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火災調査の沿革

火災調査の第一歩   C1-01    07.07.12         転載を禁ず

 1,1
火災調査は、昭和23(1948)8月消防法の施行をもって消防事務として開始された。
 
 1,2 
それ以前は、「警察組織の中の消防」として損害程度などについて実施し、東京消防の統計
 年報などをまとめていた。戦争終結により、戦前の大日本帝国憲法下における行政機構が大きく
 変更され、特に、警察・消防・教育の分野が地方自治の基本となる市町村の行政事務に移管された。
 しかし、その後、これらの組織は、国内外の情勢を反映して、国や都道府県の組織等に変更され
 て行くが、消防組織は、消防組織法
(昭和233月施行)により、一貫して市町村の行政事務とし
 て運営されてきた。その中で、複数の市町村が
(消防)事務を共同組合とすることや他の市町村に
 (
消防)事務委託することなどにより、消防の広域化の道を歩んできており、先般(平成186)
 消防法組織法の改正により、消防広域化の基本指針が盛り込まれ、より一層の広域行政化の傾向
 にある。

 
1,3  消防の名称は、消防組織法により消防組織に「消防本部・消防署・消防団」を設けることとなっ
 ていることから「○○市消防本部」と呼び、部・課とは異なった名称を冠している。その中で、消防本
 部に「消防長」を、消防署に「消防署長」を置くことを規定し、このため、消防法の中での主語は「消防
 長又は消防署長」となっている条文が多くある。政令市は、部より上の「局」名称を使用できることか
 ら、名古屋市や京都市などは古くから市「消防局」を呼称し、担当事務として消防ばかりでなく市の防
 災分野も合わせた事務運営を行なっている。
 東京は、特別区
23区が一つのまとまりであったことから、消防組織法の中で、特例として市町村では
 なく、東京都が管理することとなり、また、名称も警視庁と横並びの「東京消防庁」と言う名称となって
 いる。現在では、多摩地区の
2431村の消防事務も受託し、ほぼ都下全域を管轄エリアとして
 いる。

 1,4  消防法第7章に「火災の調査」9ケ条文に記されている。
 消防組織法が、消防組織の運営のあり方を法的に示していることに対し、消防法は行政を運営する
 上での権利や義務などの実態的な方法について示している。 消防法第
5章「火災の警戒」で火災の
 起こりやすい状況下での権限や指示などを示し、第
6章「消火の活動」で消防活動をするうえでの権
 限を示し、消火後に行なう火災調査として、その後の第
7章に「火災の調査」を規定している。この消
 防法の施行により、市町村組織としての「消防機関」が火災調査を行政事務として行なっている。

 1,5  火災調査における消防の法的側面としては、当時のUSAの行政事務の考え方が取り入れられ
  た面がある。例えば、消防法の中に
法第33として「消防長又は消防署長及び関係保険会社の
 認めた代理人は、火災の原因及び損害の程度を決定するために火災により破損され又は破壊され
 た財産を調査することができる。」と記され、行政執行機関以外の「保険会社」と言う言葉が載せら
 れている。実質的には、この保険会社に与えられている法的権限がないことから、実態としては保
 険契約書の定める権限の範囲に限られことになっている。しかし、諸外国で行なっている「火災調査」
 を見た場合には、この「保険会社」が法律上に加えられている意図を斟酌して、火災原因ばかりで
 なく火災損害の面からの視点も重要となる。

 1,6  消防法の当初案は、火災調査は「放火等の犯罪捜査権」も与えられることとなっていた。
 これは、 労働分野の
(司法) 労働基準監督署員、国有鉄道の鉄道公安官、営林分野の (司法)営林
  署員、厚生省の麻薬取締官など、司法警察官制度を警察部門以外の専門担当部門に認める傾向が
 あったことによるが、消防事務が市町村の行政事務とされたことから、全国的な斉一性を担保するこ
 とが難しいとして退けられた。
 
  1,6-1 (消防法案)
    第4章 捜査及び調査
 
 「第22条  消防執行長は捜査の任にある消防職員(以下捜査員という)は放火又は失火の犯罪があると認めるときは、
         その犯罪を捜査しなければならない。
         但し、国家消防庁において放火または失火の犯罪を捜査する制度を設ける時はこれに従わなければならない。
          捜査員は放火又は失火の犯罪があると認定して時は書類を作成し、これを検察庁に通告しなければならない。
   第23条  捜査員は窒息死、焼死その他の生理的な死因を調査するため、焼死体を検視し、又は解剖に附することが
        できる。
        但し、検察庁又は裁判所が焼死体を処分するときはこれに死因調査を委嘱し、その意見を徴することができる。
        捜査員は前条又は前項の規定によって知り得た状況を記録し、火災予防の資料を作成しなければならない。
   第24条  消防執行長は消防活動と同時に火災の原因並びに火災及び消火のために被った損害の調査に着手しな
        ければならない。
   第25条  消防執行長は前条の規定により調査するために必要がある時は、関係者に対して必要な資料の提出を命じ
        又は消防職員を関係場所に立ち入らしめて検査せしめることができる。  」

