3日目
ナミブ砂漠国定公園−ヴァルビスベイ−スワコプムンド
砂丘の上で日の出を見る為に、早起きをした。外はまだ真っ暗い。
国定公園の開門時間と同時に駆け込んで砂丘に向かえば、日の出の時間に 間に合うらしい。この門から目指す砂丘は車で1時間弱程行く。ポール ポジションは逃したが、3番手につけた。
目指す場所は砂漠の中で一番有名な砂丘「Dune45」。ナミブ砂漠の写真や 絵葉書で使われている砂丘は全てここらしい。

頂上はまだ奥にある 走っている間に段々空が白んできている。きれいな星々に別れを告げた。ちと雲が 多いのが気になるが、太陽が地平線から顔を出す前にDune45に到着した。
・・・えーと、これ、登るんですか?登らなきゃ駄目?エスカレーターはないのか?
昨日の砂丘で非常に苦しんだ俺としては、それより数段規模のでかいこの砂丘に しり込みした。風邪ひいてなければ余裕なんだがなー。

仕方ない。登り始めた。どんどん観光客が集まり始め、1列縦隊で尾根伝いに砂丘の 天辺を目指す。ここも尾根は三角でどんどん崩れるし、尾根の両側はおそらく45度 位の角度で2、30mは下に落ち込んでいる。落ちても助かるかもという高さではない。 だが1列縦隊の為、休む暇はない。背後からプレッシャーがかかる。
45°・・・、だからDune45?んな訳ない。
働きアリの群れのようにだまってずんずこ登っていく一行だが、疲れたじいさんばあさんや ベストポジションを見つけたカメラマニアなどの脱落者が徐々に出始め、道がどんどん 通りにくくなっていく。
日は段々昇り始め、時間がなくなってきたので(怖いとかしんどいとかそんな後ろ向きな 理由ではない。な、ないもーん。)、人が行き違える位の幅の部分があった所で太陽を 待つ事にした。断崖?に足を投げ出して座り、カメラの準備をした。

ご来光 徐々に日が昇り始め、遠くの山の向こうから太陽が顔を出し始めた。
おー、やっぱし朝日と夕日は光の感じが違うなー。と当たり前の事を思いながら、1人の世界に 浸る。
少しずつ日が昇るごとに、周りの砂丘の色や眼下のサバンナの色、そして空の色、雲の色等が 刻々と変わり始めた。それは日本ではおそらく見る事のできない不思議な色合いばかりで、 どっか違う惑星に来たかのような感じさえあった。
うわー(本当にこればっか)、すげー、すげー。

そして日が昇り始めたので、周りの状況がわかり始めた。
このDune45は前日の砂丘と同じで赤い砂丘なのだが、周りには赤い砂丘と白い砂丘が ある。低地の方では2つの色がグラデーションになっているのだが、砂丘はきっちりと 赤か白かに分かれている。わー、不思議だなー(本●まなみ風、トラベリクス。)。

日が昇って辺りの気温もみるみる上昇してきた。暖かくなってきて体が少し目覚めてきた。
頂上まで行ってみたい気がしたが、群れはみんな下り方向になっていて、絶対に人がすれ違えない 狭い所があるので断念し、下に降りた。

そして観光客が普通に入る事ができる最奥の場所デッドフレイに向かった。
デッドフレイにはそのままでは行けない。手前の駐車場で車を降り、いくつかの旅行会社の改造 トラックで行く事になる。
朝飯食うか?と言われ、手作りサンドイッチを食うが、特に腹も減っていないし、ろくすぽトイレの ない場所に行くと聞いたので控えめにしようと思うが、ネルソンがまた何故日本人はそんな小食で 生きていける?という目で見る。が、まろやかに無視。

今度は白い砂漠 ピックアップトラックの荷台を改良して座席を作ってあるトラックで、奥地に向かう。 途中で動物が見られるかもしれないという。

お、おーーっっつ!!

ここで絶対に他では見る事のできないだろう、貴重な光景を見た。
それはダチョウが砂丘を駆け上っていく姿だった。すげー。すげー。すげー。
3頭?のダチョウ達がすごいスピードで砂丘を駆けて行く。
ダチョウ達がめっちゃ早いスピードだったし、俺らのトラックは砂地をがっくんがっくんいいながら 走っていたので、写真に撮れなかったのは非常に残念だったが、ダチョウが高い砂丘をぶっ走って 行く姿は最高に感動的だった。これを見られただけでナミビアに来た甲斐があったと思った。

