6日目
エロンゴウィルダネスロッジ−オコンジマゲストファーム
朝のアクティビティはハイキング。ショートコースとロングコースとやらがあるのだが、昼過ぎには オコンジマに到着しなければならんので、ショートコースを選択した。
決して面倒くさいからではない。体力がないからでもない。
どちらのコースもロッジの向かいにある山に登るのが目的、周りにそれ以上に高い山は なさそうなので、景色に非常に期待した。
朝のハイキングは希望者が少ないようで俺1人。ジョン又はジャックとオルランドと俺というずっこけ3人組で ハイキングを開始した。

いきなり象っぽいといわれても ロッジを出てすぐにまたまたハイラックス発見。前日の岩画に向かう最中もハイラックスだけは 山盛り見る事ができた。ハイラックスマニアはエロンゴへ急げ。

歩いている最中、ジョン(もうジョンでいっか)とオルランドは2人でしゃべる事に夢中で、 俺の入り込む余地がない。
ま、その分俺は1人でのんびり周りの風景を見ながら歩けるのでいいのだが。漏れ聞こえてくる 様子では、彼らは動物や植物の生態について話していた。詳しくは専門用語が多過ぎてさっぱり わからんが、先生と生徒の会話のようだった。
それもそのはずで、後で聞いたところオルランドはナミビアで旅行ガイド向けの研修の講師 等を務める有名人らしい。

・・・オルランド、君、一体何歳?
これは最後まで確かめなかったのでわからん。

藪を抜けて、早速岩山を登り始めた。岩山なのだが、前日の山と違ってなだらかな道があるので 登り易かった。途中で岩の割れ目から生えているたくましい植物や色とりどりの鳥等を、そして また山盛りのハイラックスを見かけながら頂上にたどり着いた。

わかるかな、ロッジ全景 うわー、すげー。絶景。
山の頂上は若干テーブル状になっていて、窪みに水が溜まっていた。それでバブーンが来るのか。
やはりこの辺りでは一番高い山らしく、視界を遮るものが何一つない、360度の大パノラマが 広がる。ここもいー。ここにテント張って何日か暮らす。そう思える程、素晴らしい景色が広がっていた。

ロッジのある、おそらく山から見て西側では、ロッジの全景が見渡せた。おー、思った以上にロッジが 点在してんだな。写真右側の一番端っこにあるのが、俺の部屋。一番端だから、俺のコテージからは 人工物が目に入らない事が理解できて、いいコテージを選んでくれたな。と嬉しくなった。

南側を見ると、見覚えのある形の山・・・、前日に行った宝石の山か。あまりに遠くまで見渡せるので 距離感がつかめない。あそこまでは何kmあるんだ?

道と川と 山の北側には、2本の太い道が見えた。
オルランドが右側は道じゃなくて川だよ。雨期になると水が走る。と教えてくれた。道も川も どこまで続いているのかわからんが、非常に遠くまで伸びているのが見えた。
遠くの方にうっすら山が見えるのもいー。

東側はこのロッジに来る時に通った道が見えた。ここには北側に見える道と違って、定規で引いた ようにどこまでも直線の道が広がっていた。

本当に360度広大で素晴らしい風景が広がっていた。ここのロッジ、日本人の従業員は募集して ねーかな。
見える人工物はロッジだけ。それも目立たないような地味な色合いになっていて、景色に溶け込んで いたので全く気にならなかった。

我を忘れて景色に見とれていた俺は、ふとオルランドの視線に気付いた。
「good?」と聞かれたので、
「very good!」と悲しいぐらい、単純な英語で返す。もっと英語が得意なら非常に感動している事を 伝えられたのだが。
だけど、オルランドは俺の表情からその辺りを読み取ってくれたと思う。とても嬉しそうな笑顔を 俺に向けていたから。

