
運動習慣のない人は、お読み下さい。
(22年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
この30年間、日本人のカロリ−摂取量が減少しているにもかかわらず、メタボや糖尿病の人は増え続けています。
これは、日常生活で体を動かさなくなった結果と考えられます。
太っている人は痩せている人に比べ、一日2時間以上座っている時間が長いとのデ−タ−があります。
テレビを観ながら足踏みをするなど、絶えず体を動かす工夫をしてみてはいかがでしょうか。
心筋梗塞を発症した人を1年間追跡した調査では、犬を飼っている人の死亡率は、飼っていない人に比べ、1/7であったそうです。このことは、犬の散歩程度の軽い運動でも心筋梗塞を予防する効果のあることを示しています。
また、61歳〜81歳の非喫煙者の追跡調査では、一日3Km程度歩く人は、歩かない人に比べ、心筋梗塞や癌の発生率が半減するとの報告もあります。
このことから、定年退職後に運動を始めても決して遅くないと言えます。それどころか、高齢者の運動は、認知症の発症や転倒を予防する効果も期待できます。
万歩計を付けると一日の歩数が約2千歩増加し、その結果、上の血圧が3.8mmHg低下したとの報告があります。まずは、万歩計を付け、運動量を意識するようにしょう。そして、いつでも運動できるよう玄関に運動靴を置いておきましょう。
健康維持が目的の場合、激しい運動は、必要ありません。スポ−ツ選手の寿命は決して長くなく、元プロ野球選手より元プロ野球審判の人の方が平均寿命の長いことが知られています。
過剰な運動は、薬になりませんが、適度な運動は、薬になるようです。
メタボ健診の光と陰
(20年8月号のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
今年から健診のシステムが変わり、腹囲を必ず測定するようになりました。
75歳未満の人では、男性で85cm、女性で90cmを越えていると、血圧と中性脂肪が少し高いだけで、保健師や栄養士による指導の対象となります。
これまで、健診で異常を指摘されても生活習慣の改善をしないで放置し、心筋梗塞や脳梗塞を発症することも珍しくありませんでした。お腹の脂肪は、血圧や血糖を上げるだけでなく、血液を固まり易くする作用があり、腹部肥満のある人は、血圧や血糖がそれ程高くなくても危険です。このような人に、積極的に食事指導などで介入していこうというのが今回の制度です。
介入するための予算を捻出する目的で、痛風の原因物質である尿酸や腎臓の働きを見るためのクレアチニンの測定、血尿などの検査は行わなくなり、貧血の検査、心電図、眼底の検査もほとんどの人におこなわなくなっています(ただし、会社の健診では、独自に残している所もあり、河内長野市の場合は、市独自の健診として心電図と胸部X線は残っています)。
これまで、健診で貧血が見つかり、原因を調べていくうちに胃癌や大腸癌が見つかることを何度か経験しています。クレアチニンなどで、腎機能の低下を早期に発見することは、透析を回避する上で大切です。その意味では、健診の内容がかえって薄くなったようにも思います。今回の改訂の良否が分かるのは、何年も先のことです。
メタボ健診を受けただけで大丈夫と思うのではなく、少なくとも癌検診も受けておかれることをお勧めします。
高血圧やメタボリック症候群の食事療法は、癌を予防する
(19年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
(19年11月号のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
心筋梗塞の治療に成功し、元気に通院されていた人が、その後、癌で亡くなられることを時に経験します。退院後、お薬で十分に血圧やコレステロ-ルを下げ、動脈硬化が進まなかったため、心筋梗塞が再発せず、長生きし、癌になったのかもしれませんが、お薬で血圧やコレステロ-ルだけを下げ、生活習慣の改善を怠ったため、癌を防げなかったとすれば問題です。
運動不足、肥満、野菜や果物の不足、加工した肉食品の摂取などの生活習慣は、血圧、コレステロ-ル、血糖を上昇させるだけでなく、大腸癌(特に結腸癌)を増加させます。肥満は、インシュリンの効きを悪化させ、インシュリンの分泌を促進します。インシュリンの分泌増加は、血圧を上げるとともに、大腸上皮細胞の増殖刺激となり大腸発癌を促進するとの報告があります。最近、腹部の脂肪細胞が分泌するレプチンが、血圧を上げる作用と共に、大腸癌促進因子のひとつとして取り上げられています。
肺癌は、喫煙により5倍に、心筋梗塞は、喫煙により、2〜3倍に増加します。禁煙しないで血圧やコレステロ-ルだけを下げ、心筋梗塞を予防できたとしても十分な治療とは言えません。お薬で、血圧が下がっているからと言って、高濃度の塩分を摂取することは、胃の粘膜を損傷し、胃癌の原因になります。肝臓癌は、9割以上が、B型やC型のウイルスが原因です。しかし、最近、腹部肥満に伴う肝機能障害のひとつであるNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が、肝臓癌の原因として注目されています。また、膵臓癌の発症は、糖尿病があると2.1倍、喫煙で、約2倍に増加します。