感動の余韻に浸っている間に、トラックはデッドフレイに到着した。

絵ではない トラックを運転してきた兄ちゃんが、帰りは駐車場まで歩いて戻る?迎えに来る?と聞くので、 車内満場一致で2時間後に迎えに来るように依頼して、砂漠地帯に足を踏み出した。
この場所にはビッグダディというナミブ砂漠最大の砂丘がある。
観光客達はもれなくそちらに向かうのだが、いや、歳のいっている人達は麓や小さい砂丘の 辺りをうろうろして大変満足していたが、俺は天邪鬼。

辺りには人のいない砂丘がたくさん広がっている。俺はその中の1つに登って1人でくつろぐ事に した。
またまた靴の中に砂をざっくざっく入れながら、そしてぜーぜー言いながら砂丘を登った。
風の音しか聞こえない砂丘の尾根に座ってぼーっとする。日が照っていると非常に暑いが、 一旦雲に隠れると肌寒い。
いつもなら日が照っていない方がいいのだが、風邪ひきの体には太陽が欲しかった。
俺から半径100m以内には誰もいない状況で、ゆっくりと周りの風景を見渡す。 日が段々高くなり、辺りの色がまた変わり始める。そして雲のせいで日の当らない場所は 他の場所と色が違い、それを眺めているのも非常に面白かった。

ネルソンに持って行かされた 今日はこのまんま1日中こうしていたかった。
旅に行くごとに毎回何ヶ所か、1日中、いや何日でもここに座っていたいと思う、気に入った 場所がある。今回のナミビアではまずここだった。

聞こえるのは本当に風の音だけで、その風のせいか聞こえてもいい周りの人の声などが 一切聞こえない。いるのはゴミムシダマシの親子だけ。
こいつらは暑いのを避けようとしているのか、しきりに俺の影や俺のバッグの下に入り たがる。駄目だって。お前らを連れて日本に帰ったら、俺が検疫で引っ掛かるやんけー。

あー、失敗したな。迎えに来てもらう時間を2時間後と言った事を後悔していた。4時間後でも 6時間後でも、何なら日没後でもよかった。
よかった。ここはいい。全然飽きない。
ipodを取り出して好きな音楽を聞きながら、ここで1時間以上何もせずただ座っているだけで 過ごした。何もしなかったが、充実した時間だった。ふと下界を見ると、何組もの観光客の団体が 通り過ぎ、ビッグダディの方へ向かって行く。
それもただぼーっと見ていた。日本人もいたのかもしれん。が、あまり興味は無かった。

デッドフレイ入口 残念ながら時間が来てしまった。めちゃめちゃ後ろ髪を引かれながら、デッドフレイの 入口まで戻って来た。
ところが待っても待っても迎えが来ない。同じトラックに乗り合わせていたカップルと一緒に 全然別のトラックに乗って砂漠を後にした。
よく考えたら、迎えを無視して違うトラックに乗ってもよかったのなら、もっと砂丘にいれば よかった。とトラックに乗ってから気付いた。

ネルソンの所まで戻ると、腹減ったか?と聞かれたので減ってない。と答えると非常に訝しげな 顔をして見やがる。俺は何かに集中している時は腹なんか減らんの。というより、砂漠には 行ったが、ずっと砂丘の上に座っていたの。そしてお前のように、息するだけで腹減る訳じゃ ねーの。
若干ネルソンの「食え食え」攻撃がうざくなってきた。
仕方ないので、2人でオレンジ食いながら砂漠地帯を後にした。このネルソンという男はガイドなのに 国定公園や道端にがんがんゴミを捨てる。オレンジの皮も当然砂漠にぽい。他のものは一切捨てないが、 植物だからいいかと俺もオレンジの皮を砂漠へぽい。
マイナス1エコ。

他人のテントを隠し撮り 日が昇りきった砂漠は夜明け前とは全く違う風景で、空の青と雲の白、砂の赤と白、まばらに生えて いる植物は緑と茶色、絵の具を塗ったような、絵の中にいるような風景が広がる。
地球は広いな。日本でテレビを観ているだけでも感動する風景だが、360度広がっていると感動を 越えていた。
こういう所に住みたいと思った。やはり日本人専門ガイド目指すか。

ソフフスレイ集落に戻って来て、テントを片付ける。ネルソンがアイス食うか?と聞く。食わない。
奴がアイス休憩、俺が喫煙休憩と思い思いの時間を過ごした後、ネルソンが、この後は枯れた峡谷に 行って、帰る途中の町に泊まって翌朝ヴィントフックに戻るだけだが、少し遠出をしないか?と ネルソンが提案する。
行先は、ペリカンとフラミンゴが見られる海岸とアザラシの見られる岬。
当然、エクストラで俺が支払わなければならない。薄々は気付いていた。ガイドは2種類に分けられる。 自分の国の事をもっと知ってもらいたいと、色々提案をするガイドと、金だけが目的で色々提案を するガイド。奴は後者。何かというと、エクストラを払えば●●できる。という発言を連発する。
金が欲しければ、ガイドとしての勉強をもっとしろ。
ちと考えるから待て。と答えた。

