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■このごろ都にはやるもの−30 米軍撤退「イラク政府は殴る気なのか逃げる気なのか」 
  最首公司 (2006.12)
◎動き出した中東のプレイヤー
 「米軍のイラク撤退説」で、中東のプレイヤーが動き始めた。その動きを見ながらこどものころ耳にした戯れ歌を思い出した。
 「兄ちゃんは けんかするとき下駄を脱ぐ 殴る気なのか逃げる気なのか」というものである。
 プレーヤーの第1幕は11月21日に国交を回復したイラクとシリア。同じアラブで、しかも同じバース党政権下のイラク・シリアの両国が断交したのは、1980年にイラクがイランに攻め込んだ「イラン・イラク戦争」がきっかけだった。シリアは非アラブ人でシーア派のイランを支援し、怒ったイラク・フセイン大統領がシリアと断交した。そのシリアがイラクと復交したのは、シリアと同じシーア派政権が米軍撤退で定着するとみたからだろう。
 イラクは8世紀のアッバース朝以来、政変のたびに暗殺や謀殺が伴う歴史をもつ。新政権に抵抗する者は死を覚悟して国内に潜むか、国外亡命するしかない。現イラク指導部の多くはフセイン政権下でシリアやイランなど近隣諸国や欧米に亡命、米軍の進駐後に帰国している。対米融和派のマリキ首相はシリアに亡命している。ブッシュ大統領が12月4日の会談相手に選んだシーア派最大組織イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)議長アブドルアジーズ・ハキム師は、兄モハンマドとともにイランに亡命していた。
 私は亡命中の兄M.ハキム師にインタビューしたことがある。シーア派を指導する名家の出らしい威厳と品の良さを備えていた。当然のことながら、誰もが彼こそ新生イラクの指導者とみていただろう。その師がイラク帰国後旬日のうちに暗殺された。兄の死のあと、実弟が議長に就眠したのである。
 国内に潜んで抵抗したのが同じシーア派でも反米急先鋒のサドル師。シーア派大衆は海外亡命組よりも国内潜伏派に共感を寄せ、同師率いる民兵「バドル軍」は国軍より戦意が高く、マリキ首相の武装解除に応じない。米軍撤退となれば、米軍占領下で権力を握った現イラク政権の多くは再び亡命を余儀なくされるだろう。シリア、イランとの関係修復はイラク国内の過激派とけんかする気なのか、逃げる気なのか、という戯れ歌を思い出したのだ。
 シリアは今度のイラク戦争で敗北した旧フセイン政権下の有力者、軍人をも亡命者として迎えている。いま、イラクからは月間9万人が脱出しているが、うち6万人の行き先がシリアで、その一部が反米ゲリラや対立宗派攻撃の武装集団としてイラクに再潜入しているといわれる。シリアはイラクの「旧・新両体制の亡命者」という二枚のカードを握った有力プレイヤーなのである。


◎ シーア派産油連合の形成へ
 第2幕はイラン・アフマドネジャド大統領がイラク、シリアの両シーア派政権に首脳会談を呼びかけて開幕した。イランはイラク・シーア派だけでなく、物心両面で支援するシーア派民兵ヒズボラを通じてレバノンにも強い影響力をもつ。
 そのイランの呼びかけに応じてクルド人のイラク・タラバーニ大統領がテヘランを訪問した。イラク内戦激化となれば、北部産油地帯を擁するクルド自治区は独自の軍事組織「ペシュメルガ」を強化して独立の道を進むだろう。南部油田地帯を抱えるSCIRIも早くから自治区を標榜している。イランとイラク、これにシリアが合流すれば、世界有数の油田地帯を抱える「シーア派連合」が出来上がる。
 そこで注目されるのが、イランの核開発問題だ。同じアラブでもスンニー派とシーア派では、この問題の対応に温度差がある。アラビア半島王制産油国で構成される湾岸協力機構(GCC)は12月9日からサウジアラビアの首都リヤドで、アブダラ政権下初の首脳会議を開いたが、主要議題はパレスチナ、テロ対策とともにイランの核開発と、イラン・アラブ首長国連邦(UAE)領海問題だ。GCC内部にも国境や領海問題があるが、ここにきてイランの脅威が高まってきたというのが本音だろう。
 会議後の宣言ではイランの核開発を一方的に非難するのでなく、イスラエルの核兵器保有こそ地域の安全にとって脅威であることを謳い、「核の平和利用は主権国家の権利」という表現で合意した。
 一方、アラビア半島東岸の住民は多くがイスラエルの核に対抗する手段として、イランの核武装を支持する。とくにシーア派住民にその傾向が強い。GCCが懸念するのは産油地帯に多く住むシーア派への影響。バハレーンではシーア派住民がGCC内初の国民議会に進出し、その存在感をアピールしている。


◎米のイスラエル偏重は不変
 米中間選挙結果が明らかになった翌日、プレイヤーの一人、イスラエル・オルメルト首相がワシントンに飛び、ブッシュ大統領のほか、ユダヤ系政財界人と会合をもった。
 元来、民主党はイスラエルを「中東唯一の民主国家」とし、共和党以上に盟友視する。民主党が議会の主導権を握った米中東政策は、これまで以上にイスラエルを重視するだろう。「米国のイラク政策は変わっても、イスラエル偏重の中東政策は変らない」と、多くのアラブ人は過大な期待を戒め、「だから中東・湾岸の反米闘争は終わらない」とみる。2006年12月11日


 
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