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「鳥取農政懇話会 会報50号記念号」 鳥取農政懇話会事務局

 鳥取農政懇話会は、活動の一つとして鳥取農政懇話会報を年3〜4回発刊しています。
 今回、記念すべき50号の発刊を迎えました。その中の数編を掲載します。
   
  ※ 鳥取農政懇話会報 表紙  (右画像をクリックすると拡大します→
  1. 巻頭言 会報誌と50号と農政の変遷・・・会員 北浦 勉


  2. 小島志講座 食糧の国際分業はほんとうに可能か
    −イギリスの大失敗― ・・・顧問 小島 慶三



  3. 主張 農村振興を考える ・・・会員 伊丹 光則


  4. 主張 最近の日本農政への一考察・・・会員 上田 弘美



  5. 西洋トマト特集「‘07トマトフェスタin鳥取」が開催される
    ・・・会員 富山 文好

1.巻頭言 会報誌50号と農政の変遷 北浦 勉 会員


 平成6年2月に小島慶三先生のご臨席を得て農政懇話会を設立し、これを機に会報誌を創刊して今回で50号という記念すべき節目を迎えました。これはひとえに会員の皆様が、農政の重要性を認識され、その学習を心掛けてこられたからであり、改めて皆様のご努力に敬意を表する次第であります。
 また、会報を愛読してくださる山梨小島塾の方から、「継続は力なり、よく続いて立派です。こういう本の形になって続いていることが、鳥取の力なんだなということを感じます。」と励ましの言葉をいただいたことは、まことに嬉しいことで、これも併せて報告申し上げます。
 会報の創刊号から50号までの、発行日、主な内容、社会情勢を並べてみて感じたことは、食糧難の時代ならいざ知らず、経済成長路線を走っているさ中では、農業には強い向い風が吹いているということでした。
 世の中は近代化の過程で、特に高度成長期は顕著に、工的な発想が農的な発想を凌駕し、農業も工業化し、林業や畜産との連携もなくなり、単一化、大規模化し、化学農薬や化学肥料に依存する農法が展開され、農業の多面的機能や物質と生命による循環に対する認識が薄れて、都市と農村の良い関係も失われてしまいました。このように、高度成長への対応により「農的」国土経営を維持できなくなった結果、循環機能が低下し、廃棄物が溢れるという効率化の弊害が現れたのでしたが、その頃に農政懇話会の会報が創刊されております。
 時には農業叩きがあり、食料の内外較差論が出ることに対し、農業擁護のために、貿易自由化による国内農業への影響、条件不利地域の中山間地対策、集落営農、環境問題を取り上げながら、農業の体質強化論とその施策の必要性を論じてきましたが、今も続いております。
 その論拠となっているのは小島理念で、日本列島は国土のほぼ8割を山地が占め、河川は短く急勾配で、しばしば洪水に襲われる中で、我々の祖先は山地を切り拓き、それに加えて、長い間に形成された平野に水田農耕を営み続け、1億2千万の人を養うまでに成長してきたのである。これは日本人の努力の賜物であり、農は国の本と言われるのはこのことであり、人間生存のための自然への働きかけで、今日の姿になったという島国日本のことに思いを巡らすべきだということであります。
 食料の確保は軍事、エネルギーと並んで国家存立の重要な3本柱と言われております。世界の穀物も、バイオ燃料向けに消費が増大しており「買えばいい」という市場原理的な考えは改めるべきです。
 やはり食料自給率の確保は重要なことであります。近年の我が国の施策は、自給率向上を目指して農業の要である水田農業を担い手といわれる経営体が中心となって支える生産構造に代えるべきだとして、これまで全農家を対象としていた一律農政から、大規模の担い手を対象とする選別農政に変わろうとしております。そうなると、農業の多面的役割が果たせるのかどうか。
 これは大小農業者が力を合わせて守るべき問題と思うのです。
 過日、農林水産省の上層部の交代があり、農林水産予算と経済財政諮問会議のことが新聞で報道されておりましたが、諮問会議は市場原理主義者の発言が強く、予算要求側では諮問会議の「お眼鏡にかなう政策」ということに気持が動き、大規模化という「農業の構造改革」をアピール出来る政策を前面に掲げたという話が記載されておりましたが、日本農政を取り仕切る立場でありますから、多面的役割についても配慮してほしいと望むのであります。
 これからの世の中は、世代交代が一層進行し、市場原理主義的な考え方が強くなってくると思いますが、日本という島国にあっては農業の果たしている多面的役割について伝承することが重要と考えます。
 農政懇話会としても、会報50号を超えてこれからも「農の重要性」を大いに語っていただき、永続する会報となるように努力していただきたいと願っております。
 (鳥取農政懇話会会長)