ただ、次の目的地オコンジマに向かわなければならないので、山を降りる事にした。悲しかった。
降りていく途中で、オルランドが何かに気付いた。
「クドゥの角だ。」
そしてオルランドが驚異の瞬発力を見せて、遥か彼方の方へ走っていく。
速っ。あっという間に、俺だったら行くのに1時間位かかりそうな遠くの岩場に5分程で到着した オルランドは、藪の中に吸い込まれていって、俺がぼーっと見ているわずかの間に何かを抱えて 戻って来た。さすが元サッカープレーヤー。
それは大きな動物の角だった。左右一対でちとらせん状になっている角、長さは1m近くあるだろう。
それはナミビアで見られる「クドゥ」という大型草食獣の遺品だった。

これが普通に外にいるて クドゥ。そんな動物見た事ない。この日程中に見られるのだろうか、生きたクドゥ。クドゥ。
結果から言うとこのすぐ後に見る事は見れたのだが・・・。
この時点ではクドゥという動物自体のイメージすら湧かないので、感動が若干薄かった。
ごめんよ、オルランド。せっかくぶっ走って拾ってきてくれたのにねー。
だが、オルランドがどこからどう見てこの角を発見したのか、それは全くわからんかった。 やはり視力の違いか。

その時にオルランドがもう1つ手に持っているものがあった。それは小さな枯れた小枝で、ブッシュマンズ ティーと呼ばれる植物らしいのだが、この不思議な植物については別に<旅の出来事>で。

ロッジに戻って来た俺達は一旦レストランに戻って、ちょっと茶を飲んだ後、各々コテージに一度戻り、 荷物をまとめてから再度集合して、エロンゴを後にした。
確かに、ナミビアなのに動物があんまし見れないロッジに行く旅行者は少ないと思う。俺ももう一度 行くか?と聞かれると、ちと躊躇するが、山の上から見る景色は十分価値があると思う。

エロンゴの敷地を出て、オコンジマゲストファームに向かう。
オルランドが音楽をかけてもいいか?と聞いてきたので、OKした。ナミビア音楽。どんなだ?
やっぱボンガワンガした感じなのだろうか。
・・・。
オルランドがお気に入りの曲ばかりを集めたテープだったらしいのだが、アメリカ人やイギリス人の 曲ばかりでちとがっかりした。
ま、ノリがいいからいっか。
と思っていたが、オルランドの聞き過ぎがたたったのか、テープの調子が悪く、2、3曲終わると テープが止まる。それを巻き戻してかける。2、3曲終わるとやっぱり止まる。巻き戻す。の繰り 返しで、同じ曲ばかり何回も聞くハメになった。
その中の1曲は、昔のアメリカの曲(プレスリー?)のサンプリングが散りばめられた曲だったの だが、その曲は有名な曲らしく、日本に帰ってきてからどこかの店でかかっていたのを偶然聞いた。
妙に懐かしかった。
その曲を聞いてナミビアを思い出す人間は俺しかいないな。

ろくろ首 1時間程のドライブの後、オコンジマゲストファームの敷地に到着した。ここでも、入口に警備員がいて、 敷地内に入ってもすぐにロッジの建物は見えない。

と、ふと目の前を大きな鹿のような動物が横切った。
オルランドが言う。あれがクドゥだよ。
おー、生クドゥー。・・・角ないが?
俺がそこで見たクドゥは雌だったらしく、角がなかった。
でも馬並みにでかいクドゥは迫力があった。そしてこれは草食動物、いや野生動物全般かも しれんが、走っている姿が非常に美しかった。
今は日本の動物園でも色々珍しい動物を見る事はできるが、その動物達が全速力で走っている姿は さすがに見られんもんなー。

一旦通り過ぎたクドゥを見る為に、オルランドが車を戻してくれた。
一度はサバンナの向こうに消えかけたクドゥだったが、戻って来た俺達を警戒してか、ぐりんと 顔だけをこっちに向けて様子を伺っている。
・・・その角度は危険。こんなに首が曲がるものなのか。俺の興味は妙な方向に向かっていた。 しばらく俺達を見つめていた彼女達だったが、後ろからもう1台車が来て去ったのを機に、 サバンナの奥に消えていった。

