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「鳥取農政懇話会 会報51号 2008年3月」 鳥取農政懇話会事務局


  1. 巻頭言 品目横断的経営安定対策の見直し
    会員 上田 弘美



  2. 小島志講座 いまこそ「農」を語るとき
    顧問 小島 慶三



  3. 主張 農山村の観光的機能―地域振興策のなかで―
    会員 石原 昂



  4. 主張 JA馬路村に学ぶ  会員 上田 弘美


  5. 主張 開け!「鳥取のナシ」新時代  会員 井上 耕介


  6. 主張 鳥取県農業は地産「他」消で伸びてきた
    会員 井上 耕介



  7. 主張 ジゲおこし―地産地消―食のみやこ
    会員 井上 耕介



  8. 主張 農作物からの「食育メッセージ」  会員 川上 一郎



■鳥取農政懇話会報51号表紙
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1.巻頭言 品目横断的経営安定対策の見直し 会員 上田 弘美


 新しい食料・農業・農村基本計画により、平成19年度から品目横断的経営安定対策を導入することとなった。この対策は従来の価格政策から所得政策へと転換するものであり、品目ごとに全農家を対象とするものから、農家の経営全般に着目し、意欲と能力のある担い手を対象とするものとされた。この新政策は戦後農政の大改革と呼ばれ、農業の国際化時代に対抗できる担い手を育成することが命題となっていた。
 このように大きな期待のもとに平成19年度の新事業が発足したが、早くも初年度中途でこの新政策の大幅な見直しがなされることとなった。直接的な原因は、平成19年7月に実施された参議院議員選挙の結果である。民主党の提案した農業者戸別所得補償制度に対して、国の推進している品目横断的経営安定対策は担い手に特化し、多くの農業者を切り捨てる政策と現場で判断されたものか、選挙の結果では、自民党が大敗し、参議院では野党が過半数の議席を確保することとなった。


 そこで農水省の幹部は、全国44道府県の現場まで出向き、農業者等から直接意見等を聴取した。これは「地方キャラバン」とか「御用聞き農政」と言われるものであり、地元や農業者からの声を要約すると、国が策定した品目横断的経営安定対策は、現場では制度の仕組みや内容が理解しがたいこと。さらに加入要件が厳しく、しかも加入手続きが極めて煩瑣であることがあげられる。また、今回の目玉として、要件を満たした集落営農も担い手となりうるとされたが、要件が厳しすぎて現場になじまないとの声が多かった。現場では集落営農の組織化に当たり、老齢化が進みリーダーが不在で経理の一元化等の運営には困難を来しているのが実情である。
 行政・関係団体からの声では、戦後農政の大改革と宣伝されたが、中身を見ると県では米・麦・大豆の品目に限定され、野菜・果樹・畜産等の農業者は期待外れと感じているとのことであり、品目横断的と大上段に構えた割には中身が少ないと受け止められている。
 ちなみに、平成19年度の鳥取県における品目横断的経営安定対策の実績をみると、178経営体(認定農業者144,集落営農組織34)が申請しており、米の栽培面積は1,430haで県内水稲栽培面積の約1割しか該当しておらず、全国平均27%よりかなり低い数字となっている。


 今回の地方キャラバンで出された多くの意見を反映して、農水省では今後の見直しを検討し、平成19年12月21日付けで農政改革三対策の見直し案を発表された。 
 そこで、品目横断的経営安定対策の見直しのポイントについて考察してみることとする。まず、本対策が地方の現場で分かりにくいとの意見から、各種用語の変更がなされた。「品目横断的経営安定対策」は、都府県向けでは「水田経営所得安定対策」となり、品目横断的という農家の経営全体を考慮した汎用性のあるイメージと異なり、米、麦、大豆の3品目のみに限られる単純な対策名となった。現場の品目拡大についての要望は生かされていない。また、経理の一元化が共同販売経理と変更されているが、むしろ分かりにくくなっている。


 今回の見直しの最大ポイントは、担い手となれる面積要件の変更である。今までは担い手の面積要件は、認定農業者が4ha、集落営農が20haを基本としていたが、実施要領では知事特認が設定されていた。すなわち、@物理的制約に応じた特例,A生産調整に応じた特例、B所得に応じた特例である。これらの知事特認を実施すれば、中山間地等の経営面積の少ない認定農業者や集落営農も担い手として認定されることとなっていた。
 しかしながら、平成19年度には全国で知事特認された例は一つもなかった。私見を述べれば、知事特認をするためには、担い手となる認定農業者や集落営農組織が年次行動計画等を市町村長へ提出し、市町村長が審査して意見を添付して知事へ提出。知事はこれを審査し意見を添付して地方農政局長経由で農水大臣へ提出。農水大臣はこれを審査し特例の認定通知書を知事や申請者へ通知してはじめて特例が認められる。これらの手続きは極めて煩雑であり、事務量も多大で長期間を要する。知事特認の要領は策定されてはいたが実際は申請されず、実施要領があっても魂が入っていなかったものと推定される。
 さらに、集落営農が担い手となる5要件が極めて厳しすぎると考えられる。とくに経理の一元化、5年以内に法人化をめざすこと、中心となる農業者が市町村の所得目標をクリアすることなど、現実の集落営農組織では担い手として認定されるのは困難なことであった。とくに中山間地の小集落ほど担い手に認定されにくい。


