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■「食糧自給率と有機農業」 瀬戸内KJKネット 小林 勉 (2008.8)


会員の皆様、毎日不順な天気が続いていますが、お元気でしょうか。岡山では長い干ばつの後、これまた長雨でなかなか仕事がはかどらないので、ちょっと原稿を書かせていただきました。


 アグフレーションの嵐が世界中を席巻し、特に開発途上国における食糧高騰とそれに伴う国民の生活苦は我々日本人には想像もつかないことでしょうと言いたいところではありますが、岡山の片田舎にあるスーパーマーケットでも、バターの入荷は未定です、というような表示があったり、晩酌のお供の6Pチーズは驚くほど薄くなっているし、スライスチーズはだんだん枚数が減ってきています。価格を同じに押さえるための工夫でしょうが、実際にはすごい値上げです。
 食糧の高騰は、原油の値上がりと同時に、バイオ燃料に振り向けられるトウモロコシのために、他の穀物価格もつり上げられるために起こっているわけですが、このふたつが同時に起こったことが混乱の原因でしょうか。穀物価格があがっても石油関連製品が特に値上げしていなかったら、そんなに生産費材の高騰もなかったと思うのですが、アメリカのサブプライムから抜け出して行き場を失った投機マネーが原油先物に走ってしまったこと、温暖化対策でバイオ燃料に拍車がかかったことが多くの悲惨な現状を発生させてしまいました。
 実際に、トウモロコシで車を走らせようとしたらガソリンよりも効率がかなり低くて、約100gのエタノールを作るためには、人間が1年間生きていけるだけのカロリーのトウモロコシが必要といわれています。アメリカはバイオ燃料に振り向けられるトウモロコシはわずかな物だといっていましたが、実際にはおよそ1億人分の食料に匹敵するといわれています。これをわずかというか、膨大な量というかは、その国の事情によります。
 今回の混乱は、食糧の絶対的不足による物ではなく、分配の不平等と、経済的な問題が絡んだ物なので、例えば投機マネーの行き先が原油を離れるとか、バイオ燃料関係の規制などにより、そこそこの落ち着きを見せることでしょう。ただ、世界は、例えば温暖化であるとか、あるいは人口の急激な増加などによる以外の経済的な事件を引き金に著しい食糧問題が起こることを学びました。ただ食糧の絶対的な不足は、近い将来必ず起こります。今のうちに食糧自給の問題はある程度今のうちに解決を見せておく必要があります。


 今回、寄稿させていただきましたのは、季刊atという雑誌で、「有機農業は誰のものか」という特集が組まれ、篠原孝先生も寄稿されていまして、そのほかにも有機農業の分野では第一線の方々が記事を載せておられるのを拝見し、自分の意見も書かせていただきたいと思ったからです。
 結論から言わせていただくと、有機農業が誰のものかといえばそれは未来の子どものためのものです。また、もう一つ、有機農業で世界の人口をまかなえるのかという話ですが、これは可能だと思います。人類の未来は化学肥料と農薬に依存している訳ではありません。人類の歴史で、化学肥料、農薬が多用された農業がわずかここ100年ほどのことであることを考えると、人類120万年の歴史のなかで農耕という物が成立したメソポタミア文明以降は、ほとんどすべての期間で有機農業だったことがわかりますから、もし有機農業で人口がまかなわれないとすれば、今までの科学は何をしてきたのだということになります。
 ただし今のような食生活、食品流通のシステムでは無理といわざるを得ません。今の食生活は、というか農業生産は、「捨てる」ための生産が多すぎます。よくご存じだと思いますが、日本は約1000万トンの食料を外国から輸入し、また約1000万トンの食品廃棄物を出しているというのはよく引きあいに出されますが実際には2200万トンの廃棄です。これは不可食部分も含まれるからですが、膨大な数字になることは確かです。これも原料と調理済みの食品廃棄であるので水分やその他のことでこのような妙な数字マジックが起こるわけですが、食糧が不足しがちな将来は、こういうことはできそうにありません。製造後3分で廃棄になるファーストフードや、時間通りに廃棄される、できあいのお弁当は将来的にはなくなるべきです。
 それから日本で食糧自給率があがらない理由のひとつに、日本人はいろいろな物を食べるからという意見があります。これは理解できます。例えばフランスは自給率が高いですが、フランス人は基本的にフランス料理だけ食べていれば大丈夫ですし、東南アジアで非常に高い自給率を誇るタイも同じです。日本人のように、今日は中華で明日はイタリアン、時々寿司を食べて、インドネシア料理もたまにはいいなあ、なんて言う国はそうそうないですから。
 ただ、今の食糧自給率が低いのは、キャビアやトリュフの輸入が多いからではなく、大豆や麦など日本人の食事として必要な食品の自給が低く、輸入に頼っていることが問題なので、あまり的を得た意見とは言い難いと思います。しかしエビは贅沢な食品ですね。今、日本に入ってくるエビはほとんど東南アジアからの輸入品で、東南アジアは世界の養殖エビの供給元として世界需要の90%を支えるほどの生産ですが、100グラムのエビを養殖するために300グラムの魚が餌として使われます。できあがったエビは種類にもよりますが、可食部分は17%しかありません。これは養殖が資源保護に結びつくわけではないといういい例です。3分で廃棄されるファーストフードとどっちがムダかわからないような物です。というかエビかつバーガーがその最たる物になるのでしょうか。


