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「これからの日本の農業と農村の在り方
  そのT.日本の社会インフラとしての農業と農村社会の確立
」 草刈 啓一 (2008.4)

1.基幹フィールドとしての新しい役割と展望


 原点に回帰し、農業とその社会での役割を、角度を変えた視点で眺めると、そこには、これからの日本に於ける重要な役割と展望が垣間見えます。農業(及び林業)と農村の機能と特性は、単に、食糧防衛の為の国産化(カロリーベースの自給)率の向上のみでなく、やり方次第では、現在の日本の教育、労働、厚生、環境、経済、エネルギー、防災等の広範な分野に渡る社会システムと共生し、それらの分野が抱える迷題の解決や緩和に役立ちます(これらの役割を果たす農業や農村を以下「基幹フィールド」といい、林業や森林を含めることもある)。世界の主要食糧需給が逼迫し、価格が上昇するなか、食糧の輸出を抑制し始めた国もあるようです、また、米国、中国、インド等の国々で、水不足が深刻化しつつあります。日本の農業や農村は、森林の機能とも融合し、自然や環境の維持は勿論のこと、水資源の保全に有効な機能を果たします。また、都会の大災害時の水や食糧の供給拠点、又は、究極の避難場所として、危機管理上の重要な役割も果たします。日本人の生存に必須である主要食糧の国産化(自給)率向上体制の構築と、農業や農村と共生した“健康で健全、そして安全で安心できる安定した新しい社会システム(以下「Agri-Social Systemいう。)を確立することは、これからの日本、そして国づくにとって最重要施策(以下「基幹プロジェクト」という。)であるとも云えます。世界でも中進国になりつつあるなかで、農業、自然そして環境をベースとし、人間の生命や健康そして安全を重視したSmall is beautiful の原則に基づく「和(環)の経済」を有する社会システムの構築でもあります。この、原点回帰の新社会システムが メリハリのある形で具現化されれば、グローバル化のなかで、日本の評価と価値が大いに高まることにもなります。


基幹フィールドとしての農業と農村の主な役割
  • 国産化推進(休耕地等の再利用)による食糧防衛
  • 有機や減農薬促進による食の安全と健康の維持と環境への貢献。
  • 食べる薬としての農産物の医学(代替・免疫医療等)。
  • 循環型農業や持続型農業の推進(森林の維持と合わせ)による環境負荷削減や自然の維持。 (CO2排出権の供給フィールドとしての役割。)
  • 植物としての農産物や木材のバイオ研究等によるエネルギー源としての開発研究。
  • 小(中)学生に対する、農作業の実体験と農村での生活を通じて、情操教育。
  • 大学生に対する、学外実践体験プログラムを通じての体験教育と、大学生による農業生産活動と農村地域活性化への貢献。
  • 社会人やフリーターの途中就農。
  • 20〜30代の農村生活者(就農者)が増えることによる少子化の緩和。
  • 農村生活や農業支援活動による定年後の充実した生活と健康の維持。
  • 社会人や定年退職者の週末や定期的農村生活。(Dual Life)
  • 障害を持たれた方への雇用機会の提供(水耕栽培等)。
  • 田んぼや畑による雨水や水の貯蔵、保全機能。
  • (食糧危機や)都会の大災害時のLast Resort。(究極の避難場所)
  • 企業等のRisk Hedge政策としての農村や地方の見直し。
  • 経済又はその他の要因の優位性を有するサービス等の都会からの受託。


 農業と農村を基幹フィールドとしたAgri-Social System 構築構想。これは、まさに、ソフト中心の社会資本の形成です。この構想を積極的に推進し、実現することにより、国産化促進による食糧防衛、農村と周辺社会の活性化による格差問題の解消、環境や水の保全、将来を担う人材の育成、そして、安全で安心そして安定した、明るい日本の未来を切り開くものでもあります。