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2.小島志講座 食糧の国際分業はほんとうに可能か−イギリスの大失敗− 顧問 小島 慶三


 経済合理性だけを追求することがいかにむなしいか、安易な国際分業論がいかに危険であるか――。
 この問題について私自身の意見を述べる前に、まずは一つの歴史的事実をご紹介しておきたい。舞台は19世紀前半のイギリスだ。
 18世紀の後半から始まった産業革命は急速な工業化をもたらし、当時のイギリス経済は上昇の一途をたどっていた。世界中がイギリスの天下であるかと思えるほどの繁栄。時代背景こそ違え、いまの日本とよく似た状況だったわけである。工業的繁栄の裏で、農業地主と工業資本家の対立がエスカレートした事情も、いまの日本とじつによく似ている。「農業VS工業」対立の論点は、しだいに「穀物条例」の意義に集中していった。穀物の輸入に高い関税を課す穀物条例は、一部の地主や貴族の利害を保護するだけで、全国的な経済発展の障害になる――。こうした議論が工業資本家たちを中心に一気に高まっていった。そして、その論争の背景には、ともに著名な経済学者であるリカードとマルサスの理論的対立があった。
 リカードは経済合理性を追求する比較コスト説に立って、いっそうの工業化と積極的な国際分業を主張した。経済効率の悪い農業など保護する必要はない。そんなものはさっさと放棄して他国にまかせ、その分イギリスはいっそうの工業化を進めるべきだというわけである。
 これに対しマルサスは、短期的な経済の優位性を固定化する危険を論じて、農工同時発展論を唱えた。いかにイギリス経済が好調とはいえ、ライバル国もやがては工業的に成長する。そうなれば、相対的にイギリス経済の優位性も失われ、場合によっては外貨獲得や食糧の輸入も困難になるかもしれない――。これがマルサスの危惧した問題であり、だからこそ彼は、人口扶養のよりどころとなる農業を守るべきだと主張した。
 しかしイギリス政府は、全面的にリカードの主張をとり入れた。1846年、穀物条例を廃止して穀物の輸入自由化を実施するとともに、1810年以来続いていた地主と資本家の対立に終止符を打ったのである。その結果、それまでは95パーセント自給していた小麦が、何と88パーセントまで輸入されるという事態となってしまう。
 最終的に、歴史はマルサス説に味方した。アメリカ、フランス、ドイツ、そして日本などの工業国化によって、一時は永遠とも思われたイギリスの経済的優位もわずか25年しか続かなかったのだ。イギリスは工業製品の輸出競争力を著しく低下させただけではなく、食糧の輸入依存体質のせいで、総合的な国際影響力をも弱めていった。加えて、二度にわたる世界対戦が世界的な食糧危機をひき起こし、イギリスは四苦八苦の思いをすることとなった。
 こうした苦い体験をもとに、戦後のイギリスはひたすら農業の再建に力をそそぐ。食糧の自給という最大の目標を掲げて、1947年には「農地法」を成立させ、耕地の確保や品種改良、遺伝子研究の充実などにとり組んだ。そして一時は400万ヘクタールにまで縮小していた農耕地を1200万ヘクタールへと拡大し、土地生産性も飛躍的に向上させた。経済合理性のみによった「穀物条例」の廃止からじつに100年を経て、ようやくイギリスは食糧自給への道を回復したわけである。


『文明としての農業』(ダイヤモンド社1990年3月1日初版)より抜粋
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