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■ このごろ都にはやるもの−番外編「杉光氏の水添加エンジンの熱力学追加.」
   最首公司 (2006.12)
 「このごろ都にはやるもの−25,26」で紹介した「水素と水で走る自動車」を紹介しましたが、その後、メール友達の徳山大学杉光英俊学長から次のようなメールを頂きました。杉光先生は長年、上智大学で教鞭をとられており、私にとっては特に親しく感じてお付き合いいただいています。難しい問題をわかりやすく解説されているので、先生の許可を得て転載させていただきました。


水で走る自動車について
徳山タイムス H18年12月号 杉光英俊

 先日周南市で行われた水素エネルギー講演会で、最首先生から「エンジンのシリンダー内で水素を燃やし、そこに水を霧状に吹き込み、水蒸気爆発のエネルギーでピストンを動かす新型の自動車が開発された」という紹介がありました。詳細は不明ということでしたので、工業物理化学の立場でこのようなエンジンについて考えて見ました。


 熱を仕事にかえる機械、いわゆる熱機関については古くからさまざまな発明と工夫が行われました。その中で発達したのが熱力学という学問です。その代表的な結論の一つが、どのような熱機関でも、原理的には高熱源から熱をもらって仕事に変え、外部に余った熱を捨てるものであり、熱源から得られた以上の新たなエネルギーを生むことはないということです(エネルギー不滅則または熱力学第一法則)。この場合、ピストンを動かす気体が水蒸気でも、空気でも同じで、成分を考える必要はありません。そして、この機関が熱を仕事に変える効率は、気体の温度が高いほど高いということがわかっています。ちょっと難しくなりますが、気体の分子が壁を押す圧力は気体の温度に比例しているからです。
 例えば、水は大気圧の下では100℃で沸騰しますが、100℃の水蒸気が壁を押す力は大気圧程度であって、自動車のように1200℃でピストンを動かすような力の強いエンジンにするには、ボイラーやシリンダーを1200℃に加熱する必要があります。もちろん、これは実用的ではありません。開発当時の蒸気機関がせいぜい数馬力程度であったことからみても、現在の自動車エンジンがいかに発達した熱機関であるかがわかります。
 さて、水素が燃焼し高温になった気体に、水を吹き込むと、熱の一部を水の加熱に消費しなければなりません。その分は温度が低くなります。先ほどの理屈で、当然効率は下がる方向に向くはずです。くだんの水素自動車は水素の燃焼によって動いているのであって、水を加えることによって新たなエネルギーが生まれることはなく、効率という意味では水を加えることは逆効果であるというのが、熱力学が示す一つの見解です。
 しかし、エンジンの専門家には、また別の見解があるかも知れません。ぜひ、関係者の見解をお聞きしたいものです。


 なお、水蒸気爆発といわれる現象の一つに、高温の金属などに水を垂らすと瞬間的に水が分解し、発生した水素が爆発する現象が知られています。このような現象を利用すれば水燃料のエンジンが実現しそうですが、金属を高温にするためのエネルギーが必要になります。過熱したてんぷら鍋に水を入れると爆発的に燃焼することがありますが、これは、水が燃えているのではなく、水蒸気が油滴を飛散させ、油滴が燃焼する現象です。このような現象を応用することもあるようですが一般化していません。もちろん、水を加えて新たなエネルギーが生み出されるわけではありません。
 水素炎で水を分解して燃焼させるとともに、あまった熱でピストンを動かすエンジンができればいいのですが、もちろんこのようなエンジンは実現できません。特許出願はお金と時間の無駄になります。以上


 
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