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第34回学習会模様(平成18年度第3回)

□早春の肌寒い日、東伯郡湯梨浜町の水明荘に会員20名が集まり「これからの農林業・農村問題」について意見交換会が行われた。


□第34回学習会日程
 1. 日 時 平成19年3月9日(金)
 2. 場 所 東伯郡湯梨浜町旭132「水明荘」
 3. 行 事 学習会(司会 川上一郎会員)・懇親会

□学習会に先立って、北浦会長が今回の学習会を会員の語らいの場とした経緯を話し、次いで川上一郎会員の司会によって「これからの農林業・農村問題について」の話し合いで始まりましたが、会員の熱のこもった語らいはとどまることを知らず大幅な時間超過となって、懇親会の場まで持ち込まれたのです。しかし、この農林業問題は一回で簡単に片付くものではないので,これからも機会をとらえて話し合わなければならないということが、参加者の大方の意見でした。
鳥取農政懇話会事務局
■開会挨拶 北浦 勉 会長

 我々は、農は国の本と考え、食料の供給、国土保全、資源の涵養、教育・保健の多面的な役割を果していると主張してきておりますが、我が国社会では、戦後60年で産業力を伸ばしこれを梃子に外貨を稼ぐ産業を育て上げました。そして、食料は外国から買えばよいという空気が醸成されて、国際化が一層進行し、国内農業は圧迫されてきております。
 この現状に対応するため、国では、先進国の中で一番低い食料自給率を高めるには、農業の要である水田農業を、担い手といわれる経営体が中心となって支える生産構造に作り替えるべきだとして、担い手への政策を進める「担い手経営安定新法」が今年4月から施行されることになったのです。
 すなわち、全農家を対象としていた一律農政から、担い手を対象とする選別政策に変るのですが、その担い手要件に地域の実情を考慮して集落営農も対象とすることで、小規模農家にも作り手の道を開いたようだが、現地では戸惑いが多いように聞くのです。
 昨年の秋頃から、これからの農業はどうなるのか分かり易く説明してほしいという手紙が来るようになりました。その中で気掛かりなのは、「農政懇話会会員であるが故に、農山村の将来を質ねられて困る。農政懇話会会員として、社会情勢が変動する中で農林業に対する認識を確認しておきたい。」というものでした。
 社会情勢の変化や世代交代の荒波に押されても、農の重要性は変わるものではない。近年、わが国も人口増が頭打ちとなり、成熟したヨーロッパの国々のように、環境保全と良質の農産物供給を農業の役割として求めるようになると思います。
 かつての農業基本法には、前文に高邁な文章で農の重要性と農民に対する温かい思いやりの精神が記されていたのですが、今の法律には見られない。したがって我々が拠り所とするところは、小島理念の「文明としての農業」であり、それに「国家の品格」で取り上げられている農の重要性であります。
 このあたりで、農政懇話会として、これまでに寄せられた質問にどう答えるか、会員相互の話し合いを行うことで認識を新たにしたいと思います。
 本日はこれから川上一郎会員の巧みな司会によりまして、今後の農林業問題を分かり易くまとめていただくことにしておりますので、川上さんよろしくお願いします。




□司会(川上 一郎 会員)
 ご指名によりまして、司会役を勤めさせていただきますが、分かり易い農林業・農村問題となりますようにしたいと思いますので、皆様のなにぶんのご協力をお願い申し上げます。
 グローバル化がますます進む状況の中で、現役で苦闘されている若手から、順次お話願います。


■富山 文好 会員
 私は農業問題は国是とすべきと考えておりますので、「農業の役割り評価を憲法から議論すべきとき」と主張します。
「農業の役割り評価を憲法から議論すべきとき」
 安倍新政権が船出し、「美しい国」づくりを目指すと表明されております。「美しい国」とは何か。私の想いは、森林、川、農地、海、この川上から川下の一連の循環が、健全に機能していることが「美しい国」の大前提と考えるのです。
 旅などしていて、間伐、下刈がなされている森、草刈等行き届いた管理がなされている水田、清らかで豊富な水が流れている川、その近辺の家並みなどに巡り合ったとき、おおいに癒される。この健全な環境があってこそ、きれいな水、きれいな空気、健康な土を作るのであって、人間が人間として暮らしていくうえでの基本であるのです。
 「健全な精神は健全な身体」からと同様「健全な精神は美しい感性空間」から生まれるのであって、昔から当たり前であった手入れの行き届いた美しい田園風景がなくなりつつある。これは、高齢化で後継者がなく、止む無く管理しきれないからであります。我が国にとって大きな財産を失いつつあると言えます。
 後退しつつある農業、廃れつつある農村だけの問題ではなく、広い意味で言えば、昨今の様々な事件、荒廃した社会事象にも、心の奥底で間接的に影響を及ぼしているのではないかと考えております。
 今の日本はグローバルジャングルに飲み込まれ、市場原理とやらの競争一辺倒を優先してきた結果、各種の格差を生み出したことに加え、農業・農村からみれば、置き去りにされた感があります。
 美しい感性空間と人間が生きていく食料の大半を支えてきたのが、農業・農村であり、国・国民が最も重要にしなければならない産業のひとつであるべきです。
 したがって、「美しい国」づくりを目指す安倍政権には、農業・農村政策に心して取り組むことが、「美しい国」づくりの原点であるといえます。
 