 この社会インフラの構築には、人々による、都会から農村への移動や都会と農村との交流また、一部には企業やサービスの移転も伴います。これを契機に、都会と農村の距離が短縮し、部分的にも、共生関係も始まります。農業従事者と都会からの移住者や参加者、農村と都会の行政と関係者の主体的且つ積極的役割が期待されます。資金的には、移住者や参加者、そして受け入れ農業法人等の負担もあります。ボランティアーの支援や企業による資金支援や投資も想定できます。公的資金も必要ですが、コンクリート主体の投資に比較し、効率的で効果的であると推定されます。有能な国や地方の公務員、そして農協の職員等にとっても、本来の企画、調整、組織化能力を、効果的に発揮できる施策でもあります。


 戦後60年が経ちました。経済(景気)循環も60年が最長です。日本の経済及び社会に、変革(改革)の必要性が差し迫っているようです。歴史は、次ぎの世代の安定には、大なり小なり、改革が必要であることを教えてくれました。Agri-Social Systemの構築は、まさに、将来の日本の安心、安全そして安定を確保する為の改革です。改革には、しっかりしたグランドデザインと個別スキームとプログラム、そして、多くの人々のエネルギーと汗が必要です。この過程を牽引し、動機付け(Motivate)、支援することが、まさに、ソフトによる社会資本の形成です。 道路には、依然として、中央そして地方の政治も最も関心があり、長期計画もあるようです。50年そして100年の大計としての国づくり構想がその前提にないのは、本末転倒です。世界の政治や余剰資金の関心は、食糧、環境そして水に向かいつつあります。これが、予想以上のスピードで進むかも知れません。このまま、場当たり的対処を続けていれば、日本の農業や農村、そして食糧、水、環境も、気がついた時には、日本国民から、大きくかけ離れた存在になっているかも知れません。


 最近のアジアでの米価の高騰を、一部の生産者やブローカー等の関係者は、千載一遇の機会と期待するかも知れません。しかし、主力農産物が世界のマネーゲームに大きく翻弄される事態は、消費者のみでなく、最終的には、多くの生産者にとっても、決して好ましくはないはずです。短期的には、アジアでのタイ米の高騰が、国内米価や消費者への供給に波及し、大混乱が起こる事態を、避けねばなりません。食糧防衛体制や農村との共生が確立する前に、食糧危機に、(特に、都会が)陥ったら大変です。
 農業と農村の基幹フィールドが、(都会とも、)共生した、Agri-Social System 構築構想の設計とその具現化が急がれなければなりません。




2..都会から農村へ


1)人の移動と農兵制(学外実践体験プログラム)


 戦後の日本経済や社会は、農村から都市への人々を中心とした移動により形成されました。新社会システムは、都会から農村への人に移動とサービスの移転によって実現されます。人の移動が主体となり、なかには、サービスの移転が伴うものもあります。これらの人々にはいくつかのタイプがありますが、農村生活の目的や滞在期間、そして、農業や農村への貢献具合は、各々異なります小学生から定年退職者までの多くの人々が農村を訪れ、なかには、これを契機に、半定住若しくは永住する人もでてきます。将来の国づくりを託す、小(中)学生や大学生(以下参照)の情操及び実戦教育、また、社会人の転職の機会としての就農や定年後の健康で健全な農業・農村生活です。小学生の情操教育の為の農業体験、都会居住者や定年退職者のDual Life、都会の社会人の就農は、既に実施されています。主要食糧の国内生産増強という日本人のサバイバル(食糧防衛)政策にとって、人手不足が致命的となった場合、若者やフリーターに対して、より積極的な就農勧誘がなされることもあり得ます。都会の若者に対する就農と農村生活についての魅力づくりも必要です。


