●世界観B創世記・星の終わりの神様少女5

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 窓の外は――なんとなくそうなるような予感がしていたのだが――今日も青い霧が町を覆っているようだった。

 もともと、単なる自然現象的な霧とは異質な感じはしていたのだ。多発するゴースト現象も、無関係とはいえないのかもしれない。

「はぁ、ステラの波ですか?」

 右手に持ったサンドイッチに、男らしい大きな歯形を残してから、エリオが聞き返してきた。

 ゴースト現象が多発する原因として、クレネストもレネイドと同じ説明をしたところである。教会宿舎の食堂で、朝食を取りながらのことだった。

 テーブルを挟み、彼の対面に座っているクレネストは、紅茶を飲みながらうなずく。

「水ほど速くはありませんが、ステラも流動していますから」

 ゴーストへの対処で、少々疲れが残っているせいだろう。声音が重く、憂鬱さが混じってしまった。

 加えて朝だと言うのに、濃霧のせいで薄暗いため、星動灯がついている。こんな状況で気分がよくなろうはずもなく……周囲で食事を取っている人々も、どことなく陰気さに飲まれているようで、奇妙に静かなものだった。

「何故にそのような、大波が起きるのかの?」

 こちらは隣で、元気な声のテス。場の空気に対して無頓着なおかげで、少しは気がまぎれてくれる。

 クレネストは笑みをこぼして口を開いた。

「密度の違いと、密度が高くなりすぎることによる部分的な飽和で、ステラがかき乱されることもあるのです。ただ普通は、これほどまでに長引くものでもないのですが――

「むむぅ」

 これだけでも難しかったらしく、テスは眉間にシワを寄せて、口を尖らせた。

「問題は、長引く原因の方ですか……」

 エリオはあごに手を添えて――たぶん何も思いつかないのだろうけど――思案顔の構えである。

「それなのですが……いえ、先に食事を済ませましょう」

 何か言いかけて、話を後回しにするクレネスト。視線を動かして、周囲を気にする素振りを見せた。

「あ、はい」

 彼女が人目を気にしていることを察したのだろう。エリオが聞き返してくるようなことはなかった。

 空になったティーカップを置いて、クレネストは窓の方へ顔を向ける。

「ゴーストの件はともかくとしまして、この天候が続くのは、少々困りものですね」

「なんでしたら、湖を東へ迂回しながら南下しましょうか?」

 エリオが提案してくる。

「はぁ……そうすると、六〇〇セル近く遠回りになりますね」

 できないわけではないが、考えるだけでも気が重いクレネスト。運転するエリオにも、そこまで負担をかけたくはない。それを聞いているであろうテスの方も、額を青くしながら露骨に表情を歪めて、両肩を落としていた。

「……困りものではありますが、焦るものでもありません。今しばらくは様子を見ておきましょう」

 サンドイッチにかぶりつくエリオを見据えながら、クレネストはひとまず、そう伝えておいた。

 朝食の後、クレネストの寝室へ集まった直後の出来事であった。

 ゆらゆらと宿舎が揺れていた。最初クレネストは、自分が揺れているものかと思った。

 少し遅れて、それが地震であるということに気が付く。これまでの地震から比べれば、随分と穏やかなものであるが――この地方も、地震とは無縁の地であったはず。

「あ~え~っと?」

 この困った感じの声はエリオのもの。彼が見下ろす視線の先に、クレネストはいた。

 つまるところ、彼の右腕に身を寄せている彼女は、きょろきょろと辺りを見回しながら口にする。

「おさまりました?」

「え、ええ……もう大丈夫かと」

「そうですか」

 声音こそ淡泊に言いつつも、おそるおそる身を離すクレネスト。

 安堵したのか、エリオは深い溜息をついた。その彼の顔を見上げてみれば、まだ少し表情が硬い気がする。うろたえた様子こそなかったが、やはり自分と同じく地震に対する恐怖心は消えていないのだろうか?

