<カバン爆発>

スペインからポルトガルに入った初日。
その時俺は空港からのバスを降りて、泊まろうかと考えていたホテルに向かって歩いていた。
初めてのリスボンの街はもう3月という事もあって非常に暑かった。
そんな陽気の中、ぶ厚いジャンバーを着てた上に、とても重いカバンを持ってた為、かなり必死に歩いていた。

そのホテルの看板が見え始め、あと50m位の距離に差し掛かったところで信号 が赤になり、俺は交差点に無防備に立っていた。
そして信号が青になり、歩き出そうとした瞬間「ぼふっ」と大きな音ではないが、 濁った音がして、腰の辺りにあったカバンの位置が下がった。

心臓が一瞬止まった。

最初は、後から誰かが引っ張ったのだと思った。
全身が一回凍りついて、でもその人物を振り払おうとして、カバンを振り回した。
・・・?
カバンは何の抵抗もなく、弧を描いて俺の正面にこんにちは。とやって来た。
あれ?と思ってカバンを見ると、肩にかける紐と本体との接点及びその辺りから 延びている縫い目がぱくっと開いていた。
その時点でも、切られたのかと思って無造作に後を振り返ってみたけど、人一人いやしねえ。

カバンは勝手に爆発しただけでした。
荷物詰めすぎだよ・・・。
幸い中身は道にこぼれていなかったので、破れた部位を押さえてとにかくホテルに向かった。
ここが満室だったら・・・。
その時の俺なら1泊5万円ですと言われても絶対そこに泊まったに違いない。
幸いな事にお値段も手頃で空室もあった。
というよりも、値段の割にかなりきれいなホテルだった。
(どれ位の値段かは忘れたけど、その当時の俺の中では1泊5千円以上は、 超高級ホテルという認識。)

問題はここから。
ぱっくりと爆発したカバンは修繕のしようもない為、これではどこにも移動できない。
仕方ない。百貨店にでもカバンを買いに行くか。
とガイドをじっくり見たけれど、紹介されてねー。
ホテルの人にデパートメントストアーはありますか?と聞いてみたけど、首を傾げる。

そう。今はどうか知らんが、当時リスボンの街には百貨店がないか、あっても ないのと同じような状態だったんだよ。

途方に暮れながら、何か情報はないかと何度も何度もガイドブックを読んでいた ところ、少し中心部から離れたところに新しいショッピングセンターができたと 載っていたのを発見した俺は、飛んで行った。

確かにカバンは売ってました。
売っていたのは、国籍不明のロゴの入っている1ヶ3,000円程度のカバン。
これはお値段は問題なかったが、元のカバンよりも2周り程小さいものしかなく、 買うなら2つは必要。
対しまして、大きさがちょうどいいものは、グッチやヴィトン等のブランドショップに 置いている、入れる中身よりもカバンの方が2倍以上高い事が鉄板のカバン。
あなたならどっちを選びますか?

答:どっちも買わない。

そのだだっ広いショッピングセンターを約3時間かけて、カバンが置いてそうな店 を全軒のぞきたおした。
そして、ラコステ君で常識的な値段に大きさも問題ないカバンを発見、即決。
だけど、そのカバンは俺のコスビー君と比較すると、高さが2/3、長さが3/2と 非常に横長のカバンで(何の用途?)大変持ち運びには不便でした。

その時はとても役立ったのだが、日本に持って帰って早や10年近く、一度も 使用した事はない。

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