 将来の国づくりに役立つ若者の育成は極めて重要です。シンガポール人やドイツ人から学んだことですが、徴兵制の一つの重要な利点は、その経験が若者の人間形成に大いに役立つとのことです。日本では、農業体験と農村での活動(「農兵制」といったら語弊があるかも知れません)を提案します。大学の1〜2年間、農業、福祉、企業、そして海外でのNGO活動等を経験させる学外実践体験プログラムの実施とその一環としての農業及び農村活動です。1学年の学生が全国で約60万人として、重複すると、最大120万人が学外生活を送ります。農業研修を選択する学生は未知数ですが、その実践体験は、まさに、米山喜久治先生の(企業への)Internshipを通じての五感教育に相当します。農業研修は、体中を使って、沢山汗もかき、土や水そして自然の大切さ、そして収穫の喜びを実感します。農村の伝統や文化に接し、農村コミュニティーへの積極的参加も期待されます。将来の日本を担う人づくり教育として、極めて貴重な体験です。重要なことは、休耕地や不耕作農地の再開墾を含め、少子化や高齢化で不足しつつある農村の労働力として、日本の食糧の国産化増強の為の重要な戦力となるはずです。
高齢者の介護支援等、農村コミュニティーの為に、農作業以外の分野で活動する人たちもいるはずです。若者の参加は、農村を明るく元気にし、新たな活力を与えます。体験を終えた後も、農村との交流が続くかも知れません。また、一部の若者は、実践経験のある就農予備軍となり、卒業後、若しくは都会での勤務経験を経た後、農村で働こうという気になるかも知れません。この構想の実現には、その為の最適スキームと行政、大学、学生そして受け入れ側の合意、と精緻なプログラムとその体制づくりが必要です。


 農村で体験する学生、Dual Lifeをする人達、また就農や農村に永住する人達にとっても、都会と農村とのコミュニケーションが、容易にとれることも重要です。遠隔地との、リアルで臨場感のある映像や音の交信が可能になりつつあります。農村から離れている間の農産物の発育状況の把握や現地の人達との会話、都会の家族や友人との会話も容易になります。これら通信手段の進歩に、交通手段の改善が加わり、都会と農村の距離が短縮し、その交流も益々盛んになります。


2)企業やサービスの移転(本書は農業を主体といるので、簡単な記述に留めます。)


 都会から農村への移動は、農業分野のみでなく、技術を供なった工場や人材、都会と比較し優位性のあるサービスの移転もあり得ます。 農村地域には、未だ、潜在労働力を有し、インフラが整備された工場用地が未使用のまま放置されているところもあります。大企業や中小企業にとって、発達した通信媒体(TV電話等)で、遠隔地の本社や顧客との経営、技術、製品等の重要情報の交換や会議も可能となっています。


 中国を始め海外にその工場進出を集中した企業も、「10年経ったら、形を変えてブーメラン」の予想通り、最近、国内に工場を建設するところが出てきました。ノウハウの保全とリスク分散がその大きな動機のようです。大企業の工場進出には、その関連企業の進出も伴います。かっては、労働集約的な軽作業が主体でしたが、ノウハウ等を有する基幹製造プロセスが主力となります。新工場に派遣されるスタッフやそこで採用される人員の質も異なります。新しい技術、教育、文化や社会、そして国際性が、農村と共生することになり、多大な効果と変化が期待されます。


 都会で、技術の継承者や人手不足に直面している、優れた技術を有する中小企業やその工場を積極的に誘致するのも良いかも知れません。いままで、都会の区域の誇りであった精密技術や伝統技術が中心です。都会の一定区域の(伝統)技術を、農村地域でお預かりし、継承していくプログラムを実現することにより、都会と農村の両地域間の多面的展開も期待できます。 東京では、介護要員不足が深刻になっている地域もあるようです。介護サービスも、全国一律の保険給付制度のもとで、農村や地方が、人材の確保や人件費、施設とその運営費用、食材費用等で優位性があります。本人や家族の同意、そして医療体制等に問題がなければ、自然や水に囲まれた環境も最適です。受け入れ市町村にとって、移住した介護対象者の医療や介護費用負担の問題が発生します。都会の行政(区や市)からの委託による、介護サービス提供の仕組みも必要です。  


 教育や防災の分野に加え、企業誘致やサービス分野でも、都会(区や市)と農村との地域間交流が盛んとなり、和(環)の経済のみでなく、社会・文化の分野でも、共生関係が構築されることが、農業や農村の発展にもつながります。