 クレネストは、とりあえずベッドの上に腰を下ろした。

 ほっと息をついたその時、

「エリオ殿~、もっとクレネスト殿に抱きつかれていたかったんじゃないかぇ~?」

 からかうように口にしながら、自分の右横に座るテス。そのままこちらの腕に抱きついてきた。

 反射的に首をかしげたクレネストは、

「そうなのですか?」

 などと聞いてしまってから、変な気恥ずかしさが沸いてきてしまう。そういえば、結構きつく抱きついたので、胸が当たってしまったかもしれない。彼の右腕のたくましい感触が、その辺りに残っていた。

 どう思われてしまったのだろうか? フェリスのことを思いだして感触を想像してはみるものの――あれは自分とは規格が違いすぎるので全く参考にならない。感触などなかったのかもしれないので安心……と考えると、それはそれで情けなくなる。

「ああいや、なんといいますか……その……」

 わたわたと手を振って、あからさまに狼狽しているエリオの声。

 少なくとも、嫌がられている様子がないので、不安はないが複雑である。きっぱり否定されたとしても、それはそれで残念な気分になりそうな自分がいた。

 クレネストは咳払いを一つ、

「変なこと考えてたら嫌ですよ?」

 どちらかといえば、自分の方が変なことを考えているなと思いつつ、一番無難そうなクギを刺しておく。

「滅相もございません」

 しかしというか……まるで謝罪するように頭を下げるエリオであった。

「はぁ……それはともかくとしまして、まずは波についてのことですね」

 嘆息で間をとってから、クレネストはそう話を切り出す。なぜかエリオは、その場で正座した。

 どうせなら椅子を持って来ればよいのにと思ったが、まあいいかとクレネストは続ける。

「あくまで私の想像ではあるのですけど……大きな波が起きた原因は、世界の柱がステラを固定化した影響だと思います」

「あ~そういうことですか」

「どういうことじゃ?」

 あっさり納得した様子のエリオと、疑問符を浮かべるテス。ちょっと考えればわかることで、難しい話でもない。

「世界の柱は仮起動状態にあります。急速に膨大なステラを集めて固定化していますので、星内部のステラ密度に大きな影響をもたらしていると考えられます」

 説明するクレネスト。

「ふむ、なんとなくわかったのじゃが……そんなことをして、星は大丈夫なのかぇ?」

 抱きついていた腕を解いて、心配そうにこちらを見上げるテス。

「はい。世界の柱はステラを固定化するのであって、消費するものではありません。あれは地中深くにも届いてまして、星の崩壊を早めたりするようなことはありませんよ」

 微笑みかけて、クレネストはそう伝えた。ついでに頭を撫でてみる。サラサラとした涼しい感触。

「ふひゅ」

 可愛らしい吐息をもらしたテスは、安堵の表情をうかべた。しかも満足気である。

「ですがクレネスト様。ステラの波はわかりましたが、暴走した術式の方はいかがなものでしょうか? そんなにポンポンと湧いてくるものなので?」

 床に座っているので、エリオはこちらを見上げながら聞いてきた。

「そうですね……昨日はかなりの量を消去したのですが……」

 クレネストはうんざりと頭を抱える。消しても消してもイタチごっこだったことを思いだしながら、

「どうにもこの霧が原因であると考えているのですよ」

「霧……ですか?」

「ただの霧とは雰囲気が違うといいますか、気になって一応”星渡ノ義眼”で確認してみたのです」

 振り返り、窓の外を見やりながらクレネスト。すぐに体を戻して続ける。

「霧というのは、ようするにただの水粒ですから、その術式――と言いましても粒が細かいので、光のモヤのように見えるはずなのです。見えないようにしようと思えば、見えないようにもできます。ですがこの霧は、術式らしき光も見えなければ、見えないようにもできませんでした」

「ええとつまり……実は霧ではなく、元々が霧状になるほど細かい術式とか……ですかね?」

「ほー正解です――なんだかエリオ君、最近妙に冴えてませんか?」

 感心したというよりも、不思議そうに口を丸くするクレネスト。身を乗り出して、彼のことをマジマジと観察する。

「そ、そうでしょうかね? いえ、これだけ長距離移動してきたのに体は疲れてないといいますか、何故かバツグンに体調が良いのは確かですが」

 自分でも、よくわかっていなさそうな戸惑い顔でエリオは応える。旅慣れただけかもしれないが……

 と――クレネストは身を引いて、

「はぁまぁ、そういうわけでして――霧状に充満している今の状態では、意味をなす術式を形成してしまう確立が、相当高いと考えられるわけです」

 厄介な状況だというのに、どこか得意げに解説する。

「とすれば、天然の術式は視認できるということですよね。それはまるで――禁術」

 言葉の後半だけ、声をひそめてエリオ。

「代償がなければ発光しなかったり、視認できないというものでもないのです。そもそも、自然発生する術式自体が、術式分解で抽出した術式と同じくらい複雑なものですし……ええと……」

