●世界観B創世記・星の終わりの神様少女3

★☆5★☆

「クレネスト先生~!」

 呼ばれてクレネストは立ち止まった。

 後ろを振り返ると、子供達が走り寄ってくるのが見えた。

 一人は短めの金髪。大きなリボンや、ひらひらピンクドレスで着飾った女の子。

 もう一人は、ちょっと生意気そうな目つきの、金髪の男の子。

 最後の一人は栗毛。ちょっと大人しめの、地味な服装の女の子。大きいのに眠そうな瞳が、まるでクレネストみたいである。

 彼女の前までくると、子供達がそれぞれ一礼した。

 ここは教会学校――

 午前中は奉仕活動の一環として、ゴラム市本部の司教より、法術について講義をしてもらえないかと頼まれたのだった。彼女の名声は、このゴラム市の教会でも届いているらしい。

 もちろん裏では、星動力を融通してもらうための返礼ということでもあった。

 その程度のことで融通してもらえるのであれば、彼女としてもありがたい。当然、断る理由もない。

 衆目に対する恥ずかしがりやの彼女でも、相手が子供であれば、それほど気にならなかった。

 で――ようやく講義が終わったので、エリオ達と待ち合わせ場所である校舎前へ向かおうとしたところ……だったのだが。

「講義、面白かったですよクレネスト先生~。青髪がお綺麗ですね~! これ染めてるわけじゃないんですよね? さわってもいいですかぁ?」

 目の前にくるなり、やつぎばやに喋るドレスっ娘。

 クレネストは思わず流されて、言葉がもれた。

「え、ええ――どうぞ」

「わぁ、すごい~綺麗~! お目めも緑色ですね。星の妖精さんみたいです~!」

 無遠慮に髪の毛を触ってくる娘に、クレネストは苦笑した。そのことはよく言われる。

 星の妖精は、星導教用の子供向け童話に出てくる星の御使いだった。描かれる絵は、確かにクレネストのような青銀の髪に翠緑の瞳をしている。

「まさか本当に妖精さん!」

 勢い込んで胸元でこぶしをつくり、大げさに聞いてくるドレスっ娘。

「いえいえ、違いますよ。私は普通の司祭です」

「あれ? 司祭様だったんだ!」

 巡礼用の司祭帽子を脱いでいたので、わからないのも無理はない。

「クレネスト司祭様といえば、星導教会始まって以来の天才法術使いで、最年少の司祭様だぞ? わりとその筋じゃ有名な話だって」

 男の子が自慢げに言った。なんだか照れくさい。

「うわー、やっぱすごいんですね!」

「あはは……」

 乾いた笑いを漏らすクレネスト。なんとも元気な子供達である。

 ただ、一人だけを除いて――

 後ろの方で、ぼぅっと暗い顔でクレネストをじっと見ている栗毛の女の子。

 なんとなくそれを気にしつつ、聞いてみる。

「あなた達、お名前は?」

「はーい! あたしリヴィア! リヴィア・クロールゼル」

 ドレスっ娘リヴィアは、元気に手を上げて満面の笑顔を見せた。

「僕はレニス・ウォルト。以後お見知りおきを、クレネスト先生」

 こちらの男の子レニスは、少々おませながら礼儀正しく優雅に一礼した。

 クレネストは最後の栗毛の子に目を移す。

 その子は口をぱくぱくとさせ、顔を上げてはうつむいてを繰り返していた。どうやらかなり内向的な性格のようである。

「もうっ! 失礼でしょー! クレネスト先生が聞いてるんだから、さっさと答えなさいよぉ!」

 爆発するように言ったリヴィアが、その子の後ろへ素早く回り込み、クレネストの前へ押してきた。

「いえ、言いたくないのなら、無理しなくても良いのですよ?」

 心配そうにクレネストが言うと、栗毛の子はちょっとだけ顔をあげ、ぽそぽそと言い始めた。

「わ……わ、たしは、ミイファ……です」

「ミイファちゃんですか」

 茶色の半開きの瞳が、ぽーっとクレネストを見つめ、クレネストもぽーっとミイファを見つめ返す。

 眠そうな顔同士が並んでいた。

「え、えっと……私も、講義――その、あの……よかったです」

 たどたどしく答えるミイファ。

「そうよー、この子クレネスト様はすごいって言ってたんですよー! それで聞きたいことがあるんですって!」

 ミイファの後ろからいきなり抱きついて、リヴィアが言った。

「リヴィア、それは……」

 か細い声でそう漏らし、頬をピンクに染めてうつむくミイファ。恥ずかしそうに口元でこぶしを作っている。

 クレネストは微笑みを浮かべつつ、膝を折ってミイファに目線を合わせた。