 さて、本題の日本の食料自給率問題です。篠原先生が述べておられるように日本の食糧自給率が上がらないのは、農業では食べていけないからです。早めに手を打てるとしたらという条件ですが、農業でちゃんと食べていけるようになれば、麦でも大豆でも農家は作ります。中山間地でも農業を行います。これは篠原先生の意見に賛成です。日本より北にあるヨーロッパの国々で日本より自給率が高いのは先に書いた、食事のレパートリーが日本と異なることと同時に、それだけ補助金をつぎ込んでいるということを示しています。テレビ番組でヨーロッパの農村風景を見ると、本当にきれいで、家も立派で、いろいろ問題もあろうけれども、日本の中山間地農村より活力がある感じがする。
 これはやはり直接補償による物かと思わされますね。篠原先生は大規模農業が悪いとは言っていないと言うことですが、僕は日本農業で大規模化は問題があると思います。日本はスケールメリットがでない地理条件です。北海道や一部の干拓地でスケールメリットがでることがあるかもしれないですが、それをモデルにすると失敗すると思います。
 篠原先生も書かれていますが、日本は自然環境が豊かであり、だからこそ病虫害も多いのですが、多くのアジア諸国は同じです。このような条件にあっては、大規模化よりむしろ多様化こそが発展の条件であろうと考えます。むしろ、多用な農業を展開させることでモデル農業を作るほうが汎用でしょう。そこを農業政策が推すと日本の農業は次のステップに進むことになると思います。でも早くしないとだめです。中山間地の問題がやはり重篤です。
 しかし日本はほとんどすべて中山間地なので、中山間地の問題は日本全国の問題なのです。廃村、限界集落、そんなのがいっぱい増えてきて、放棄された農地は原野に戻りつつあります。そこで農業を再生しようと言っても、時間もコストもかかりすぎます。
 さらに、今の若い人たちにといったところで、すでに若い人たちに農業という物から離れすぎているために、いくら満員電車で通勤するのがつらいからと言って、じゃあ農業をという風には結びつかないのではないかと思います。だから早くしないといけません。
 また自給率を今より下げないようにするためには、少なくとも今ある生産力のある農地を保全しておく必要があります。減反政策は、百歩譲って、農産物の価格下落防止に効果があるかもしれませんが、耕作放棄、農地荒廃、農地の転用を進めてしまっていることも事実だと思います。


 有機農業ですが、うちの農地では田んぼは除草剤だけ、畑は一切の農薬、化学肥料は用いていない期間がもう10年近くなります。従って畑は有機農業の条件を満たすものですが、第三者による有機認定を受けていないことから、有機農場ではありません。なぜ承認を受けないかというと、JAS有機については篠原先生曰く、明らかに農家を締め上げるだけの制度であり、岡山県独自の岡山有機も同じものであり、そのほかの事業では、あまり科学的でないことがその理由です。岡山有機は基本的に、作物に何か散布することを禁止しています。これはトマトに発生したアブラムシに牛乳をかけたり、唐辛子を焼酎に漬けた物をかけることも禁止しています。つまり農家が長年かけて培ってきた技術を否定しています。理由は、そういう物を使用して、植物体内でどのような反応が起き、それが人体にどのような影響を与えるのかが不明という理由からでした。それじゃあ試験機関なンだからちゃんと調べればいいじゃん、と単純にそう思ったのが、お断りの理由です。実用科学の粋みたいな有機農業をそんな非科学的な理由で切って捨てるような認証はお断りです。
 ただちょっと気になったのは、篠原先生のご寄稿をみて、補助金をつけるだけで、そんなに簡単に自給率があがるかなあという疑いを持ちます。篠原先生自身も農家だし、よくおわかりだと思うのですけど、ちょっと細かい解釈になりますが、EUと日本の問題対比で、「EUでは小麦だけを守ることにして油糧種子はいったん捨てており、同様に日本では米だけを保護して小麦や大豆を捨ててしまいました。ここまでは同じです。」という記述がありますが、これは同じではありません。小麦と油糧種子は同じ乾田ですが、米と大豆、麦は湿田、乾田の転換が必要です。農地の水管理などの問題で、日本の転作はEU型の転作より問題が多いですね。
 とにかく、農地の保全、農業従事者の確保、ひいては食糧自給率向上の問題は、時間的な制限がそこまで迫ってきているという危機感を持って、早急に対処してほしいと思います。
 フランス元大統領のシャルル・ド・ゴールは自国の食糧をまかなってこそ先進国であると言いましたが、シンガポールのような都市国家でもないのに日本はお粗末な物です。ここまできたら農家の自分でもどうやったらいいかわからない位ですけども、いずれ100%自給を目指して、まずは60%自給するためにはどうするべきか、このあたりから本気で準備を進めるべきではないでしょうか。このまま後10年したらもう手がつけられなくなります。それまでに何とかしましょう。


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