6日目
エル・カラファテ−ロスグラシアレス国立公園
朝起きたら天気が悪かった。コテージ風のホテルの部屋から湖が見えるが、水はグレイ。
憧れの氷河に行く日なのだが、と心がふさぐ。
迎えのバスがやって来て氷河ツアーに出発。ツアー客は約10人、全て白人。当たり前か。
バスはエル・カラファテの町を出発し、船着場へ向かう。
(ここから超訳)ロスグラシアレス国立公園はアルヘンティーノ湖というバカでかい湖から
あちこちに水路が延びていて、いっぱいたくさんの氷河にぶつかる地形。
いや、違うな。水は氷河から解け出ているから、氷河からいっぱいたくさんの水路を通じ、
アルヘンティーノ湖に水が注ぎ込む地形。
よくわからん。そんな感じ。
バスは1時間弱程度で水路の入口に到着した。そこにはあちこちの旅行会社のバスがやって
来ていて、みんな同じ船に乗るらしい。船は100人程度は乗れそうな結構でかい船。
よく見ていると、アジア系らしき人達がぽつぽついる。だがツアー客はいなさそうだった。
席についてほっと一息ついたのも束の間、船はつつがなく出発した。
この水路の水はミネラル分を含む為、色が付いているらしい。晴れていればきっときれいな
水色のはず。・・・雨降ってきた。あーあー。
この日のツアーは、舌をがっつり噛みそうなスペガッツィーニ氷河とこの公園最大のウプサラ
氷河、そしてオネージ湖という湖をまわるコースらしい。
あー、腹減ったなー。と、船内で飲み物食い物販売がスタートした。みんな思い思いの朝食を
買っている。俺も何か買おう。と売店スペースのカウンターに餃子状のパンのようなものが
積まれていた。
これが噂のアルゼンチンファストフード「エンパナーダス」。とりあえず1つ購入してみた。
10cm×5cm位の大きさで餃子の形だが、いわゆるパイか。中身はとうもろこしね。
結構美味かった。
食欲に火が付いた。やめといた方がよかったかもしれん・・・。がもう止まらない。
もう一度カウンターに言って、「エンパナーダス4つ」と言ってみる。
船員の驚き顔にやわらかい笑顔で答え、ばくばく食った。落ち着いた。
そして雨の降るなか船の外に出てみた。喫煙所は当然だが外。船で喫煙できる事自体に
驚いた。さみー!
船が動いている事で起こる風では決してありえない暴風。女の人達は手すりに掴まらない
と歩けないようでよちよち。しかも雨、そして氷河が近いからか、家の冷房では決して
出せない温度。どおりでみんな厚着してる訳だよなー。俺はジャンパーはホテルに置いてきた。
でも強力フリースがあるから大丈夫だよ。周りの人達の気遣わしげな視線にも余裕の笑み。
但し、フードは付いていないので頭はそこそこびしゃびしゃ。
俺の姿はさながら台風の時のニュースのレポーター。
ところが船が進むにつれて雨が小降りになって来た。あーよかったー。とほっとしていると、
周りの観光客達がにわかに騒ぎ出した。何だ何だ。
俺もみんなと同じ方向に顔を向けると、そこにはどんぶらこどんぶらこと氷山が流れてきて
いた。
ふわぁー。そこにはテレビで観た通りの水色のばかでかい氷の塊が浮かんでいた。
また声にならない。晴れていなくてもこんなにブルーハワイ色なんやなー。すげーなー。
そこから右にも左にも氷山が見え始めた。もう寒さなど、暴風など気にしている余裕はない。
船の右に行き、左に行き、前に行き、後ろに行き、流れてくる氷山を見続ける。
うわー。と感動していると1人のギャルが「写真を撮ってくれ。」と言ってきた。
