7日目
オコンジマゲストファーム
何か動物の鳴く声で目が覚めた。・・・豚?
本日の朝のアクティビティはチータートレッキング。
待合せ場所に向かっている途中で、ばあさん軍団のメンバーに会った。 もうちょっと早く起きてくればよかったのに。と言う。え、何で?
待合せ場所は少し高く展望台のようになっている場所で、サバンナが見渡せるようになっていたのだが、 ばあさん達が指差した先のサバンナには、ある動物がいた。

いるなら言ってくれよー えーっ。ライオン、いたのか。ここの保護区には。
チーターや豹にばっかし注意が行っていて、ライオンがいるという発想がなかった。
そうか。いたのか。
写真は雄だけだが、もう少し遠い所に雌ライオンもいた。
ばあさん達の話によると、少し前まではこのライオン達がこの展望台のすぐ近くまで来ていたらしい。 そして吠えていたらしい。
・・・豚だと思っていたのはライオンだったのか・・・。すみません。

全く予想していなかったライオンを見た事で、顔には全く出ないが、早朝から非常に気分が高揚した。 オルランドからライオン見た?と聞かれて、見た。と自分なりに興奮した状態で返事をしたのだが、 オルランドは、非常に不審そうな顔でよかったね。とだけ言う。
・・・駄目?本当に高揚していたんだが。

めたぼりっく チータートレッキングのガイドは金髪青目の典型的な白人の若い男。ちとロンゲでいかにも「女こまし てまーす。」という雰囲気だった。
外見がうさんくさいぐらいなら、別に何とも思わなかったのだが、この男は好きになれんかった。
まず俺がこいつに挨拶すると、一応挨拶を返すのだが、俺が通り過ぎると英語ではなくドイツ語で 他のガイドの男に何か言って笑う。ドイツ語だという事は言葉の響きでわかるのだが意味はわからん。
間違いなく黄色人に対して非好意的な事を言っているのは、周りのドイツ語のわかる人が、その時に 俺を見た目でわかった。

まあ、お前と友達になる訳ではないし、前にネルソンが中国人をからかっている所を見ているから、 そんなに気にならなかった。これだけならこの男を嫌いにはならんかった。

だから、こいつに対しては何の感情も見せずに無表情を通す事にした。
これは結構効果があったと思う。黄色人を見下してて興味のない相手が一番恐れるものは、無表情。 知らない相手が無表情だと不安になるのは世界共通だろう。この後、こいつが俺に対してからかいの 言葉を言う事はなかった。

とりあえずメンバーが揃って出発した。今回の参加者は、前日の夜にテーブルが一緒だったスイス人 カップルとドイツ人らしい2組の夫婦のグループ、それとフランス人夫婦。

今回もチーターが目的の為、レーダーを使って探す。
ガイドの男が英語で解説をするのだが、こいつの英語が強烈になまっていて全然理解できない。 何を言ってるのかすらわからん。どうやらわからんのは俺だけではないらしい。
スイス人カップルの女がガイドの男に何度も何度も質問をし、それをドイツ語で周りの人達に 解説している。そしてドイツ人達が納得したようにうなずいている。
めでたしめでたし。じゃねー。
俺とフランス人夫婦は何一つ理解できてねー。
ま、いっか。動物さえ見られれば。

後で気付いたのだが、このドイツ人夫婦達の内、歳を取っている方の二人はただ単に英語が わからないようだった。
白人でも英語がわからん人がいるんだな。不思議だった。

しばらくチーターを探しながら車を走らせて行くと、車の中がにわかにさざめき立った。
おーっ!!キリンだー。遠くの方の高い木の辺りに、キリンが三、四頭見える。
おー、かっちょいー。野生のキリンが初めてだったが、悠々としている姿は非常にかっこよかった。 車の中の全員がカメラとビデオを取り出したその瞬間。
ぶいーん。
何も言わずにガイドの男は車を走らせ、急激にキリンから離れた。
え?
あまりの急な出来事に参加者全員の目が点になっていた。俺の前に座っていたスイス人カップルが 俺の方を振り向いて、「写真撮りたかったね。」と言った。俺も大きくうなずいた。
あー、今日のガイドがあのねーちゃんなら、絶対写真撮れたのにな。
という事で、キリンの写真はない。
おいおいにーちゃん、俺達がチーター以外の動物に興味ねーと思ってんのか?

