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■このごろ都にはやるもの−34「ブラッド・ダイヤモンド」最首公司 (2007.3)
 西アフリカ・シオラレオネを舞台にした映画「ブラッド・ダイヤモンド」を観た。シオラレオネは、いまや南ア、ロシアに次ぐ“第3のダイヤ生産国”である。
 鉱区が発見されたのは英国植民地時代の1929年。このときロンドンに本拠を置くデビアス社が「シオラレオネ選鉱会社」を現地に設けて、鉱区を独占した。主要鉱区は首都フリータウンから東に500km、ギニア国境に近いコノ地区にある。ギニア高地を源流とするセワ川沿いにあり、鉱夫が川岸や泥の川に入ってザルで拾う原始的な採掘法がとられている。
 映画の主役は3人の男女だ。白人男性のダニー・アーチャー(レオナルド・ディカプリオ)はローデシア生まれの31歳。ローデシアはダイヤモンドや金の鉱区取得で財を成した英国植民地主義者セシル・ローズの名を冠した国で、南アと並ぶ「アパルトヘイト」の国だった。64年ザンベジ川以北が「ザンビア」として独立、以南は80年に「ジンバブエ」として独立した。アーチャーの両親はこの独立戦争の最中に惨死、孤児アーチャーは傭兵隊長の手で育てられ、隊長傘下のダイヤ密売人に育てられる。
 黒人男性ソロモン・バンディ(ジャイモン・フンスー)は、屈強な漁師で、反政府ゲリラ組織に襲われて鉱区に連衡され、ダイヤ掘りを強制される。そのバンディが100カラット、タマゴ大のダイヤモンドを発見する。足の指に挟んでそっと持ち出し岸辺の穴に隠す。この様子を目撃した男がいた。ゲリラの隊長である。隊長が跳びかかろうとしたとき、政府に雇われた傭兵隊の空爆が始まって、バンディはジャングルに逃げ込み、逃走する。
 3人目の主役は女性ジャーナリスト、マディー・ボウエン(ジェニファー・コネリー)。
彼女は国連食料計画によるアフリカでの難民救済事業を取材しているうち、シエラレオネの内戦が、実はダイヤをめぐるシンジケートと国際的な密売組織の利権争いがあることに気づく。
 この3人、それぞれの思惑を秘めて共同行動をとり、ついにバンディが隠したダイヤを取り戻すのだが、この後の展開は4月7日から始まるロードショーをご覧頂くとして、私がこの映画に興味をもった点を記しておきたい。
 東京新聞特報部に在籍していた昭和45年(1970年)ごろ、古代の富の移動ルートを「シルク・ロード」とすれば、現代の富のルートは「ダイヤモンド・ロード」ではないかと考え、さまざまな企画を考えた。とりあえず「ダイヤモンド・ロード」を商標登録して独占権を確保したうえで、部長に企画書を出した。
 次にやることはシンジケートの取材承諾を得ることだ。東京にはデビアスの工業用ダイタを販売する出先機関がある。ここに接触して企画の内容を説明した。代表の日本人女性は、商用で来日したロスチャイルド家(デビアス主要株主の一員)を紹介してくれた。この人の助力がなかったらロンドンのダイモンド取引所や南ア・キンバレーの鉱山、南西アフリカ(現ナミビア)のオレンジムンド海岸鉱区(映画007シリーズの「ダイヤモンドは永遠に」はここから始まる)を取材することはできなかったろう。
 ちょうどこのころ、デビアスも1カラット以下の小粒ダイヤの市場として日本を睨んでいた。日本でダイヤのPRすること考えていたところで、たまたま私の企画に合致したのだろう。
 このころ世界初の心臓移植手術が南ア・ケープタウンの病院で成功し、手術を受けたブレイバーグ氏を自宅に訪ねてインタビューした。車椅子の氏が玄関まで追ってきて、「女房に内緒でお金をくれないか」といわれて、要求額の5分の1、100ドル紙幣を一枚差し上げた。氏はその2週間後に亡くなった。以上は余談である。
 この一連のダイヤモンド取材の過程で得たのが「シエラレオネ・ダイヤ」の存在だった。帰国後、「ダイヤモンド・ロードの旅」と題して東京新聞、中日新聞に連載を始めると、いろいろな話が飛び込んできたが、その一つに「シエラレオネ・ダイヤを堀りに行くという人物が現れた。麻生太郎外務大臣の父親で、麻生セメント社長麻生多賀吉氏と実弟で専務の典太氏である。早速、私はインタビューした。新聞の連載には間に合わなかったが、後に講談社から出版した「ダイヤモンド・ロードを行く」には麻生兄弟のことを書いた。
 「ブラッド・ダイヤモンド」を観ながら、私は現地で指揮をとった典太氏の話を思い出していた。「すげーとこなんだ。ジャングルにはヒョウやハイエナがうなっているし・・・。日本じゃ石炭で苦労した分、アフリカでは愉快にやらしてもらうよ」と、豪快に笑っていたが、数年後に引き上げた。鉱夫の持ち逃げが多く、採算がとれなかったというが、値打ちのあるダイヤは確保したようだ。
 典太氏の話の中にもう一つ、重大な一節があった。ダイヤ鉱区を提供した地元の有力者で上院議員が「イギリス人とレバノン人以外の人に掘ってもらいたかった」という点だ。
 シエラレオネ・ダイヤが新たな問題を引き起こしたのは、9・11テロだった。20世紀が終わるころ、つまり1999年ごろからレバノン人を中心とするアラブ系の仲買人がやってきて、相場の3,4割高でダイヤを買い集めているというのだ。のちに判明するのだが、これら仲買人の多くはオサマ・ビン・ラディンにダイヤを売り渡していた。アルカーイダには目先の利く男がいるようで、9・11後にはグループの銀行口座が閉鎖されることを予測して、ドル預金を現金化し、それを移動可能で最も現金化し易いダイヤに換えていたのだ。
 米国情報機関のCIAも英国のMI6も気づかなかった。気づいたのは西アフリカ総局長という肩書きは立派だが、スタッフは現地人が助手1人という僻地に左遷されたアメリカ人ジャーナリストだった。のちに彼は「テロ・マネー」という本を書いている。
 映画「ブラッド・ダイヤモンド」で、ジェニファー・コネリー演ずるアメリカ人女性ジャーナリストは、彼がモデルではないのか。もし、そうだとすれば“リベリア・ダイヤ”(シエラレオネ・ダイヤはいったん隣国リベリアに密輸され、リベリア産ダイヤとして国際市場に出される)とアルカーイダの結びつきが描かれているに違いない、と私は考えた。
 私の「ダイヤモン・ロード」が表街道とすれば、「ブラッド・ダイヤモンド」は裏街道に当たる。「ダイヤモンド裏街道を行く」ほどの体力も知力もないので、映画の中だけでも見届けたいと思った。果たして映画では・・・。(2007年3月25日記)

 
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