 冷淡にならないよう、声の抑揚に注意しながら聞いてみる。

「何か、わからないことがありましたか? 遠慮なさらず言ってみてください」

 ミイファはちょっとだけ顔上げ、こちらの顔を見る――が、すぐに自信なさげに視線を落とす。何かを言いかけたり、肩をすくめたり、強い緊張の色が感じられた。

 それでもクレネストが根気よく待っていると、ミイファは意を決したかのように口を開いた。

「ええと――クレネスト先生は司祭様……ですよね?」

「はい、そうですよ」

「わたしは星導教会に入って、クレネスト先生の助祭になりたいです。どうすればなれますか?」

「……」

 クレネストは微笑んだまま表情が固まった。

 予想外な質問に、思考が寸刻停止する。

「私の助祭……ですか……」

 なんとか言葉にだして、それから考えてみた。

 この子が成長し、助祭になれる年齢に達する前に、この星は無くなってしまっているだろう。世界観B計画が成功したとしても、この子が生き残れているかどうかすらわからない。クレネスト自身も、星導教会の司祭ではなくなってしまっている。

 つまりミイファの目標は、あまりにも絶望的であった。かといって、それを正直に伝えるわけにもいかない。

「そうですね……まずは助祭試験に合格しなくてはなりません。確実ではないのですが……セレストへ来て頂ければ、私の方から指名することはできますよ。でも、ちゃんと実力が伴っていないと、指名する理由に困りますから、今はしっかりと勉強するのです」

 無難に取り繕ったクレネストの答えに、ミイファが笑顔を見せた。なんと可愛らしいことか。

 つぼみだった花が、急いで咲きだしたかのような、そんな笑顔。それだけに、クレネストは罪悪感で胸が痛む。

「わかりましたクレネスト先生。わたしは頑張って、絶対先生の助祭になります。これでも成績は良いほうですから期待しててください」

 先ほどとはうって変わって、はっきりとした声音でミイファはそう口にした。内気なこの子が、こんな風に言うのは珍しいのだろう。リヴィアとレニスが驚いて見ている。

 ぽかんと見つめる二人の様子に気がついたのか、ミイファはまた頬を染めてうつむいた。

「クレネスト先生……リヴィアはアホの子だけど、ミイファは実際優秀なんだ。きっとお役にたてると思いますよ」

 レニスがそう言うと、リヴィアは頬を膨らませて、彼をポカポカと叩いた。ミイファはその横で、もじもじとしている。

 暖かい……彼女達に、こんな時間が永遠に続けばよいのに――と、思いつつ、

「そうですか……楽しみにしていますよ」

 そう言ってクレネストは、子供達の頭をなでて微笑んだ。

(皆さん、その時がきても、どうか無事でいてください――

 心の中で、静かにそう願う。

 午後からの時間――

 クレネストはエリオとテスをつれ、城壁を歩いていた。

 いま時期、観光客で賑わうはずのこの場所。辺りには観光客の姿はおろか、人の気配すらない。

 星動力が停止している状態では、客足が途絶えるのも無理はなかった。

「おぉー! 凄いのう!」

 貸しきり状態になっている城壁から、遠くを眺めるテス。瞳を大きく開かせて、楽しそうに騒いでいる。

 クレネストも日傘の下から、半目をのぞかせた。

 城壁の外側にも街は広がり、その周りを囲むように山々が連なっていた。どの家も、赤い屋根に頑丈そうな人造石で作られており、独特の統一された雰囲気がある。そんな街の上を、まばらに浮かぶ雲が流れていく。

「いいですねぇ~この、ノスタルジックな雰囲気! 昔はここに星動砲とか置いて戦ったんですよね?」

 エリオは思ったとおり、こういった建造物に強い関心がある様子。興味津々で、壁の内と外や、その構造を観察している。

 クレネストの方はというと、あまり興味はなかったが、そこそこの知識は歴史から学んでいた。

「ええとですね……星動力の武器が実戦に配備される以前は、火薬式の大砲しかありませんでした。戦争末期に星動砲が配備されましたが、当時はまだ問題も多かったのです。しばらくは火薬式の大砲も使い続けていたらしいですよ」

「へぇ~火薬式ですか~、今ではもう珍しいですよね」

「キープの中に実物が飾られてると思いますよ」

「おおぉ!」

 彼は両拳を握り締め、なにやら感動している。

 そのような武器を見てなにが面白いのか、彼女には理解できなかったが。

(殿方とは、そういうのが好き、なのでしょうか?)