その後もこの男は、チーター以外の動物のところでは俺らが大きな声で写真を撮る!と 主張しない限りは車を止める事もなく、自分のペースだけで進んでいった。

おいちい 発信機の音が大きくなってきた。今回は車を降りて歩いて探索する。
いた。
初チーターだよ。こいつが見たくてここまで来たんだよ、俺は。
チーターは食事中だった。昨日の豹といい、チーターといい、ここは狩りの成功率が高いのか? 静かにしているように言われたので、黙って写真を撮りながら5m程先にいるチーターを 見つめていた。
聞こえるのは風の音とチーターががりがり言いながら何とかボックを食っている音だけ。

首輪を付けているのが非常に気になった。首輪だけならいいのだが、そこに付いている発信機が 重そうなのと、そこから伸びるアンテナは邪魔なんちゃうかなー。と少し気の毒にさえなった。
そして頭の片隅にはキリンがいた。

動物いねー めでたくチーターを見る事ができたので、ロッジに戻る事にした。
その途中で、大きな池の近くを通りがかった。テレビ番組とかなら、こういうとこには 必ず何かの動物がいるはずなのだが、残念ながら鳥が何羽かいるだけだった。
だと思っていた。
だがスイス人の男がそこから少し離れた先を指差して、何かいる。と言う。
・・・?俺には全く何も見えませんがー。
ガイドの男も何もいないぜ。と言うのだが、スイス人カップルは譲らずに、絶対何かいた。 と言い張る。ガイドの男が何か言い返そうとした時、もう1人いた黒人の運転手が 「チーターだ」と言う。

恐るべしスイス人。山々が広がる国だから視力がいいのか?
ガイドの男がばつの悪そうな顔をしながら、チーター見たいか?と聞く。もちろん車内一致で 「イエース!」と絶叫して車をそっちの方に向かわせた。

見っかっちゃった? いるやん。しかも二頭も。
この二頭は兄弟だという事だった。仲よさそうでいーねー。
でもやっぱ発信機とアンテナが気になるんだよ。あれで藪の中とか通り抜けられるのだろうか? チーターは藪の中を通り抜けられない。と言われればおしまいだが、動物の生態なんて100%は わからんやん。ひょっとしたら。と意味不明な事を考えていた。

どうやらこのチーターも食事後だったようで、ぼーっと横になっていた。結局豹もチーターも 非常に近くから見られて幸運だったけど、走っているところが見られなかったのはちと残念だった。

この後は何も動物を見る事もなく、ロッジまで戻った。
昼食の時に、チータートレッキングには参加しなかったオルランドに、どうだった?と 聞かれたので、キリンを見たけど写真を撮れなかった事と、チーターは三頭見たので満足だった事を 話した。
ガイド先生のオルランドから、今日のガイドはどうだった?と聞かれた。とりあえず、彼の英語が よくわからんかった。と正直に報告した。
オルランドが彼はアフリカーンスなまりがひどくて、僕も彼の英語を理解するのに苦労するんだ。 と言う。
オルランドはここには何回も来た事があるので、ここのガイド達もよく知っているらしい。
アフリカーンスなまりって事は、この国か近隣のアフリカ生まれっつー事か。そら差別主義ばりばり だろうな。差別主義は治らんだろうから、なまりは治せ。

じみ 昼食後は、夕方のアクティビティまでまた休憩。
ここの敷地には、餌を撒いてある所が何箇所かあるので、そこに集まっている鳥達を見ながら ぼーっとして過ごした。
当たり前だが日本では動物園でしか見られない鳥達が、日本でいう鳩とかスズメのように わんさかと餌に群がる姿はちと異様だった。

敷地内には小さな土産物屋があった。前日の昼は閉まっているようだったのだが、この時は ドアが開いていたので、何か買おうと中に入ってみた。
出た。
中はカナダ人軍団でぎゅうぎゅうだった。

ばあさん達とあいさつをしながら、中を見て回る。ここは服屋か?と思うほど、中には服ばかり だった。そしてほとんどが婦人物で、あんまし土産になりそうなものはないか?と思ったが、 小物類はちと面白かった。ナミビア土産というよりもオコンジマのロゴの入った商品が多かった。
ここでいくつかの土産を買った。あとはヴィントフックの空港で買おうか。
一緒に絵葉書を買ったので、また休憩時間を利用して友人に絵葉書を書いた。

夕方のアクティビティは、学習プログラム。オコンジマがどんな事をしているかを学ぶ。
今回のガイドは・・・が、眼帯。
昨日怒られた眼帯をした黒人の男だった。
怖いからおとなしく目立たないようにしていよう。白人達の中で目立たないのは絶対無理だが、 極力目を合わさないように車に乗った。

書くのを忘れていたかもしれんが、ここでのアクティビティで乗る車もトラックを改造して、 荷台に階段状の座席と屋根のついた仕様の車。つまり、どの席に座っても頭が出てしまう。
うえーん、怖いよー。どうしても前を向くと目が合うよー。

おとなしく待ってるよ 参加者達が向かったのは、大きなケガをしたり、親を人間に殺されたりして自力では生きていけない チーターの子供達を野生に戻す為のリハビリ区域だった。
といってもその区域に入ってもチーターの姿はない。
・・・?
すると眼帯男がバケツを取り出して、ここのチーター達はまだ自力で餌を取れないので、餌を 与えないと生きていけないんだよ。と説明した。
そっか。でもどうやってチーター達に近付くんだろう?