 今後、憲法改正論議がなされるであろう第9条の問題だけでなく、農業の重要性についてこそ議論されるべきである。なぜならば、食料は人間が生きていくうえでの基本であって、自給率の確保を言うのであれば必然のこととして、安全保障としての食料主権や農地の保全維持を考えなければならない。つまり、食料の輸入と国内自給をどうバランスをとるかを憲法上に規定しておくべきと考えます。
 憲法上に義務であることを前提にしたならば、おそらく効率性や採算中心の観点とは異なる視点が出てこざるを得ないと考えます。
 なお、自民党案は第25条の2を新設し、「国の環境保全の責務」を盛り込んでいるが、この中で森林、川、農地、海、この川上から川下の一連の循環の保全をどのように努めるのか、目指すべき国の原点がそこにあるような気がしてならないのです。
 
 ところで、本年度から始まる品目横断的経営安定対策は、一定の要件等を満たす経営体に対し国内外の価格差、経営所得の減少を補填する制度である。言い換えれば人参をぶら下げられ、これに乗らなければ支援はしませんよ、ということである。乗れるところは良いとしても、乗れない、また、乗りたくない農家に対しては、いわゆる切捨ての政策である。農地の持続的保全、また、国際競争力に打ち勝つ農業経営の育成のため、集落営農の考え方を進めることとしているが、国の財政逼迫の中で、バラマキ批判に対しての苦肉の策としての感は否めない。この集落営農の発想は世界的にも類を見ない政策であり成功を祈るものであるが、過去の協業組織が壊滅した事実を踏まえた場合疑問が残ると考えております。
 
 やはり、わが国農業は歴史的にみても家族的経営が基本であって、このことにより細やかに管理できてきた恩恵を忘れてはならないのです。また、同様に兼業農家の役割も見逃すことが出来ない現状がある。
 したがって、家族的経営農家、兼業農家に対する支援も今後重要と考えるのですが、これら零細農家への国からの支援を得るためには、国民の意識改革、ここで言う意識改革とは私有財産である農地・森林とはいえ、国民にとっての共有財産という国民共有の認識を高めていく必要がある。
 ヨーロッパ等のデカップリングは、農地・森林は国民共有の財産の認識のもと、農業者等を手助けする救済精神から生まれた重要な農業政策になっているのです。
 
 わが国の農業は、毎年(過去37年間)、やむなく4割近く減反を強いられており農業現場に深い傷を残して、いま大きな曲がり角を迎えております。この農業を再生、救済するためにも、おもいきった日本版デカップリング農業政策を打ち出す時期に来ていることは自明の理です。財政が逼迫しているときこそ価値があるのです。
 そのためにも、われわれ懇話会としては、農業の問題だけで捉えるのではなく、憲法改正を契機に憲法から広い視点で農業の役割評価を大いに発信し、今おかれている農業・農村の閉塞感を打開しようではありませんか。
 
前田 敏弘 会員
 私は、環境問題とこれからの農業政策の方向についてお話します。
 先日、島根県の糸原記念館を訪れ、館内の展示と山の実態を目にし、改めて環境問題には山の管理の良否が影響するものと認識したしだいです。
 糸原記念館に行くまでの山々は荒れておりました。今年は雪が少なく、山からの流水も少なく、川は渇水の状態であったので、自ら地球温暖化を痛切に感じたのであります。
 私は勤務が境港市内の事務所ですので、海の情報もよく耳に入ります。
 その一例として、近年は海水温度が3℃高くなっているようです。人間の体感温度にすれば30℃に相当するとのことで、ここでも温暖化は大きな問題だと気が付いたのです。
 海水温の上昇で南方の魚が北海道あたりの北の海で漁獲されていることも聞きますが、鰆が青森県沖(太平洋側)で獲れるとの情報もあります。海面から少し下層の海水温は2〜3℃低いようですが、鰊が境港でも獲れていますが、北の冷たい海水が南下しているということのようであります。温暖化の影響は予測がつかないことが多く、環境維持のための努力は、生きている人間の責務と思います。

 次に、農業政策でありますが、
 今、考えなければならないことは、農業の要である水田農業に対し、国の農政の方向が担い手に集中して行われることに変ったということです。
 その担い手の中には、4ha以上の個別経営か、若しくは20ha以上の集落営農地域となっております。
 鳥取県のように広大な平野がなく、山間に介在する農地が多いところでは集落営農に力を注がなくてはならない。
 鳥取県は戦後、水田の整備に力を入れ、中国四国地方第一の水田整備率を誇りにしておりましたが、その圃場整備で生み出された余剰労力は農外収入を得る方向に向けられ、圃場整備という農地再編の際に共同で地域営農を考える気運が湧いて来なかった。現在のように高齢化が進んでくると、集落営農推進の上からも悔まれることであったと思っております。
 反対に、隣接の島根県、広島県のように水田整備の着工が遅れても、整備計画樹立と同時に事業後の営農についても話が進められ、島根県は集落営農において、また広島県は農業生産法人の結成率が高く、両県とも全国的にも先進県となっております。
 鳥取県が水田整備の先進県であったときには、各地の土地改良区の役員の懸命な活動で、地元農家を説得していたと聞くのですが、今度は、遅れた営農組織の後押しには、土地改良区に代って農協の力を頼りにしなければならないと思います。農協側に親身になって農家を支援する気持を持ってほしいものです。
 現在は、県および市町村の行政当局は、地元の営農への取組み意欲が出てから対応しようという待ちの姿勢ですから時間がかかります。だから農協に確りしてほしいのですが、このためには各農家が意欲を持つことが大切で、全国各地の優良事例を見習って、徐々に集団的営農組織の気風の醸成を待つしかないようですが、すべての地域が国の制度で救済できるとは思われないので、県段階も重い腰を上げる時です。
 そのほかには、環境問題が世界的な課題になっているとき、滋賀県で実践されている菜種生産をバイオエタノールに向けるというように、エネルギー生産に挑むことも一策であると思います。農業は食料生産という固定観念から抜け出して、環境やエネルギーという新しい課題に向うこともよいのではないでしょうか。
 また、都市と農村の関連が課題になっているとき、農業生産法人が受け皿となって、サラリーマン経験を生かし経営を発展させることも一つの方策であろうし、山間集落の不在家屋の活用にも道が開けてくるのではなかろうか。農業で固まってしまうものではなく、農外の人材を農業の再活性化に生かすことも考えて行くと、より活力が出てくるのではなかろうか。
 総じて、これからの農業政策は、米国、ECなどと同様にデカップリングが重要な手段となってくるが、富山さんの話にも出ましたが、ヨーロッパで生まれたデカップリングは、ハンディキャップを持つ人、弱者に対するキリスト教人間愛、庇護の精神からといわれている。国家の品格で述べられている惻隠の情もその精神であると思います。