3.農村の活性化、地域格差と少子化問題への貢献


 人の移動は、金や物、エネルギー(活力)、そして経済や社会活動に伴う効率的システムの移動も伴います。農業及び農村地域は、新しい参加者、参入者そして協力者を迎い入れることにより、農村地域の高齢化や少子化、そして後継者問題の解決や緩和に貢献し、休耕地や不耕作地の再開墾による国産化(自給率の向上)を含めた生産供給体制を強化させます。一部の農産物の生産増大は、その加工食品事業の振興につながるかもしれません。農業と農村生活に憧れ、自分の会社の工場を農村に移すような人もでるかもしれません。小学生の受け入れにしても、都会の両親や帰属小学校とそのコミュニティーとの直接的関係の構築等、農村(生産者)と消費者との距離を近づける望ましい結果をもたらすかもしれません。既存施設や農家の改修も含めた受入施設の拡充、車両や機械設備や什器備品類の新たな調達も、ある程度なされなければなりません。少子化、市町村合併や農協の合併で要らなくなった小中学校、市町村、農協の建物や施設の再利用もあり得ます。地元の林業振興や環境維持のため、コンクリートより木材を使用することが多くなるかも知れません。メンテナンスコストのみが目立つようになった道路も、このプロジェクトによって、有効利用されることになるかも知れません。これを契機に、都会と農村の一定地域間で、都会の災害時に備えた防災資材の農村への保管や食糧危機に備えた農産物や加工品の取引等の経済的関係が構築される可能性もあります。このように、農村への人の移動と都会との交流は、農村とその周辺地域に経済的効果ともに、多様な副次的恩恵をもたらします。また、これらの人々が、いろいろな地域プログラム等に参加することにより、農村地域の活性化の度合いが、高まることになります。更に重要なことは、農村や周辺地域が活性化すれば、そこで生まれ育った若者にも、現地で、就農や就職をする者が増えるはずです。これが地域格差の解消やや後継者問題の解決に更なる力を注ぎます。


 理論的根拠はありませんが、都会と比較し、広い居住空間、ストレスも少なく、食べ物も新鮮で豊富にあり、健全で安心な生活がおくれる農村やその周辺地域は、若者夫婦が子供を産み育て易い環境にあるような気がしてなりません。多くの20代〜30代の人々が就農すること、もしくは農村や地方で暮らすことが、日本の少子化問題の重要な解決策の一歩かもしれません。   




4.コンクリートからソフトへ; 政策投資として好ましい効率性と有効性


 農村の人々と都会から農村へ移った人々が協調して実施する当該基幹プロジェクトには、一定のコンクリート投資も必要ですが、あくまでも、ソフトを主体としたプログラムの一環としての投資です。基幹フィールドとしての農業と農村、そしてその社会システムの融合には、コンクリート行政とは、全く異なった哲学、企画、計画、方策そして調整能力、詳細なプログラム、手順、しっかりした受け入れ体制や組織、結束や実行力、協調性、ケアや奉仕精神、そして経済性や合理性も要求されます。


 当該基幹プロジェクトには、全面的若しくは多くを自己負担者による都会からの移住者や就農者、民間企業の協力や参加、都会からの就農者の報酬や滞在費の経費を負担できる農業法人や一部の農家もあります。なかには、都会や農村地域のボランティアーやNPOによる協力も期待されます。農協の協力体制も必要ですが、中央や地方の行政や政治の全面的支援と協力が不可欠です。農村がその主体性と独自性を発揮し中核となることが大切です。目標の達成に最も効果的な、強固で且つ柔軟な受け入れ体制の構築がなされなければなりません。


 一定の公的資金の投入も必要です。最近では、公共事業もあまり経済効果がないといわれます。しっかりしたソフトがその背景にないコンクリート事業は、その意義を喪失しているのかも知れません。コンクリート事業のみでなく、多くの公共及びそれに類する機関のサービスも、経済的効果が薄れつつあるようです。この基幹プロジェクトは、様々な社会システムと横断的に関係します。生産性の劣化した公共若しくは準公共サービスへの予算や人員を、このAgri-Social System の構築に仕向けた方が、よほど効果的だと思われます。


