火災調査探偵団 Fire Investigation Reserch Team for Fire Fighters |
Title:「特異火災(火災原因について)」-04 |
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1,「特異火災」とはどんな事象なのか? | ||
「特異火災の原因調査について、話し、をしてほしい」 と依頼されたことがあった。 ここで「特異火災とは何なのか」と改めて考えて見た。 答えらしい課題を探してみると、次のような事例がイロイロな雑誌等に掲載されている。 |
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2, 「消防防災科学センター」のホームページ | ||
「消防防災博物館」に掲載されている「特異火災事例」 昭和60年~平成3年までの17件を見ると次のようになる。 「ペンション バク」、 「社会福祉法人 島光会・草薙園」、 「ホテル大東館旧館、山水」、 「(株)菊水館」、 「(株)船橋東武」、 「社会福祉法人 陽気会陽気寮」、 「佛祥院」、 「社会福祉法人 昭青会松寿園」、 「医療法人 十全病院」、 「宗教法人 地蔵院」 「養護老人ホーム 梨の木園」、 「(株)ホテル望海」、 「(株)にっかつ 撮影所」、 「スカイシティ南砂」、 「JR大阪駅西口地下道内仮設飲食店舗」、 「(株)長崎屋尼崎店」、 「大阪大学基礎工学部電気工学科」 いずれも、「特異火災事例」と言うより、社会的に特異性のある「火災事例」を火災概要としてのフォーマットで記載されており、どの ような火災であったのかが、わかるようになっている。 昭和60年以前の事例を見ると話題のあった火災は全て掲載されており、役立 つ情報となっている。 と言って、この中から、一つ二つの事例を取り上げて、火災調査の分野で話すには、その現場で活動したこと がある実績を前提とするような場合に限られてしまう。 ★☆なお、平成3年の「大阪大学の火災事例」でプッツリと、途切れているので、たぶん「担当者」が退職したりし、組織とて「止めて」し まったのかもしれない? 「火災・火災予防」から「地震・防災」へと組織の対象が切り替わったことによる路線変更かもしれません。 更新されないページは、何ともさびしいもので、慰霊塔のような感じです。と言うことで、これは「特異火災」としてのジャンルを物語たって いるものではない、と思えます。 「消防防災博物館」の「火災原因調査」として事例紹介 次に、「火災原因調査」として事例紹介がなされているコーナがあります。 季刊「消防科学と情報」の火災原因調査シリーズとして取り 上げられており、今まで79号もあります。過去の事例も含めるとそれなりに勉強の教材となっている。 掲載のうち最近の10事例を次に紹介します。 79号 「軽自動車のフォグランプより出火に至った事例」 静岡市消防局 (2015年7月出火) 78 「太陽電池モジュールの配線から出火した火災」 相模原市消防局 77 「使い捨てガスライターの作動不良による焼損事故事例」 名古屋市消防局 76 「浴室暖房機からの出火事例」 神戸市消防局 75 「洗面化粧台の配線が結露により出火に至った事例」 千葉市消防局 74 「コインランドリーのガス衣類乾燥機からの出火事例」 札幌市消防局 73 「トラックの排出ガス処理装置の連続再生時の火災」 北九州市消防局 72 「ガステーブルの熱伝導による火災事例」 熊本市消防局 71 「オール電化工事に伴う火災事例」 川崎市消防局 70 「オルタネーターから出火した車両火災について 」 福岡市消防局 丹念に探して、講義又は勉強材料としては、いずれも「特異火災」と言える事例で、同種事例の解説として役立ちます。 |
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3,消防関係雑誌等 | ||