司会者 (川上 一郎 会員)
 ここらで、最近帰農された方々から現実の農村の実態をお話し願います。




■内田 正人 会員
 私は農業で9代続く農家の嫡男である。父は養蚕指導者であり、私も農業指導者であったが、2人とも農業を絶やす事は無かった。私は5人兄弟の2番目であるが、祖父が始めた二十世紀梨のお陰で、5人とも人並みに教育を受けることができた。したがって、今日の自分があるのは梨のお陰と思い、勤務中も梨を伐る事なく休日のほとんどを梨栽培に従事してきた。しかし、かって私の集落で38戸あった梨農家は、僅かに8戸までに減った。ここ数年で数戸になるだろう。
 昨年4月より帰農し、50アールの梨、80アールの水田と共に農業に専念しているが、農業の将来に夢や希望は見いだせず、このままでは農業崩壊の危機に直面しているといわざるを得ない。その現状を前途多難な日本農業と題してお話しいたします。

1.土地への愛着心が薄れてきた
 「売られたる夜の冬田へ一人来て埋めてゆく母の真赤な櫛を」(寺山修司)作家・劇作家の寺山修司の名句である。貧しさから手放さざるを得なくなった田、かって自分の家の所有であった事実を刻印するように、雪の冬田にいまは亡き母の形見の真赤な櫛を埋める。かって日本農業はそれほど土地への愛着心、執着心があった。
 私の集落では工業団地や団地(宅地)の造成が進み、かっての一等水田が買収されるが、用地買収に難渋することなくほとんどの農家が代替地を要求せず、現金での買収に応じている。かっての農民の土地への執着心は薄れている。その理由は、自身の高齢化と後継者が農業に無頓着(農業の後継を拒否)だからだと思う。

2.価格が安く、経費がかさんで今の農業では流した汗が報われない
 2月に行った確定申告で、農業所得は20数万円程度の収入であった。これはまだ良い方で、大部分の農家は赤字か僅かな所得であったと思う。その理由は、我が家では人夫の雇用を一切していない、トラクター、コンバイン、田植え機などはすべて個人所有で、水稲苗も自身で育苗している、機械類は自身でメンテナンス、修理し、ほとんどを10年以上使用している。
 米が1俵14,000円、二十世紀梨1箱(10キロ)2,600円はあまりにも安すぎる。それに引き換え肥料、農薬、果実袋、選果場経費(約4割)、ライスセンター経費が高すぎる。専業農家は生活が成り立つのだろうかと思うと心が痛む。
 昔は米も1俵2万円と高く、梨も3,500円位の価格であった。いまでは水田は小作にだし、梨や柿はどんどん伐採されて行く。私の集落でも早期退職者や定年退職者がずいぶん増えた。しかし、この人達が農業に興味をもっている様子は見られない。農業をしているのは自分の家に水田があったり、果樹園があるからである。
 いまの農業では1年流した汗の代償がなく報われない。一定の利益があればそれなりの意欲がわくのだが・・・。

3.山野が荒れ、水は汚れ、「美しくない日本」
 山の崩壊は凄まじい。水の汚れは想像以上である。山の荒れ方は想像以上である。間伐の行きとどかない杉、檜、雪折れや台風の倒れ木、松くいむし被害木はそのまま放置されている。近所の猟師さんに聞くと、猟犬が薮に入るのをためらうという。薮はさるとりいばらの生え放題で、犬が皮膚を破って大怪我をするのだそうだ。10年位前までは集落に猪などいなかった。いまでは年間15頭程度捕獲しているが、次から次に新手が現れ、なんぼでもわいてくる感じである。電柵をしないと被害にあう。
 水路はゴミ、空き缶だらけ、日本人の規範意識も地におちた。道路沿いの水田や畑はゴミだらけ。毎日水田の水回りをしないと取水口がすぐ詰まる。昔は谷川の水は飲んでいたが、いまでは怖くて飲めない。
 以上、農村の現状のあらましを述べましたが、農業に汗水流してみて感ずることは、あまりにも米、梨の価格が安いから農業をやってみようという人がいないことと、村の環境は竹が森林を侵食し、森林の荒廃が進んでいることと、水路には空き缶、ビニールが詰り、モラルが地に落ちたと嘆かざるを得ない実情であることを再度強調して話を終ります。


田邊 皓三 副会長
 私は「これからの農林業の位置付け」として、農林業を本来の姿に復帰させなければならないと考えている。
 日本の社会も、倫理と道徳律が廃れて犯罪が増えてきた。毅然とすべき企業・経済界の犯罪や不正が著しい。常態化するのではないかと憂うものである。社会悪化の元兇の一つが低俗なテレビの放映にあるが、スポンサーの企業は内容を吟味しないだろうか。倫理感の問題だ。
 
