DL7PE Micro Vert Antenna の動作解析
DL7PE Micro Vert Antenna の動作解析をアンテナ解析ソフトMMANAで行うにあたってアンテナ定義をどのようにするか、すなはちアンテナのモデル化がまず問題になります。
特に同軸ケーブル先端からトロイダルコアまでの同軸ケーブルの扱いとトロイダルコアに同軸ケーブルを巻いたRFC部分及びトロイダルコアからリグまでの同軸ケーブルの扱いです。また、このアンテナの給電点をどこと考えるかも問題です。
このアンテナはアルミパイプによるラジエータ部分とカウンターポイズとDL7PEが呼んでいるトロイダルコアまでの同軸ケーブル部分の長さがアンバランスになっているため、同軸ケーブルの芯線と同軸ケーブルの外部導体(シールド部分)に流れる向きが同じコモンモード電流が流れ、トロイダルコアに巻いた同軸ケーブルがRFCの役目をして、同軸ケーブルの先端からコアまでの同軸ケーブルの外部導体が高周波的に切り離されアンテナエレメントとして動作していると思われます。
また、この同軸ケーブル部分にはコモンモード電流と同時にノーマルモード電流も流れていることを忘れてはいけません。なお、これらの電流については別々に考えます。この点については後述します。
DL7PEは同軸ケーブル部分からはほとんど電波は出ていないと文献に書いていますが、実際に同軸ケーブルのエレメントに蛍光灯を近づけると点灯するのでそのようなことはないと思います。これは多分DL7PEが行ったアンテナの実験環境の問題ではないかと思います。
同軸ケーブルが本来の給電線として動作している時、同軸ケーブルの芯線と外部導体(シールド部分)に流れる電流は、お互いに向きが逆で大きさが同じノーマルモードです。ノーマルモードの電流は互いに打ち消しあいますからノーマルモードの電流に対してはトロイダルコアの挿入は無視されます。
インピーダンスやVSWRの測定は同軸ケーブルに流れるノーマルモードの電流で測定します。
Feeding Point(給電点)についてDL7PEはトロイダルコアに巻いた同軸ケーブルのリグ側接続点と述べていてVSWR等の測定もそこで行っているようですが、オリジナルのDL7PE
Micro Vert Antennaのカウンターポイズ部分の同軸ケーブル長は約0.2λで、その長さとトロイダルコアに巻いた同軸ケーブルの長さαを足した長さは約0.2λ+αです。αはトロイダルコアの種類と同軸ケーブルの種類および巻き数を決定すればほぼ一定の長さです。
アンテナのインピーダンスを測定する場合、接続する同軸ケーブルの長さは短縮率を考慮した波長λgで考える必要があり、例えば特性インピーダンスが50オーム系の同軸ケーブル3D-2Vや5D-2V、あるいはRG58A/Uを使用した場合、いずれも誘電体はポリエチレン充実形で波長短縮率は約67%です。すなはち
λg=0.67λ ですから長さ 0.2λの同軸ケーブルを電気長で表すと0.2985λgとなり、トロイダルコアに巻いた同軸ケーブルの長さαを含めると低いバンドでは約0.3λgになります。
ローディングコイルと同軸ケーブルの接続点のアンテナインピーダンスを測定する場合、約0.3λgの同軸ケーブルを介して測定していることになりますから注意が必要です。
測定するインピーダンス値が50Ωに近い値の場合は特性インピーダンス50Ωの同軸ケーブルを使用して測定する限り同軸ケーブルの長さにはあまり関係がなく、測定誤差も小さいのですが、インピーダンス値が50Ωから離れた値になるにつれて同軸ケーブルの長さにより測定誤差が増大します。
アンテナが共振していて純抵抗成分のみになっていても、約0.3λgの50オーム系同軸ケーブルを使用してアンテナのインピーダンスを測定した場合、リアクタンス成分が残っている様な結果になることもあるので調整時には気をつけなければなりません。
また、その逆の現象、約0.3λgの同軸ケーブルを介して測定するとあたかもアンテナが共振しているかのように純抵抗成分が測定されるが、実際のアンテナは共振していない、すなはちリアクタンス成分が残っていることも起こります。
そのような理由で、今回の動作解析ではこのアンテナの給電点は同軸ケーブルとローディングコイルとの接続点としてインピーダンスやVSWRの計算を行っています。また、実際のインピーダンス測定を行う場合は、特性インピーダンスが50Ωの同軸ケーブルのトータルの長さが、測定誤差に関係がなくなる1/2λg×n
(nは整数 n=1,2,3・・・)の長さになるように調整してアンテナのインピーダンスを計りました。
この問題については後述の DL7PE Micro Vert Antennaの給電点インピーダンスについて の中の 「オープンスタブとショートスタブ」 の項で詳しく述べていますので参考にして下さい。
なお、測定f=1kHzを使用した理由については「GAN's掲示板」をご覧下さい。
インターネットで検索していたら 「高周波回路 OnWeb 計算プログラム」by JR6BIJ のFBなサイトを見つけましたのでインダクタンスの計算に利用させてもらいました。
「トロイダルコアコイル」の項目の中にある「トロイダルコイル関連計算V1.01」を使用するとトロイダルコアに巻いたコイルのインダクタンスを簡単に計算できます。
早速フェライトコア、FT-240#43に線材を10ターン巻いた時のコイルインダクタンスを計算してみました。
上記の計算からフェライトコア、FT-240#43に10ターン巻いた時のインダクタンスLは124μHですからf=21.2MHzにおけるリアクタンスXLは XL=2πfL で約16.5KΩです。
YHP 4261A LCR METERの測定f=1kHzでのインダクタンス測定値L=155μHに比較すると計算値は約2割減少した値になりました。
MMANAで計算する場合のアンテナ定義ではRFCを集中定数として取り扱い、実際にトロイダルコアに巻いた同軸ケーブルのインダクタンスを測定して使用周波数でインピーダンスが10KΩ以上のコイルに置き換えています。
また、MMANAでコアとリグ間の同軸ケーブルも定義して計算してみましたが、ほとんど電流が流れていないことが確認できましたのでアンテナ定義(モデル化)の簡略化を行いました。
上記のような理由でDL7PE Micro Vert Antennaを給電用ケーブルの途中にトロイダルコアを利用したRFCを挿入して同軸ケーブルの外部導体をアンテナエレメントとし、片側はアルミパイプとローディングコイルを使用した不均衡な短縮型半波長ダイポールアンテナと定義しました。
私が製作したExtended DL7PE Micro Vert Antenna は同軸ケーブルのカウンターポイズ部分が1/4λより長く、構造的には偏給電・短縮型半波長ダイポールになっています。
次は実際に製作したアンテナの各寸法でのMMANA計算値と実際に測定したVSWR及び給電点インピーダンス周波数特性の比較を行います。