かわいい。その瞬間氷河を忘れた。おそらくアルゼンチンの女の子。黒髪黒目で小柄。
推定年齢20歳そこそこ。これはもしかして。とりあえず写真を撮る。そして喋ろう。
と思った。
しかし、邪心はよい結果を生まない。写真を撮ってあげてカメラを返して、さあ話そう。
と思った瞬間に、他のカップルからも写真を撮ってくれと頼まれた。
今取り込み中なんですけどー。とも言えずに写真を撮ってやる優しい俺。しかしその後も
俺に写真をねだる人達が殺到し、その間に彼女は去って行った・・・。
俺は何でどこに行っても「写真撮ってくれ。」と言われるのだろうか。国内でもあり、
海外でもあり、白人でも黒人でも黄色でもあり。
ひょっとして俺から出ている金持ちオーラが、この人ならカメラを預けても盗まれないかも
と思わせる?・・・こんな水上の密室でカメラ盗まれると思う訳ないか。じゃあ、俺の
いい人オーラのせいか。あー、いい人って損。本当に損だー。
そんなバカな事を考えている間に船は最初の氷河、スペガッチーニ氷河(何か違うな)に
到着した。
わー、来た。本当に俺、地球の果てまで来たんだなー。冗談じゃなくて本当にそう思った。
すげー。すごいとしか言えない迫力だった。氷河が崩れる可能性があるので触れる距離とは
言えないが見上げないと天辺がわからない位には近付いてくれた。
氷河も非常にブルーハワイ。こんな色の氷が本当にあるんだな。地球は広いよ。
ここでまた解説しよう。ここの氷河や氷山は非常に水分子の密度が高く、かつ不純物が
非常に少ない純度の高い氷なので、青の光以外の光を通さない。そしてこんなに青く
見えるらしい。
氷河に見とれいていると、隣に先程の彼女がいた。おっ。今度は俺から写真撮ってあげようか?
と聞いてみた。俺はエロ親父。彼女は微笑んでカメラを俺に差し出した。小さな恋のメロディの
始まりか。ってどんな歳の差カップルやねん。今回は写真を撮った後にちょっと話そうと
思ったのだが、俺達が立っていた場所は氷河をバックに写真を撮るのに絶好のポジション。
という事は写真を撮ったらすぐに立ち去らねばならず、俺と彼女は左右に分かれた・・・。
不幸な人間には自然は優しいらしい。
氷河近くに停留している間に雨は止み、雲は切れ、青空が見えてきた。
うわー、晴れると壮大さが増すなー。俺の感動記録は更新しまくっていた。このアルゼンチン
の旅の期間中の感動量は、俺の今までの人生の総感動量より多いかもしれん。
写真で見ると氷河の迫力が出なくて残念なのだが、高さは30〜40m、幅はkm単位になっている。
ただただ圧倒されていた。滝のように動きはないのだが、そこにそびえているものは生半可な
ものではなかった。そしてきれいな青。あー、ここで死んでもいい。
景色が汚れるな。
しばしの停留の後、スペラニーニ氷河(もう適当)を後にして、次の氷河に向かう。
元来た水路を戻ってまた別の水路に入り直す道のりになっているので、太陽に身体を当てて
全体的に乾かした後で船内に戻る事にした。
暖かい。忘れていた暖かさだった。
ついでに温かいコーヒーなど買ってみる。あー極楽極楽。かなり眠くなってきた。が、
ここで眠る訳にはいかないよ。っつー事で一度見た景色のなか、再度船外へ出る。
晴れてきたからか気温が一気に上がっていた。風は暴風な事に変わりはないが、身を切る
寒さはもうなかった。あー気持ちいーな。耳には風の轟音が響いているが、それにも
慣れ始めていた。
手すりに寄りかかってぼーっとブルーの氷山と、その奥に広がる緑の山々、緑の山?