 また、依然、大量生産−消費−廃棄の連鎖が止まらない。非効率・低生産を切り捨てる尺度となるGDPを重視しているからだ。GDPを引き上げるには地方や中小企業、農業はかまっておれないというのが実感だ。これを是正するため、GDPと併せてCO2の発生率とか国民の生活充足度を指数化できぬか。GDPに替わるものを指標としてそろそろ価値判断を変える時にきている。
 近年、自然現象で感ずることは、気象が極めて異常になってきた。温暖化がすすみ、地球が悲鳴をあげているのだ。夏に雪が降り、巨大モンスーンが吹き荒れ、大干ばつが発生しないだろうか。
 
 食糧確保はどうするのか。食糧は輸入に依存するのが安上りとする考えは、今尚財界の常識である。CO2の発生抑制のため発生源に課税し、風力発電や太陽光利用等を基礎産業に位置付け、農林業を本来の姿に復帰させねばならない。
 私自身何をするかだが、荒れ果てた山田を購入したので今年から欅や山桜を植えることにした。伐期は欅200年、山桜100年を見込んでおり、山の管理に余念がないこの頃である。


司会者 (川上 一郎 会員)
 それでは、最近の農業を取り巻く環境に手厳しいご意見がありましたが、ここらでグローバル化の進行と国内農業への影響についてお話願えませんか。


■上田 弘美 会員
 私は、この問題に以前から関心を持ち、注視して来ましたので、「農業のグローバル化」という観点からお話しします。

1 WTO農業交渉と日本農業
 農業のグローバル化に伴い、日本農業も大きな国際化の影響を受けています。とくに、世界の150カ国が加入しているWTOの農業交渉においては、食料輸入国である日本は、平成17年12月、香港で開催された閣僚会議までに、城の外堀を埋められるように、かなりの譲歩を余儀なくされてきました。

(1) WTO農業交渉における食料輸出国の発言の影響
 とくに、オーストラリアなどのケアンズグループ18カ国、さらにアメリカ、さらに、最近ではブラジルなどの有力途上国(G20)などの発言力が大きく影響しています。

(2) 日本などの食料輸入国(G10)は毅然とした交渉が必要
 とくに日本は、上限関税の阻止、米などの重要品目の比率を15%とすることを強力に主張する必要があります。また、EUや、WTOの3分の2を占める発展途上国の理解と応援を得る外交が必要だと思います。

2 EPA交渉と日本農業
 現在では、WTO農業交渉は関係国が多く、利害が相反するので、交渉がすぐにはまとまらないため、最近では2国間でのEPA(FTAを含む)交渉が進展しています。すでに日本は、メキシコ、マーレシア等と締結しており、タイ、インドネシア等とは大筋合意となっています。
 平成18年12月には、日本は日豪EPA交渉に着手しました。豪州(オーストラリア)はWTOにおいても、一貫して農産物の自由化を強硬に主張して来た国であり、日本農業に対する影響は極めて大きいと言われています。
 また、オーストラリアの農産物は、日本の重要品目と一致しています。オーストラリアは、小麦、砂糖、乳製品、牛肉を大量に日本に輸出しており、さらにコメも輸入自由化を迫ることが予想されます。これらの日本農業に及ぼす影響は、関連産業も含めると3兆円の損害となり、食料自給率も現在40%から30%まで低下することが予想されます。なかでもコメは例外品目とするよう、断固交渉を進める必要があります。さもないと、日本農業は破壊され、美しい田園は荒廃する危険性があります。


■坂根 國之 会員
 この頃、飼料等(食料も含めて)が入らなくなった。一説によると中国の買占めが影響しているようだが、このことについて諸外国はあまり文句は言わない。しかし、日本が買い占めると文句が出る。日本のエコノミックアニマルが影響しているのかも知れない。
 国内自給率を上げなければならない。日本の風土に適した米の生産調整を行って、農業生産を抑制しているが、転作を止めて水田を十二分に活用することが自然の姿である。
また、平常の生活において、食育は重要な問題であり、食事は餌ではない。農の心がなければ食育にならない。


■秋藤 宏之 会員
 公職の第一線を退き、近頃は小学校へ行って夢づくりの話をしているが、どうしても水田農業でなければ子供の気持ちを引き付けることにならない。水田は環境問題、国土保全など多面的な話に繋ぐことが出来るが、畑では生命、成長のことは分かるが、広く心の問題には繋がらないようである。
 米が余るなら、EPA交渉などで米の輸出を考える努力が足りないのではないかと思う。




■上場 重俊 会員
 これからの農林業と言われても・・・。
 私は民俗学者柳田国男の「わが国の農業は、現在生きている人達に対して食料を供給しているだけでは決してない。これから将来にかけて生まれてくるであろう幾兆億の人達のために現在の農業があるのだと警告されている。」この考え方に共鳴するものです。
 
 狭い日本国土の生きる道として、昔から営々と築かれた水田農業の維持振興がなくてはならないのです。これが基本である。東京大学では稲を丸ごと原料にしたバイオエタノール製造の産業化を目指していると報道されているが、原料作物を日本で全国的に生産するには、何と言っても稲で、サトウキビやトウモロコシより適しているという考えのようだ。耕作放棄地や米の生産調整面積が増える中で、原料生産が出来るという現代の時勢に即した考え方です。
 このことは、私共が幼少の頃から教えられて来た「米一粒たりとも粗末にするな」という稲崇拝の考え方を改めなければならないことになるだろう。
 稲作の推進は島国日本の食糧、国土、環境の保全のためには有効な話である。
 私も、今後の行政課題として、バイオエタノールは地球規模で直面している問題と思っておりまして、西部の現場でも取り組んで見たいと思っております。
 この頃、日本経済は順調に発展しているとみて、経済合理主義の視点で政府も財界も国際分業論などに傾いており、農業は日陰に追いやられる形となって、農業政策は疎外されていると有識者から苦言を頂戴することが多くなりました。