 そこで今回の見直しでは、今までの厳しい面積要件が大幅に緩和され、米政策で地域農業の担い手として「地域水田農業ビジョン」で位置づけられていた認定農業者や集落営農組織が、本対策への加入の道が開かれた。しかも知事特認は廃止され、市町村特認制度へと変更された。これにより市町村長の責務が増大するが、国のマニュアルがまだ策定されていないので、詳細が不明である。実施に当たっては複雑で分かりにくい非現実的なマニュアルでなく、農業者が加入出来るよう、事務の簡素化を含めて指導の徹底とPRをお願いしたい。
 本施策が現場の農業者に理解され効果的に運用されるよう、国の責務は極めて大であり、県、市町村、JA等関係団体の総力をあげた協力体制を構築する必要がある。


(元鳥取県農業試験場長)


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2.小島志講座 いまこそ「農」を語るとき 顧問 小島 慶三
  
『文明としての農業』エピローグ:「農」こそ21世紀産業より


 日本は、たえざる意識改革と、たぐいまれな適用力によって、世界中が驚愕するほどの成長を遂げてきた。しかし、そうした日本経済の背景にあるものは、やはり豊かな国土と自然の恵みであった。
 明治維新の近代化しかり、戦後の復興期しかり、あるいは地域の活性化においてもしかりである。日本の風土や歴史と日本経済とは、いつの時代にも切っても切れない関係をもっている。そして、いつの時代にも、日本の歴史や風土をもっとも基本的な部分で支えるものは、広い意味での農業である。


 現在は、国際化の時代であり、情報化の時代であり、同時に地域の時代でもある。しかし結局、すべての道は広義の農業、生命産業に通じている。日本がこれらの産業を放棄するということは、この豊かな国土を放棄することであり、世界に冠たる歴史や風土をまるごと捨て去ることにも通じてしまうのだ。
 現在は、日本の経済風土が問われている時代と考えることもできる。本質的な日本の経済風土とははたして何であったのか。私たち日本人は、いまこそこの問題を真剣に考え直さなければならない。
 「農業」を考えることは国土を考えることである。地域社会を考えることでもある。日本人の精神を考えることでもあり、日本の産業基盤を考えることでもあり、同時に国際化の意味を考えることでもある。「文明としての農業」とあえていうのは、このためである。
 今後ますます進展するであろう情報化社会を考えるうえでも、広い意味での農業は思いもかけなかった可能性を開いてくれるかもしれない。さらには、宇宙船地球号の将来、全人類の未来さえも、これらの産業と深くかかわっているのだ。


 最近のアメリカでは、農業こそが21世紀においてもっとも大きな可能性を秘めた産業だとする議論が高まっているという。私も、まさにそのとおりだと思う。日本においてもまったく同じことがいえるのではないだろうか。最近木村尚三郎氏の『耕す文化の時代』が話題を呼んでいるのもこのためであろう。
 豊かな日本の国土をもっとも有効に生かし、しかも維持できる産業は、広義の農業しかない。長い歴史に裏づけされたノウハウもある。最先端の情報機器だって、いくらでも活用できる。地域産業を振興する土台にもなる。経済的に内熟することで、海外と共存することもできる。
 むしろ、そのノウハウを積極的に海外に輸出することによって、発展途上国の食糧問題にも貢献することができる。バイオ技術などを応用すれば、その生産性はさらに向上し、将来の世界的食糧危機まで防げるかもしれない。


 いつの時代にも最先端であり続ける産業、それが、農業を中心とする第一次産業、私の言う生命産業なのである。日本はパーマネント・カルチュア、つまり永続性をもつ「耕す文化」という宝を持つ国なのだ。それを自ら放棄してはならない。
 現在の日本のこれからの産業には、さまざまな制約も多く、課題は数限りなくある。しかし、それだけに可能性も大きい。光はゆっくりとではあるが、やがて満ちてくるというのが私の理解である。


 農業、さらに生命産業こそは、21世紀の主力産業だ――――。
 最後にこれが、農業人、生命産業人もふくめた日本全国の人々に向けて発する、私からのメッセージである。




『文明としての農業』(ダイヤモンド社1990年発行)より抜粋
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