<エクソシスト>
それは俺がアルゼンチン、イグアスの空港で見たある恐ろしい出来事だった(大げさ)。
恐ろしいロシア人の女の話は別に書いているが、それではなかった。
その恐怖はその後にやって来た。
イグアスの空港でチェックインを済ませた俺は、空港の待合室にいた。
その中に、少数ではあるが地元民と思える人達もぱらぱらといた。
そしてその中に、赤ちゃんを抱いたお母さんがいた。いくつぐらいだろうか、外国人の歳はよく
わからんが、30そこそこだろうか。
抱いている赤ん坊はまだ首がすわっていないと思われる小さな赤ん坊。首がすわるのがいつかも
しらんが、そんぐらい、生まれてからそんなに経ってないだろうと思われる小さな赤ん坊がいた。
赤ん坊は笑っていた。ように見えた。声を上げて笑っている訳ではなく、微笑んでいるように
見えた。それが観光客のおばさん達のハートを掴んだらしく、何人ものおばさん達に囲まれて、
一種微笑ましい光景を作っていた。
俺はというと、特に子供好きという訳ではないので、それっきり興味もなく、本を読んだり、
音楽を聞きながら、飛行機の搭乗時間が来るのを待っていた。
30分位経っただろうか。搭乗時間がやって来たので、何の意識もなく、並び始めた人達に混じって
俺も列に加わった。
ふと前を見ると、俺の3、4人前に先程の親子がいて、俺は赤ん坊と目が合った。
・・・?
得体の知れない恐怖を覚えた。何でだ?
赤ん坊は普通に俺の方を向いていた訳ではなく、あごが上、頭が下になる形で俺を見ていた。
・・・あ、あーーーー!!!
あ、ありえない角度に首が曲がっていた。
母親に抱かれている体と頭が織り成す角度が明らかにおかしい。その推定角度は直角90度、又はそれ以下の鋭角。
俺が今やろうと思ってもおそらく作り出せない角度。
首がすわってないから、支えがないとそこまで曲がってしまうんちゃんうかー!
赤ん坊にさっきの微笑みはなく、何も感情も無いガラス玉のようなうつろな目が俺の方に向いて
いた。
お、お母さーん、おたくのお子さんやばいんちゃうのー?!
俺はその赤ん坊の目から目を離す事ができなかった。母親に声をかける事もできなかった。
・・・死んでる?
俺の前にいた観光客のおばさんも俺と同じ異変に気付いたらしい。彼女はすぐさま母親に声をかけた。
母親は別段慌てた様子もなく、表情も変えずに赤ん坊を真っ直ぐに戻した。
その後、非常に気になったので赤ん坊の方に目を向ける。
赤ん坊が今度は正常な角度で、でもうつろにガラス玉のような何の感情も無い目で俺の方を見ていた。
・・・身体が凍りつくような恐怖を覚えた。でも生きていた。
お前がもっと早く母親に声をかければよかったんちゃうんか?という問いかけが聞こえたような気がした。
呆然と立ち尽くす俺は、係員に「次。」と呼ばれてふと我に返った。
そして俺が係員のいるゲートに顔を向けると、
・・・ひっ、ひーーーー!!!
そこにはその赤ん坊と同じように、ガラス玉のような何の感情も無い目をしたマキシミリアーノ君が立っていた・・・。
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