 明治の農本主義の祖である前田正名は、明治30年代に農商務省を辞職して下野し、全国を行脚して村是、郡是運動の旗を振ったと伝えられておりますが、彼の部下だった高橋是清によれば、前田は「政府は当てにならぬ、私設の農商務省を建てねばならぬ」との気概であったといいます。
 それが、全国の有志が共鳴するところとなって、運動が広がったもののようです。この故事から見ても農政懇話会の意義は重要であり、今後の農政が農政懇話会からスタートすることを切に祈るものです。


川上 一郎 会員
 グローバル化の問題が出ましたが、国内農業に大きく影響することで、私が農業団体在職中に最も留意してきた「農の心を農政の基本理念」についてお話します。
 
「農の心と農政の基本理念」

 「農の心」とは、明白な定義は見つかりませんが、一般的に、自然とともに生きる哲学的な“農業観”、あるいは稲作文化に代表される “日本人の心”と同義に用いられているように思います。その根底には、生態系の中で互いに依存し合う「万有共生」や食うと食われるものの関係を意味する「食物連鎖」など、自然と戦いながらも自然との調和を大切にするという理念があると考えます。
 わが国の農業は、美しい風土のなか、自然環境の原則に適応する「適地適作」の技術を確立し、土と人、農と食のきずなを大切にした「身土不二」や「食文化」を育んできました。このようにして、自然生態系の一部である人間の理智と情緒をかみ合わせて農業心理としての「農の心」が醸成されてきたものと思っています。
しかし、戦後わずか半世紀の間に「農の心」は希薄化し、農政の解決の拠りどころを失ってしまいました。今こそ、「農の心」を起点に徹底した見直しが必要であると考えます。
中国古来の「陰陽・五行説」は、「一切の万物は陰・陽2気によって生じ、天地の間に循環流行して停滞せぬ万物組成の元素」とし、「七曜」に位置づけていますが、その中でも目を引くのが「日・水・土」です。なぜなら、この三つは「農の心」の源泉であることはもとより、期せずして現在の農政議論の中心課題になっていますし、おそらく永久の農政理念の要と思われるからです。
 いうまでもなく、「日・水・土」は、光・気温、降雨、農地の問題であり、食料安全保障と環境保全への影響につながる課題であります。
 地球温暖化によって、大陸地帯では「干ばつ・砂漠化」し、日本などのモンスーン地帯では「台風・豪雨」が激しくなると予測されていますが、基本穀物である麦、米、トウモロコシの世界的な不足を引き起こすことが懸念されています。また、21世紀は水の時代といわれています。人類生存にとって死活問題となる水資源を「つくり、守り、利用」するには何をすべきか。農政の食料自給率問題も、食料の生産に使われる水や農産物に含まれる水を考えますと、結局は水の自給率問題であるともいえます。水はすでに大量に国境を行き来していることになりますので、この点で、わが国は、すでに「水の一大輸入国」となっています。水のない国が輸出し、水のある国が輸入するという矛盾に行き当たります。
 「土」である農地は、食料を供給するだけでなく、人の健康や地球環境を守る役割を果たしていますが、その代表は、いうまでもなく水田にあります。しかしながら、山間地の奥地までも開田された日本の水田は、コストなどの生産力において他国と比較して、どんなに努力しても超えられない格差があります。こうした状況で、農業を経済だけの単純な物差しで比較することは極めて危険なことであり、とても同じ条件で市場競争はできません。
 このようにわが国の「日・水・土」の自然条件を考えると、雨・水に恵まれた日本的風土の美称「瑞穂の国」に最も適している作物は、基本食料の米(水稲)が最適であり、歴史上からも実証できます。
 以上のことから、食料自給率向上対策や耕作放棄地対策、環境保全対策等の農政の基本理念についてまとめると、私は、まず、基本食料であり、基本作物でもある「水稲(米)」を復権することが肝要と考えます。減少がつづく米消費に合わせた今までの米生産調整の政策の考え方を改め、もう一度稲作文化を基本に据えた農政こそ必要です。要は、人間的中心の経済至上主義ではなく、農業の基本的価値の観点から真剣に考えることが重要であり、人間が自然と関わる農業の精神的・内面的な「農の心」を基軸に置くという発想に立った政策の流れをつくるべきと考えます。


■米田 義人 会員
 町長時代(琴浦町)、農業担当課に農業は厳しい環境にあるので、「顔の見える農業」ということに神経を使えと言ってきました。
 現在は、全国的に都市型の国会議員が増えて、農業をバックアップする先生が少なくなってしまい、自助努力の時代となりました。
 私は、その努力の方向は次の6項目と考えております。
@ 消費者との共生
 琴浦町農業の将来は、消費者の方々に琴浦町産の農産品と、どう付き合ってもらえるか。これは消費者側の選択の問題ですから、町産品のPRを呼びかけました。
 売り込み方は、JAが主体となって農業の良さをあらゆる方面に発信して、消費者の理解を求める組織づくりと、以前東伯町(合併して琴浦町)で取り組んだマルチ栽培米(有機米)のようにコストは掛かるが、安全・安心の食として自信を持って推奨でき、消費者を納得させる仕組みづくり等を手掛けることです。

A 町の農政の原点は琴浦町の「不耕作地ゼロ作戦」を基本とすべきと考えました。
 農業就業人口構成を見ると70歳以上が大きなウェイトを占めており、5年後、10年後の農地保全が果たしてできるのか、大きな問題です。
 Iターン、Uターン等の人材確保、儲かる農業、売れる農業を実現しながら、農地の荒廃を防ぐにはどうするのか、中山間地への直接支払い制度の有効な活用方法等について、先進地の取り組み事例を勉強して体制作りに取り組まねばなりません。そして、農業後継者、新規参入者が営農に対して魅力を感じて励んでいくための手当ても講じなければなりません。

