会員掲示板へ※パスワードが必要です!会員掲示板へ※パスワードが必要です!原稿の投稿をするにはKJKネット利用方法事務局へ問合せ
 トップページ > 会員投稿ページ > 投稿
| 前ページに戻る | 会員投稿ページへ戻る | トップページへ戻る |
 
■このごろ都にはやるもの−60 「プーチンのエネルギー戦略」とアラブ産油国 最首公司 (2008.2)
「レント」の愉悦

 ロシアはアラブ産油国とともに原油高にともなう「レント」を楽しんでいる国の一つ、というより最も楽しんでいる国かもしれない。そして、そのレントをフルに活用してプーチン政権は内外に権勢を誇示している。
 「レント」とは、宝くじや賭博で当てた金、あるいは所有資産が値上がりして得た「余得」である。25ドル前後(バレル=約160?)の原油価格が数年の間に90〜100ドルに値上がりした。その思わぬ「余得」をどう使うかが、産油国の知恵の見せどころだろう。

 ロシアのエネルギー戦略、即ちプーチン大統領のエネルギー戦略である、ということを否定する人はいまい。では、彼のエネルギー戦略とはなにか?
 「プーチンのエネルギー戦略」の著者、木村 汎氏は著書の中でそのカギは「プーチンの准博士号論文にある」と指摘する。その論文の要旨は一言で言えば「ロシアが豊富にもつエネルギー資源を最大限に活用してロシアの国益を推進すべし」という点にある。石油、天然ガスを最大限に活用するために、プーチン政権はエリツィン時代に民営化され、市場化された石油企業、ガス企業を再び国有化し、政治的、外交的手段として用いている、というのである。


プーチン准博士号論文の真偽

 だが、その「准博士号」を得た論文が「代筆」であり、しかもその代筆者が米国学者の論文を盗用した、という説を裏付けるところから、本書は筆を起こしているので、専門外の読者でもたちまち次々とページを繰っていくことになる。
 国有化するためには、例えばロシア最大の石油会社ユーコス社のホドルコフスキー社長を脱税、横領、詐欺などの罪で逮捕したり、第7位の石油会社ルスネフチ社を国営石油会社ロスネフチに合併した。ルスネフチ社のグツェエリエフ社長はイングーシ出身のムスリム。刻苦勉励してルスネフチ社を育て上げたが、ホドロクフスキーの二の舞を恐れて、プーチンの意にしたがった。
 ユーコス社を追い詰めた同様の手法が使われた例がもう一つ、「サハリン2」プロジェクト。米・日企業が開発を進めてきた同プロジェクトは「脱税」に代えて「環境汚染」の嫌疑をかけられ、結局はロシア国営企業で、世界最大のガス会社ガスプロムに過半数の株式を譲渡する破目になった。


ウクライナとの“ガス戦争”

 06年を著者は「ロシアエネルギー戦略の転換点」と指摘する。新年早々、ガスプロム社はウクライナへのガス供給を停止した。その経緯についてここで触れる必要はないと思うが、著者は両国のガス戦争の勝敗は、「まだ判定できない」という。
 私はこれまで両者の力関係は「ガスの元栓」を握るロシアが圧倒的に有利とみていたが、実はウクライナにも強力は対抗手段があることを本書で教えられた。それはロシア黒海艦隊の基地がウクライナ領内にある、ということだ。
 1954年、時のフルシチョフ首相は「クリミア半島をウクライナに進呈する」といった。ソ連邦時代の当時、ウクライナもロシアの一部くらいの軽い感覚だったのだろう。これが1991年の連邦崩壊、ウクライナ独立で大問題になったが、混迷する国内経済に振り回されたエリツィン大統領はクリミア半島をウクライナに割譲することを決定した。問題はクリミア半島の一角、セバストポリ軍港はロシア黒海艦隊の基地だったことだ。黒海艦隊はロシア4大艦隊の一つだが、セバストポリ軍港は唯一の不凍港で軍事的重要度は高い。97年5月、ロシアはウクライナに対し年間9300万ドルを租借料として支払うことで、同港の継続使用が合意された。