癌は、高血圧や糖尿病と同様、遺伝的要因と環境要因が合わさって発症します。同姓の一卵性双生児と二卵性双生児を用いた北欧の研究では、胃癌の
72 %、大腸癌の 65 %、膵臓癌の 64 %、肺癌の 74 %、乳癌の 73 %、子宮癌の
100 %、卵巣癌の 78 %、膀胱癌の 69 %、白血病の 78 % に環境要因が寄与し、遺伝的要因よりも大きいとされています。
心筋梗塞や脳卒中を防ぐ生活習慣と癌を防ぐ生活習慣は、禁煙、肥満の予防、塩分やカロリ-の制限、適度な運動などで、ほとんどが同じです。生活習慣の改善には、血圧や血糖を下げるだけでなく、癌を予防するというお薬にはない効果があります。
なぜ、メタボリック症候群が注目されるのか
(19年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
メタボリック症候群とは、お腹が出ていて、中性脂肪、血圧、血糖の3つのうち少なくとも2つが高い状態を言います。
この場合の血圧の高値とは、上の血圧が130台の高血圧とは言えない正常高値の状態を含み、血糖の高値とは、糖尿病のみでなく、いわゆる、糖尿病予備軍(境界型動尿病)を含みます。以前から、高血圧、糖尿病、高脂血症のある人や太った人は脳梗塞や心筋梗塞になりやすいことは、よく知られていました。
では、なぜ今、メタボリック症候群が注目されるのでしょうか。
以前に比べ、降圧剤は、格段に進歩し、高血圧による脳出血は、激減しました。やせていて血圧が高いだけなら、一日一回お薬を飲めば、循環器疾患を予防できる時代になったわけです。コレステロールも、今や、お薬で簡単に下げることができます。
しかし、メタボリック症候群では、インシュリンの効きが悪くなっていることが問題です。血糖は、膵臓から分泌されるインシュリンの作用により、体内で利用されます。血糖が上昇する原因として、インシュリンが十分分泌されていない状態と、インシュリンは分泌されているにもかかわらずお腹に脂肪が付いたためインシュリンが効きにくくなった状態が考えられます。血糖が、上昇すると動脈硬化が進みますが、インシュリンの上昇もまた動脈硬化を進行させます。したがって、太ってきたためにインシュリンの効きが悪くなったものの、人より多くインシュリンを分泌しているので血糖があまり上昇していない状態、いわゆる、糖尿病予備軍の状態でも、インシュリン高値による動脈硬化の進行がみられます。
したがって、メタボリック症候群にみられる高血糖では、インシュリンの分泌を増やすお薬を使ったりインシュリンの注射を用いて血糖を下げても、血中のインシュリンが上昇するため、心筋梗塞を十分予防できません。このため、インシュリンの利きを良くする薬や食事の吸収をゆっくりさせる薬を使用します。しかし、これらのお薬だけでは、十分に血糖を下げることが出来ないことも多く、血糖が下がらないと、今度は、高血糖による動脈硬化が進行してきます。
メタボリック症候群では、血糖とインシュリンという相反するものを同時に下げる必要があり、そこに、治療の難しさがあります。最近の研究では、狭心症や心筋梗塞のためカテ−テル検査を受けた人の4人中3人に糖尿病や糖尿病予備軍がみられたとの報告もあります。治療の難しさと、食生活の欧米化による患者数の増加が、最近、メタボリック症候群が注目される理由です。
メタボリック症候群は、高血圧や高脂血症がそれぞれ単独にある場合に比べ動脈硬化が進み易いので、投薬を行う場合には、血圧やコレステロ-ル値を単独の場合より強力に下げておくなどの工夫をします。しかし、メタボリック症候群では、お腹の脂肪を減少させることが何よりも大切であり、運動や食事制限が極めて重要であることは、言を待ちません。
さらに言えば、お腹が出てきたが、血糖や血圧が上昇していない早期のうちに生活習慣に注意し、高血圧や糖尿病を発症させないことが大切です。
メタボリックシンドローム(メタボリック症候群)について
(18年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
最近、テレビや新聞でメタボリック症候群という言葉をよく耳にします。労働省の勤労者を対象にした研究で、高脂血症、高血糖、高血圧、肥満の4つのうち3個以上ある場合は、何もない場合に比べて心筋梗塞の発生率が30倍以上であることが知られています。
その主な原因の一つが、お腹の脂肪にあると考えられており、男性で腹囲が85cm以上、女性で90cm以上あり、血圧、血糖、脂質の3つのうち2つ以上に異常がある場合をメタボリック症候群と診断します。
脂肪には、皮下脂肪と腹腔内脂肪の二種類があります。お尻の大きい肥満は主に皮下脂肪が多いのに対し、腸や胃の回りに貯まるのが腹腔内脂肪です。腹腔内脂肪は、肝臓に運ばれ、糖と中性脂肪に分解されるので、腹腔内脂肪が貯まると血糖や中性脂肪が高くなります。また、脂肪細胞は、単なるカロリーの貯金箱ではなく、いろいろなホルモンを分泌します。脂肪細胞は、インシュリンの働きを阻害するTNFαという物質を分泌し、血糖を高めます。また、血管内で血を固まりやすくする物質PAI-1などを分泌し、脳梗塞や心筋梗塞を起こり易くします。血圧を上げるアンジオテンシノーゲンも脂肪細胞から大量に分泌されます。