 このことをどう説明したらよいものやらと、考えながらクレネストは口を開いていく。

「術式の中にステラが混入していくと、それは術式を伝って広がっていきます。地上までステラの波が届いていなくても、地上にある天然の術式にまで伝わってしまうのも、大体これが原因と考えられています」

「?」

「地中にも術式が発生していて、それを伝って地上に吸いだされるということです――それが、この霧のような状態の術式へ広がって、視認可能となっているのではないかと」

「ははぁ、そういうことなんですか? ですが、どうして星のステラが術式を伝ってくるのでしょう? もしかして保存振動も偶発的に起こっているのでしょうか?」

 エリオの言う通り、保存振動を与えでもしない限り、ステラは即座に星へ吸収されてしまう。術式を伝って地上まで広がったりはしない。

「その可能性も考えられますけど、実際のところよくわかってない部分もあるので仮説になります。他にもそうですね――例えば、波となって盛り上がっている部分のステラは密度が高く、一時的な飽和状態になっているのかもしれませんし」

「なるほど……それで一時的に吸収力が弱くなったりということですか」

「あくまで仮設です」

 納得した様子のエリオに、クレネストは念押しを付け加えておく。

「お主の術みたいに、ピカピカに光ったりはしておらぬようじゃが」

 後ろからのテスの声。いつの間にかベットを降り、窓枠にしがみついて外を眺めていた。

「それはですね、私の術式に反応しているからです。このような曖昧な術式ではなく、明確に意味をもった術式ですから」

 つまり具体性がでてきた場合は、天然の術式でも発光することはある――と、テスが難し気な顔をしているので、クレネストは口には出さず、心の中でつけくわえた。

「うーん……いったいどこからそんなものが発生しているのでしょうかね?」

 エリオは言って、なにやら足元をこわばらせながら、ゆっくりと慎重に立ち上がろうとしている。一瞬不可解に思ったが、すぐに足が痺れたのだと、察しがついた。

 それはまぁ、どうでもよいとして、

「はぁ、そこが一番の問題なのですよね――

 口元を手でおおい、首を捻りながらクレネスト。

 足止めをくらっている原因は、この霧状の術式である。これさえなんとかなれば、船が運航できるようになるはず。

 クレネストは、上手くいくかどうかはわからないが、頭の中で検討していたことを告げる。

「いっそのこと”霧状術式”の発生場所を探してみましょうか」

「できるのですか?」

 ようやく立ち上がったエリオが、いまいち冴えない表情で言った。まだその場を動けないらしい。

「やってみないとわかりませんが、密度や流れを調査していけばあるいは……あの、足大丈夫ですか?」

 彼の足元を覗き込むように、上半身を斜め前に伸ばしながら、クレネストは声をかけた。

 恐々とした様子でエリオは、

「すいません……まだ動くと痺れが酷いので……このままで失礼を」

「いえいえ――

 ぱたぱたと両手を振って、別に気にしていないということを、クレネストはアピールする。

 と――

「ぬしらは術式を消せるのじゃろ? ならば直接、この霧を消し飛ばすことはできないのかえ?」

 再びベッドに上がり、腹這いになった状態で頬杖をつきながら、テスが聞いてきた。

「通常の法術だけでは焼け石に水ですね。だからといって、アレはちょっとアレすぎて使えません」

 クレネストの言っているアレというのは、例によって禁術と代償のことである。町を覆い、湖の向こうが見えないほど広範囲にわたる”霧状術式”――これを消すとなると、重すぎる代償を払わなくてはならない。そのような禁術を、町中で施行することについても、過大なリスクが伴う。