 05年末、プーチン政権がウクライナ向けガス料金の大幅引き上げを要求すると、ウクライナ政府が軍港租借量の大幅引き上げを要求する、という対抗手段に出たのである。私は不勉強で、ウクライナにこういう対抗手段があったとは知らなかった。
 もう一つ、私の知らなかったことは、ロシアがトクメニスタンやカザフスタンなど中央アジア産ガス国から超安値でガスを仕入れ(トルクメニスイタンの場合は1000立方m当たり50ドル)、国際市場価格(240ドル)で西欧諸国に販売、石油以上の「レント」を入手していることだった。トルクメニスタンもカザフスタンもパイプラインがロシアに押さえられているため、他国には販売できない。ロシアはその弱みに付け込んで買い叩きしているのである。
 このことを教訓にいま中央アジア産ガスをめぐるパイプラインの“ルート戦争”が産ガス国、ロシア、EU,それに中国までもが参戦して熾烈に戦われている。日本との関係では、中国が先行していた東シベリア・パイプライン建設計画に対して、北方領土問題の解決を夢見た小泉内閣が日本向けパイプライン「太平洋ルート」を提案し、右往左往した挙句、無にきした阿呆らしい話が紹介されている。「サハリン2」にしても「太平洋ルート」にしても、日本はプーチンの戦略、時の「風」を読みきれず、見当違いの対応をしたことが失敗を招いた、と著者は警告している。


オランダ病の感染

 1970年代、北海のガス開発によってオランダは空前の好景気に湧いたが、80年代後半の原油価格崩壊とともに国際競争力を失い、経済不況を招くことになった。これを「オランダ病」というそうだ。著者はロシアをオランダ病とまでは認定していなが、その危険性を指摘する。
 それは@レントによってロシアが「ユーフォーリア」(陶酔感)に陥っている(クドリン財務相=プーチン論文代筆者といわれる)Aロシアはエネルギー依存経済から付加価値の高いハイテク産業への転換が必要(プーチン大統領)という発言に現れている。だが、「付加価値の高い」商品化とは、例えば木材を原木で売るのでなく、加工して輸出して売ることだが、生来ロシア人はこうした手の込んだ加工が最も不得手な分野だと著者はいう。
 「レント」は時に「資源の呪い」となってレント享受者自身を滅亡に導く。そうならないために必要なのは資金をどう使うかだが、ロシアの場合「レント」を分かち合うのはプーチンとその守護者だけで、「プーチン政権は『レント・シェアリング』(配分)で結びついた利益集団なのだ」と烙印を押す著者の見解では、ロシアの近代化、民主化は日暮れて道遠しということになる。


アラブ産油国の問題はインフレ

 ここで同じ「レントの国」アラブ産油国をみてみたい。「レント」の配分が王族の手に委ねられている点はプーチン政権に似ているが、ロシアのように石油や天然ガスを政治的手段として使うようなことはないし(これは70年代の「石油戦略失敗」の教訓だろう)、プーチン政権のような驕りはいまのところ感じられない。
 石油のサウジアラビアも天然ガスのカタールもロシア同様、エネルギー依存経済からの脱却を図って外国企業の参入、先進技術の導入を進めているし、ロシア人が「不得意」とする分野は、アラブ人も同じような気がする。サウジ・アブダラー国王は宗教界の抵抗を排除しながら女性の社会的地位の向上を図り、若者に対する教育、職業訓練の必要性を説き、国立アブダラー工科大学設立など近代化政策を強力に推進しているが、「女性の権利獲得に一番反対しているのは女性自身」という女性からの告発や「うちの息子には手を汚すような仕事をさせたくない」という父親などの生の声を聞くと、こちらも道遠しという感じである。
 とくに外国からの投資を必要としているこの重要な時期にインフレが高進していることだ。通貨が米ドルとリンクしているので、ドル安がそのまま非ドル圏からの輸入品が値上がりしてしまう。クウェートの新聞は「政府は物価政策に失敗した」などと政府の失政を追及しているが、しっかりしたインフレ対策を打ち出さないと、外国からの投資も進まないだろう。「GCC(湾岸協力機構)研究会」を運営する身としては、この点が最も気になるところである。 2月18日記 

→この投稿についての感想・ご意見は会員交流掲示板内ホームページ投稿原稿への感想」へ
 このページの上へ


Copyright(C)小島志ネットワーク All Rights Reserved.