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■ このごろ都にはやるもの−27 エンロンの花見酒  最首公司 (2006.10)
八五郎 こんちわー 
ご隠居 おお、八つぁんかい、お入りよ
八五郎 へぇ、もうへぇってますんで・・・。
ご隠居 おーや、相変わらず遠慮がないねぇ。ちょうどいい、いまお茶でも飲もうかと思っていたところだ。婆さんや、お茶をいれておくれ、おおそうか、八つぁんにはお酒の方がいいな。
八五郎 へぇ、さすがご隠居は察しがいい・・・


ご隠居 この間ナ、八つぁん、映画を観てきたんだ。「エンロン」といってナ、アメリカの映画さ。
八五郎 「エンロン」てぇーのは「げんろん」とか「こうろん」とか、あの「エンロン」で?
ご隠居 そうじゃない、お前さんがいうのは「言論」「口論」のことだろう。エンロンというのは会社の名前だ。1985年にアメリカのテキサス州ヒューストンと町にできた天然ガスのパイプラインを持つ会社だ。
八五郎 へェ、そのエンロンが口論でも始めたんで・・・?
ご隠居 そうじゃない。その会社がよその会社とどんどん合併して大きくなった。商売もどんどん広げていってナ、15年後の西暦2000年には売上高1000億ドルってから日本円にすると13兆円だ、アメリカで第7位、世界でも第16位の大会社になった。
八五郎 そいつはめでてェ。ついでになんですが、この酒が旨いんでもう一杯お代わりを・・・
ご隠居 めでたいのはエンロンだけじゃないよ、エンロンのケン・レイという会長はその年の大統領選挙に出たブッシュさんに大献金した。
八五郎 じゃーそのブッシュってぇ人もめでてぇ
ご隠居 混ぜっ返すんじゃないよ、なにしろ大統領陣営に個人が献金した最高額がレイという会長なんだから、こりゃー偉いもんだ。マスコミも銀行も投資ファンドも、みんなエンロンは凄い、永遠に成長を続けるってんで、「エンロン神話」が生まれたくらいだ。


八五郎 そいつは凄え、それでそのエンちゃんはどうなったんで?
ご隠居 ところがだ、その翌年の10月ってから大統領選挙の1年後、アメリカの新聞がエンロンはどうもおかしい、親会社と子会社の間で売り上げを重ね合っているいるんじゃないかと報道した。つまりだ、私がお前さんにこの徳利から1杯注いで100円もらう・・・
八五郎 この酒1杯が100円ってのはひどいよ
ご隠居 ものの喩えだ。今度はお前さんが私に注いでくれると、私がお前さんから頂戴した100円を渡す。100円玉1個がいったりきたりするだけだからお金は増えないが、帳簿上は2人合わせて200円になる。これを繰り返していくと売り上げはどんどん増える。しかもだ、時価会計といって,英語でいうとMark to Marketというそうだが、取引を複雑にして新事業を始めると、将来上がるだろうという利益をその年の利益に計上してしまう。だから帳簿上の利益は上がる一方だが、実のところはお金がない。
八五郎 売り上げが増えても現ナマはふえねぇって、こういうことだ
ご隠居 そうだよ八つぁん、お前さん存外頭がいい。
八五郎 いいや、その話どっかで聞いたことがあると思ったら落語の花見酒じゃないですか。あっしだってそのくれぇのことは判る。花見客に酒を売って一儲けしようとした長屋のハチ公とクマの野郎が、客になったり売り子になったりして売り物の酒を二人で呑んじまったという話だ
ご隠居 エンロンの場合はハチ公とクマのほかにもう一人いたな、トラという男だ。ハチ公とクマは売り上げを伸ばしていくが現金は増えない。そこで考えたのが仕入れ代金や手間賃をトラに押し付けた。
八五郎 トラ公の野郎、間抜けだね
ご隠居 いーや、トラもグルになって自分たちは儲かっているように芝居した。ハチ公とクマのエンロンは帳簿上は儲かっているから株価がどんどん上がっていく。するとそんなに儲かる会社なら投資しよう、お金も貸そうという金持ちや会社、銀行が出てくる。ブッシュ大統領の親父さんが「レイ君、これからもブッシュ家を頼むよ」いったり、グリーンスパンって日本でいやぁ日銀総裁のような人までもだまされていた・・・
八五郎 おーっと待ってくんねぇ、その話もどっかで聞いたなぁ
ご隠居 お前さんがいうのは村上ファンドと福井総裁のことだろう。あたしも映画を見ながらそのことを思い出したよ。まぁ、そのころのアメリカは自由化、市場化花盛りの時代だったからナ。
八五郎 また難しいことをいう。なんです、それは?
ご隠居 それまで電気やガスは生活に欠かせないものだからみんなに行き渡るように、売る方法や値段も政府がこまかく決めていた。自由化というのは、その決めをなくして自由に売り買いしなさいということだ。市場化というのは野菜やサカナのように市場に出して、せりにかけて売り買いすることだ。