「ふーむ、なかなか都合よくはいかないのじゃな」

 今の話で伝わったようには思えないが、テスはしみじみと言った。

 その小さなお尻に、クレネストはポンっと手を置き、

「では、そろそろ時間ですが――

 びくっと仰け反ったテスに一瞥をくれてから、エリオの方へと視線を移して聞く。

「動けますか?」

「え、ええと」

 呻いたエリオが、おそるおそる足を浮かせ――

「……!」

 半歩横へ足をついた途端、顔をこわばらせて硬直した。

 しばしの沈黙――

「もう、しょうがない子です」

 嘆息してクレネストは、肩を落とすのだった。

 チルスのアトリエ中央に、それはあった。

 使用されているイーゼルは二台――それ等が必要なほど巨大なキャンバスには、

「す……すげぇ……」

 クルツが目を見張り、そして鳥肌が立つほどの絵が描かれていた。

「これ、チルスが描いたのか?」

 絵に向かって指をさし、まだ寝ぼけ眼のチルスにそう聞くと、疲れた感じに無言でうなずかれる。

 そんな彼女は、壮絶に絵具で汚れたエプロン姿――まさか寝ないで絵に没頭していたのだろうか?

「ひょっとして、オーランズピーク展へ出展する作品か?」

 しげしげと、近づいたり離れたりしながら絵を観察し、クルツは聞いた。

 するとチルスは、どこか自信無さげにうつむいて、

「……何度描き直してもこうなる。恐慌状態になって錯乱しているような、そういう狂気っていうのかな? それが全く表現できてない。何度思いだしながら描いても、ただただ親竜が必死なだけのようになる」

 そう、チルスが選んだ題材それは――あの夜、望遠鏡越しに起こった光景――なのだろう。宙の御使いが、生まれたばかりの幼竜を飲み込む姿だった。

 おそらくこの題材は、あの光景を見てしまった彼女にしか表現できないだろう。巨大キャンバスの迫力も凄まじく、技術についても申し分ない。

 それでも彼女は、

「だから、こんなんじゃ駄目……だと思う」

 しょげたように言っている。

(いや――違う――

 クルツには、どうしても彼女のいうような表現が、さほど問題のようには感じられなかった。根拠はないが、心のどこかで引っかかるものがあった。

 確かに、彼女が求める狂気的な表現にはなっていない。しかし、何故かこの姿が”正解”に思えてならなかった。どうしてそう思えるのかは、彼自身にもよくわからなかったが。

「んなこたねぇって! これすっげぇよ! なんつーかこう? ――オーラ……そうオーラだ! オーラがあるんだよ!」

 他に気の利いた言葉も理屈も思いつかず。それでもクルツは、自分の感じていることを伝えようと、激しい身振り手振りをくわえながら声を上げた。

「もー見た瞬間ゾクっときたねぇ! 絶対これでいけるって」

 ガシっとチルスの両手を取り、自信たっぷりにすすめる。

「うっ……ほ……本当に?」

 疑るような、それでいて期待するような上目づかいで、彼女は戸惑い気味に確認してくる。

 もちろん、お世辞で言ったつもりはない。クルツは手を握ったまま、絵の方へ顔を向けて口を開いた。

「この絵には、いままでのチルスになかった何かを感じるんだよな。繊細なタッチとか、鮮やかな色彩みたいな技術的なもんじゃなくて……こう焼けつくような熱い仕上がりというか、切羽詰まったような緊張感というか」

「だから、それだと状況と表現の内容があってない」

 滅亡がどうたら言ってる滅亡主義者のわりに、変なところで神経質な彼女――眉根を寄せた渋い表情で、こちらから視線を逸らす。

「あーそーいう理屈ダメっ! きっとこれは、チルスが見た光景を素直に表現した結果なんだよ!」

 クルツは思わず声を上げた。じれったかったのかもしれない。

 握っていた手を離し、今度はチルスの両肩を掴んで熱弁をふるう。

「なんだか俺自身もよーわからんが! チルスが言うようなこととは違うっていうか? この絵が訴えかけてきているものは全然別物のような気がしてならない! よーわからんから具体的にとか嫌だからな!」

