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■「瀕死の原発を立て直す」最首公司(2007.4)
 相次ぐトラブル隠しやデータ改ざんで、日本の原子力発電は国民の不信を強め、いまや瀕死の状態にある。地球温暖化回避の“切り札”として、世界的に原発が見直されているとき、日本はいったいどうしたのか・・・。その背景を探るとともに、解決策を提案する。


原子力部は「城の中の城」
「電力会社は殿様だ」といわれる。名刺があればたいていの店で付けがきいた。自由化を迎えて往時の勢いはないが、それでも地方へいけば電力会社様々である。その電力会社にあって「原子力部」は別格なのだ。
 某電力会社で原発のトラブル隠しが発覚、原子力生え抜きの副社長が更迭された。新任の技術系副社長の役割は原子力部との「風通し」をよくすること。三年ほど経って退任するとき、副社長がため息をついた。「あの城は歯がたたん。結束が固いというか、排他的というか・・・」。
 日本の電力会社の発電設備のうち三割が原子力である。電力会社では最大の稼ぎ手なのだ。それだけに自信があり、原子力はオレ達に任せろという自負がある。
 ある電力会社の原子力部員は、トラブル隠しを指摘されて、「上司に報告するほどのものでなかった」といったが、そこには「素人に言っても判るまい」という過剰なエリート意識がうかがえる。
「臨界トラブル」を起こした北陸電力は、副社長も常務も個室がない。大部屋のコーナーにデスクが置かれ、秘書がつく。部下の報告は部屋にいる担当外の常務の耳にも入る仕組みだ。中央のテーブルで、お茶を飲みながらいつでも情報や意見の交換ができる。電力業界では最も風通しのいいはずの北陸電力でさえ、「情報隠し」を防げなかった。原子力部は「城の中の城」である。


検査体制に問題はないか
 原子力発電所や核燃料サイクル基地などには、経産省原子力安全・保安院から派遣された「原子力保安検査官」と「原子力防災専門官」の二人が常駐して、核施設の運転や検査を監視、事故やトラブルの発生に備えている。
 一連の「制御棒脱落による臨界状態」は、いずれも年一度の「定期検査(定検)中」に発生している。定検中の監視は最も厳重に行われるはずだが、検査官はトラブル発生を把握できず、隠蔽工作も見抜けなかった。
 核施設の安全、安心を確保するための検査官、専門官はその役割や業務の在り方に問題はなかったか。その報道も議論もされていない。実は、原子炉施設の一部でありながら、検査対象にならない重要機材がある。クレーンだ。炉型によっては100トンもの重量物を吊り上げるクレーンの安全検査は、定検の対象になっていない。操縦者の身の安全を確保するため厚労省の機関が別途行う。しかも、欧米では強化プラスティック製の「ウォーターバッグ」を吊して水を注入、原子力機器に損傷を与えないよう「実測検査」するのに対し、日本では「地切り」といって、時代遅れの「目測検査」である。 


本能には本能で対応を
 自分に都合の悪いことを隠す行為は、神様から与えられた自己防衛本能に基づくもので、己を顧みれば、誰もそれを非難することはできまい。原発の管理者は本社から派遣され、目も心も本社を向いている。
 原発の事故やトラブルに最も敏感なのは地元民である。自分や家族の身を守るという、これまた自己防衛本能に起因する。国が派遣した検査官でも安全・安心が確保されないとしたら、地元代表が原発の内部に入って監視するほかない。
 北陸電力の場合、所長と副所長のレベルで隠蔽が図られている。これは「副所長」を送り込めば、トラブルや事故情報に接することができることを示している。原発や核施設を抱える自治体は、「副所長」として地元出身者を送り込めばいい。それには原子力工学や放射線化学の専門家、あるいは原子炉メーカーのOBなどが適任だろう。
 核施設の運転員や定検時に採用される下請け作業員も地元出身者が多い。この人たちは地元出身の「副所長」に親近感を抱き、意思と情報の疎通が蜜になるはずだ。


運転効率を上げるために
 日本のエネルギー自給率は4%、24時間の電気にたとえると、国産電気は僅か58分で、23時間2分は外国製だ。先進工業国でこんな国はない。原子力を加えてやっと20%だ。日本のエネルギー政策の宿命は、温暖化を防止しながら自給率を高めることにある。そのためには太陽光・熱、風力、バイオマスなど地域エネルギーを目一杯追求すると共に、原子力発電の稼働率を上げることだ。
 欧米の原発稼働率が平均90%以上なのに日本は80%しかない。これは定検の時期を早めている(運転期間は短くなる)のと、定検期間が長いせいだ。日本では一年間運転すると定検に入り、燃料棒の交換のほか、タービンから発電機までバラバラにして検査する。欧米では運転中に不具合が生じた個所を重点的に検査し、全てをばらすようなことはしない。
 日本では事故やトラブルが発生すると、再開までにさまざまな手続きを踏まなければならない。とくに地方自治体の了承を得るのに時間がかかる。自治体は原発が存在するだけで国からお金(つまり国民の税金や料金)がもらえる。原発が動こうが止まろうが、同じ額のお金がもらえるなら、「止めておけ」になる。これまた自己防衛本能。
 そこで「副所長」の出番である。副所長の勧告を参考に自治体は運転再開の可否を決めたらいい。無駄な検査や手続きは廃止し、役所の縄張りと会社幹部の「慣例に従う」意識で放置されている合理的な検査方法や安全確認手段を採用すればいい。
 そのためには、地元に支払われる各種補助金や奨励金は、原発の運転実績に応じて支払われる制度に改めることだ。地元代表が「副所長」として、所内で安全運転と信用回復に努め、運転効率を上げるほど地元の収入が増え、日本のエネルギー自給率も上がる、そういう仕組みをいま創らなければ、自給率向上と温暖化防止の切り札であるプルサーマルや核燃料サイクルの実施、そして最終処分場の確定ができなくなる。


 
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