月刊誌「近代消防」の「特異火災原因事例シリーズ」 月刊誌「近代消防」の「特異火災原因事例シリーズ」が、掲載されている。 平成28年4月号までに34例もある。2015年(平成27年)4月から2016年4月まで掲載された8事例を次に示す。 「食器洗い乾燥機の調査報告」 (太田市消防本部) 平成27年4月号 「亜酸化銅増殖発熱現象による火災」 (神戸市消防局) 平成27年5月号 「自動販売機に設置された広告用LEDの火災」 (東京消防庁) 平成27年8月号 「リンに起因するトラッキング火災」 (枚方寝屋川消防組合消防本部) 平成27年9月号 「歯科用接着剤の自然発火事例」 (稲敷広域消防本部) 平成27年10月号 「無炎燃焼火災が疑われる火災事例」 (磐田市消防本部) 平成27年11月号 「シートベルト巻き取り機(プリテンシュナー)の火災」 (川崎市消防局) 平成28年1月 「在宅酸素治療中に発生した火災」 (大阪市消防局) 平成28年4月 これらの題名からは、「特異火災だな」と思える。 例えば1000件の火災で、どの程度発生しているかと考えると、せいぜい1件程度 かもしれない。このように考えると「特異火災」とは、ほとんど発生しないけれど、発生すると原因調査を通じて「論文」となり、その評 価を認められることにもなると言える。それぞれが、現代的な意味での特徴とされる火災事例となっている。 「月刊消防」にも、それなりに火災原因事例が紹介されている。 「フェスク」(日本消防設備安全センター機関紙)にも、それなりに火災原因事例が紹介されている。 消防庁「消防研究センター」 このホームページ上にはないが、研究センターで実施している。 火災原因調査室の「 調査技術会議」では、 事例発表(消防研究センター原因調査室) と 事例発表(各消防本部担当者)として、近時の「特異火災事例」を紹介している。 また、「製品火災事例」として、リコールされている製品火災の事例が掲載されている。これらもある意味「特異火災」として顕在化 され、製品リコールへと結びついてものです。 「.セイコーシェーバー充電器」、 「.加湿器」、 「.鑑賞魚用ヒーター」、 「.車両シガーソケット用アクセサリー」、 「.ポータブルDVDプレーヤー」、 「.ホンダ フィット(車両)」、 「.除湿乾燥機」 |
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4,火災学会誌「火災」 | ||
火災誌の「火災発生事例」 火災学会誌の「火災」には、東京消防庁が調査した火災事例を掲載している。平成28年1年間の6件から見ると、次のような掲載内容である。 「冷蔵庫内から出火し社告に発展した火災」 02月340号 「走行中のトレーラーから出火した車両火災」 04月341号 「セラミックファンヒータから出火した火災」 06月342号 「伝導過熱により小屋裏まで延焼拡大した事例」 08月343号 「地下鉄新型車両の制動時に発生する摩耗粉に起因した火災」 10月344号 「カーボンヒータから出火しリコール及び社告に発展した火災」 12月345号 これらの事例は、火災誌に連続して掲載されているだけに内容的にも精査されて緻密な分析がなされ、内容的に理解できるものと なっている。消防関係雑誌に掲載されている「火災原因調査」の解説は、当事者しかわからない文章表現となっているものもあるが、そ の点では、火災誌に掲載されている事例は、校正されて、理解しやすいものである。 私も昔、この事例のNo193,194,195,196,199,225 の「火災事例」を執筆している。 ただし、この火災事例は、致命的なことに、火災学会のホームページの「火災誌のバックナンバー」からの取り出しができない(2017.01現在)。 そのうち(?) 火災誌の「火災事例の目次(みだし)」をどこかに掲載します・・・ |
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5. その他 | ||
