12月28日(その3)の日記で実験で気づいたが、一般に入手できる民生用のサウンドカードの出力信号は位相が揃っていないなどの恐れがあることがわかった。
そこで手持ちのサウンドカードの出力をオシロスコープで観測することでその出力特性を明らかにしてゆきたい。

今回生贄となるサウンドカードとその概要は以下の通りである。
採用チップ 対応サンプリング周波数 ビット深度 その他備考
ABIT AV8オンボード ALC658 48kHz 16bit -
Sound MX CMI8738 44.1kHz、48kHz 16bit -
Creative Sound BlasterLive! 5.1 EMU10k1 48kHz 16bit 今回はkxドライバを使用
Terratec DMX 6 fire LT Envy24 44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHz 16bit、24bit ASIO2.0、GSIF対応
E-MU 1212m ? 44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHz 16bit、24bit ASIO2.0対応
Creative Sound Blaster Digital Music PX ? 44.1kHz、48kHz 16bit bit accurate I/O対応
ONKYO SE-U55X ? 44.1kHz、48kHz 16bit -

既に生産終了の製品も多くて申し訳ない。メーカー発表の仕様にはS/Nや周波数特性も載っているが、これらはあくまでメーカーの謳い文句なのでこの際無視する。
これらの製品の周波数-振幅特性、及び左右の位相差をオシロスコープで計測してゆく。
計測はCDフォーマットである44.1kHz,16bit、AC97規格である48kHz,16bit、及びサウンドカードが対応している最も高いレートで行った。信号の生成および出力にはefu氏WaveGeneを使用させていただいた。感謝です。
まずは結果である。なお、グラフ中ではSoundBlaster Digital Muxic PXを"SB USB"と表記している。
各カードの周波数特性
グラフは各製品の出力電圧をプロットしたものである。製品ごとに出力レベルにばらつきがあることがわかる。使用するサウンドカードによってアンプのボリュームは結構変わってくる。
しかしこのグラフでは製品ごとの差がわかりにくい。次に出力レベルを正規化してdB表示としたグラフを示す。
レベルの正規化
また、実験結果をまとめたExcelファイルを置いておきます。ここ。形式はExcel2000である。
興味のある方は目を通してみて欲しい。多くの製品で低域と高域で少しレベルが小さくなる傾向である。

個人的に気になっていたLR間の位相差であるが、DMX6fire以外の製品では確認されなかった。
次に各製品について詳しく見てゆく。
AV8オンボード

グラフを見ても明らかであるが、振幅特性はよろしくない。単に低域と高域が落ちているだけなら良いのだが、特性が乱れているのである。

また、率直に言って波形が汚い。正弦波の振幅がが上下で非対称だったり、同じ信号を出しているのに振幅が(僅かではあるが)大きくなったり小さくなったりした。
さらに出力にDCオフセットが観測された。時間が経つごとに小さくなり、0.12V→0.055V→0Vと変化していった。
AV8オンボードの短形波
写真はサンプリング周波数48kHzで方形波(1kHz)を出力したときの波形である。写真が汚い上に曲がっていて申し訳ない。 見づらいが、平坦部にはギブス現象の他にも乱れが見られ、立ち上がりの部分でも乱れがある。

光出力があったり、多チャンネル出力が可能であったり、エフェクトをかけられたりと多機能であるが、品質はやはりオンボードであった。
Sound MX

こいつを評価するには言葉に注意しなければならない。気を抜くと波形以上に汚い言葉を書きそうである。

波形をオシロで観測すると、その形に驚く。300Hzあたりから上の周波数で、波形が階段状になっているのである。この形は48kHzでも見られたが、44.1kHzで特にひどいものだった。
さらに10kHzや20kHzともなると、波形を正弦波と呼ぶことに抵抗を覚える。
サンプリング周波数44.1kHzでの波形
図は44.1kHzでの10kHzの波形である。振幅を読み取ることすらままならない。
サンプリング周波数44.1kHzでの波形

今度は44.1kHzで20kHzの波形である。もはや私は振幅を真面目に読み取る気をなくしてしまったのだった。

サンプリング周波数を変えて48kHzの写真である。
サンプリング周波数48kHzでの波形
これは方形波を出力しているわけではない。出力しているのは16kHzの正弦波である。もはやコメントはするまい。
また、出力コンデンサが入っているのに、なぜかDCオフセットが80mVほど観測された。どうなっているのだ。
サンプリング周波数48kHzでの短形波
最後にサンプリング周波数48kHzでの方形波(1kHz)を示す。立ち上がり、立下りの0V付近で妙な引っかかり(?)が見られ、平坦部でも妙な乱れがある。

CMI8738はサンプリング周波数は44.1kHzと48kHzの両方に対応しているのだが、水晶発振子はひとつしか乗っておらず、どちらのサンプリング周波数も近似値で代用している。 そのためかどちらのサンプリング周波数でも波形が汚い。特に44.1kHzがひどいと言う結果だった。

率直に言って、アナログ出力はあまり使いたくないカードである。ただこのカードを含め、CMI8738搭載のカードは一般に安価である。市場での価格(\1000から\2000前後?)を考慮すれば、この結果も許せるかも知れない。
Creative Sound BlasterLive! 5.1