そして車は再びロッジに向かって走り出したのだが、俺の目の錯覚か、周りの草原が何故か 青く見える。
俺が思い切ってオルランドに、草原が青く見える。というと、おっ、よく気付いたね。という 先生のような顔になったオルランドが、雨期が始まると草原に小さな青い花が一面に咲くので 草原が青く見えるんだよ。と説明してくれた。
確かによく見ると草原一面に小さな青い花が咲いている。これが正体か。
この時は寄り道をする時間がなく、オルランドが帰りにゆっくり見る時間を取るよ。と 約束してくれたので、今回は眺めているだけにする。

ちとみすぼらしい また2、30分、サバンナを走り、小高い丘を越え、ロッジの建物にたどり着いた。
エロンゴと同じバンガロータイプの宿泊施設だが、びっちり固まって建っているのでエロンゴ のような広さは感じなかった。
出迎えてくれたのは、白人ガイド・・・。オコンジマはオーナーとサファリガイドは9割方白人、 レストランやメイド等の従業員は全員黒人だった。深い意味はない。

まずはチェックイン作業。
・・・オルランドは俺の事を子供だと思っているのか?
互いに年齢を尋ね合わなかったのだが、オルランドは旅行会社からの情報で俺の歳は知っている と思ったのだが。
何故気になったのかというと、書類を書く際とか、フロントのスタッフがここの事を色々と 説明されている時に、俺にいちいち補足を加えてくる。一応、書類の事項もスタッフが言って いる事も理解できてるよ。
・・・ひょっとして俺のリアクションが薄い?日本人は白人みたいにいちいち大層なリアクション はかまさない、控えめな?民族だっつー事を知らないな。知る訳ないか。

今日の夕方のアクティビティは何に参加する?と聞かれた。
レオパルドトレッキングとブッシュマントレッキングと他に何か(忘れた)。まずチーターと思った のだが、チータートレッキングは今夕はないらしい。
ちと迷っていると、フロントの白人の兄ちゃんとオルランドが口々に再度説明を始めた。
言ってる事はわかってるんだって。ちと迷う時間位くれよ。
急かされて慌てたので、とりあえずレオパルドをチョイスした。レオパルド=豹。 そんな豹なんて簡単に見られるものなのか。

他には電気や水は貴重なので無駄遣いをしない事や、火の始末についての説明。そして夜の動物観察 に行くかどうかを聞かれた。これは即答で行く。と答えた。

部屋に荷物を入れに向かった。
造りはエロンゴと同じ屋根と柱と床が木製で、そこに大きなテントを嵌め込んである。だが、 ここのバンガローは浴室までテントで覆われていたので、夜にシャワーを浴びるのも大丈夫 そうだった。
・・・おや?
入口は石造りの塀できっちり分かれていたのに、隣のバンガローが見える。距離が近いな。 窓がなく壁がテントという造りなので隣りの音がよく聞こえる。
ちと醒めた。

バンガローの周囲に高い木が植えられているせいか、陽射しが部屋に全然入らないので、 部屋が昼間っから異様に暗い。
電気はあるのだが、付けても大して変わらんのでやめた。エコ。

洋食 そして昼食を摂る為にレストランに向かった。レストランはオープンテラスになっていたので、 気持ちよかった。天気もいいし、少し風もあって爽やか。
レストランの従業員が全員黒人だったので、今度こそナミビアンランチか?
ところが出て来たのは、鶏ささ身のソテーとサラダと果物。
欧米か。
飲み物は今回も白ワイン。オルランドは相変わらずグレープタイザー。乾杯をして食い始めた。 他に客の影がなく、ここもオフシーズンなのかと思っていた。後でただ俺達が昼食には遅い 時間に着いただけだった事を知る。

昼食後は夕方まで休憩時間。ガイドがプールで泳いできたら?というような事を言う。
・・・またプールか。
さっき水は貴重だと言っていたが、プールに入れる水はある。矛盾してねーか?
とりあえずそれはきっぱり無視して、敷地内を歩く。

庭の一角に何故か竹林がある。竹はアフリカにもある植物なのか、無知の為わからんが、 風が吹き抜けると竹の葉が擦れ合う音がして、心地よい。
竹林の脇には小さな池があって、魚が泳いでいた。
・・・日本庭園?