さらに、手を広げると各消防本部のホームページ上でも様々な「火災事例」が扱われている。 例えば、堺市消防本部のホームページは、5つの事例をとりだすと次のような火災事例となっている。 「なぜスプレー缶で爆発や火災が発生するの?」 「混合型防水材の燃焼実験」 「天ぷら油火災実験」 「敵は本能じゃ(ハムスター君の大失敗)」 「魚焼いたら家焼けた (ガスコンロの掃除はこまめに)」 等 これらもある意味、「特異火災」と言えるものである。 様々な消防本部の機関紙から 全国消防長会誌「ほのお」、東京消防庁「東京消防」、名古屋市消防「東海望楼」、神戸市消防「雪」、大阪市消防「大阪消防」(ウェブ)など、 各機関誌には「火災原因調査」の事例が掲載されている。 つまり、火災原因は、その仕組みから言って「個々の火災は、特異火災となることが多い」 こととなり、その範疇にならない火災は 「放火火災、火遊び火災、天ぷら油火災、たばこの火災」などの幾つかとなってしまう。 特異火災は、前出された雑誌類の記事を見ても、ほとんど遭遇しないと思われる火災ばかりである。 ある程度想像できそうな特異火災としては、「雷の火災」「自然発火の火災」「収れん火災」「動物が原因の火災」などとなる。これらも珍しい 火災となってしまい、「自然発火の火災」にあっても近年、発生事例が少なく、その火災事例を聞いても、実際の現場に役立つのかな、と 思ってしまう。 珍しい火災事例の紹介などは、その意味では、解説・説明する人が よほど話術に優れ、その課題から普遍的な課題へと 広げられないと、「あっ そ!」で終わってしまう。 特に、最近は「化学火災」は激減しており、その中で発生頻度が高いのが「自然発火の火災」ですが、これも、うまくまとめて、このような 火災現場における現場調査要領とあわせて、説明しないと理解されにくい事例です。 |
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6, 火災原因の傾向 | ||
特異火災とされる事案の減少 「火災原因調査は、難しくなった」と言われます。如何にも「特異火災が増えている」ような印象で語られることがあります。これは必ずしも 正解ではありません。 なぜなら火災原因となる出火原因項目(発火源+経過)は、次第に少なくなっており、昭和50年代に比べて平成20年代では3割以上 減少しています。マッチや玩具用花火などの裸火が少なくなったことや反応工程を持つような化学火災が減っているためです。 そのため、放火(疑いを含む)、天ぷら油火災、電気火災、タバコ火災にまとめるとほとんどの出火原因が包含されるようになってきてい ます。難しいと言えることは「裸火」がなくなって、電気火災のように「エネルギーが収束される部位で出火する」ことによる個別の火災原因 の「わかりにくさ」が理由と思われます。 つまり「火災原因が難しくなっている」と言うエビデンス(立証)は、統計的に求めると逆に「火災原因が減少して、難しくなくなっている」と 言う答えが出てきます。もし、「難しいくなっている」と発言される人には、「その根拠はどこにあるか、昭和50年代と今を比較すると何が言え るのか? どのような数値的裏付けがあるのか?」と聞いていみるのも大事なことです。つまり「火災原因調査の視点」をどこに、その人が 置かれているのかがわかる手立てとなるかと思います。 火災原因の統計的なひずみ 火災原因の分類は、火災を [発火源・経過・着火物の3つの要素] によって構成している。この中で、「着火物」は燃える物であれば何でもよい ことになる。例えば、タバコのゴミ箱への”投げ捨て”では、ゴミ箱内は、紙屑(282)でも、ゴミ屑(280)でも、衣類(252)でも火災としての成立では可 燃物であれば同じ扱いとなる。そこで、出火と呼ぶべき「火災原因」を考えるには、 「発火源+経過」の組み合わせが出火機構となる。 「発火源と経過の組み合わせ」を、東京消防庁のある年の約6,500謙の火災の全ての「発火源と経過」の組み合わせ個数を拾うと、750件の 火災原因(出火機構)が取り出せた。 その火災機構(火災原因の数)とその火災件数の関係を log-logグラフ上にプロットする。 ① 1年間6500件の火災件数の中には、火災原因の組合せ(発火源+経過)として750件の火災原因がる。 ② 火災件数の7割(4500件)は、火災原因の中の30個に限られる。 ③ 火災件数の8割(6000件)は、火災原因の中の60個程度である。 つまり、ある年の火災6,500件ある中で、1件の火災しかない火災原因が実に600件近くもあることである。 