 と、いつもの癖で推論をたてはじめる。

 考えるだけ考えて、特にそれを彼に確認しようともせず、キープの方向へむかって城壁を歩く。

 塔を一つ挟んで、しばらく進むと――

(あらまぁです)

 向こう側に、城壁の外を見つめている二人組みの男女がいた。

 女の方は日傘を片手に、つば広がりのヘッドドレス帽子を被っている。顔は帽子に隠れ、口元しかみえない紫色のドレス。ウェーブがかった長い黒髪。気品と自信にあふれたその佇まいは、まさに妖艶な大人の女性という雰囲気だった。

 男の方は、女と、女の持っている日傘の陰に隠れていて、その姿がよくわからない。半袖ワイシャツにネクタイ、大き目のバッグを肩にかけているのが、かろうじて見えた。どうやらビジネスマンのようだが、背がかなり高そうだった。

 その後ろを通り過ぎ――

「…………」

「クレネスト様、何かおっしゃいましたか?」

 彼女が小さく発生した音声に、エリオが勘違いする。

 とりあえず、それに構ってる暇はなかったので答えず。

 こっそり印を切りはじめた。

「クレネスト殿っ!」

「はい、分かってますよ」

 声を上げたテスに、余裕でそう答える。

 彼女は振り向きざまに、術を施行した。

 日傘が地面に転がる。

 最初に目にしたものは金光。

 荒れ狂い、激しくうねる光の奔流。

 大気が歪み、空圧の振動が広がり、

(……これはっ!?)

