その後のジャパニーズモーターサイクルの原点となり、バイクブームの牽引役となり、明らかに時代を画した。個人的にも、おそらくこのCBの登場無くしては、私は今ナナハンに跨っていなかった。CBがつくった時代はまだまだ続く。





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