  昭和22年12月8日 衆議院本会議で可決された消防法案。翌、12月9日に参議院に送付されたが、捜査権について、
  衆議院案と政府の意見との調整に手間取り、参議院で審議未了継続となった。翌、昭和23年の制定案には、捜査権は
  なくなり、火災調査権となって、現行法案となった。 



火災調査の歩み
  C1-02

 2,1  昭和23年8月の消防法施行と同時に、東京消防庁は予防部の中に調査課を設け、同様に各政
 令市の中にも調査係が設けられ、消防機関として、火災調査を精力的に行なっていく姿勢が打ち出さ
 れた。
 当時、基本とされたのは「@ 予防行政の完遂を期するための正確なる基本資料を提供する。A放火
 失火の犯罪捜査に対して協力する。(当時の東京・調査課長執筆文)」と言うものであった。
 特に、予防面では消防用設備、危険物施設、火気使用器具等の法的規制上の具体的な内容が、
 13年先の昭和36年3月の消防法施行令に待つことになることから、いち早く、都・市の火災予防条例
 による安全で安定した内容の法的規制を敷く必要があり、個々の火災から得られる資料が最も必要
 とされたことによる。
 
 2,2
  初期の火災調査の権限は、憲法の基本的人権と相まって私有財産を配慮し法律要件を明確
 にすることを前提としたことから、被害財産の調査や立入検査、資料提出命令などが主要な内容と
 なっていた。このため、「物」に限定された権限での火災調査から始まった。
 しかし、関係者からの供述、つまり「質問権」がないと、燃えてしまった焼損残材からだけでは原因
 究明が不十分となることから、法律改正を要望し、昭和
25年の改正により「関係ある者に対する
 質問権」が明記された。

 
 2,3
 昭和26年当時は全国の火災件数は20,000件程度で、東京では1,801件であった。 
 もっとも、火災が少なかったのではなく、「火災」と呼ぶ規模をある程度焼損しないと扱わないように
 していたことによるものと思われる。当時は坪単価で算定していたことや「火災は村八分」などと言わ
 れていたことなどから、全国的には建物が
10(33u)ぐらい燃えてやっと「火災」となったのではと
 思う。

 2,4  東京の当時の火災原因は「煙突・電熱器・タバコなど」となっている。
 また、
昭和266月に火災学会誌「火災」が創刊され、これを読むと、当時“漏電火災”の原因究
 明に腐心している様子が見られる。
 そして、「火災統計」をこの時期(火災学会の検討結果を踏まえて)から精密に実施しており、各署
 の火災件数の変化が見られる。

 2,5  昭和38年には、消防法施行令も施行され、全国の火災が約 50,000件、東京でも 9,252件と
 なっている。「七輪コンロや薪・炭」に係わる火災原因が減少し始め、電気・ガス等の器具が一般家
 庭に普及し、生活様式の中でのエネルギーの変換に伴う過渡期にあたる。
  東京消防庁は、昭和
35年に多摩地区の主要16 市の事務委託を引き受け、急激に職員が
 増加した。昭和
38年東京で最も焼失面積の大きい 10,250uを焼損した西武百貨店の火災、翌
 昭和
39年には最も多い殉職を出した勝島倉庫爆発火災があった。

 2,6 
昭和45年、東京消防庁の火災件数は 9,707件 と最も多い火災件数となっている。
 昭和
47年大阪・千日ビル火災、48年高槻・西武ショピングセンター熊本・大洋デパート火災が
 あり、全国的に大規模施設の興隆とそれに伴う火災が発生し、安全行政の遅れが指摘される
 とともに、火災原因も電気装置などの火災が多くなってきた。
 テレビからの火災もこの頃が最も多い。

 左1図、5年ごとの東京の原因分類
 系の火災件数の推移。
 左2図 5年ごとの東京の製品名別
 の火災件数の推移。
 テレビは、42年ごろから発生し、48年
 が大きなピークとなり、その後波を
 打つように火災件数が上下してい
 る。時代の変化と火災原因の変化
 に合わせて、火災調査の結果が
 火災予防に役立てられている。