 ソフト中心の当該基幹プロジェクトは、スキームと個別プログラムさえしっかりしていれば、従来のコンクリートを主体とした予算と比較しても、少ない投下資本で、より有効な経済・社会的効果と国家基盤の安定の為の斬新な社会資本を創出することができるものと推定されます。即ち、多くの場合が、農産物やその加工品の生産増強や新しい市場や販売方法の創造にもつながります。人の移動だけでも、地方(農村地域)を活性化させます。人材の教育や育成、健康で健全な生活、そして、多様な社会システムの基盤の構築に役立ちます。新しい国づくりの一環であるAgri-Social System の構築が、当面の政策課題である食糧の確保や地域格差の解消と同じ土俵(基幹フィールド)上でなされ、且つ、参加者や民間企業、そして農業生産者の負担も期待できます。まさに一石三鳥、投下資本の面からしても、政治や行政、そして国民にとっても、効率の良いプロジェクトであるとも云えます。長期的プロジェクトである、環境や水資源の保全のための持続型農業や、都会の防災支援の備えも、同じ土俵の上で展開することができます。持続型農業がCO2排出権の対象になれば、投下資本の回収価値や乗数効果、そして社会的意義が更に大きくなり、農業就業者や参加者のみでなく、国民にとっても、更に、魅力のあるソフト中心の社会資本形成の為の政策投資となります。




5.経済行為(活動)を伴う長期プロジェクトの実施(公的資金の抑制効果)


 水資源の保全や環境の維持、環境整備に必要な持続型農業、都会の非常時に即応できる防災態勢の構築等の施策は、長期的プロジェクトとはいえ、先行投資が過大になっては問題です。公的資金に多くを頼らず、計画開始若しくは実行時から、一定の対価を獲得しながら、長期目標を達成する方策が望まれます。峯浦さんの宮城県田尻町の世界で最初にラムサール条約に登録された「ふゆみずたんぼ」は、水や自然を維持し、利用した環境負荷削減の持続型農業で、日本の未来の農業の理想形のようです。農薬も肥料も使わない自然農法で、反収も良く、生産コストも低く、値段も良いとは、理想的です。小島塾でも見学した岩沢農法を実践し、ここまで、育てあげた峯浦さんを始めとした関係者には、頭がさがります。「たんぼ」として最初にCO2排出権の獲得ができれば、さらに、画期的です。森林の整備や維持も重要です。CO2排出権枠としての経済価値もあります。内装用としての間伐材の需用もあるようです。間伐材は、炭ばかりでなく、バイオエネルギー源としの需要も期待されています。世界的資源枯渇のなか、国内の木材需要が高まることもあり得ます。このように、水資源の保全や環境維持に役立つ持続型農業や林業分野も、経済的効果や効用を有するものに変わりつつあります。環境への責任と貢献は、今日の企業経営上の重要なテーマです。 企業が、CSRもしくは実質的CO2排出権枠確保の一環として、この新社会システム構築構想に、経済的貢献や支援をなすことも期待できます。自然や水の保全と持続型農業、そして森林の維持に関連した「田んぼ」や森林に関する長期プロジェクトに、CO2排出権枠確保を目的とした投資、企業イメージ向上の為の命名権の対価等、民間企業からの資金流入も期待できます。


 次に、都会の災害に備えた備蓄や防災物資の一部を、農村地域に保管することが、保管料の節約と災害時のリスクヘッジになります。農村地域も、合併や少子化で要らなくなった小中学校を始めとした公共施設や農協等の施設等を改造することにより、保管・管理料を得られます。保管管理業務を防災物資から公的機関等の書類そしてサーバー等に拡大することも可能です。都会と農村の関係が、小(中)学生を始めとした人的派遣や交流等の相互関係や協力関係、農産物の産直供給等の経済的関係に加え、防災物資等の保管受託業務の対価を得ながら将来の災害時に備えることは、合理的で周到なLast Resortの準備体制づくりとなります。農産物の産直取引には、食糧需給の逼迫や災害による食糧危機時の支援に備えた都会の食糧防衛の為の継続取引ともなります。都会と農村の対象地域間の共生関係がより強固になります。より万全なリスクヘッジの為には、複数の地域間グループと横の関係をつくり、災害が発生したら、相互に融通し協力し合うシステムをつくればよいことです。この横の関係が更なる和(環)の経済の発展につながるかもしれません。