 防御術も激しく、いびつに波打った。

 ほころびが生じ、次第にそれが大きくなりはじめる。

 光が膜を、食い破ろうとしているかのように――

 彼女は急いでさらに印を切り――

 と、そこで光が徐々に崩壊しはじめた。

 粒子を撒き散らしながら、ゆっくりと……

 やがて、全ての光が虚空へ散り消える。

 一歩遅れて、防御術の方も霧散していった。

 それを肌で感じながら……

 眠そうな瞳に、眠そうではない口元のクレネスト。

 この防御術を、ただの一撃で霧散させられたのは初めてだった。

「ク、クレネスト様……」

「クレネスト殿……」

 あんぐりと口を開け、エリオとテスが同じ表情のまま固まっている。

 クレネストは全身から特有の気を放ち、かつてないほどの神聖にて厳かな、その静けさで――

 つまるところ、完全に戦闘体勢だった。

 しかし、

「いやぁ、すごいすごい! これは噂にたがわぬ腕前! 感服いたしましたよリーベル嬢!」

 言って、気持ちのよい音で拍手をする男。

 こちらはこちらで、微塵の殺気も発していない。表情も温和である。

 見れば金髪の、思っていた以上に長身の男。目は、開けているのかよくわからないほどに細い。長い髪は後ろで結んでいた。

「……何者ですか?」

――い、いやぁそのじゃ……」

 クレネストの問いに、テスがおずおずと口にした。

「?」

「あれはな、テスの仲間じゃ」

「…………」

 一呼吸遅れて、クレネストの口元が眠たそうに半開きになった。

 場を支配していた気の一切が霧散し、急に現実感が戻ったかのような、奇妙な錯覚。

「はぁ、お仲間……ですか?」

 テスは上目遣いで小さく頷く。

「すまんのぉ、気がついておったのじゃが、こやつが……そのなぁ……」

 クレネストは思わず嘆息した。

 転がっていた日傘を拾う。

「いきなり失礼しました。ですが、大事なテスちゃんを預けている方の実力を、是非この目で拝見したかったものでして」

 言いながら、こちらに歩いてくる男。その後ろから女性もついてきた。

「でも今のは、やりすぎよ。テスちゃんに当たったらどうするの」 

 女がそう口にすると、男は誤魔化すように苦笑しつつ、後ろ頭をかいた。

「それはともかくですね。私、こういう者でして――

 男は丁寧に両手を添えつつ、長方形の小さな紙切れをクレネストに手渡した。

 同じように、両手を添えて受け取ったクレネストは、それに目を通し、

「はぁ、レグニオル社のグラディオル・ロードさん……ですか」

「はいそうです。今後ともよろしくお願いします」

 言って浮かべる営業スマイル。

「というかなんで名刺なのよ? ああ、私はコルネッタ・リオデルよ、リーベルさん」

 コルネッタと名乗った女性は、グラディオルに呆れ顔でつっこみ、少女には微笑んだ。

 クレネストは服を整え、日傘を一度たたむ。

 それから両手をそろえて、恭しくお辞儀した。

「私の名はすでにご存知のようですが、改めて名乗らせて頂きます。私は星導教会司祭のクレネスト・リーベルと申します。後ろで口を開けたまま、固まっていますのは、私の助祭のエリオです」

 言われたエリオは、慌てて口を閉めると、軽く頭を下げた。

 さて――

 と、クレネストは後ろ手を組んで、ぽやっとした顔で二人を見据える。

「偶然ではありませんよね? ここにいたのは」

「ええもちろん、テスちゃんに連絡して頂きました」

「私の実力を試すことだけが目的ですか?」

 じっと、探るような目線のクレネスト。

 グラディオルは、変わらず営業スマイルで言う。

「はは、まぁ我々は、新動力の売り込みに来たのですが、どうにも不穏な輩の動きがございまして――

 不穏な輩――

 その言葉で真っ先に思い浮かべるのは、やはりあの赤いコートの青年だ。

 覇気のない顔に、濁りきった瞳、腐れたような声音。

「それは……ポッカ島での件に絡んだ話でしょうか?」

 クレネストは言葉をぼかして言った。

 それでも瞳に陰がおちるテス。気遣ってなのか、エリオがその頭をなでた。

 グラディオルは頷き、

「ええまぁ――先日、私も襲われまして……」

「生かして捕まえられなかったのかしらねぇ?」

「まったく困ったもんですね~近頃の若いのは身体が弱くて、はっはっはっ!」

「はっはっはっ、じゃないわよ」

 そんな二人にクレネストは、「まあまあ」と言って、手の平を見せた。

 すいっと日傘をさしなおし、続けて口を開く。

「ようするに、あなた方の組織が狙われている――ということみたいですね」

「ご明察」

 グラディオルはそう言って、人差し指をピッと立てる。

 なら、テスとローデスが襲われたのも、行き当たりばったりというわけではなさそうだ。

 問題は、彼等の組織が狙われる理由。

 あのような禁術に、飛空艇を所有しているとすれば、組織としての規模もそれなりにありそうだった。

「それでなのですが――失礼を承知ではっきり申しあげますと、星導教会と私たちの組織は、いわば敵対関係です。新動力のことは、既に伝わっていることでしょう。そこで単刀直入にお聞きしたいのですが、これは、あなた方の仕業ではないのですか? 気に入らない、不都合だから我々を秘密裏に抹殺しようと……」

 冷ややかなグラディオルの視線。コルネッタも、返答次第ではただでは済まさない、といった表情。

 テスは不安げな顔でクレネストを見上げ、エリオは警戒して腰の星痕杭に手を伸ばした。

 クレネストはまず一呼吸。

 確かに――

 それは、全く可能性がないとは言い切れなかった。

 星導教会にとっては、新動力は利権を脅かす存在になりかねない。裏でもし、そういったことを行う別組織があったのだとしたら?

(いいえ、アルトネシア大司教様が、そのようなことを容認なさるはずがない)

 やはり、まったくそれは考え難いことだ。自分はあの方を見続けてきた。それは十分信頼に値する。

 とはいえ、今ここで個人的な信頼を語っても、納得させられるわけではない。

 もっと、より、具体的で合理性のある否定を考えてから、クレネストは言葉にした。

「それはないでしょう。妨害するだけなら、そのような後ろ暗い方法をとる必要性はありませんから。そうですね……権力による嫌がらせの方が、ずっと効率的ではありませんか?」

