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■このごろ都にはやるもの−39「青森市原産大会報告瀕死の原発を立て直す」最首公司 (2007.4)
青森の春、原子力の冬
 桜吹雪の都を発って、新幹線で3時間、八戸駅で東北本線特急に乗り換えて1時間、青森駅に着く。遠く八甲田の山肌には残雪が見え、近くの線路際には蕗のトウ(薹)が顔を出していた。4月9日、この日から始まる第40回「原産協会年次大会」の取材で訪れた青森はようやく春を迎えようとしていた。
 大会は12日まで開催され、盛大に行われたが、初日の会場は電力会社による「臨界不祥事」が重苦しくのしかかっていた。来賓として祝辞を述べる政府関係者はことごとく不祥事に触れて再発防止を謳い、電事連会長を務める東京電力・勝俣恒久社長は議長役の冒頭、謝罪した。青森県六ヶ所村や大間町、東通村、むつ市のほか、柏崎市、福井県、松江市、佐賀県など原発や核施設を持つ自治体関係者も、この空気を感じとっていたことだろう。
 フランスの原子力企業アレバ社会長アンヌ・ローベルジョン女史は「日本の勇気ある行動に敬意を表する」といいつつ、日本の不祥事が世界の原子力産業に影響する点を指摘した。日本の原子力はいまだ冬の最中にある。


「核燃料は6か月分先渡し」とロシア・キリエンコ長官
 ロシア原子力庁長官キリエンコ氏は首相を経験したロシア・エネルギー界の実力者。プーチン政権は「核燃料バンク」構想を打ち上げているが、今回、キ長官がどのような提案を行うか、私の興味の一つはそこにあった。ロシア国営ウラン販売会社テネックスは2年前に東京事務所を設け、ウラン販売を開始している。いま日本が使用するウラン燃料の13%がロシア製だ。これを20%まで引き上げたいというのが、ロシアの当面の意向だが、将来はもっともっとシェアを伸ばし、ゆくゆくは「ウラン燃料リース方式」に持っていこうというのが本音だと私はみている。
 「リース方式」というのは、ウラン燃料を日本の原子力発電所に貸し出し、使い終わった「使用済み核燃料」はそっくり引き取り、ロシアで再処理したり、最終処分をしましょう、ということだ。こうなると、これから運転しようという六ヶ所村の再処理施設は不要になり(もしかすると国際管理下に置かれて運転するかもしれない)、いま問題になっている高知県東洋町が名乗りを挙げた「放射性廃棄物処分場」も要らなくなる。
 といわれても、日本人はロシアのいうことをそう易々とは信用しないだろう。「ロシアはいつパイプを閉じるかわからない」と、多くの日本人はロシアがウクライナやグルジアへのガス供給を止めた例を思い出す。
 だが、さすがキリエンコ長官。日本人を安心させる案を用意してきた。「ロシアは6か月分のウラン燃料を事前にデポジットする」というのだ。つまり、6か月先の分までお渡ししておきます、だから燃料が途切れることはありません、というわけだ。日ロ原子力交渉は2月から始まっており、4月中には決着する見通しだが、キ長官の発言は交渉への応援演説の意味もあったろう。 


プルトニウムと核武装
 日本が使用済み核燃料を「再処理」する目的は、「燃えカス」に含まれるプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜてもう一度「核燃料」にして再利用することにある。独自のエネルギー資源は4%しかない日本にとって、これは唯一の「国産核燃料」であり、有力な自給手段である。
 ところが、「燃えカス」から取り出したプルトニウムは、精製すれば簡単に「長崎投下型原子爆弾」ができる。ロシアや中国、韓国は日本の核武装化を恐れている。逆に米国は日本が核武装しても、すでに日本の自衛隊は米軍指揮下にあるので、核ミサイルが米国に向けられることはない。
 将来、中国や北朝鮮に不穏な動きがあれば、その先制攻撃として日本の核兵器を使用する方がなにかにつけて得策という考えだ。日本の有力な政治家や評論家がにわかに「核武装議」を語り、憲法改正のための国民投票法は13日に衆院本会議で可決された。その裏には、米国の意向が働いているとみるべきだろう。だからブッシュ大統領が提唱する「国際核燃料パートナーシップ」(GNEP)は、日本を「再処理パートナー」に加えている。
 ロシアの誘いに乗れば、核武装したり、米国核戦略の先兵になることは避けられるが、エネルギー自給率はどんどん下がっていく。エネルギーあっての食糧生産だから、食糧自給率40%もどんどん下がっていくだろう。
 米国の誘い、これも大いに問題がある。日本の核再処理をいかにして米国の防衛戦略と切り離すことができるか、それをみんなで考えなければならない。


ロシアは日本に電気も輸出したい
 キリエンコ長官は「ロシアは沿海州にアルミ工場と原子力発電所を建設する」といって、日本企業の参加を求めた。核燃料加工技術と工場はあるが、大型原子炉を作る工場がないのがロシアの弱点だ。
 私は1990年、ソ連エネルギー資源調査のため、電力、ガス会社の研究会メンバーと「アトムマッシュ」という原子力工場を訪ねたことがある。重量物を水運で輸送するため、ボルガとドンという両大河の合流点に建設された工場で、生産能力は世界一といわれたが、私たちが訪ねたときはチェルノブイリ事故の影響で受注がキャンセルされ、石油精製用タンクなどを作っていた。
 「あのアトムマッシュはどうなりましたか?」とロシア人に尋ねたら「いまは農機具などを作っている」といっていた。
 欧米各国が原発建設をたじろぐ間、日本は細々とではあるが、原発建設を続けてきた。それがいま生きている。東芝、日立、三菱重工、IHI,日本製鋼所など原子力産業が健在なことだ。ロシアは日本企業の協力を必要としている。
 キリエンコ長官がアルミ工場と原発建設を発言したとき、私は隣のデリパスカ氏にささやいた。「あれは貴方のプランだろう」と。すると彼はにやりと笑って頷いた。原産大会出席のため青森にいった半分の目的は、このデリパスカ氏に会うためだった。もし、時間があれば、グーグルで氏の名前を検索してみたらいい。すごい人物であることが判るだろう。
 簡単にデリパスカ氏を紹介すると、氏はアルミ製造会社の経営で成功し、企業買収によって急成長したバーザフィ・エレメント社の総帥。いまやロシアNO.2の金持ちで、間もなく1位になるだろうと噂されている。アジア市場進出を見据えてロシア沿海州にアルミ工場と、電力供給用原発を建て、電気の一部は北朝鮮に売る計画だ。同氏の計算では、沿海州原発のコストは1kwh1円(日本の原発では5〜6円)で、場合によっては沿海州からサハリンへ、そして宗谷海峡を海底ケーブルで結んで北海道・稚内市へ送電することもあるという。
 北方4島の帰属問題もなんのその、国後島か択捉島に原発ということも視野にあるようだ。講演者の話を聞きながら、イヤホンを付けたりはずしたりしての対話だから断片的にならざるを得ないが、彼のことだから、株価の安い電力会社に投資し、日本の電力経営のノウハウを入手するかもしれない。
 コーヒー・ブレイクの時間になったので、向こうでコーヒーでも飲みながら話そうよ、と誘ったら「すまん、これから東京に行くんだ」という。もう青森発の羽田便はないはずだが、というと「マイプレーンで」といって、どこにでもあるような手提げかばんを手に会場を後にした。4月15日記

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