 2,7 火災調査は、その本来の目的は火災予防である。
 例えば、昭和
52(1977)「風呂釜の空だきによる火災」が260件、東京消防庁管内で発生
 していた。この火災原因は、風呂の浴槽の水栓が中途半端だと水漏れし、水の入っていない釜
 が過熱されて火災を引き起こすことによるのであった。この火災調査結果から、風呂釜に
 「過熱防止装置(空だき防止)」を組み込むことを昭和
51年に火災予防条例と定め、以後、漸次
 減少し、
20年を経た平成9(1997)には6件を数えるだけとなった。
 電気製品についても、火災の都度、メーカや業界に告知し、特に熱器具類のヘヤードライヤー、
 アイロンなどは安全装置を組み込んで、製品の安全化をはかる契機となってきた。
 現在は、車両から電気・ガス器具類、製造施設等さまざまな火災に対して、火災調査結果を
 フィードバックさせている。
  日本の消防機関の行なう火災調査は、諸外国のそれとかなり異なるのは、火災予防条例の
 制定等により、直接的に反映できスタンスを活かし、調査の目的
(任務)を「火災予防」に置いている
 ことによる。
 欧米の場合は、犯罪抑止の視点と保険料率等の資料的な視点に力点がおかれることが多い。

 2,8 火災調査には、分類統計が必要であることから、「火災報告取扱要領」が国から示され、
 その火災報告とされている形式に基づき、その統計分類に従っている。この分類法により
 「発火源・経過・着火物・出火箇所」と言う用語に従った分類を行っている。


火災調査の現況   C1-03

 3,1 火災原因の判定。
 火災原因調査の科学的な考察材料として、出火箇所判定では、主として、木材の炭化深度が
 D=α(θ
/1002.5)√,(D炭化深さ、α係数、θ温度、時間)の関数で示されることから
 炭化深度を受熱影響度と見ており、他に「コンクリートの受熱時の変化」「鋼材等の受熱時の
 変化」「ガラスの受熱時の変化」などを判定材料として取り入れている。
 これは、火災現場で、火災時の「物」の熱的変化を参考にして、延焼の方向性を見極め、
 出火箇所の判定材料としていることにある。
 特に、鋼材等では、受熱の変化として、「テンパーカラー」と呼ばれる色変化をすることから、
 木材の炭化深度と合わせて貴重な判定材料となっている。

 
また、分析・解析の手法として、ガスクロマトグラフィ、X線透過撮影、恒温槽による雰囲気温
 度条件での挙動、サーモグラフィなどを利用している。
   科学的な検討方法や分析などのあり方は、さまざまな火災現場で異なることから、
 電気・化学・物理の基礎分野と建築・心理・機械工学・材料学などの応用分野とがかみ合った
 コラボレーション
(collaboration)の世界を作り出している。
 一般的には、火災現場で、電気、燃焼器具、微小火源の知識などが求められ、
  これらの知識のない火災調査員は、消防機関の中にはいないと言える。

 テンパーカラー
 この写真はすこし不鮮明なので、詳しくは図書(「火災調査教
 本」)で。 圧延鋼板の色変化、300℃は変化ないが次第に
 黒色化して行く、そして600℃あたりから明るい青色へと変
 色し、通称「ナスビ色」となる。
  材質によって、色の変化はことなる。
 一般的には、鉄材は錆止め・色出しの塗料が塗色されている
 ので、塗料の焼損変化が現れてから、原材の変化となる。 

 3,2  火災調査員の教育
 消防機関の火災調査員は、消防学校での約
3週間の 「火災調査課程」の専科研修を受け、
 さらに、専門的には消防大学校の約
2ケ月の「火災調査科程」の研修を受けている。
 都道府県の消防学校での基本的な教科書は「火災調査」を用い、消防大学校では、原因・
 損害・調査書類の
3冊の教科書を用いている。
 特に、大学校では実際に建物を燃やし、その後に火災調査の現場実習を行なうことや証人
 喚問された際の模擬裁判などの場面を取り入れるなど、
USAATFなどの研修を参照にして、
 高度専門的な内容となっている。

 座布団から燃えて、襖に立ち上がる状況
 を確認する実験・教育。
 横への拡散と立ち上がり時の「火の挙動」
 の違いを確かめ、その後の焼損の見方を
 学習する。

 3,3  火災原因調査のための火災現場の再現実験。
 火災調査では、再現実験による原因の究明が必要となることが多く、また、基礎的な資料と
 して火災実験を行なうことがある。
とりわけ、トラッキング火災などは、その出火時の火災現象
 が再現されて初めて、多くの人にその危険性がアッピールされ、予防的な手だてもとられたよう
 に、広報的な視点からの火災再現実験は重要な火災予防の施策でもある。

 
 3,4 共同研究と委託研究。古くは、練炭コンロの底面からの放熱と蓄熱などの研究テーマに基
 づく、委託研究を大学等にお願いしていた。このように、専門的な研究分野からのアプローチが
 必要とされる場合には大学や研究所に委託研究としてお願いし、原因究明に役立たせている。
 

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