「特異火災は、滅多に発生しない火災」と定義すると、1/6,500の確率で発生する珍し火災は、実に600/750の頻度で発生することとなる。 これだと発生頻度から言えば、年間650件程度の火災件数の消防本部では、10年で1件しかない「珍しい火災」があったとしても、そのような火災 は、出火原因別に取り出すと60/75程度の頻度で発生しており、珍しことが"あたりまえ"であることとなってしまう。その意味では、前記の各雑誌 等で取り上げられる「特異火災」とは、そのような性格のものとなっている。 このことは、たった60個の火災原因を知っていると、火災全件数の8割の原因を究明できることになる。 しかし、全部の火災原因を知ろうとすると750件もの火災原因を知る必要があるが、そんな必要はない、約60個の火災原因を知るだけで十分に 火災調査員として役立つ仕事をなすことができる。 つまり、火災原因調査は、ある意味「簡単である」と言える。 60個程度の火災原因と言われる「火災の仕組みとしての出火機構(発火源+経過)」を知っていれば、ほとんどの火災を解明することができる。 しかも、この60個程度の火災は、大部分があたりまえの「人の行為」に関することで、放火・火遊び・錯誤・勘違い・思い違い・見過ごし・怠慢など の人の行為に起因して発生しており、極めて再現性の高い火災がほとんどである。それゆえ、誰でもが「火災」についてのコメントをすることがで きるし、火災現場調査活動などをしたことがなくても、火災原因について解説することが可能となる。 しかし、“それ以外の火災”は、極めて偶発的に発生した再現性のまったくないようなマレな火災原因(それでいて発生頻度が高い)となる。ゆえに、 あまり、「特異火災」などと言うジャンルは誰もやりたがらないし、誰かの助っ人を必要とすることが多い。 |
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7, まとめると | ||
私的には「特異火災」は、「雷火災」「収れん火災」「漏電火災」「爆発火災」だと思う。 「収れん火災」、「漏電の火災」の現場を見ると、出火箇所と出火原因とに「距離(開き)」があり、火災現場を発掘して、焼き状況から推測 される火災原因と思しき物証等が、その発掘場所とは関係がないことです。 「収れん火災」では「蒲団等から燃えている」と言う事実関係から「火災原因は、たばこの火源落下等」と判断することも起こりえる。「収れん」と 結びつけるには火災現場全体を考察して導く必要がある。また、「漏電火災」も出火個所が分かっても、漏電経路と漏電点はまったく別の箇所 から探しだす必要があり、大体が部分焼火災で鎮火していると壁や天井を壊して調べることも難しく、漏電点等を見いだせないこともある。漏電 だと思える焼損箇所と焼き状況であっても漏電点を見出すことは難しい。 また、落雷も一つの建物内に数多くの「焼損箇所」が存在することが多くあり、建物内の複数の出火個所を見て回って、次に、建物の中に落雷 サージが回り込んだ経路を明確にすることは難しい。これは「迷走電流」の火災でも言えるが、この場合の焼損箇所が落雷ほど多くないが、焼 損が弱く経路を探す手立てが少ないことがある。 「爆発火災」は、爆発そのものの最も破損が大きい箇所が爆発点とはならないことが多く、また、爆発火災はたまたま可燃性蒸気が滞留して、 ペーパーリッチによる火炎成形により火災となることから、爆発の原因となった事象とは異なり、爆発そのものの解明の手がかりとはならないこと が多い。実況見分から何を見出すかどこを 爆発の特徴として見るか、にかかわっている。 このように「出火箇所の見分状況」からの推測を手掛かりとして成り立っている火災原因調査においては、出火箇所と切り離される「火災原因」 は「特異火災」と呼んでもよいかな、と思う。 しかし、その場合であっても出火した建物をくまなく見分して、見るべきものをしっかり見ることにより、 火災原因が見いだせるものである。諦めずに、現場に何回も足を運んで、関係者の供述を丁寧に聞くことが一番の解明方法となる。これが特異 火災の調査要領と言える。 |
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