コレステロールが高くないのに、心筋梗塞を発症する人がいることは、以前から知られており、そのかなりの部分をメタボリック症候群が占めます。メタボリック症候群では、収縮期血圧が130台、拡張期血圧85と言った正常高値の血圧であったり、糖尿病でなく境界型糖尿病であったり、コレステロールや中性脂肪が正常で善玉コレステロールがわずかに低値であるなど、軽度の異常が重なっていることが多く、せっかく、健診で指摘されても心筋梗塞を発症するまでしばしば放置されてきました。腹囲を測定することにより、そういう人達を早期に発見する目的で考えられたのが、メタボリック症候群と言う概念です。
メタボリック症候群は、30歳代〜50歳代の男性に多く、仕事が忙しくて運動する時間もとれない人が多いようです。
この場合、少し発想を変えてみて下さい。お酒の飲む回数を減らす、間食をやめる、車通勤をやめるなど、何をするかではなく、何をやめるかを考えてほしいと思います。
メタボリック症候群は、カロリーの取り過ぎによる疾患です。何をするかではなく、何をやめるかが大切なのです。
過栄養と低栄養(自分に合った食事を考える)
(17年12月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
動脈硬化の原因は、コレステロールが血管に蓄積することであり、これを低下させることが、心筋梗塞や脳梗塞を予防する大きな要因であることは、確立された事実です。ところが、コレステロールがそれほど高くないのに、心筋梗塞を発症する人も珍しくありません。これに答えを出す一つの調査が、1995年から3
年かけて労働省により行われ、その結果、コレステロール値が正常であっても、高中性脂肪血症、いわゆる糖尿病予備軍(境界型動尿病)を含む糖尿病、高血圧、肥満のうち、3個以上あてはまる場合は、一つもない人に比べ、30倍以上の心筋梗塞の発症率があることがわかりました。
このような過栄養の状態をメタボリック症候群と名づけ、今年4月、診断基準が発表されました。それによると、腹囲が男性で、85cm以上、女性で90cm以上あり、尚且つ、@中性脂肪が150
mg/dl以上またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)が40 mg/dl以下、A
上の血圧が130 mmHg 以上または下の血圧が85 mmHg 以上、B 空腹時血糖
110 mg/dl以上の3個のうち2個みられる場合、メタボリック症候群と診断、過栄養の是正が必要とされました。この診断基準の意義を考えて見ましょう。
まず、肥満の診断が、これまでの体重ではなく、腹囲によってなされている点です。これは、同じ肥満であっても、お尻に脂肪がついている場合より、お腹に脂肪が付いている場合に動脈硬化が起こり易いという事実に基づいています。この場合の腹囲は、厳密には、ズボンのウエストとは異なり、臍の位置で測定します。男性では、ベルトの位置が、腹囲の最大径を現していない場合もあり注意が必要です。もう一つ、本来、体の大きい男性の腹囲が、85cm以上と、女性の90cm以上より小さく設定されています。
これは、女性の肥満は、皮下脂肪であることが多いのに対し、男性は、腹腔内に脂肪が付きやすく、男性の肥満の方が危険だからです。
これまで、130 / 85 mmHg程度の軽度の高血圧や、中性脂肪が150mmHg程度である、境界型糖尿病であるなどは、一つ一つは軽い為、病気とまでは認識されず、健診で指摘されても、心筋梗塞などを発症するまで放置されることも多かったようです。しかし、軽度であっても2個重なっていたり、お腹が出てきた時は、病気であると認識し、過栄養や運動不足の状態を是正することが大切です。
ただし、注意していただきたいのは、メタボリック症候群は、あくまで、同じ高血圧や糖尿病であっても、太った人に当てはまるということです。栄養状態が悪いと、肺炎などの感染症を起こしやすく、また、日本人の死因の第4位は肺炎です。このため、高齢者では、メタボリック症候群とは逆の、低栄養もしばしば問題となります。低栄養かどうかは、血液検査で得られるアルブミン値から、判断されます。アルブミン値が、3.8
mg/dl 以下では、老化速度が早く、将来寝たきりになる人が多いと言われています。このような場合、お肉を積極的に摂取することも必要です。
過栄養は、働き盛りの男性の心筋梗塞による突然死の大きな原因です。しかし、高齢者では、低栄養もしばしば問題となります。
どのような食事が自分に適しているかは、血糖値やコレステロール値だけでなく、年齢、アルブミン値、腹囲なども考慮した上で総合的に判断する必要があります。腎臓病や肝臓病などがあると、さらに複雑になります。
食事療法は、定期的に血液検査を受け、医師と相談しながら行っていただくことをお勧めします。
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