ここが何故観光地なのかは不明 ソフフスレイ集落から車で10分程の所にある、何とかキャニオン。
雨期には川が流れているのだが、乾季の季節は谷底まで降りて歩く事ができる。それを聞いて期待したのが 悪かったのかもしれん。
そこに着いた時、観光客が全然いなかったのが気にはなった。だが行ってみた。
確かに峡谷の上から谷底を見下ろすと高さは結構ある。だが、魅かれるものがない。
奴に連れられて谷底に降りてみた。すると奴が、また1人で自由に見て回れと言う。
・・・説明は?
そして何時に戻ればいい?と聞くと、また好きなだけ。と言う。働け。

仕方が無いので、谷底をぷらぷら歩いてみる。・・・楽しくない。奥の方へ進んでいくと、崖のあちこちに 鳩らしい鳥が巣を作って、大量に生活していた。人間が近付いても全く避ける気配もない。
それは面白かった。
崖の鳩たちに気を取られていたのを、また地上に戻すと、少しだけ水が貯まっている場所があった。
前々日に雨が降ったからか。それだけ。つまらん。
結局谷底を10分位歩いただけで車に戻った。

奴がまたエクストラどうする?と聞くので、値切るだけ値切って足を延ばす事にした。
ヴィントフックには午後早い時間に帰れるらしいし、フラミンゴは見たかった。

おすとりっちーずでーす そしてまた大移動が始まった。
再び延々と広大に続くサバンナを走り出す。と、道路に動物が出て来ないように設置されている フェンスの所に何かいると、奴が言う。あれはオストリッチだ。
・・・おすとりっち?何だべ、それは?
今までの俺の人生で一度位はどこかで聞いているのではないかと思わせる、その動物名。
思い出す間もなく、道路の看板の陰に見えたのはダチョウだった。
午前中に見たダチョウは遠かったが、今回は間近で見る事ができた。初めての野生ダチョウ。 但し、日陰になるのか看板の所でぼーっと動かずに突っ立っている。
ひょっとして剥製か?それか、看板の石油会社のイメージキャラクターか?

途中で寄り道をした店で、昼食を購入。メニューはホットドッグとポテトフライ。
欧米か。
店の兄ちゃんに何か飲むか?と聞かれたので、ちと飲んじゃうか。とバカルディブリーザーを 頼んでみた。オレンジ味。アルコールはそんなにきつくないが、寝不足だったのでほろ酔いになった。

風景が若干変わった しばらくする、ヴィントフックへ帰る道と目指すワルヴィスベイへの道との分岐点があり、 ここからは初めて通る道になった。
サバンナの風景は見ていて広大ですげーなーと思うのだが、変化は無い。そして動物達も暑い昼間は あまり行動しないらしく、姿が見えない。いつの間にか眠くなっていた。
ネルソンが眠たくなったら寝てもいいぞ。と言うので、というか言われなくてもそうするが、うとうと し始めた。ところが眠りに落ちそうになるタイミングで奴が俺に話しかける。
最初の1、2回は偶然かと思ったが、それ以外の何十分と会話していないのに、俺が落ちそうになると 話しかける。おそらくわざとだと思うが、理由は何だ?楽しく会話したいという訳では絶対ねー。
道中に何かあって説明してくれるならいいのだが、暑いね。とか風が強いね。とかで話かけんな。
殺すぞ。
ネルソンといた時間、2泊3日、車内にいた時間、12時間以上。俺が車内で寝た時間、プライスレス。 じゃなくて、0。

ただ途中から岩がごろごろする山岳地帯に変わり、風景が一変したのでこの時は眠気が飛んだ。
乾いた大地だという事は同じなのだが、砂漠があってサバンナがあって岩山があって、色々と 種類があんだな。標高の違いだろうか?