置物じゃねー ここでぼんやりしていると、1人のおじいさんから話しかけられた。
日本人?と。
はい。と答えると、ここは日本の庭園みたいで、君には落ち着くだろう。というような 事を言われた。
・・・それを見破るとは、こいつ何者だ?

話をしてみると、このおじいさんはイギリス人で、日本人のホームステイを受け入れた事が あって、日本にも来た事があるという話だった。そして嬉しい事に日本を褒めてくれた。
残念ながら、俺はイギリスに行った事がないのでイギリスの話はできなかったが、おじいさん は色々と日本に行った時の話をしてくれた。
ただ、このじいさん、イギリス人でネイティブなせいか、やたらと早口で何を言っているか 聞き取れないところが多い。
ちょ、ちょっと待てー。
1ヶ所聞き直そうと思っても、その間にじいさんの話がどんどん進んでしまうので、聞く スキを与えてもらえない。
途中、何の話だかさっぱりわからんまま、曖昧に反応するしかなかった。

ただじいさんが、君は英語上手だね。と言ったのは聞き取れた。そこはすかさずいえいえ。 と謙遜しておいた。じいさんが褒めているのは発音で英語力ではない事は雰囲気でわかった。
また発音だけ褒められた。んー。

じいさんと別れて一旦部屋に戻って、少し休憩。友人達に絵葉書を書きながら若干うとうとし、 約束の時間になったので、集合場所へ向かった。

おや?集合場所にはアフタヌーンチーの用意が。
欧米か。
そしてそこには、大量の老婆が(失礼)いた。
ばあさん達は、黄色人と黒人という異質な存在である俺達が不思議だったらしい。次々に 話しかけてくる。

友達同士?
いいえ。彼は僕のガイドです。あなた方がちょっと想像したような怪しい関係ではありません。
どこから来たの?
日本です。
日本から?学生?
いいえ、働いています。
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。数えてみると12人。しかも全員がツレ。
このばあさん達はカナダ人で友人同士でツアーに参加して来たのだという。
1人のおそらく元教師らしいばあさんが、失礼か。おばあさんが、俺にどこに住んでるの? 外国で働いているの?と聞いてきた。どっちも日本です。
というと、あら、そう?と意外そうな顔をした。
理由は何となくわかるよ。黄色人の若く見える男が1人、黒人ガイドを従えてるなんてどんなセレブ? と思われたのだろう。ただのサラリーマンだよ。
このおばあさん達はみんな感じがよく、カナダがちょっと好きになった。

その後も続々と人が来る。こんなに泊まっているのか、ここには。全員白人。日本人はいないだろうと 思っていたが、何となく醒める。アフリカは白人達が侵略した土地。
そしてここで点呼の後、グループ分けをされ、豹探しに出発した。

やっと見た おばあさん達は12人もいるので、当然車は貸切。
ここで俺は説明を1ヶ所聞き逃して、違うグループの方へ行ってしまい、眼帯をした いかつい黒人のガイドの男に怒られた。
ちと間違っただけなのに、そんな怒らんでもいいやーん。
半泣きでべそかきながら出発。

豹担当のガイドは名前は忘れたが、ガラの悪い白人のねーちゃん。滞在中、このねーちゃんが 一番好感の持てる奴だった。
ねーちゃんは出発したところから異様なハイテンションで、若干車内の参加者達が引き気味でも、 ぐんぐん盛り上げていく。結構大雑把なのかな。と思ったら、説明も丁寧だし、参加者が写真を 撮りたいので止めて欲しいと思うところできっちり止まって時間をくれた。

