日本では、喫煙のため年間12万5千人が、死亡しています
26年6月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。

2011年9月のランセットという医学雑誌によると、日本では、C型肝炎ウイルスの感染のため年間2万人以上が、ピロリ菌の感染のため年間3万人以上が、糖尿病のため年間3万人以上が死亡していると記載されています。さらに、喫煙のため12万5千人が、高血圧のため11万人以上が、死亡していると推定されています。あまり知られていないことですが、喫煙は、高血圧や糖尿病を抑え、日本人の死亡原因の第一位なのです。

この理由として、次の4つが考えられます。まず、喫煙人口が多いことです。どれほど危険な疾患であっても、罹患している人の数が少なければ、死亡者数はそれほど増加しません。たとえば、C型肝炎ウイルスに感染している人は、人口の1%位で、喫煙人口に比べると圧倒的に少なく、それによる死亡者数も喫煙に比べ、多くありません。2つ目の理由は、喫煙が癌の原因になると同時に、脳卒中や心筋梗塞など循環器疾患の原因にもなるからです。たとえば、高血圧は、脳卒中や心筋梗塞の最大の原因ではありますが、癌の原因にならないのとは、対照的です。3つ目理由は、喫煙は、様々な癌を引き起こすからです。ある推計では、喫煙により、咽頭喉頭癌が61%、食道癌が48%、膀胱癌が31%、膵臓癌が28%、肝臓癌が28%、胃癌が25%増加すると推定されています。C型肝炎ウイルスが、肝臓癌だけを、ピロリ菌が、胃癌や胃の悪性リンパ腫だけを増加させるのとは、大きな違いがあります。4つ目の理由は、喫煙が、肺気腫(COPD)の原因になるからです。日本人の高齢者が、在宅での酸素療法が必要になる最大の原因は肺気腫です。その肺気腫の8〜9割は、喫煙によって起こります。煙草さえなければ、肺気腫の患者様は、激減します。

煙草を吸い始めて肺癌で死亡するまでに通常30年以上、肺気腫よって死亡するまでに通常50年以上を要します。平均寿命が60歳の時代は、煙草を吸っていても、喫煙が原因の疾患を発症するまでに多くの人がそれ以外の疾患で死亡していました。人生90年の時代を迎え、禁煙が、益々大切になってきています。


タバコが美味しくなくなる薬

21年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

タバコが体に悪いと知りながら止められないのは、ニコチン中毒が原因です。

タバコを吸うと煙に含まれているニコチンが肺から血液中に移行し、直ぐに脳内にあるニコチン受容体と結合、心を落ち着かせ快感を生む物質であるド−パミンが脳内に放出されます。本来、ド−パミンは、ストレスがかかった時などに自然に分泌される物質ですが、普段からタバコを吸って無理にド−パミンを絞り出している人は、タバコを急に止めるとストレスがかかってもド−パミンが分泌されず、イライラし、また、タバコを吸ってしまいます。

禁煙の成功率を上げるには、ニコチン切れによるイライラを解消する必要があります。そこで考え出されたのが、ニコチン置換療法です。ニコチンの入ったガムを噛んだり、ニコチンのパッチを貼ることによって、体を常にニコチンで満たしておいてから禁煙する方法です。しかしながら、ヘビ−スモ−カ−の人は、ニコチンのパッチを貼っていても、タバコを吸ってしまいます。

この解決策として昨年発売されたのがチャンピックス(バレニクリン酒石酸塩)と言う薬剤です。チャンピックスは、脳内のニコチン受容体と結合し、喫煙により分泌されるよりも少量のド−パミンを分泌します。このために、このお薬を内服しながら禁煙した場合、ド−パミンが全くなくなるわけではないので禁煙によるイライラ感が軽減されます。また、チャンピックスがニコチン受容体にくっつくため、タバコを吸ってもニコチンがニコチン受容体にくっつくことができません。このため、いくらタバコを吸ってもド−パミンが分泌されず、気持ちよくなりません。その結果、タバコを吸いたくなくなるというのがこのお薬の特徴です。

