<その女の刺青>
日本に興味を持ってもらえるのは嬉しかったのだが・・・。
アルゼンチン中部の町サルミエント郊外にある「化石の森」に行った帰りに、サルミエントの町の
小さな旅行会社に寄り道をした。
そこの従業員達は皆、好意的で優しい人達ばかりだった。
ただ1人、女子高生らしい女の子を除いて。
女子高生は俺に全く興味ないようだった。まあ、当たり前か。と思っていた。
だがこの女子高生は俺自身には興味はないが、俺の持っているある部分に興味があったのである。
観光案内所を後にした俺は、ガイドのアナと町の恐竜博物館に行く事にした。
ところが何故か車に女子高生が乗り込んできた。
行きたい場所が近くにあって相乗りなんかな。と思っていたのだが、恐竜博物館の中までついて来る。
何だろう、暇なんかな?
あまり気にせずに、見るもののあまりない恐竜博物館を見学していた。
その間、女子高生は博物館の受付係員とずっとしゃべっていた。
そして一通り館内と外の展示物などを見てまわった俺は、外で喫煙をしてから受付へと戻った。
すると受付で2人としゃべっていたアナが、彼女達の名前も日本語で書いてあげてと言う。
そんなのお安い御用だよ。
名前は忘れてしまったが、受付の係員のおばさんと女子高生の名前を書いて、音を説明した。
すると女子高生がその書いた紙をもらっていいか?と言う。
いいよ、いいけど何に使うんだ?
女子高生は英語はできないらしく、アナがスペイン語で代わりに聞いてくれた。
すると女子高生が何事かをスペイン語でアナに言う。
それを聞いてアナが女子高生を軽く諌めるような素振りを見せた。
え?日本語なんて何に使うねん?
するとアナが言う。
「彼女、この日本語で書かれた自分の名前を「タトゥー」にして入れるって言ってるわ。」
・・・え?た、たとぅー?刺青っすか?
最近欧米人の間で「漢字」が流行っていて、タトゥーに入れている人がいる事は知っていた。
何かのテレビで観た事もあったと思う。
でも、日本語のしかも「カタカナ」をタトゥーですか?
おそらくアナがどこに入れるつもりなのかを聞いたのだろう。
女子高生は自分の背中、けつの少し上の辺りを指差した。
・・・親にもらった身体に墨を入れるなんて、この罰当たり娘が。
いつの時代の日本人だ?と思われるような発想が頭をよぎったが、外国は文化が違うから言っても
仕方ないか。
優しい俺は、さっき雑に書いた字が間違って刺青されてしまったら非常にかわいそうなので
(間違っていたとしても女子高生が知る日はおそらく来ないが)、もう一度ちゃんと書き直してやった。
この女子高生は暇な訳ではなかった。
そういえば俺が女子高生の旅行会社に行った時に、アナが「日本語で私の名前書いてもらったのよ。」
と旅行会社の人達に見せていた。
それを見て刺青にする事を思いついたのだろう。
だが旅行会社では言い出せなかったか、そこでは言えない事情があって俺について来たのだ。
俺には全く興味ないが、日本語に興味があったのだ。おしゃれな刺青を入れる為に。
確かにカタカナで刺青を入れている奴なんて、間違いなくサルミエントの町には1人しかいないし、
アルゼンチン全土で考えても数える程しかいないだろう。
ある意味ファッションリーダー。
絶対友達とかに自慢すんだろーなー。
これをきっかけにアルゼンチンでカタカナブームが巻き起こっているかもしれない。
旅の記録目次へ |
頑張れマキシミリアーノ君 |
エクソシスト |