違和感がある。氷山と緑の生い茂った山々とこの気温。リンクしてない気がした。
コラージュ写真でも見ているかのような。普通氷河の近くに植物はないよな。
でもそれがパタゴニアなのだろう。これまでの壮大な自然の数々は、俺の想像やテレビの
画面を遥かに超えてる。もう考えても無駄だな、これは。
また雨が降り出したなか、船は第2の目的地、この公園最大の氷河ウプサラ氷河に到着した。
もうでか過ぎて話しにならん。幅も奥行きも目で見ているものが信じられない位でかい。
そして青い。何度も言うがブルーハワイ。
でか過ぎて離れた場所からしか全景が見渡せない。迫力あり過ぎだよ。近くでその壮大さを確認する。
その横では山の雪解け水が滝を造っていた。あー、あー、あー。言葉にならない。
本当に思う。こんな所に気軽に来れる場所に住みたい。その為なら少々泥を被るような生活を
送ってもいい。1人2人殺せばいいのなら、それでも。
氷河が切れる場所には、ひょっとしたら昔は氷河の一部が乗っかっていたのではないかと思われる
岩肌が見えていた。岩肌をぼーっと見ているときらきら輝き始めた。何だ?おう。また青空が
広がり始めていた。この辺りはいつも強風が吹いているから天気も変わりやすいのか?
きらきらと輝いている氷河を後にした。また船の中に一度戻ってコーヒーを飲む。あれ?
日本人らしき女の子を見かけた。地球の歩●方持ってるし、日本人だよな。だが確かに目が合ったの
だが、目をそらされてしまったので俺も話しかけない事にする。
外は晴天が続いているのでまた外に出る。あったけー。陽射しがきつい。船の左右に氷山が見え
なければどこの南国やねんと思う位強烈な日差し。ある意味南国か。
2ヶ所の氷河を見てたっぷり感動した後で少し落ち着いた。ぼんやりと辺りの景色を眺めながら
喫煙してくつろぐ。
相変わらず暴風が吹き荒れているが、もう慣れた。コンタクトレンズさえ飛ばされなければいい。
船の放送を聞いていると、これからオネージ湖という所で昼食休憩らしい。昼食を用意してない
人は船で買ってね。と言っている。
景色とさっきのエンパナードスでお腹いっぱいだからいいや。
オネージ湖に到着し、英語ガイド班とスペイン語班に分かれて森の中に入って行く。
よく見るとさっきの女の子の他にも日本人らしき夫婦がいる。でも3人ともスペイン語班で
行ってしまった。
いいなー、スペイン語できて。それか英語がわからないか。
森の中はとても澄んだ空気に満ち溢れた爽やかな世界だった。途中で小さな川が流れている。
絶対に飲める水だと思うが、川の水には悲しい思い出があるので手を付けない事にする。
15分程歩くとレストランが見えてきた。あー、そういえば船内放送でレストランの予約も
承ります。と言ってたな。
そこから5分も歩かない内に湖が見えてきた。おー、何て言うんだろ、湖の規模は小さいが
その清廉さ?は素晴らしかった。湖の岸辺には氷山の破片が流れてきている。
ある程度の小ささになるとあの青色は消えてしまうんだな。だがこんな大きくて透明な氷で
しかも天然ものは初めて見た。
湖に到着してこの湖についての説明があった。この湖には3つの氷河からの水が流れ込んで
いるらしい。
ここからは、さっき見た2つの氷河のように湖に張り出しているものではなく、山の中腹に
張り付くような氷河が遠くに見えていた。
ドーン!花火のような音がした。音の方向に振り返ると水しぶきが上がっていた。氷の1つ
が崩れたらしい。瞬間を見る事はできなかったが、その音と波紋の迫力はすごかった。
これでこんな迫力なら氷河が崩れる時はどんな音が出るんだろう。
ここで昼食休憩に入る。何故かどこの一流シェフが作ったメイン料理?と思われるような
肉料理を皿に盛って食っている家族がいる。???どんなセレブだ?っつーか、セレブなら
船くらい貸し切れ。
湖畔をひとしきり歩いた後、横倒しになった丸太に座り、また友人達への絵葉書を書く。
君達への絵葉書はこんな素晴らしい景色の中で書かれたものなのだよ。