ャンピックスによる禁煙治療は、治療にあたる医師や看護師が喫煙していないこと、敷地内が禁煙であること、呼気内の一酸化炭素濃度を測る機械を有することなどの条件を満たし、社会保険事務局に届け出た医療機関のみで受けることが出来ます。
当院は、届け出をおこなっており、健康保険による禁煙治療が可能ですので希望される場合は受付にて御相談下さい。


健康保険による禁煙治療を始めて
(18年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

6月から、経皮的にニコチンが吸収される貼り薬(パッチ)による禁煙治療が、保険適応になり、当院でも、行っています。
たばこに含まれているタ−ルには発癌性がありますが、ニコチンにはありません。ところが、たばこをなかなか止められない理由は、タ−ルではなく、ニコチンにあることが分かっています。即ち、喫煙者は、ニコチンが切れると、イライラ感や頭痛などの離脱症状が出現します。そこで、思わず1本吸ってしまうのがニコチン依存症です。

ニコチンパッチを貼ることにより、血中のニコチン濃度を高め、たばこを吸いたくなるのを防ぎ、その後、パッチを小さくし、体内のニコチンを徐々に減らしていくというのがその原理です。
日本人の癌の、3分の1と、肺気腫の8割〜9割が、喫煙が原因と言われています。喫煙により、脳梗塞や心筋梗塞による死亡が、2〜3倍に増加します。ニコチン依存症は、高血圧や糖尿病と同様、疾患の一つとも言えます。 但し、健康保険による禁煙治療には、制約があります。社会保険庁に届け出た医療機関のみでしか行うことが出来ず、おこなっている医療機関が多くありません。また、1日数本しか吸わない人や、吸い始めて数年しか経っていない人は、保険の適用にはなりません。

まずは、自力で禁煙し、どうしても出来ない場合は、治療を行っている医療機関にご相談されてはいかがでしょうか。



まだ十分知られていないタバコの害
(16年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
 
 タバコが肺癌を引き起こし、危険な嗜好品であるということは広く知られるようになります。
しかし、その他にも、たくさんの健康被害があるということは、まだ十分に知られているとは言えません。例えば、男性の喫煙者は非喫煙者に比べて、肺癌が4.5倍発症しますが、喉頭癌は実に32.5倍の発症率があります。この他、食道癌が2.2倍、咽頭癌が3.3倍、胃癌が1.5倍、肝臓癌が1.5倍、膵臓癌が1.6倍、膀胱癌が1.6倍、女性では子宮頚癌が1.6倍と、肺癌以外の多数の癌の発生率も増加します。また、喫煙は、動脈硬化を進めるため、喫煙者は非喫煙者に比べて脳卒中や心筋梗塞の発生率が約2倍〜3倍に増加することが知られています。
この他、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫)は、9割以上が喫煙者に発症します。これは、肺が伸びきって縮まなくなったため、十分な換気ができなくなる病気であり、現在、自宅で酸素吸入をしておられる方の原因の第一位がこの病気です。

間接喫煙も、あまり知られていないタバコの害のひとつです。夫が20本以上吸う妻は、タバコを吸わない夫の妻に比べて肺癌に1.9倍かかりやすいというデ-タ-があります。これは、少しの煙であっても、フィルタ-を通さないために、癌を引き起こすからと考えられています。 
では、途中から禁煙すると、どの程度の効果があるのでしょうか。非喫煙者の肺癌の発病率を1として、喫煙者の肺癌の発病率は、男性の場合4.5倍ですが、10年以上禁煙しますと1.4倍まで低下します。心筋梗塞の発生率も、5年以上の禁煙で、1.3倍まで低下します。また、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫)では、一度低下した肺機能は回復しませんが、禁煙により、進行を防げます。


喫煙の影響に、時効やリセットはありません。しかし、禁煙を続けると、その悪影響は確実に減少します。..