出発して間もなく、目の前に1頭のオリックスが現れた。
おー、きれいな動物やなー。

そしてオリックスが去った直後、クドゥの群れが車の前をひょんひょん通り過ぎて行った。
おー、すげー。・・・お。
その中の一頭には角があった。そっか。クドゥの角はこういう風に付いているのか。朝見た角の 大きさや重さと照らし合わせて見れたので、クドゥが一気に身近な動物になった。

オコンジマでは、人間に親を殺されたり、交通事故に遭った動物達を保護し、治療し、この 保護区内に放す。その内、チーターや豹など猫類の動物は、生態調査の意味も込めて、発信機付きの 首輪を付けている。
なので、豹探しとチーター探しは、その発信機をレーダーで探す旅。
少し進むと車を止めて、レーダーで発信機の音波が出ている方向を探して、その方向へ向かう。

探している間も、クドゥやオリックス、スプリングボックやそれより小さい何とかボックとか、かんとか ボック(適当)を見られたので、探している間も退屈しなかった。

1時間弱程探しただろうか。発信機の音が強くなり始めた。そしてその方向に向かうと、別の車が 止まっていて、参加者達がばっしばし写真を撮っている所に遭遇した。

寝させてくれよ 見た。初の野生豹だよ。・・・半野生豹か。かっちょいー。
豹は藪の中にじっとしていた。
ねーちゃんが豹のちょっと前を見ろ。と言う。何か白い物体が落ちていた。
それは豹が狩った何とか(何か忘れた)で、それを食ったところなので、非常に眠そうにしているらしい。

様子を見ていると、確かに目が閉じたり開いたり、頭もふらふらしている。
・・・と豹が寝てしまった。結構かわいーじゃーん。ところが、やはり野生動物なのか、俺達のシャッター音に 反応して、すぐに起きる。そして危険ではない事がわかるとまたうとうと。

ふと前の席のおっちゃんがもっと近くで豹を撮ろうとしたのだろう。体を車から乗り出していた。 そしてガイドのねーちゃんに注意された。車から体をはみ出させると危険だと。当たり前だけど、車から降りても 駄目だよ。と言う。
俺達と豹の距離は約3m、そもそも俺達大丈夫なの?
と他の参加者が同じ事を考えたらしく、ねーちゃんに聞いた。
今は狩りが成功して腹いっぱいになっているので近づけているそうだ。やはり普段はこんなに近くに行けないん だよな。

豹を見られて満足の一行は、日が暮れ始めたのでロッジに戻る事になった。
引き返す途中で、孔雀とか七面鳥に似た鳥の群れを発見した。車の音が聞こえたらしく、慌てて尻を振って逃げて 行く姿がかわいかった。・・・走って逃げる?飛べよ。
っつーか、飛べない種類の鳥なのか。まあ、あそこまで丸々してたら飛べても飛べないよな。

俺も寝かせてくれよ 鳥から目を離すと、また別の車が中途半端な場所で止まっていた。また何か動物がいるらしい。
第2豹発見。
今度の豹はさっきの奴より見やすい草むらにいたので、豹柄のつくりがしっかり確認できた。
奴も食事が終わったところらしく、うとうとしていて、目が妙に座っている。ちと迫力不足。
ここで疑問が湧いた。確か豹は夜行性では?あいつもこいつもこんな時間にうとうとしてていいのか?
夜に備えて仮眠か?二交代せいか(意味不明)?

豹もあくびするのか。あくびは生物共通か。ばっかばかあくびをして、こいつも寝てしまった。
と思ったら、やっぱし耳がシャッター音に反応して、気を抜いてはいないのがわかる。たださっきの奴ほど 警戒している様子はなく、起きはしない。
ただ耳だけがぴくっぴくしている。かわいー。

満足してロッジに戻り、また少し休憩した後、夕食。
夕食のメニューは前菜と牛ステーキ。
欧米か。
同じテーブルにはさっきのイギリス人のじいさん夫婦と、ドイツから来た中年夫婦、スイスから来た カップル、そして俺とオルランド。