サンプリング周波数48kHzの時は別段問題の無い波形を出力してくれた。少なくとも波形を見る限りはきれいなものである。しかし44.1kHzにやや問題がある。
とにかく写真を見て欲しい。
サンプリング周波数44.1kHz
これはサンプリング周波数44.1kHzで20kHzの正弦波を出力したときの波形である。オシロのトリガはかかっているのだが、信号にジッタが乗っているのか多くの波形が重なっている。
このような波形は13kHz付近から現れ始める。
サンプリング周波数44.1kHz
写真で正弦波の頂上付近で波形が2重になっているのがわかる。

なお、48kHzのときはこのようなことはなく、きれいな正弦波が出力された。
Live!の対応サンプリング周波数は48kHzであり、その他のサンプリング周波数ではリサンプリングを必要とする。その結果44.1kHzで波形に乱れが現れたのだろう。
ところで、今回kxドライバを使用したのだが、Creative謹製のドライバではどのような特性を示すのか気になるところではある。...でも、もう疲れちゃった。
Terratec DMX 6 fire LT

こいつは今回の実験を行うきっかけとなったカードである。振幅特性は最初の方のグラフで示したとおり、優秀な特性を示した。
問題は左右の位相差である。今回実験を行った製品の中でこいつだけが左右に位相差が出た。
左右の位相差 グラフは正弦波を出力したときの左右の位相差を、サンプリング周波数をパラメータとして表したものである。サンプリング周波数を高くすると位相差は小さくなるが、いずれの場合も出力が可能な最も高い周波数では170度近くまで位相がずれる。
また、位相が90度ずれる周波数はサンプリング周波数のちょうど1/4のときであった。サンプリング周波数が44.1kHzであれば11kHz、96kHzであれば24kHzのときに左右の位相差は90度となった。

D/Aを行うタイミングが半サンプルずれているか、またはデジタルの段階で信号が半サンプルずれていると考えれば、この位相のずれ方は説明がつく。 D/Aを行うタイミングがずれているのであればこの製品固有の問題で済むが、デジタルの段階でずれているとしたらこの問題はEnvy24を搭載した製品全体に波及している可能性がある。と言っても私は他に製品を持っていないので確認は取れないのですけどね。

DMX6fireの名誉のために書いておきたいのだが、波形は奇麗なものであり、サンプリング周波数を変えたことで波形が乱れると言ったことも無かった。位相差を除けば実に優秀なカードである。それだけに位相差が実に惜しいのである。

こんなことまで書いておいて、私の製品が不良品だったなんてオチだったら...なんかありそうだなー。
E-MU 1212m

波形を見る限りでは取り立てて書くことも無い。位相差は無く、振幅特性も可聴領域が平坦でそれより高くなるとなだらかに低下している。 正弦波はきれいな波形で、方形波もギブス現象以外の乱れは見られなかった。
サンプリング周波数によって波形の乱れ方が変わるといったこともなく、安心して使用できるカードだと思った。

波形に特に乱れは無く、位相差も無いため写真は無しである。
Creative Sound Blaster Digital Music PX

この製品はSound Blasterとしては珍しく(?)44.1kHzやbit accurateに対応している。そのためかサンプリング周波数が44.1kHzでも波形が乱れると言ったことは無かった。

この製品も位相差はなく、波形にも乱れは見られなかった。よって写真は無しである。
強いて言えば、出力電圧が他の製品に比べて低いことが気になる。しかし、この製品の先にはアンプが接続されるはずである。一般にアンプの増幅度は大きく、十分過ぎるほどの音量が得られる。そのため、この問題もボリュームを捻ればあっさり解決する。
ONKYO SE-U55X

この製品も取り立てて書くことは無い。位相差は無く、振幅特性も申し分ない。サンプリング周波数によって乱れ方が変わると言ったことも無い。そのため写真は無しである。
まとめ

ここまでオンボード1つ、PCIカード4つ、USB2つを見てきたが、品質は値段相応であると感じた。オンボードはオンボードの品質であり、安物は安物の品質であった。ある程度の金額を支払う製品では、波形で見る限りはそれなりの品質があるようである。
個人的に気になっていた左右の位相差はDMX6fireのみに現れた。一般的な製品では現れないものなのかも知れない。今のところはどういった製品に現れるのかわからない。

私がこの7つの製品の中で、対応サンプリング周波数や実際の波形などから音楽鑑賞などに堪えうる製品を選ぶとすれば、1212m、Sound Blaster Digital Music PX、SE-U55Xを選ぶ。もちろん各製品特色(EAXとか、USBだとか)があるので、選ぶときはそれらを見極めて欲しい。

最後に、サンプリング周波数が44.1kHzに対応していない製品の場合、48kHzの時のほうが明らかに波形が奇麗であった。従ってCDの音楽を再生する場合は、何らかの方法で予め高品質なリサンプリングを行っておくと良いかもしれない。ただし、実際に聴いて判るかどうかはまた別な問題ではありますが...。
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2005/1/16記