鳥取か。 一度ナミブ砂漠を出たのだが、再度ナミブ砂漠国定公園の地域に入った。 ワルヴィスベイは海に面した町なのだが、町を内陸側に出るとすぐ砂漠。不思議な感じがする。
町からわずかの距離のところにこんな大きな砂丘がある。砂丘の名は「Dune7」。番号なんて 味気ない事じゃなくて何かしゃれた名前でも付けりゃいーのにと思う。きっちょうめんなドイツ人 か何かが名付けたんだろ、どうせ。ドイツ人らしーよ。

ネルソンが昇ってきていーよ。と言うが、この砂丘には登る足がかりになる尾根もないんっすがー。 しかも風速20m程度吹いているんっすがー。
なのでネルソンの提案はまろやかに無視をして、辺りの風景の写真を撮るだけにする。

海に近付くにつれて、天気が悪くなってきていた。風が非常に冷たい。寒い。とっとと車に戻る。 微妙にテンションが下がってきていた。

あらーぶあろーほさんどべー 砂丘を出てワルヴィスベイの町に向かう道は平らで、何の障害物もない。 道路に雪のように砂が吹き込んでいた。
窓開けてられねー。曇っていて気温が下がっていてよかった。
この道路は毎日この調子なので、毎日か2、3日に一度は砂かきをするそうだ。そして 砂が道路に吹き込んで来ないように、道路の脇に砂山が築かれている。

・・・ん?
よく見ると、その砂山の砂も風に乗って道路に吹き込んできていた・・・。
それでいいのか?

この時、俺の頭の中では中森明●の「Sand Beige」という往年のヒット曲がずっと流れていた。
明●世代だが、明●ファンだった訳ではない。それなのに何故ここでこの曲が出てくるのかというと、 遡る事3日前、香港からヨハネスブルグへ向かう機内、備え付けの音楽チャンネルに日本の歌謡曲 のチャンネルがあり、その中に入っていて聞いたからだった。
さんどべー。

ワルヴィスベイの町は別荘地らしい。カラフルで大きな家が立ち並ぶ。その全てが白人所有だと いう事をこの時はまだ知らなかった。

その町の中を抜けて海に向かう。ネルソンの言っている事がイマイチわからんかったのだが、 ペリカンが見られる所には一向に着く気配が無い。町中には「Perican」と書いてある看板が 結構あったのだが・・・。

フラミンゴはピンクだろーが だが、海岸に着いた途端、ペリカンは吹っ飛んだ。
海には点々と何百、いや何千、ひょっとしたら何万ものフラミンゴがいた。いた。いた!
すげー。すげーよ。
当たり前だが、こんな大量のフラミンゴを初めて見た。テレビや動物園でのイメージから、フラミンゴは 沼地とか湖とか湿地帯みたいな所に棲んでいると思っていた。海にいるよ。

うわー。海岸の非常に近い所から、遠くまでピンクと黒の点々がびっしりと海の表面に立っている。 ・・・黒?白ピンクのフラミンゴは見た事あるが、白黒のフラミンゴは初めて見た。別の種類なのか? 白ピンクのフラミンゴよりひとまわり小さいが、まさか子供時代は白黒で大人になると白ピンクに なるっつー訳ではないよな。

写真では多さが伝わらない訳で 1人で海岸沿いの道をフラミンゴを見ながら歩きたい。とネルソンに伝えて車を降りた。
見れば見るほど迫力がある。フラミンゴ達はみな海の中に首を突っ込んで餌を探している。
だが俺が近付くとさすがに気配を感じるらしく、歩いて沖の方へ逃げてしまう。それでも遠くの方まで いっぱいのフラミンゴは見ているだけできれいだった。この町に住めば毎日こんな風景に出会える んだな。
この町で暮らしたい気持ちでいっぱいだった。ここから会社に通えんかな。
1週間に2日位は会社に行けると思うが。駄目か。辺鄙な場所だから生活するのには金かかるんだろーな。 計画を断念する。

ここも1日座っていたい場所だった。だが日が暮れてきて寒くなってきたので、それも諦めてその場を後にした。 自由な旅だったら間違いなくここに2、3日は滞在した。

細っ。 ワルヴィスベイの町を出てすぐに別の集落を見付けた。町中の大きい家々とは違って、平屋系の家々が 並んでいる。
ネルソンが、あれはタウンシップだ。という。
タウンシップ?
それは日本語に訳すと黒人居住区とでもいうのだろうか。ナミビアでは白人と黒人は住む場所が分かれている ようだった。ネルソンは白人達が黒人達の為に住む場所を用意してくれた。というような言い方をした。 近くで見た訳ではないが、決してみすぼらしい感じではなかった。普通の町だった。
それ自体が気になった訳ではなく、ネルソンの言い方とその時の態度が少し気になった。

海沿いの道を今日の宿泊予定地スワコプムンドの町を目指して北上する。
天気がよければ海に太陽が沈むところが見られたのだと思うが、あいにく空は厚い雲に覆われたままで、この日、 太陽を見る事はもうなかった。