B 梨の振興
 以前より、鳥取の顔は20世紀梨だという思い入れが強く、県や果実連合会の協力を得て、東伯町の梨生産基盤強化に努力してきました。平成8年には生産者と消費者がともに語る場として、20世紀梨ドリーム博を大々的に実施しましたが、現在は当時より減って200haくらいになってしまいましたが、梨生産は高い生産技術、生産基盤、生産組織等が、長い歴史と共に培われて今日に至っているのです。絶対儲かる日が来るはずだ。辛抱して生産組織の維持を計っていかなければなりません。

C 2次、3次産業への進出に挑戦
 「農産品を市場へ」の農業は先が暗い。大変困難な課題ではあるが、「流通・加工」の分野にも手をつけて、付加価値を高めて消費者への政策が農業生き残りの道だ。

D 日本人の胃袋は贅沢だ
 世界の農作物(果物)を探し、健康、美容に特効ありと先んじて消費者に届けることが儲かる農業に繋がる道である。

E 地産・他(多)消
 地産地消も大切だが、地産・他消の道を拓くことが農業の本道と考えよう。

 以上のようなことを、常々話しておりましたが、最近の食農教育で、子供たちに農業体験(梨の袋かけ、田植え等)をさせ、「面白かった」「楽しかった」と感想を語っておりますが、この体験が将来農業振興(農業の大切さ)に役立つ大人に成長するのであろうか?と複雑な気持ちになる今日この頃であります。


□司会(川上一郎会員)
 米田委員から、これからの農業のあり方についてご意見が出ましたが、国は今年(平成19年度)から農業政策を根本的に改革されるようですが、このことについて、鳥取県内ではどう考えればよいのか、ご意見をお持ちの方は発言をお願いします。


■上田 弘美 会員
 平成19年度から、日本の農業政策は根本的に改革され、食料自給率の向上を図りながら、WTOの緑の政策を志向して、従来の品目別別の生産奨励から、農家の経営全体に着目した所得補償の政策へ急激に転換しようとしています。従来からEUで実施されてきたデカップリングの日本型政策と言えます。
 日本農業改革の柱として、品目横断的な経営安定対策、米政策改革推進対策、農地・水・環境保全向上対策が実施されようとしていますが、問題点について述べてみます。

1 品目横断的経営安定対策

(1) 担い手に施策を重点化
 担い手とは、認定農業者と要件を満たした集落営農組織となっています。しかし、鳥取県では担い手となる集落営農が少なく、これでは新しい施策に乗り遅れる心配があります。行政やJA等が連携して、いっそう努力する必要があると思います。とくに、全県的にリーダーの育成や、経理を一元化するための経営管理指導が必要だと考えられます。

(2) 対象品目
 品目横断的と言いながら、外国との生産条件不利補正対策(いわゆるゲタ対策)の対象品目は、鳥取県では麦、大豆に限られるが、麦の栽培面積は極めて少なく、しかもビール麦は該当しないのです。また、収入減少影響緩和対策(いわゆるナラシ対策)では、麦、大豆のほかに米も対象となります。

 しかしながら、鳥取県では果樹、野菜、花卉等の園芸農家や、畜産との複合経営形態が多いので、大規模の土地利用型を対象とした所得補償ではメリットが少ないのです。将来に向けて、対象品目を拡大するよう要求すべきです。

2 米政策改革推進対策
 平成16年度から実施された米政策では、担い手経営安定対策が採用されたが、平成19年度からは新しい品目横断的経営安定対策へ移行することとなります。ところが、鳥取県では担い手以外の農家が多く、米作りや生産調整に参加しているのが現状です。担い手以外の農家には稲作構造改革促進交付金があるのですが、助成単価が低いようです。当面は運営上考慮しなければなりません。また、耕畜連携推進対策も強化すべきです。

3 農地・水・環境保全向上対策
 農業生産にとって必須の農地や水資源の保全のための共同活動、環境保全のための営農活動促進の施策は画期的であると思います。しかしながら、ややPR不足です。そこで、農村現場の積極的な参加が望まれます。また、県や市町村の助成も期待したいと考えます。


■徳井 昌康 会員

品目横断的経営安定対策に係る中山間地域の集落営農について

 私は、中山間地域の農業に深い関心を持っているので、今年度から始まる「品目横断的経営安定対策」を活用することを強力に指導すべきと考えております。
 中山間地域の現状は、ご案内のとおり、ほ場は狭少で棚田という条件不利地域であり、農業者の減少、高齢化で、遊休農地、耕作放棄地の増加など困難な問題に直面しております。

 新しい農政の方向として、担い手の育成確保対策の中に集落営農も組み込まれたので、中山間地域もその可能性がありますが、面積要件、経理の一元化、農業生産法人計画の作成など、難しいハードルがあり、中でも情熱を持って村の人々を説得できるような人材を見付けることがポイントになっています。

 農政改革の目玉施策は、担い手に交付対象を絞る品目横断的経営安定対策と担い手に限定しない農地・水・環境保全向上対策である。
 この施策が活用出来れば、条件不利地域でも、農業に対する励みが出てくるのではないかと思うのです。

 とくに品目横断的経営対策は全額国費である。県としては中山間地農業の果している多面的機能を守るための新しい財源確保のための一手として、地域の人々に十分に説明すべきです。地元の人が動くまで腕を組んでいるのでは中山間地域は救われないと思っています。