絵葉書を書いた後は、船に戻りながら森の中を歩く。ふと通り過ぎる人を見ると、ビールの
缶を持っている人がいる。ん?船では売っていなかったはずだが。・・・ひょっとすっと。
道の途中にあるレストランの中に入る。カウンターの中を覗いてみると、おっ。売ってる
じゃーん。
早速ビールを買って外に出る。
外には川と森、そして遠くに之を抱いた山が見える絶景プレイスの柵に腰掛け、ビール。
ビールを飲みながら川の音に耳を傾け、時折流れてくる氷の塊を目で追う。
いやー、素晴らしいね。素晴らしい休日だね、理想の休日だね。
通り過ぎる人達が俺に目を留める。そして2人程、その後レストランに入ってビールを
買っていた。いい感じっしょ?という事で彼らに場所を開けてやって、船が止まっている
場所まで戻る。
船にはまだ入れないようだったので、水路べりの岩に座ってぼーっとしていた。
足元に手頃な大きさの石がある。普段絶対そんな事はしないのだが、静かな水面に
石を投げてみる。
あー、運動不足のせいか、歳のせいか、うまく石がはずんでくれないなー。
何回か投げているうちに、ぼちぼち他の人達も船に戻って来た。
そして俺の方を何やってんの、彼?みたいな顔で見ながら通り過ぎる。
そのなかに俺を真似て石を投げ始めた人達がいるぞ。ビールといい、俺ってひょっとして
いわゆるオピニオンリーダーってやつ?
今日のツアーはここで終わりとなり、船は来た場所へと戻り始めた。
もう雨も降る気配もないが、酔いが若干まわっているので船の中へ戻り、椅子に座って
若干うとうとと眠る。
目が覚めてコーヒーを1杯飲んだ後、また船外に出る。この暴風が心地よかった。
日が翳り始めて若干寒くなってきたので、かろうじて日が当たる船首に出てまた喫煙しながら
ぼーっと景色を眺める。
今日も1日感動したなー。毎日毎日こんな刺激のある毎日は今までなかったよな。
帰りたくねー。物価の安い国なら移住計画も簡単に立てられるのだが、ここは物価の
高いパタゴニア、そう簡単にはいかないよな。
非現実的でありながら現実的な事を考えながら船は小さな港に無事に帰って来た。
ツアー中全く時計を見なかったので、どこが何時か全くもってわかっていなかったが、
実はもう7時を過ぎていた。全然明るいんやけど。
ホテルに戻った後、腹が減ったので町に出た。行った事はないが、ヨーロッパのスキーリゾート
の町っつーのは、こんな感じちゃうか、というような街並みだった。
町を歩いていると妙に騒がしい。最初はこの町はいつもこんな賑やかな町なのかと
思っていたが、広場に差し掛かった時にそうではない事がわかった。
広場には特設ステージがあって、そこで民族衣装を着たアミーゴ達が陽気に演奏していた。
そして広場の周りには地方の名産品と思われるような物品や、軽い食い物を売っている
屋台がたくさん出ていた。どうやら祭の期間らしい。
友人達への土産を買おうと思っていたので祭を楽しむ余裕はなく、早々に会場を後にした。
観光地だけあって土産物屋はたくさんあるが、これというものが見付からん。
とりあえずこの日は下見でいいかと町のメインストリートを端から端まで歩いて、ホテルに
戻る事にしたのだが、帰りにジェラート屋があったので寄ってみた。
メニューを見ていると、「カラファテ」という町の名前と同じ単語が書かれている。
?町の名前が付いているっつー事は、この店の名物アイスなのかと思い注文してみた。
出て来たのはカシスのような赤紫のアイスクリーム。どこがカラファテか?
その秘密は翌日解明する。味もカシスに近い形で結構美味かった。
アルゼンチンにはファストフードの店が少なくて、食事時にはいつも店を探すのに苦労
するのだが、この町は特にちゃんとしたレストランしかない上にどこも観光客で混み合って
いて、1人で4人席を占領するのが申し訳ない状態。
面倒くさいのでホテルのレストランで食事をする事にする。・・・客いねー。
50席程度のレストランだが、客は俺を入れて3人。味も推してしかるべし。あーあー。