
カルシウムの摂取だけでは、骨折は防げません
(令和1年12月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
カルシウムが不足すると骨の石灰化度すなわち骨密度が低下します。骨密度が低下した状態を骨粗鬆症と言い、高齢者の骨折の原因となります。最近、骨密度と並んで重要視されているものに骨質があります。骨を鉄筋コンクリ−トに例えた場合、コンクリ−トの量に相当するのが、骨密度です。これに対し、コラ−ゲンが鉄筋に相当します。また、コラ−ゲン分子間に誘導される架橋は、コラ−ゲンに適度な弾性を与えることで骨強度を高めています。中年期以降は、酸化ストレスが増大し老化型の架橋が増加、コラ−ゲンが硬く脆くなり、骨質が低下し、たとえ骨密度が低下しなくても骨強度が低下します。老化型の架橋は、酸化ストレスや糖化ストレスの亢進によって誘導されます。糖尿病では、骨密度が低下しないにもかかわらず、骨折のリスクが約2倍になることが分かっており、酸化ストレスや糖化ストレスによる骨質低下の為と考えられています。この他、慢性腎臓病や肺気腫(COPD)も骨折のリスクを高めることが分かっています。したがって、骨折の予防には、骨密度を高めるだけでなく、内科的疾患の治療も大切です。
カルシウムやビタミンDの摂取は、骨密度を高めますが、骨質の改善を考えた場合、ビタミンK、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビタミンCの摂取も大切です。一方、塩分の摂取量が増加すると骨折も増加することが分かっています。減塩は、高血圧だけでなく、骨粗鬆症の治療にとっても大切です。喫煙は、骨折のリスクを1.3〜1.5倍に増加させます。お酒に関しては、少量は問題ありませんが、一日日本酒で2合以上になると骨折のリスクが高まるようです。不眠があると、夜間の歩行機会の増加や日中の眠気のため転倒しやすくなり骨折が増加します。不眠のための睡眠薬の内服は、夜間のふらつきの原因となり、骨折のリスクを更に高めます。運動は、骨密度を高めるだけでなく転倒予防効果により、骨折を減少させます。
骨は、健康年齢を左右する
(20年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
寝たきりの原因の第一位は、脳卒中ですが、それに次いで多いのが骨粗鬆症による骨折です。骨粗鬆症は、高齢者の腰痛の原因になることも多く、老後を健康に過ごすために克服しなければならない疾患の一つです。
骨粗鬆症は、遺伝的要因も大きいので、お母さんの腰が曲がっているような人は、要注意です。
しかしながら、幸い、骨粗鬆症の半数は、内服などの治療により予防できると言われています。
80歳を越えてから、骨折で寝たきりになるかどうかは、実は、子供の頃の生活習慣も大きく関与しています。骨塩量は、成長と共に増加、思春期に増加速度がピークに達し、男子で21歳、女子で18歳頃に成人レベルに到達します。この間に、出来るだけ骨を強くしておくことが大切です。まず、出生時体重が大きいほど、その後の骨塩量も多くなり、骨折が少ないことが知られています。成長期のカルシウムやビタミンDの摂取も大切です。ビタミンDは、日光に当たることにより皮膚で生成されます。
一日に5μgのビタミンDの摂取が望ましいと言われていますが、顔面と手掌に15分間日光を浴びるだけで、2.5μgのビタミンDが生成されます。
運動は、骨を丈夫にすることが知られており、長距離走者以外の運動選手の骨塩量は、増加しています。骨に荷重のかかりにくい水泳よりもそれ以外の運動がより有効と言われています。
44歳を過ぎると、骨塩量は、低下し始めます。女性では、閉経後、その低下速度が増すため、中高年の女性は、特に注意が必要です。骨を強くするのは、カルシウムだけではありません。キクラゲ、鮭、うなぎの蒲焼きなどに多く含まれるビタミンD、納豆、卵、ほうれん草、キャベツなどに多く含まれるビタミンKも骨を強くします。
高齢者の運動は、骨を強くするだけでなく、バランス能力を維持し、転倒を防止するのにも役立ちます。高齢者は、夜間、トイレなどに立つときに転倒骨折を起こしやすいので、ゆっくり立ち上がるなどの工夫もしてください。
骨粗鬆症が気になる人は、自己判断せず、必ず医師に相談して下さい。
その理由は、
(1)甲状腺機能亢進、副甲状腺機能亢進、クッシング症候群などの疾患が原因で骨粗鬆症になっている場合があり、きちっと診断することが大切です。
(2)カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどは、加齢による骨密度の低下を軽減することはできても、骨密度を増加させることは困難です。
したがって、ある程度進行した骨粗鬆症の人には、ビスフォスフォネ―ト製剤やラロキシフェンを用い骨密度を増加させる必要があります。
骨粗鬆症
(18年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
二十年程前までは、骨粗鬆症は、たいした病気ではないと考えられていました。むしろ、腰が曲がるまで長生きすることは、めでたいことだとも思われていたようです。しかし、骨粗鬆症が、脳卒中に次いで、二番目に多い寝たきりの原因ということが知られ、注目されるようになりました。
年をとって、骨がもろくなると、骨折しやすくなります。また、この頃には、運動神経も鈍り、転倒した時に、足を捻ってしまうことも多くなり、大腿骨頚部骨折がおきやすくなります。高齢での臥床は、筋力の低下を招き、骨折が治癒した後も、それを契機に寝たきりになることがしばしばみられます。
骨粗鬆症による寝たきりを避けるには、若い頃から、十分にカルシウムを摂取し、日光に当たり、適度な運動をして、喫煙やアルコ-ル、あるいはカフェインの過剰摂取を避け、骨を強くしておくことをお勧めします。また、骨粗鬆症と診断された場合には、内服薬により骨折を予防しておくことが大切です。
骨粗鬆症の多くは、遺伝や食生活、生活習慣などが相まって引き起こされる原発性骨粗鬆症です。しかし、ステロイドの内服、甲状腺機能亢進症、関節リュウマチなどでも骨粗鬆症が引き起こされますので、他の疾患が隠れている場合があります。
この他、副甲状腺機能亢進症でも、骨がもろくなることは知られています。副甲状腺機能亢進症は、カルシウムやリンを測定しないと診断出来ない病気であり、治療は、手術による腺腫の摘出が基本です。
検診などで骨粗鬆症と診断された場合、まず、その原因を調べ、的確に治療方針を決める必要がありますので、是非医師に相談して下さい。
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