すると、眼帯男がいたずらっこのような目をして、これから僕の特技を見せるよ。と言いながら、 動物の鳴き声のような声を出し始めた。

え、えーっ!!!
するとものの5分も経たない内に、あっちからもこっちからもチーターがわらわらわらわらと 何頭も藪の中から現れた。
す、すげー!!!
百戦錬磨のガイド王オルランドもこの技には非常に驚いていた。

しかも出て来たチーター達は猫が甘えるようにミャーミャー鳴きながら、車の周りに待機し 始めた。横になって待つチーター、犬のように座っているチーター。これはかわいい。かわい過ぎる。

ちょーだい ここのチーターは、みんな優しい顔をしている気がした。体つきもふっくらしているように見えた。
前日のチーターの目はもう少し鋭かったような印象があるのだが、ここのチーター達は狩りをしない せいか目がみんな優しかった。

ここである参加者が眼帯男に質問をした。豹とチーターの違いは何ですか?
違いについては、生物学的な事とか色々あるのだろう。眼帯男が始めに長々と難しい単語を 並べて解説していたのだが、単語の意味がさっぱりわからなくて聞き流した。
だが眼帯男が最後に、豹とチーターを見分けるコツを教えよう。といって、チーターの顔を 指差した。一番簡単に見分ける方法は、顔に黒の二本線が入っているのだがチーター、 線が入っていないのは豹。

お、それはよくわかるねー。眼帯男の知識は非常に豊富だった。そして、俺が熱心に彼の言っている 事を聞き取ってうなずいているのを見て満足しているようで、こいつも前日より目が優しかった。
おそらく俺より年下だと思われるが。

そしておもむろに車に置いていた白いバケツを持ち上げた。
すると待っていたチーター達が全員車に向かって来た。ミャーミャー言う甘えた鳴き声も最大音量に なっていた。
眼帯男が白いバケツの中から何かの肉を取り出して、チーター達の方に放り投げ始めると状況が 一変した。
チーター達が肉を奪い合ってすさまじい騒ぎが巻き起こり、彼らが肉食獣だという事を思い出した。 鳴き声の種類もミャーミャーからシャーシャーやギャーギャーに変わっていて、怖かった。

さすがにこの渦中に入っていったら間違いなく俺も食われちゃうな。という程チーター達は 興奮状態だった。すげー。

もうないなら帰るよ その騒ぎが10分程続いて、肉が全部無くなった。
するとそれまでの騒ぎが嘘のようにチーター達の鳴き声が止んで、またあっという間にチーター達は 藪の中にすーっと消えて行った。

チーター達が消えた後、また参加者の1人が眼帯男に質問をした。
あのチーターを呼ぶ技はどうやって身に付けたのか?
それは俺も含めて参加者全員が知りたいと思っていた事の1つだった。

眼帯男の話によると彼はジンバブエの出身で、以前はジンバブエでハンターをやっていたらしい。その時に 動物を呼び寄せる声を色々と覚えたらしい。
ところがある日、・・・何の動物か忘れた。豹かライオンか何かの肉食獣に襲われて、一緒にいた仲間の1人は 死に、眼帯男は片目と片足を失った上に、腹から内臓がはみ出る程の重傷を負って病院に運ばれた。
何とか九死に一生を得た彼だったが、恐怖感からハンターを続けられなくなり、オコンジマにやって来た。

壮絶な人生だな。眼帯の理由はそれだったのか。参加者全員が言葉を失っていた。
眼帯男は気軽な感じで自身の壮絶な人生を語った後、笑顔を見せて、じゃ、移動するよ。と言って 車を走らせた。

次に訪れたのは、ゲストファームに隣接した医療施設。事故にあったり人間に傷付けられた動物達が 運ばれてくる手術室などを見学した後は、オコンジマを経営するアフリキャットの説明があった。
俺達が宿泊しているゲストファームの宿泊料がバカ高いのは、宿泊料の一部をこっちの基金に募金 している事になっているらしい。

きれいだけど何か小汚い 一通り説明が終わった後、他の動物達が保護されている区域を見学した。
イボイノシシや、まだ運動もできないチーター等の動物が数多くいる中で、俺達が見せてもらった のはリカオン。
リカオン達には大変申し訳ないのだが、風貌もかわいいし、毛並みもいいのだが、何故か小汚く 見える。何でだろう?しかも動作に落ち着きが無くて、それが何故か貧乏臭さが倍増されている。

よく見ると身体に使われている色自体は、シェパードと同じだよな。でも配色が違うとこうも 違うものなのだろうか。しかも微妙に匂う。
すると眼帯男がまた不思議な声を出し始めた。するとリカオン達の寝ていた耳がぴんと立ち始めた。 何かを警戒しているような動き。
お、耳が立ってると、ちょっとだけ可愛くなった。
そして彼が何かの草を投げ入れると、何故かそれにリカオン達が歯を剥き出して寄って来る。こいつら 肉食じゃないのか?餌と間違えているような動きに見えるんやけど。

そして勉強会は終了した。
この日の夕食は、俺達2人だけが何故かレストランの外の席。ただ満員だっただけなのか、どうなのか。 見下されているとしたら怒るべきなのだが、あんまり人と話をしたい気分じゃなかったので、オルランド と2人だけでしゃべってりゃよかったのが気楽でよかった。
カナダばあさん達が、あなた方特等席ね。と口々に言いながらレストランに入って行った。
この日も夜の動物観察に行って来たが、前日と同じハリネズミがいただけで不発に終わった。


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