その名はノイジ−2

   島野と杉原が注文したピザが届いたので皆作業を中断した。

 パソコンが入っていた段ボール箱を並べてテーブル代わりにし、その上にピザやサラダ、缶ジュースを並べた。

 「ベティさんとスージーさんはアリゾナの警察官をされているんですか?」

 島野が聞いた。

 「私はCIAのエージェントよ!このモンキーは警官だけど」

 スージーがベティをバカにするような表情で言った。

 「モンキーがどうしたって?」

 日本語は良く分からないベティだったが『モンキー』という単語は理解できた。

 「あのう〜、河村さんから聞いたんですけど何か厄介な事件に巻き込まれているって…」

 杉原が聞いた。

 「向こう(アリゾナ)での作業は困難だと分かったので、このモンキーと私が護衛して来たというわけ」

 「へえ〜」

 島野と杉原は良く分からなかったが何となく感心した様子だった。

 ベティはアリゾナでの事件の事を話しているのを言葉の端々から理解し

 「それがすげえ事件でよエイミー(笑子)のボスのリッチーなんかスペアリブみたいに手足バラバラにされて殺されてよ、リビングに転がってたよ」

 とスペアリブを食べながら言った。

 その話を聞いた島野と杉原は思わず食べ掛けのピザを吐き出しそうになった。

 ※2人は英語は堪能

 その様子を見た絵美は訳が分からず心配そうな表情で2人の顔を交互に見た。

 「それだけじゃねえ、エイミーの家はバズーカで粉々よ。ついでに間抜けなCIAのエージェントも吹っ飛んじまったけどな。周囲の状況を的確に把握せずに短絡的な行動に出た結果さ」

 ベティが言うとスージーは顔を真っ赤にして

 「シャラップ!彼女は優秀な捜査官だったわ。あんたみたいなモンキーにとやかく言われる筋合いは無いわ!!」

 と怒鳴った。

 「又始まった」

 絵美が呆れた顔をして言った。

 2人と同居する絵美にとっては日常茶飯事の事だった。

 「2人とも良い人なんだけど、どうしてケンカばかりするんだろう…」

 絵美が寂しそうに言った。

 「あの、どうしてカルト教団が『地獄耳』の秘密を嗅ぎつけて来たんですか?」

 長沢が恐る恐る笑子に聞いた。

 「私にはサッパリ」

 笑子が言った。

 「どうやら背後に巨大な組織が関わっているみたいなの。教団自体は人数は多いものの所謂ゴロツキ連中ばかりなので統率も取れていないし頭の切れる人間も居ないようだけど今回の事件(リッチーの殺害)は鮮やかな手口から見て明らかにプロの仕業なの…」

 皆スージーの話に聞き入った。

 いやベティだけは日本語はサッパリだったので皆の表情を見ながらスージーが何を言っているのか想像していた」

 フロア全てをパーテーションで仕切るのは時間的に不可能なので女性用の更衣室(兼サボリ部屋)と仮眠室それにリビングだけを仕切り地獄耳はフロアの真ん中にポツンと置かれた。

 屋上に据え付けた衛星放送用の小さなパラボラアンテナとパソコンを繋ぎ静止衛星を介して『地獄耳』を搭載したスパイ衛星と交信した。

 かに星雲の方向には杉原たちが発見した謎の星団が散らばっていた。

 先週アリゾナでジョニーとカルロスが開発した新しいアンプリファイアーを搭載した衛星が昨日打ち上げられた。

 そのテストも兼ねてのものだが中々素晴しいものだった。

 従来までのアナライザーでは謎の星団は白い点として確認できるだけだったが、夫々に固有の色が認められるようになり、まるで万華鏡を覗いているように美しかった。

 ※ただ色に関しては夫々の固有スペクトルに対し適当な
  ものを付けているだけで実際のものではない。

 「きれい!」

 絵美がモニターを見ながら言った。

 「これが例の星団ですか」

 太田が言った。

 「しかし、これだけ大きなものが現れてナゼ世界は大騒ぎしないんですか?」

 長沢が不思議そうに言った。

 「ちょっと待って!」

 笑子は長沢の言葉を遮るように言った。

 その言葉に長沢は少し『むっ!』とした様子だ。

 笑子は別のモニターに『かに星雲』を映し出した。

 「これがハップル望遠鏡が捉えた同じ場所よ」

 笑子は長沢の方に向き直りながら言った。

 「それにしても、これだけの質量が太陽系に存在するにも拘わらず夫々の惑星の軌道は全く影響を受けないというのは、どういうことですかね?」

 太田が言った。

 「そこなのよ、スペクトルを少し調べたんだけど全体としては可なりの質量が有るのは確実だけど他の惑星(地球も含むんだけど)全く影響を受けてないのよ」

 笑子が溜め息交じりで言った。

 「ダークマターの可能性も?」

 長沢が言うと笑子は頷きながら「大いに有るわ」と言った。

 「とするとですよ、このシステムを空のあちこちに向けて調べるとダークマターの分布を調べる事も可能では?」

 太田が少し興奮気味に言った。

 「それがね…」

 笑子・太田・長沢の専門的な話に周りは完全に取り残され、買い物途中で他所の奥さんと世間話をするママを見上げる子供のように杉原・島野・ベティ・スージーそして絵美は呆然と彼らを見つめるだけだった。

 翌日から本格的な解析作業が始まった。

 杉原と島野は今まで同様に地獄耳から送られてくるデータを加工して印刷する作業をし、長沢は笑子の指示に従い補助解析ソフトを開発し太田は京都大学のスーパーコンピュータを使ってスペクトルを解析した。




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