「……う……うん」

 こちらの勢いに押されたのだろうけど――チルスは目をぱちくりとさせながら、呻くように漏らした。

 無理やり説得……できたかどうかは知らないが、ひとまず彼女をうなずかせたので、肩から手を離す。

 そして胸を張って、ドンっと叩き、

「つーわけで、俺もこれの出典準備手伝うぜ! なんでもコキ使ってくれやがれ!」

 強引に話をすすめるクルツ。

 もはやチルスに、これ以上の有無を言わせる気などなかった。

「パタパタミンミンパタミンミンミ~ン」

 わけのわからない歌を歌いながら、パタミンが接近していく。ガインもその後ろからついていけば、霧の向こう側にいる二人の男の姿が鮮明になってきた。

 一人は、道端に停めてある星動車に寄りかかり、もう一人は、向かい合うような形で話をしていたようだった。

 どちらも普通の、襟を緩めたワイシャツ姿で、さして特徴もない短髪の中年。車に寄りかかっている方は茶髪で、もう片方は黒髪だった。背格好は、筋骨隆々のガインからしてみれば、二人とも低身長で小柄に見えてしまう。せいぜいパタミンよりは大きいし、幾分かゴツい。

「だべってるだけのところを見るとぉ、青髪のあの子はまだ出てこないのかな~?」

 悪戯っぽく頬に人差し指を当てて、ネチネチとした口調でパタミンが話かけだした。

 もちろん……二人とも困惑の表情を浮かべ、不審者を見る目つきでドン引きしている。

「あの青髪の娘をつけているようだが……あんたら探偵か?」

 霧の向こうにある星導教会を見やりつつ、ガインは問いかけた。

 呻いて、顔を見合わせるその男達――

「はぁ? いったい何の話でさぁ?」

 口を開いたのは黒髪の方――やはりというか、とりあえずすっとぼけてきた。

 ガインは短いため息をついて、後ろ頭をかきながら口を開く。

「見ていたに決まってるだろ。あんたらこそ、こっちのことに気がついてたんじゃねーのか?」

 またも顔を見合わせる茶髪と黒髪。

 今度は表情を渋く、面倒そうに目配せしていたが――やがて二人はうなづき合い。

「お前達は? どう見ても探偵のようには思えんが……」

 茶髪が、こちらを探るように言ってきた。

「あははー、それって差別じゃね?」

 歪んだ笑顔でパタミンが言い返すと――男達は再び閉口し、憮然として唸る。

 もちろん、格好も態度も著しくズレているのは、彼女の方だったが……

「まぁ、それはともかくとして――

 少しばかり白けたムードの中、さらっとガインは話を切り出した。

「あんたらみたいのと一緒にゾロゾロとつけまわしてたんじゃ、ちーとやりにくくてよ」

「いっつもエッチな目線でこっち見てるしねー!」

「あーちょっと退いててくれなー」

 ガインはとりあえず、パタミンを持ち上げて後ろに置いておく。

 それから、

「つーわけで、ここは俺達に譲っちゃもらえないかなーという話でな」

 遠慮なく図々しいことを言うと、男達は当然のように顔をしかめた。

 バカバカしいとばかりに首を振り、呆れた感じで茶髪が口を開く。

「そんな身勝手な話をされてもな……やりにくいのはお互い様だろ」

「おいおい、俺はあんたらの身を案じて言ってるんだぜ?」

 ガインは口にして、物騒な笑みを浮かべた。労わるような口調の中にも、どこか相手を威圧するものをにじませている。

 一瞬で警戒する目つきになった男達を前に、彼は続けた。

「俺ンところは手荒な真似なんて滅多にしないし、この程度は大目に見るかもしれんが……俺ンところ以外はどーだかな? ってことで、保証がなくてさ」

「そいつは脅しか?」

 黒髪が剣呑に言ってくる。

「違うな……脅しじゃなくて警告だよ」

 調子を崩さず、ガインは淡々として言い返す。

「ま、どう判断するかは勝手にしてくれ。俺は言うべきことは言ったから、後はどうなっても知らんからな」

 男達は何かを言い返そうとして、結局は黙り込んでしまった。

 ガインもそれ以上に言うべきこともないので、パタミンの方へ振り返り、

「それじゃ、邪魔したな」

「おっさん達! 死ぬなよ!」

 にこにこしながら手を振るパタミンと一緒に、ガインはその場を立ち去った。

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