●世界観B創世記・星の終わりの神様少女1

四章・世界の柱

 セレストの星導教会に続き、またしても発生したテロ事件。

 テスタリオテ市のみならず、全国四箇所でそれは同時に発生した。

「ステラ採取場の星動力変換装置、破壊される!」

 その報道は、瞬く間に全国へと広がった。

 四箇所のうち、防ぐことができたのはテスタリオテ市だけである。

 被害のあったそれらの地域では、星動力一般供給の、緊急停止を余儀なくされていた。

 主要都市に供給していた施設が狙われており、現在多くの国民に影響が出ている。

 東ノースランド大震災以後、立て続けに起こる怪事件に、国民の不安は募る一方だった。

 また、星動力が供給されないことによる不満の声も上がり始めている。

 ことさら滅亡主義者達は不安を煽り、星導教会への管理責任について、批難の声を高めようとしていた。

 これに対して政府と星導教会側は、テロリストの方へと批判の矛先を反らすよう各所に働きかけ、対策の強化を推進する。

 一方で、撃退に成功したテスタリオテ市においては、レイオルとフェリスの両名を、今回の功労者として盛り立てることで、市民の安心と信頼を保とうとした。

「だってさー、なーんか納得いかないねー」

 レネイドは今日の朝刊を読むなり、不満そうに口を尖らせた。

 辺りは緑広がる森の小道。強烈な真夏の陽射しは生い茂る樹木に遮られ、まばらな木漏れ日となって小道を照らす。

 ときおり吹き抜けていく風に、光りと影が揺らめいた。

 この暑い日に、森の中というのは涼を取るのに丁度良い。

 そんな中彼は、停めてある車の助手席を倒し、そこへ仰向けになりながら、今朝の新聞を読んでいたところだった。

「功労者はどう考えても昨夜のあの二人だろ? なんだよこのクソ司祭は!」

 レネイドのこぼした愚痴に、外にいるゼクターが億劫そうに溜息をつく。

「奴等なりに何かあるのかもしれないが、別に奴等の事情なんぞに興味はないな」

 そう言いつつ、運転席側のドアに寄りかかった。

 手に持っていた水筒の蓋を開け、温くて不味くなっている水を一口含む。

「これじゃまるで、この二人に僕等が負けたみたいじゃないか」

 新聞を後部座席へと放り投げ、レネイドは小声でぶつぶつと文句を言った。

 そんなことに対して、文句を言ったところでしょうがないのだが――

「ともかくだ――警備が大幅に強化されてしまった。施設の破壊は当分見送りだな」

「失敗したのは僕達だけとか、もうね……」

「うむ、確かにそれに関しては、少々ばつが悪いな」

 難儀な表情でゼクターは、煙草を取り出して口にくわえる。

 確かに彼の言うとおり、手痛い失敗であり、屈辱ではあった。

 されど、それ以上にクレネスト・リーベルのことが気になっている。

 あの時対峙した少女の姿を思い出し、幾度となく頭の中で戦闘を繰り返してみてはいた。

 だがまったく――この老人には勝てる気が起こらなかった。

 天才法術使いとは聞いていたが、もはや次元が違う。未曾有の境地、畏怖さえ覚えた。

 あの眠そうに伏せられた瞳の奥に、一体何が秘められているというのだろうか?

 ゼクターはふと、彼女とよく似た性質を持つ、圧倒的な力をもった男の姿を思い出す。

(あやつと同等かそれ以上……いや、まさかな)

 ある意味、こうして逃げ果せたこと自体も、今に思えば不可解な事であった。なにか特別な理由でもあったのだろうか?

 それから、不可解な事と言えばもう一つ、

「ところで、我々の存在について一切報道されていないのはどういうことだ?」

 ゼクターが、あごを撫でて首を傾げながら言った。

「さぁ? 僕達を誘き出すための罠……としてもおかしいな」

 レネイドはそう言いながら助手席を元に戻すと、膝の上に右手で頬杖を突いた。

 倒された三名のことについては書かれていたのだが、二名が逃走中ということは全く書かれていなかった。

「どうにもあの二人、特にクレネストはかなり毛色が違うのかもしれないな」

「毛の色も珍しかったけどね~」

 話しの腰を折られて、ゼクターがムッとする。

 それに一瞬でも納得してしまうのが、なおさら気に入らない。

 確かにその容姿と佇まいも、かなり印象的な娘ではあった。

 青銀の髪に翠緑の瞳。一度見れば忘れないだろう。

「しっかしなぁ、禁術をあっさり防がれるとは思わなかった。お星様にしておくには勿体無い。術式だけで術の効果を割り出すなんて、天才とおりこしてグロいよ」

 たとえ普通の法術でも、星導教会式の法術と、自分達の法術もまた流派が違う。まして禁術に至っては、流派以前の問題である。

「うむ……できれば二度と相対したくはないな」

「そお? 僕は俄然興味が沸いてきた」

 対照的に面白そうに言うレネイドに、ゼクターはクギを差す。

「迂闊に足を踏み込むな、二度と戻れなくなるかもしれないぞ? 下手にあれに関わるよりも、我々の目的の方を優先するべきだ」

「ご忠告ありがとう。でも、いずれまた障害になりそうなものを、まるっきり無視しておくというわけにもいかないだろ? 僕はこの街に彼女がいると分かった以上、もう少し留まって探りを入れてみるよ」

 そう言ってドアを開き、レネイドは車から降りる。

「おいおい」

「こんなデカブツ共、いつまでもここに隠して置く訳にもいかないし、僕の二輪車だけ置いて、夜になったら予定通り移動開始してくれ」

 彼は、車の後ろに並んだ三台の黒いトラックを眺めながらそう言い残すと、街の方へと歩き始めた。

「ふん、どうなっても知らんぞ?」

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