 このように、当該基幹プロジェクトへの投資は、農産物の生産や販売拡大による収入に加え、多くの参加者の自己負担、優位性や施設の有効利用による対価、企業からの協力、支援や投資等が期待でき、且つ乗数効果や誘発効果をももたらします。無意味であったり、メンテナンスコストばかりが目につく公的資金の投下とは異なり、効率の良い、これからの国づくりの為の、政策投資です。


 農産物に関連した新種の種苗や生産・栽培技術は勿論のこと、水資源の保全、環境整備、持続型農業、都会の非常時に即応できるソフト構築等の長期戦略プログラムやエネルギーや医療等の分野に於いては、農村には存在しない技術・研究開発や(社会システムも含めた)システムソフトの設計技術・機能も必要になります。政府及び民間による個別の施策や投資が求められる分野もあります。地域の既存の大学や研究施設、試験所等が、各々の地域の特徴を生かし、独自性のある特異な分野を選択し、政府や民間企業と協力して、調査、研究開発や設計を行うことも必要です。地方の大学や研究機関を、基幹プロジェクトの一環として有効活用し、活性化させることも、地域格差の是正にとって重要です。また、農業従事者やその周辺の人達のなかにも、農産物の栽培や生産方法、そして革新的持続型農法を考案したり、実施している人たちもいます。地域の大学や試験場が、これらの人たちの研究活動等に合理的な支援を提供するシステムの存在も必要です。個人中小企業の技術開発者にとって、大学や試験場の設備や機械(場合によっては、学生やスタッフも含む)、同時に、大学や試験場にとって、長い現場経験に基づく技術とその開発は、相互に魅力的です。




6.グローバル化に有効な国内政策


 グローバル化路線を走る日本企業は、人、物(サービス)、金の全ての側面で海外依存度が大きくなります。市場(売上)、原料や資材、生産、研究開発(R&D)そして、資本や経営(者)もグローバル化します。その本社も、日本に留まる合理的理由がない限り、世界の最も優位な拠点に移ることもあり得ます。日本企業の本拠が国内に留まることも大切ですが、海外のグローバル企業が、せめて、アジアの拠点として、日本を中心に活動して欲しいものです。企業のみでなく、30〜50年もの長期運用を志向する世界の年金や国家資金の投資先若しくは運用拠点としては、税制や法規制の合理性、信頼できる株式や金融市場、そして安定した政治や経済並びに通貨価値の存在が必要とされます。更に、有秀な人材や語学力、技術研究開発(R&D)能力のみでなく、歴史、文化、環境そして魅力ある社会システムの存在も重要です。日本のグローバル企業は、その独自の戦略と懸命な努力を以って、世界での競争に立ち向かいます。その一方で、国内の空洞化を回避し、海外の企業や資本に対して、魅力ある施策と体制をつくるのは政治や行政の役割です。


 農業や農村をベースとしたAgri-Social System 構築の為の基幹プロジェクトは、日本と日本人が、食糧、自然や環境そして水資源を維持しながら自立し、文化、教育、そして人々の健康、安全と安心を確保しつつ存在且つ生存し続ける為の、グローバル化のなかでの重要な国内政策です。この Systemが本格的に稼働する頃には、世界の食糧、水そして環境問題がより深刻になり、大都市や企業の危機管理対策もより重要になっていることも考えられます。この基幹プロジェクトに成功した場合の日本は、チャーミングな社会システムとそのインフラを備えた国として、世界の人々から、高く評価され、注目を浴びるでしょう。この素晴らしいインフラを備えた農村地域に、海外からの観光客、研究者、そして長期滞在者が増えることも考えられます。海外の世界企業にとっても、美しい自然と環境、十分な食糧や水、充実した教育にもとづく人材と、安全で安心な社会インフラの存在は魅力的です。日本の農村地域に、世界的企業ロジスティクス戦略の一環として、何らかの拠点を確保することになるかも知れません。