八五郎 それぁーご隠居のめぇだが結構なことじゃねぇですか。人間は欲しいものを欲しいだけ買う。欲があるから生きていけるんじゃねぇですか
ご隠居 同じようなことをエンロンのスキリングという社長がいっている。欲望と欲望がぶつかり合ったところに値段があるって。そこでエンロンのトレーダー、つまり仲買人だな、これがカルフォルニアという大きな州の電気を仲間内で買い占めた。そいつを売ろうとしないから値段がどんどん上がっていく。そのうち停電だ。値段はますます上がる。喜んだのがスキリング社長だ。停電でみんなが困っていながら電気の値段が上がっていくのをみて「おぉワンダフル!」と叫んだ。
八五郎 なんだそれぁー
ご隠居 「そいつは素晴らしいー」といったんだ。
八五郎 そいつぁいけねぇな、他人様を困らして素晴らしーはねぇっ。でもネご隠居、そんなあこぎなことをやったらお天道様が許さねぇよ
ご隠居 その通りだ、八つぁん。いくら自由化だといっても人間として守らなきゃならない道がある。その道をエンロンは踏み外した
八五郎 で、どうなったんで・・・
ご隠居 新聞がエンロンはおかしいと書いてからだんだん化けの皮が剥がれてきた。株価が下がるとわれもわれもと売りに出る。株価が維持できなくなたっらもう新たな金が入ってこない。
八五郎 おーっと、そいつで思い出したぜ、あのホリエモン。株価を上げるために無理したんだってねぇ
ご隠居 そうだ。ライブドアはかろうじて生き残ったが、エンロンはたった45日間で倒産してしまった。借金がなんと160億ドル、日本円で2兆円だ。
八五郎 へぇ、それじゃエンロンのクマ公もトラも大損をこいた・・・
ご隠居 それがそうじゃーない。会長のレイも社長のスキリングも株価が暴落する前に持ち株を売っていた。レイなどは自分の株を売りながら社員にはこれからエンロン株は上がるといって株を買わせたんだ。年金に積み立てる金でせっせと株を買わせた。紙屑同然になった株券を手にして呆然とする社員の姿が気の毒だったねぇ。
八五郎 そんなあこぎなことをする奴は許せねー


ご隠居 天網恢恢疎にして漏らさず、連中は捕まったよ。だがね、エンロンの世話になったブッシュ大統領もカルフォルニア洲の知事に当選したシュワルツネッガーも連中を見放した。政治家てーのは冷たいもんだ。いや、一人だけ救われたのがいたな、副会長のトム・ホワイトって男だ。倒産前に持ち株を売って1400万ドル、日本円で18円を手に入れ、フロリダに土地代だけで4億円の別荘を建てて、ブッシュ政権の陸軍長官になりやがった・・・。
八五郎 おやっ、冷静なご隠居が珍しく興奮している。でもよー。冷静に考えりゃそもそものきっかけが自由化とか市場化だったんだから、仕方ねーよ
ご隠居 八つぁんの前だが人徳があり、人の道をわきまえた人間がそれをやるならいいが、これで一儲けしようとたくらむ連中にやらせてはいけないよ。アメリカも日本も自分たちだけが儲けさえすればいいという人間が、自由化、市場化と囃したてているんだ。カルフォルニア州はそれでやられた。 
八五郎 じゃーなにかい、ご隠居は日本も危ねぇってんで・・・
ご隠居 日本も来年から全面自由化になるてぇことだから、あたしはエンロンを見てきたんだ。
八五郎 それじゃーあっしもそのなんとかロンってのを見にいかなきゃぁなんねぇ。(完)


 映画「エンロン」については、エネルギーフォーラム誌12月号に「モラルなき自由化のはてに」と題して紹介させていただきます。最首公司


 
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