夕食が終わった後は、夜の動物観察に行く人は残り、行かない人は就寝。
カナダ人ばあさん部隊がいて、また少し話していた。すると1人のばあさんが、日本の●●市を知って いるか?と聞いていた。
そこは俺の実家のある市の隣りの隣り。だが外国人が知っているはずのない、小さな市。
実家の近所なんですが、何で知っているんですか?と思わず聞き返すと、ばあさん達の住んでいる街が その市と姉妹都市で、人的交流が結構あるとの事さった。
姉妹都市って結構聞くけど、本当に交流あるもんなんだなー。驚いた。
だから私は日本人をよく知っていて、日本人が好きなのよ。と言ってくれた。
・・・ひょっとして俺の事、口説いてますか?

すると別のばあさん達の1人が、若い子口説いてんの?って。
皆笑っていたが、俺は苦笑い。ただ、また少しカナダ人が好きになった。

そんな和やかな雰囲気のまま、夜の動物観察に出発した。のだが、ばあさん達は盛り上がってきてしまった らしく、ガイドが動物は神経質になっているので静かに。と注意してもしゃべりが全然止まらない。
暴走している年寄りほど、無敵なものはないよな。

夜の動物観察は、ロッジから程近いところにある専用の小屋に座って、小屋の前に作られた池に動物が やってくるのを待つ。ちと肌寒かったが、池の辺りで何かが既にがさがさ音を立てている。
昼とは違う動物達が見られるかもという期待に胸膨らんでいた。
参加者達が全員席に着くと、ガイドが池の方向に薄く光を当てる。

おーっ!!
声が出そうになった。出ている人もいた。ライトの先にはハリネズミ?ヤマアラシ?どっちだっけ?
遠くて暗くてはっきりとはわからんが、体長たぶん1m位で、背中に無数の針をおっ立てた動物が 2匹いた。うまく撮れなかったので写真はないが、嘘じゃない。
彼らはすぐに逃げてしまったのだが、ガイドが池の周りに餌をまき、再度呼び戻した。

ところが、戻ってきたのも束の間、慌てた様子で彼らが走って逃げた。俺らうるさかったか?と 思っていると、ガイドが別の場所にライトを当てた。

こんばんは 豹がいた。今日は豹づくし。
昼間見た二頭の豹達のどっちかなのか、別の豹なのかはわからんかったが、夕方と明らかに目の輝きの 違う豹がいた。
俺、ひょっとして目が合ってない?か、狩られる?
しばらく豹は池の周りをうろうろしていた。まだ豹を見ていなかったらしいカナダ軍団が感動していたが、 俺も感動していたが、実は俺達にとってはいい事ではなかったらしい。
ガイドが、豹が現れると、もう他の動物が今夜ここにやって来る事はないので、ここで終了にします。 と説明した。

そっか、そういう事か。豹がいるのがわかっていてのこのこやって来る動物は、そらおらんよなー。
他にどんな動物が見られる可能性があったのかはわからんが、ヤマアラシを見る事ができたので、 俺は満足していた。
暗い道をみんなで歩いて帰り、お開きとなった。

部屋に戻ると、全部締め切ったつもりだったのだが、やはり虫達が飛んでいた。
おかしーなー。
煙を出すと隣りのバンガローに迷惑がかかりそうな距離なので、今日は蚊取り線香は断念した。
シャワーを浴びて、身体中に虫除けスプレーをかけまくってベッドに入った。
部屋に虫除けと殺虫剤が備え付けられていたが、外国製は日本人には合わないかもしれと思い、 使わない事にした。
ベッドに入って寝ようとすると、やはりテントの壁がかさかさいう。エロンゴでもここでも犯人は トカゲだと思う。人間に害はないのはわかっているが、頭の近くでかさかさいわれると気になる。
そのうえ、ここでは何かが俺のバンガローの周りを歩き回っている気配がした。何かブモブモ いいながら歩いている足音がする。
怖くて確認できなかったので、気付かないフリをして寝る事にした。なので、その動物の正体は 今もって不明。


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