7.新しい農村社会構築の担い手と参加者


 個別のスキームとその具体的プログラムを設計しそれらを実行し、農村社会を構築するのは、農村の農業従事者、農業法人や農協、小学生や中学生も含めた地域住民、県や市町村、そして都会からの移住者そして参加者(以下「基幹フィールド構築者」という。)です。個別スキームやそのプログラムは、各々の地域や社会システムの特性を生かした独自性やユニーク性を有することが大切です。その具体的プログラムと手順を作成し、実現をもたらす為には、基幹フィールド構築者が、従来の既成概念や慣習から離れた、柔軟な思考と、目標に向けての積極的な行動力と結束力、また、相互の協力と支援が必要とされます。都会から農村への人々の移動の為の企画と手順、農村での生活や活動の為の受け入れ体制の確立、並びに農業や農作業に関する指導の方法と指導者の選定や育成も必要です。農村の元気な高年齢の役割も貴重です。地域の伝統農業の継承や持続型農業の展開指導、新たに農業に従事する人に対する農産物の生産や技術指導、都会からの同年齢の高齢者とのお付き合い、また、都会からの子供たちに、自然と農業との共生、水や土の大切さ、雲や虫の動きと天候との関係等の知恵を授ける役割もお願いできます。


 農協の組合員や農業法人を運営する農業従業者に平等な機会を提供し、彼らが主体となって独自性を発揮し、またある場面では、お互いに協力し、強調して活動できるかもしれません。これまでの農村の農業関連工事には、行政からの農道、灌漑、土地改良、また農協から事務所、病院、ガソリンスタンド、スーパー等の工事がありました。今後も、ある程度、あるかも知れません。しかし、過去40年、失敗した日本の農政の一因でもある、政治家と土建業者、またある場合は農協組合長が結託し、農村や地域行政を支配し、これに反対する農村の有能な人材や主導者を排除するといったことは、二度とあってはなりません。農村と農業従業者自体が変わらねばなりません。農村や農業そして地域社会の振興を中核となって牽引する人々の存在も大事です。農業とその関連機関、若しくは地域のグループや組織に、有能なリーダーが増え、継続して人材が輩出する環境づくりも大切です。


 農業や農村が、基幹フィールドの役割を効果的に果たす為には、農業以外の分野からの参画者や協力者も必要です。政治家も、資金活動や選挙活動に役立ち、比較的簡単で単純な、コンクリート事業の誘致ばかりでは、その価値が薄れつつあります。農村地域を代表する職業としての政治家には、基幹プロジェクトに関し、地域の特色を生かした具体的な提言と公正な支援活動が求められます。このプロジェクトの進展度合いに応じ、様々な社会システム分野の人材の育成や外部からの参加者や協力者が必要になります。農業社会や農業経済に、コンクリート事業で蓄えた地元の土建業者をはじめとし、資金を持った企業や個人、そして国内外の企業や投資ファンド並びに不動産業者等の直接、間接の参入若しくは関与が増えることもあり得ます。しかし、その参加者が、資金力と腕力があれば、誰でもよいという訳ではありません。参入障壁が、少しずつ取り外されるとしても、農業と農村にとって、日本の基幹フィールドとしての最低限度の秩序と尊厳が守られることが大切です。


 農地改革から60年、戦前の大農家は、治山治水事業も、村の人々の協力を得ながら、自分達の費用と責任で行い、農村とその社会を必死につくりあげ守ってきた側面もあったようです。地権者と環境は変わったとはいえ、その恩恵を受け継いでいる農村は、今でも、少なくないはずです。規模の利益の追求には、歴史や未来を想っての十分な配慮、そして知恵と工夫が必要です。大規模スーパーが商店街を空洞化した後、自らもその地域から撤退する、壊滅的な事態が各地で起りつつあります。同じことが農業で起きたら深刻です。二度と再生不能な農村に陥るかも知れません。“何故、私にそのままやらせてくれなかったんだ!”という、戦前の大農家の嘆きの声が聞こえてくるような事態に、陥って欲しくはないものです。Small is beautifulの原則に基づく、和(環)の経済の精神に根ざした、基幹フィールドとしての農業と農村と、その社会的活用があってこそ、”ああ、これでよかったんだ!”という安心した声を聞くことができるでしょう。


以上
平成20年4月19日 草刈啓一 



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