尿管結石が、増加しています
(28年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

腎臓内で出来た結石が、尿を膀胱に流すための管である尿管に流れ出し、尿管に結石が詰まると、流れなくなった尿が腎臓を圧迫し激しい腹痛や背部痛を生じます。尿管結石は、食生活の欧米化に伴い近年著明に増加した疾患の一つです。男性では、7人に1人、女性では、15人に1人が、一生に一度は尿管結石に罹患すると推定されています。

尿管結石は、メタボの人に多いため、その予防には、減量や夕食後3時間以上空けて就寝することが、勧められます。また、一日尿量が2000mlを越えるようしっかり飲水をすることが、予防になります。尿管結石は、シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムを成分とするカルシウム結石が、9割を占めます。但し、カルシウムが結石の原因になるからと言ってカルシウムの摂取を制限しては、いけません。腸管内でカルシウムと結合し便中に排泄されていたシュウ酸が腸管から吸収され尿中に排泄される結果、シュウ酸とカルシウムが尿中で結合し、結石が出来やすくなるからです。これまでの研究でも、カルシウムや牛乳の摂取の少ない人に尿路結石が多いことが分かっています。また、脂肪を多く摂ると腸内で脂肪酸とカルシウムが結合するため、シュウ酸とカルシウムが結合できなくなり、シュウ酸が便中に排泄されず吸収され、結石の原因になります。シュウ酸は、ほうれん草やタケノコに多く含まれます。しかし一方、野菜や海藻の摂取量の少ない人に尿路結石が多いことも分かっています。シュウ酸は、3分間ゆでることによりその半分近くが失われますので、ほうれん草やタケノコをむやみに制限するのではなく、料理方法を工夫してみて下さい。この他、食塩の摂り過ぎは、カルシウムの尿中への排泄を増加させ、結石の原因となります。

東欧では、シュウ酸カルシウム結石の患者様のシュウ酸の8割は、コ−ヒ−や紅茶から摂取されていたとの報告があります。日本人には当てはまらないかも知れませんが、日本茶にもシュウ酸を多く含むものがあります。100gあたりのシュウ酸含有量は、玉露 1350 mg、抹茶・煎茶 1000 mg、番茶 670 g、ほうじ茶 286 mg でした。尿管結石の出来やすい人には、ほうじ茶がお勧めです。

高血圧や糖尿病は、慢性腎臓病の最大の原因です
(26年9月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

慢性腎臓病とは、尿蛋白や腎機能の悪化が見られる状態を言います。慢性腎臓病という概念が重要視されているのは、腎臓は、悪くなってから治療しても治らないことが多いのが一つの理由です。また、腎臓は、かなり悪くなるまで全身倦怠感や浮腫などの症状が出ないため、放置されがちであるからです。慢性腎臓病は、血液検査や尿検査によって早期に見つけ、早期に対策をとることが大切です。

腎臓は、老廃物を排泄するだけの臓器ではありません。塩分を排出することにより、血圧をコントロールしています。ビタミンDを活性化することにより、骨を強くします。エリスロポエチンを分泌することにより、骨髄で赤血球を造るのを促進します。このため、慢性腎臓病は、高血圧、骨粗鬆症、貧血の原因にもなります。慢性腎臓病の患者様は、脳卒中や心筋梗塞が発症しやすいのも特徴です。これは、慢性腎臓病の原因として高血圧や糖尿病があるため、糖尿病や高血圧が、腎臓だけでなく心臓や脳の血管も損傷し脳卒中や心筋梗塞を引き起こすからです。

腎臓病を予防するためには、血圧や血糖をできるだけ正常に維持しておくということが大切ですが、腎臓が悪くなってしまった後は、その重症度によっては治療方針を変える必要があります。例えば、運動は、血圧や血糖を下げますが、同時に腎臓に負担をかけます。このため、腎機能が悪化すると、しばしば、運動制限が必要になります。機能の低下した腎臓を長持ちさせるには、できるだけ腎臓を休めることが大切です。脂肪や炭水化物と異なり蛋白質の代謝産物は、腎臓から排泄するしかありません。腎臓にとって蛋白質の摂り過ぎは禁物です。摂取カロリーを過剰に制限すると、脂肪だけでなく蛋白質である筋肉も分解代謝されるため、腎臓に負担になります。例え糖尿病の患者様であっても、腎臓が悪化してきた場合は、ある時点で蛋白質の摂取を制限すると同時に、糖質や脂質の摂取制限を緩め筋肉が分解されないようある程度カロリー制限を摂取する必要があります。

慢性腎臓病は、脳梗塞や心筋梗塞の原因になります
(22年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

慢性腎臓病とは、蛋白尿がみられる状態や腎臓の働きが低下した状態が3ヶ月以上続く場合をいいます。慢性腎臓病の原因には、糖尿病、高血圧症、肥満などの生活習慣病、慢性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎のような腎疾患、SLEのような膠原病等があります。慢性腎臓病の問題は、将来透析が必要になるかもしれないというだけではありません。それ以上に大切なことは、腎臓が悪いと脳梗塞や心筋梗塞により死亡する危険性が高くなるということです。例えば、UKPDSという英国のデータでは、糖尿病で腎臓が悪くなり尿に蛋白が漏れている人は、年間2.3 % の頻度で透析をしなければならなくなります。しかし、その倍の年間4.6 %の人が、脳梗塞や心筋梗塞によって死亡しています。すなわち、生活習慣病により腎臓が悪くなる頃には、血管も傷んでいるので、透析が必要になる以上に脳梗塞や心筋梗塞によって死亡する危険があるということです。

腎臓は、いらないものを放出するための臓器ですが、悪くなると蛋白のように必要なものまで尿に漏れ始めます。また、塩分を尿中に排泄出来なくなり、血圧が上昇してきます。腎臓には、ビタミンDを活性型ビタミンDに造り変える働きがあります。このため、腎臓が悪くなると活性型ビタミンDが減少し、骨が弱くなるとともに、血管に石灰化が生じ動脈硬化が進行します。また、骨髄で赤血球を造るのを促すエリスロポエチンは、腎臓で造られます。このため、腎臓が悪くなると、エリスロポエチンが低下し、貧血になります。

腎機能低下のために生じる高血圧、蛋白尿、貧血は、それ自体が腎臓に悪影響を与え、さらに、腎機能を悪化させ、悪循環に陥ります。したがって、腎臓を守るためには、血圧を下げ、蛋白尿や貧血を改善しておくことが大切です