■寺谷 寛 会員

「戦後農政の反省  農業本来の姿に返れ」
                         
 今、大変革の時代と言われますが、農業も同じです。国の農政や高度成長など時代の波に翻弄されてきました。私にとって、戦後の農政を総括する意味で、今年は早々から2つの忘れられない出来事に直面しました。一つは戦後農政の中で「モデル農協」として脚光を浴びたJA東伯の破たんとJA鳥取中央への合併、もう一つが智頭の中山間地で百姓ひと筋に頑張ってきた叔父の死です。
 戦後の農政は昭和36年の農業基本法によって選択的拡大、自立農家の育成、規模拡大等新たな方向が打ち出され、農業・農村の近代化も飛躍的に進みました。鳥取県農業も米づくり中心から転作などを生かした産地づくりが進み、全国に通用する特産物が相次いで生まれました。しかし、その一方で農村では過疎と高齢化が進み、農地の荒廃や後継者不足は深刻です。
 こうした現状の中で、これからの農業はどうあるべきでしょうか。一言で言えば戦後農政の反省を踏まえ、日本農業本来の姿、良さを見直し、もう一度原点に戻ることからスタートではなかろうかと思います。
 その一つが、県内でも運動が広がっている「地産地消」です。雨が多く、季節の変化に富んだ風土や気象条件を生かし、大地を耕し、天の恵みである太陽や水で、ものを育てる「有機的生産業」が日本農業の本来の姿だったはずです。戦後の農業はむしろ、技術で自然の摂理を克服したり、コントロールすることに主眼が置かれすぎたように思います。確かに技術や栽培管理の向上によって生産量は飛躍的に伸びましたが、その代わり野菜や果物には欠かせない本物の味や旬(しゅん)というものが薄れてしまいました。
 地元で取れる新鮮で、安心・安全な農産物が一番おいしく、健康にいい。「地産地消」はバブルや飽食に踊らされてきた反省からみれば当然の帰結であり、突き詰めていけばこれからの農業の生きる道も自ずとそこにあると思うのです。わが国の農村がアメリカやヨーロッパなどの農村と決定的に違うには、都市=消費地と近いことだと言われます。すなわち、生産者のすぐ近くに消費市場があり、多くの消費者がいる。そのことは農業からみれば最大のメリットであるはずです。その有利性をどう生かすか。最近の食への関心の高まりや健康志向で、消費者は新鮮でおいしい、しかも安全・安心な農産物を待っているのです。「最も身近に消費者がいる」―。戦後の農政はそのことを忘れていたのではないでしょうか。
 わが国の農村社会は昔から自給経済、地域経済、市場経済で成り立ってきました。しかし、戦後の高度成長の中でいつからか市場経済の方向に走りすぎたのではないか。一つの品目をできるだけ多くつくって市場を通じて大消費地の消費者に届ける。大量生産によって市場の優位性を確保し、少しでも高く売る。振り返ってみれば農業がどっぷりと市場経済の中にのみ込まれ、結果的に輸入農産物の付け入る原因や理由をつくってしまったとも言えると思います。
 もともと自給経済、地域経済、市場経済のバランスがとれ、その割合は大体3対3対3ぐらいがいいと言われます。もちろん、二十世紀梨やスイカ、白ネギ、長イモ、ラッキョウなど全国に誇る特産物はしっかり作って国内各地だけでなく、海外にも打って出る攻めの姿勢も大切であると思います。要はその兼ね合いで、地産地消をもっと地に着いた形で根付かせるとともに、地元市場への供給体制も強化し、県内自給率の向上にもっと努めるべきはないでしょうか。
 かつて米によって鳥取の誓文払いが大いににぎわい、梨やスイカなどが倉吉の街の商業を支え、繁栄をもたらしました。県中部では今、JA鳥取中央と倉吉商工会議所が「商農連携」ということで新たな動きも出ていますが、そうした取り組みに注目したいと思います。


□司会(川上一郎会員)
 今日は行政側の現役の方がお目見えですので、これからの農業政策についてお話願います。


■近藤 元 会員

「これからの農業、農業政策について」

 今年度、本県では農業改良普及活動のあり方を見直し、19年度からこれに基づいて実施することとしているところであり、今回のテーマの議論の参考になればと思い、概要をご説明します。
 これまで普及員は、制度発足以来、新技術等の普及を通じて多くの産地づくりなど農業の振興に役割を果たしてきたところですが、昨今は技術普及だけでなく、むらづくり、地産地消、男女共同参画など幅広い課題に対応してきているのが現状です。
 今後、農業を元気にして魅力ある産業にするためには、自分で考え行動される農業者が数多く育つことが必要であるという視点から、普及事業も農業者の自立支援を基本とした活動に立ち返る時期にきていると考えています。
 今回の見直しの結果は別紙のとおりですが、ポイントは普及員の支援対象や支援内容を重点化することと併せ農業者等への関わり方を自立の方向にベクトルを変えることです。
 これまで農協等とも意見交換を行い、内容についてはほぼ了解をいただいていますが、出された主な意見として、@普及の支援は新技術や新たな取り組み等に重点化し、一般技術指導は、農協等で対応していただくように見直している点については、これまでどおり普及の支援がほしいとか、A役割分担は理解できるが、農家に対する指導に隙間が生じないような配慮が必要とかいうものなどがありました。
 これらの点については、県としても手のひらを返したようなやり方はできないと考えており、農協の営農指導体制が整うまでの間は、要請内容に応じて対応するようにしていますし、農業者等に対しても徐々に自立を助長するような関わり方をしていきたいと考えています。
 いずれにしても、普及としては企業的農業経営を目指して意欲的に取り組もうとする農業者等(認定農業者等はもとより、一般農業者でもこれらを志向して意欲的に取り組む者も含む)に重点化して支援をしていこうと考えています。
 ちなみに、鳥取県農政の転換(意識の転換)を考えてみると、次の事項が考えられます。
@「政策誘導型・護送船団型」農政→「自立支援型」農政へ
 お任せ農業から考える農業・儲ける農業へ転換を図ります。リスクを負うのも儲けるのも農家です。その農家が主体性と力量を発揮することが大切です。
 行政や普及は、農家がもつ潜在力が発揮できるようサポートし、消費動向から、生産・流通・販売を自ら組み立て行動できる企業的農業経営を目指します。
A 担い手重視・自立支援関係施策へ重点化、プラン農政の推進
B 普及活動の見直し
○ 支援活動の重点化
 経営感覚のある企業的農業経営者が多く育つことが重要であるので、これらの支援活動を重点化します。
○ 支援内容の重点化
 普及は新技術に関する指導、経営アドバイス等に重点化します。一般的な指導は主としてJA等が対応することとします。
○ 実施時期
平成19年度から実施します。