スワコプムンドの町に到着した頃にはとっぷり日が暮れていた。スワコプムンドはドイツの影響を色濃く受けて いる町で、その為か町に入ると歩いている人達が黒人という事以外は、アフリカに来ているという感じが しなかった。
それにしても怖そうな雰囲気だな。町の家々の塀には必ず高圧電線が張り巡らされている。
絶対一人歩きはできねーな、こりゃ。

今日はどこに泊まるんだろうか。期待はしていなかったが、この町でテントで野宿は勘弁してくれ。
ネルソンが向かったのは1軒の安そうなホテル。それ自体は別に気にしないのだが、そのホテルの名前が 嫌で全く気分が盛り上がらなかった。「Backpackers Hotel」。
白人のえせフレンドリーなバックパッカーとかいんじゃねーの?幸運な事にそいつらと出会う事はなかったが、 ・・・え?
君と同室ですか?

ホテルの部屋はバス・トイレは他の部屋と共同のツインの部屋。そしてそのツインとは俺とネルソン。
今まで何回か現地ツアーに参加した事はあるが、ガイドと同じ部屋というのは初めてだった。
こいつホモじゃねーよな、子供いるし。
それも心配だったが、俺がそれ以上に心配したのは、こいつと同室だと部屋で蚊取り線香が焚けない事 だった。この国で蚊に刺される事だけは絶対に避けようと、過剰な位に蚊対策をしてきた。
しかもここは海沿いの町。この時期のナミビアでは限られた水辺の町。・・・危険なのだが。

とりあえず部屋に荷物を置いて、夕食に向かう事にした。
訪れたのは、ネルソンお奨めのアメリカ風ダイナー。
欧米か。
その店の席はがらがらでどの席でもよかったのだが、ネルソンが選択したのは入口に入ってすぐの席。 何でその席を選んだのかわからなかった。風邪をひいてて入口近い席は寒くてつらかったし、喫煙席は 店の奥の方にあったのでそっちがよかったのだが、ネルソンの様子がおかしかったので従う事にした。
何というか、おどおどして挙動不審だったのである。そんな彼を見たのは最初で最後だった。

理由は聞かなかったのでわからんが、推測はできた。
店員は全員黒人、片や客は俺達を除いて全員白人。そういう事なのだろう。
ナミビアに来て初めてまともな店で外食した。前夜も料理はまともだったが、民家だったのでレストランは 初めてだ。海沿いの町だからとイカのフライと白身魚のフライらしいセットメニューを頼んだ。
奴はそれ、何人分ですか?という程の量の、しかもステーキ・ハンバーグ・ソーセージ・ベーコンと 何種類もの肉料理が盛り合わされたセットメニューを頼んでいた。今日一日のどこでそんなにカロリーを 消費したんだ、お前は?

来た料理を食い始めた。白身の魚は何だろう?種類はわからんがまあまあいけた。だがイカは・・・。
異国で獲れたイカは種類が違うのか?というより歯ごたえも食感もそして味も、日本で食うイカフライとは 全く違うものだった。何と言うか柔らか過ぎた。そして臭みがあった。そして量が異様に多い。当然残した。
ネルソンがまた、食え。と小言を言い始めるがさらっと無視して食事終了。
ベーコン以外は全部食ったネルソンが、もったいない的な小言を言いながら、俺のイカを食う。だがイカを 食うのは初めてらしく、俺にこれはどんな生物だ?と聞いてくる。
悪いが、俺にはイカの人となりを説明できるだけの英語力はねー。とりあえず魚ではない海の生物。 とだけ説明した。

何故かベーコンを残したネルソンが、豚肉は好きか?と突然聞いてきた。
好きだ。と答えると俺は豚肉が嫌いだ。と聞いてもいないのに語る。豚肉嫌い。酒呑まない。ネルソン、イスラム 教徒か?でもお祈りしないし、ヒゲも伸ばしてないよな。この国ではアザーンも聞こえないし。
と、その前に豚肉嫌いという割にはハンバーグもソーセージもさらっと食ってたが、そこに豚肉は いないのか?

食事を済ませてホテルに戻った。俺がさっとシャワーを浴びて部屋に戻ると、上半身裸でパンツ一丁のネルソンが ベッドに横になっていた。俺はというと、スウェットの上下プラスフリースの完全装備。俺、風邪ひいてるから、 寒いのか?
いや、暑さ寒さを感じる基準が違うのだろう。というよりは脂肪量の違いか。
とにかく、この状態ならさすがに蚊に刺されるのは奴だろう。と安心して寝る。


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