 グラディオルが口元を曲げ、眉を歪めた。コルネッタは一転して吹きだした。

「あー、ですよねぇ、これはこれは失敬しました」

 ひとまず緊張がとける。

 テスとエリオが長い安堵の息をついた。 

「では、星導教会以外で、新動力の投入に対して、不都合な組織に心当たりは?」

「はぁ、心当たりですか――

 口元に手を当て、考える素振りを見せる。

 率直に言うと、ありすぎるくらいにあった。星動力で得をしているのは教会だけではない。

 ただ、禁術を使ってまで直接的に彼等を襲おうなんて、相当過激な話である。

「不都合な方は、沢山いると思います……ですが」

 実は、そんな組織に一つだけ心当たりがあった。

 逆の意味で、新動力導入に不都合を感じるであろう集団。

「人を化け物に変えるような、そんな禁術が伝えられている組織――となると話は別です」

「ほほぅ、それはどういった話です? リーベル嬢」

 グラディオルは興味をそそられたのか、細目をかすかに開けた。

 反対に、沈痛な面持ちで目蓋を伏せて、クレネストは静かに言う。 

「かつて、この国では禁術による痛ましい事件がありました……」

 自分としては、思い出したくも無い事件だ。今でも心が重い。

 クレネストは城壁から遠くを見つめながら――続けた。

「それを行っていたのは滅亡主義者です。私はこの件も、彼等の仕業ではないかと考えています」

 その答えに、グラディオルとコルネッタが顔を見合わせた。

 コルネッタは首を傾げて、彼女に問う。

「星導教会と滅亡主義者は仲がよくないわよね? 新動力で星導教会が困るのは、むしろ歓迎すべきことではなくて?」

「表面上はですね……」

 クレネストはそう呟いて、コルネッタと向き合った。

「ですがもし、あなた達同様、星動力の使用でステラが枯渇し、この星が崩壊する。それと同じようなことを、滅亡主義者らが考えていたとしたら?」

 星動力によるステラ枯渇の件については、テスにははっきりと伝えていたが、彼女は念のため曖昧に言う。

 ポンとグラディオルが手を打った。

「なるほど……新動力を導入することは、星の崩壊を妨げていると、彼らはそう考えるわけですか」

 頷くクレネスト。

 彼女の父親ですら知っていたことだ。その程度であれば、滅亡主義者達が知らないとは考え難い。むしろ逆に、彼女の父親が滅亡主義者にそのことを教えられた可能性だってあるのだ。

 ただ、別に新動力の普及を妨害しなくても、星は彼らの望むように崩壊する。

 手遅れである――という点については、わかっていないと考えられた。

「いやはや、リーベル嬢。本日はありがとうございます。おかげさまで良い対策が打てそうですよ」

 言ってグラディオルはニコニコとしながら、クレネストの手を取った。

 クレネストは、「はぁ」っと漏らして、少し困った表情で掴まれた手を見る。

 なぜかエリオが、ぶすっと不機嫌そうな表情を浮かべた。

「お礼と言ってはなんですが、こちらからも一つ情報を提供させていただきます。それと……」

 手を離し、彼は肩にかけてる大きなバッグを下ろした。

 なんだろうと思っていると、

「おぅ、持って来てくれたのじゃな!」

 そこへテスが駆け寄った。

「それは?」

 クレネストが覗き込むと、テスが不敵ににやける。

 バッグを開け、中から黒くて長い、何かを取り出した。

「ふふふ、銃剣じゃ……これさえあれば、あのド腐れ外道を八つ裂きにしてやれるのじゃ――もう絶対に負けるものか」

 幼い身体にちょうど良い長さの刀身。銃身を通すための輪は、何かで留めておけば持ち運びに便利なのだろう。

 テスはしばらく、それを一本一本確かめて、

「のぅ、グラディオル、コルネッタよ……」

 突然笑みを収め、沈んだ声音で言う。

 どこか気まずそうな空気が流れた。

「もしかして、責任を感じているのかい? それは僕たちだって同じさ、テスちゃん」

「じゃが、テスはそこにいたのにの……」

 悲しそうにするでもなく、淡々と喋る。

 やはり、完全に吹っ切れているというわけではないのだろう。

 コルネッタがテスに歩み寄り、抱きよせた。

「いいの、いいのよテスちゃん」

 慰めるようにそう言って、頭をなでる。

 それでもテスの表情は晴れない。

 彼女の中ではまだ終わっていないのだ。あの夜のことが……

 コルネッタが立ち上がり、クレネストの瞳をじっと真正面から見据えた。

 それをだまって見返すクレネスト。

 やがてコルネッタがため息をついて、うつむいた。

「リーベルさんが、何をしているのかは聞かないわ、でも――この子のことだけは、くれぐれも頼むわよ?」

「ええ、もちろんそのつもりです」

 コルネッタは頭を下げ、クレネストも同じく頭を下げた。

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