司会(川上一郎会員)
 最後に総括的な話を鳥取大学名誉教授である石原会員にお願いしたいと思います。




■石原 ミ 会員
 これからの農政への眺望、副題として農村人口の定着と教育空間ということで、日頃考えていることをお話しいたします。

これからの農政への眺望
−農村人口の定着と教育空間−

成長・拡大政策のアメリカモデル
 明治以来、人口増加をひたすら歩み続けて来たわが国は、ひたすら成長・拡大路線の政策を取り続けてきました。そして高度経済成長の時代に入り、増え続ける人口への食糧自給策を早々に放棄して、農産物、水産物、木材を輸入に依存し、急増する工業製品の輸出との貿易バランス要因として取扱われるようになってきました。その反面で縮小、後退を続ける国内農業への関心もうすくなってきました。この時代の農業は、生産力の拡大と輸出増加、貿易自由化とグローバル化など、日本の農業政策のモデルはアメリカでした。

成熟・自給政策のEUモデル
 しかし、次第に人口減少が生じてきたヨーロッパのEUでは、それに対応して生産力増強から多面的機能の充実へ方向を変え、輸出拡大からEU域内の自給、農産物の品質向上へと転換していきました。これがEUモデルとなってきたのです。
 このような世界の流れのなかにあって、日本としては、農業の多面的機能の活用、食糧自給率の向上、農産物の品質向上に国民の期待が向けられてきました。ここでEU諸国の食糧自給率を穀物自給率で見ると、フランス178%、イギリス100%、ドイツ89%、イタリア79%です。日本は30%にすぎません。

増産・成熟二重政策をになう日本モデル
 日本では、アメリカモデルよりもEUモデルの方が農政のモデルとして参考になります。ただし、EUモデルとはいえ異なる条件もあります。それは、EUモデルでは農業が「量から質へ」転換しているのですが、日本では「量も質も」考えねばならない状態なのです。すなわち、EUが段階的に取り組んできた量と質の2つの課題を、日本では同時平行的に取り組まねばならないのです。この点が日本の農業政策の特徴であり、日本モデルの難しさなのです。

ドイツ農業と農政
 これまでわたしは43ヵ国を旅し、それらの国々の自然環境や農業を見てきました。その中で滞在日数の累計が多いのがドイツ(当時の西ドイツ)でした。したがって、最も親近感を持つ外国であることから、常日頃その国民性や生活について、参考事例として思い起こすことが多いのです。しかも、EUの推進役をフランスとともに担ってきているのがドイツです。このような理由から、EUの中でも特にドイツ農業での事例をあげてみます。
 わたしが年間を通して暮したニーダーザクセン州は北部なので大規模農業地域です。ジャガイモ畑、シュガービート畑が広がっています。ただこのような地域でも、町村住民は「クラインガルテン」を作っていました。これは貸農園で日本の市民農園のようなものです。これは大都市のベルリン市近郊でも見られました。300uの土地が整然と区画され、リンゴ、ナシ、オウトウなど果樹の花が満開に咲き、小屋のまわりに緑の芝、花壇の色とりどりの花、またイチゴ、レタスなどの野菜が育てられていました。
 ドイツ農業の課題は、要約すると食糧の生産と環境資源の保全にあります。生産者へのデカップリング政策(政府の支給は農家所得の55%にもなります)、農村住民全体の農村開発政策、農村を快適な居住空間、レクリエーション空間へ、などが特徴的なものです。歴史的に見ると、日本農業とドイツ農業は多くの似た構造の中で、並行的に進んできたと言えましょう。ただドイツでは総面積の50%を農業利用しているのに対して、日本ではわずか15%程度しか利用していません。ドイツでは農村のすぐれた環境と農業の多面的機能を守るためには、農業人口の定着が必要という認識に強く支えられています。

農村の教育空間
 人生の約50年を学校教育の場で過してきました。したがって、教育分野に関心が深い立場から見ると、農村を農産物の生産とともに教育空間として考えてみるべきではなかろうか、と考えるのです。
 子供たちへは、テレビゲームなどバーチャル世界ばかりの子供を、自然環境のなかで農村の生活体験学習をさせる。すなわち、農村の自然や生物に触れる機会を持ち、農作業など勤労体験、農村での生活体験をすることによって、生命の大切さ、科学する心、敬老の心を育てていく。
 高齢者へは、混住社会、成熟社会のなかで生涯学習、レクリエーションを楽しんでもらう。雇用機会の増大や町村の活性化に役立ってもらう。職業から趣味的就労へ移行してもらう。農村地域社会の秩序を守るためにも支援してもらうのです。

むすび
 農業の中心的な担い手たちの活動へ期待することは当然としても、その他の多くの農家の人たちは、上述のような子供たちおよび高齢者たちへの政策によって、とにもかくにも農村人口が定着するよう努力することが、重要な課題ではないのかと、わたしは眺望しております。


□司会(川上一郎会員)

 本日は、これから農林業はどうなるのかの質問に答えるために、お互いの認識を高めていこうということでこの学習会となったのですが、熱心な議論を交わしていただきありがとうございました。
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