<珍獣>
そこはルーマニア、シビウの街。
何があるというか、何もないというか、ルーマニアで少し都会風の地方都市とでも
いうのであろうか。
現代的なビルはないが、昔ながらの生活を頑なに守っているという感じでもなく、
ほどほどという感じ(どんな感じだ)の街。
前項の<在りし日のTAROM>以降の話である。
バスで街に着いてすぐにホテルにチェックイン(今回はスムーズにホテルが
取れました。)した俺は、早速街のメインストリートに向かった。
その日はたまたま何かの祭があるらしく、街の広場では、移動遊園地の準備を
する人達が。
そしてメインストリート沿いにも露店のようなものがちらほらと出始めていた。
この辺りの家の外観は独特で、屋根裏部屋の窓が人の目のような形になっている。
最初は違和感に全く気付かずにそのメインストリートを往復して、広場から
別の方向に伸びている道を歩いて、写真を撮ったりして普通だったのだが、
時間が経つにつれ祭の為か人出が増えてきて、その違和感に気付き始めた。
・・・俺、見られてる?
遠くから歩いて来る人がこっちに気付いた途端、俺に釘付け状態になってくのが
わかる。
俺とすれ違った後も、振り返ってみると向こうも振り返ってじっとこっちを見てる。
前日にブカレストのホテルで黄色人種差別に遭ってたから、ここでもそうなのか。
とがっかりして、でも気にせずに散策を続けたのだが、何だか様子が違うような
気がしていた。
差別している人を見下す目付きじゃないのである。
何だべ?と思って、振り返って目が合った人に笑顔で手を振ると、向こうも笑顔
で手を振り返すのである。
そっか、ただ単に日本人が珍しいだけか。
これまでの旅行でも顔立ちののぺっとしたアジア人を不思議そうな顔で見る人は
いたから初めてではないのだが、これ程すれ違う人がみんなじろじろ俺を見ると
いう経験はなかったので、差別じゃないとわかったら逆に恥ずかしくなってきた。
何故かそこから下向き加減になってしまって、ああ、芸能人ってこんな気持ちで
外を歩いてるのかなとか、思い上がった感想を抱いていた。
しばらくして寒くなったので、喫茶店に入ってコーヒーなんぞ飲んでいたら
(ちなみにここでもパパナッシュはないかとチェックした。なかった。)、
30代位の10歳位の子供を連れた夫婦に話しかけられた。
そしてその様子を店内中の人が見ている。
窓際に座っている俺を、店の前を通りすがりに俺を見止めた人達がじろじろ
見ながら通る。
すげえ人数の人目。
夫婦が第一声、「どこから来たの?」
「日本です。」
「ほーっ。日本から?1人で?仕事?観光?」
とあちこちから話しかけられ、丁寧に答えていく。
英語の出来ない人にはにわか通訳まで付いている。
その間、ずーっと子供の視線は俺に釘付け。
そして、その中の1人のおっちゃんがぼそっと言ったのが、
「TVじゃなくて生で黄色人種見るの生まれて初めて。」
他の人も口には出さなかったけど、子供はもちろん、ほとんどの人がそうだった
のだろう。
おそらくシビウ自体に黄色人観光客が来る事自体があまりなかったのだろう。
日本語で名前を書いてくれ。と言われて書いたら、反応のすごい事すごい事。
まるで芸能人のサインでも見てるかのように現地語で色々言い合っている。
今はどうか知らないけど、芸能人気分を味わいたいあなた、シビウへ急げ。
但し、相手は君の事を珍しい動物だと思っているぞ。
旅の記録目次へ |
在りし日のTAROM |
彼らのお仕事 |