80歳以上の高齢者では、血清アルブミンが大切です
(30年5月の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)  

今回は、高齢者の血液検査の見方を説明します。ヘモグロビンの値は、貧血を示します。よく貧血ですよと説明すると、鉄を沢山摂るようにしますとおっしゃられますが、高齢者の貧血の原因は、鉄の摂取不足とは限りません。時に、胃癌や大腸癌からの出血で、貧血になっていることがあります。また、血液を造っている骨髄の疾患が隠れていることもあります。高齢の貧血では、その程度だけでなく、なぜ貧血になったかが大切です。

クレアチニンは、筋肉で産生され腎臓から排出されます。腎機能が悪化すると、排泄されずに血中に蓄積するため高値となります。しかし、元々筋肉の少ない高齢女性では、筋肉の多い若い男性に比べてクレアチニンの産生量が少ないため、腎機能が悪くなってもなかなか血中のクレアチニンが上昇しません。したがって、高齢者では、腎機能の指標として、クレアチニンよりもクレアチニンを性別や年齢で補正したeGFRと言う指標を参考にすることをお勧めします。

今日測定した血糖やコレステロ−ル値が高くても、そのために動脈硬化が進行し心筋梗塞や脳梗塞を発症するのは、何年も先の話です。高齢者では、すでに動脈硬化が進行している人も多く、低血糖が、交感神経を緊張させ血管が収縮し、眼底出血や心筋梗塞を誘発することがあります。また、低血糖が、認知症を進行させたり、低血糖によるふらつきが転倒による骨折を招くことがあります。このため、糖尿病で治療中の場合、血糖の平均値の指標であるHbA1cを下げるだけでなく、低血糖にも注意が必要です。高齢になると、肺炎などの感染症による死亡が増加します。感染症を防ぐためには、栄養状態を良くする必要があり、栄養状態の指標である血清アルブミンを4.0以上に保つことが大切です。高齢者では、血糖値やコレステロ−ル値を気にするあまり栄養不足になるとかえってよくありません。高齢者では、アルブミン値にも注意して下さい。


貧血の原因は、鉄の不足だけではありません。
(17年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 貧血と言えば、急に立ち上がった時にふらっとする様な症状を想像される人が多いと思います。しかし、立ちくらみは、貧血で起こる場合もありますが、むしろ低血圧に伴う場合が多いようです。
貧血とは、赤血球の中のヘモグロビンが不足したために、十分に酸素を運べない状態です。したがって、貧血では、体のあらゆる臓器が酸素不足になり、何となく元気がない、労作時に動悸や息切れがする、頭痛がするなど、様々な症状が起こり得ます。このため、症状から診断することの難しい疾患です。しかし、逆に、血液検査をすれば簡単に診断できる疾患でもあります。


生理のある女性には、ヘモグロビンの材料となる鉄が不足しがちです。この様な貧血は、徐々に進行するため、はっきりした症状がないことも多いようです。そのような人でも、鉄剤を内服しますと、集中力が高まり、以前の状態が本来の自分ではなかったことを認識される場合があります。


貧血には、胃癌や大腸癌のような重大な疾患が隠されていることがあります。胃癌や大腸癌からの出血は、痔からの出血と違い、少量である場合、気付かないことがしばしばあります。また、貧血の原因は、鉄の不足だけでは、ありません。赤血球は骨髄という骨の中で作られます。骨髄に異常があり血液を上手く作れなくなった再生不良性貧血、白血病による貧血、ビタミンB12の不足のため骨髄で赤血球の合成障害が生じたことによる巨赤芽球性貧血、赤血球の生成過程には問題がないものの赤血球が血管の中で破壊されてしまう溶血性貧血など、貧血の原因は、様々で、治療法も異なります。

鉄欠乏性貧血以外の貧血では、鉄剤を内服しても改善しません。
高齢者の場合、新たに出現した貧血の原因を調べているうちに、胃癌や大腸癌を手術可能な段階で発見できることもまれではありません。

軽い貧血でもあなどらず、きちっとした診断を受けておくことをお勧めします。