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「サブプライム問題とその本質」 草刈 啓一 (2008.6)

サブプライムによる責任回避


 米国では、サブプライム問題の処理が大分進んだようです。しかし、米国やヨーロッパの経済や金融は、サブプライム問題の余波で、未だ、混乱に陥っているようです。日本では、その影響は、比較的少ないといえ、いくつかの金融機関は、サブプライムローン(関連)の金融商品の運用により、多額の損失を被ったようです。新聞やテレビのほとんどが、米国やヨーロッパの金融や経済そして日本の金融機関の問題さえも、全てサブプライムローン関連に起因していると述べています。まるで、世界や日本の経済や金融が悪くなったのは、すべてサブプライムが原因の如きです。
 また、最近、日本の大手金融機関の代表者は、サブプライム(関連)で損失を被った理由として、格付け機関の格付を信用し過ぎたといっています。全ての悪しき事態を、サブプライムの責任にし、それを買い持ち(Long Position)にし、損失を被ったのを格付け機関の責任にしているのは、いただけません。世界そして日本の経済や産業の実態や動向を大きく見誤る可能性があります。また、金融機関や証券会社(以下「金融機関」という。)の代表者の自社の基幹業務に関する、経営者としての責任と自覚に、戸惑いを感じる者もいるはずです。




サブプライムローンの特徴と背景


 唯一の救いは、このローンは、俗にいうノンリコース・ローン(物件及びそのキャッシュフローのみが担保)であり、このローンを借りて、住宅を購入した個人は、支払不能に陥った場合、購入時に支払った一部の自己資金と今まで払った金利(及び元本)を諦め、購入した家から出て、以前のような、アパートに住めばよいことです。ローンの掛け目が相当高かったので、自己資金の負担は少なかったようです。また、最初の数年間は低い金利支払いで済む為、それ以前のアパートの家賃負担とそれ程違わないと思われます。投資目的や、最初の低い金利目当てで、サブプライムローンを借りて、住宅を買った人もいるようです。かっての日本の住専のごとく、サブプライムローンに、借り手の個人保証がついていたら大変です。米国は、今頃、更なる混乱に陥り、問題の解決にも、大変手間取っていたことでしょう。


 従来、海外では、個人(住宅)ローンの証券化商品に対する投資は、リスク分散が効いて、比較的安全であるという考えがありました。しかし、物件の場所と質、借り手、ローン(金利と返済)のストラクチャーや掛け目等からして、サブプライムローンは金融商品としては、限界的(ジャンク)な商品でした。上昇期には、調子よく上がり、下がる時は、真っ先に下降しだします。
 この商品を組成したものは、最初は、それ程、市場で受け入れられると期待していなかったのではないかと思います。名前からして、サブ(Sub)とは劣後の意、利回りは良いが、高いリスクを伴うのは、当然です。長期に渡る過剰流動性のなかで、長期間、右肩上がりだった多くの投資対象商品の投資利回りが限界に達し、手詰まり感が出ていました。
 そんな中で、サブプライムローン、そして、それを組み入れた証券化商品が登場しました。従来の、個人を対象にしたプライム及びその他の住宅抵当ローン、消費者カード又はそれらを組み入れた金融証券化商品よりも、リスクはあるが、投資利回りが高い商品でした。過剰流動性と低い金利水準が継続したなかで、他の商品と比較し、利回りが高いこの商品は、2005年と2006年、そして2007年に掛けて、大きく普及しました。米国の居住用モーゲッジ約1,200兆円(Home Equity含む)のうち、劣後のサブプライムローンの残高は約120兆円に達しました。(ちなみに、そのうち約25兆円分が不良債権化したと云われていますが、サブプライムに限定すると、15兆円という推定もあり、その正確な数値は不明です。)




好調な経済とMoney Marketの長期継続の限界と局面変化


 米国やヨーロッパの不動産市場では、事務所ビルやアパート等の多くの不動産価格が長期に渡って上昇し続け、優良物件の投資利回りが3%または4%になっていました。投資利回りが金利と同等もしくはそれ以下では、借入による、俗に云う、レベレッジ効果で、投下資本に対し高い利回りをあげることもできなくなっていました。M&AのLBOや、他の多くの投資ファンドも同様です。
 従来の投資対象商品の限界点がピークに至り、米国の経済や住宅市況、そして、それまで強かったドル通貨にも、その先行きに若干の不安が囁かれるようになりました。丁度、3年を経過したサブプライムローンも、支払金利が多くなり、物件価値が、更に、上昇し続けないと借り手の支払い負担が大変になる時期でもありました。一部の借り手が支払い不能に陥る事態を悟った、先見性のある投資家は、密かに売り(Short)を開始しました。
 そんななかで、新たな投資対象分野として魅力的な、エネルギーや貴金属の資源、そして食糧、そして急成長を遂げるBRICsに、投資ポートフォリオの移行も始まりました。それまで、上昇基調だったマーケットの局面が変化(2007年7月)するとき、劣後でひ弱な商品であるサブプライムが、最初に、売り対象となるのは当然です。




サブプライムがなくても混乱と損失は発生


 サブプライムのみでなく、他の住宅や消費者関連並びにそれらをパッケージ化した商品、多くの不動産、M&A及び投資関連商品や証券も売られました。 これらの各種債権で証券化されてないままのローンも、実損若しくは含み損もだしました。多くの新聞が欧米の金融機関の損失の原因をサブプライムにしています。確かに、サブプライムは、その特徴からして、従来からの経済や景気の流れに変化があるときに、最初に大きく影響を被る性質をもっていました。また、居住用抵当ローンの中では、最も劣後なローンであるサブプライムが大きな損失を出しています。
 しかし、消費者カード、商業用モーゲージそしてM&Aや不動産用レベレッジローン等の損失を含んだ全体の損失は、サブプライムローン関連の損失の4倍(60兆円から100兆円)近くに相当するのではないかと推定しているアナリストもいます。深刻なのは、適当な対策や海外からの積極的資金流入がないとしたら、損失額の10倍以上の金融収縮が起こる可能性をも推定しています。過剰流動性が一気に金融収縮に転換します。このことは、米国やヨーロッパの経済、そして金融や証券市場は、長い間続いた低金利と過剰流動性による上昇基調の経済やMoney Marketの継続に限界があることを示唆しました。米国の投資対象金融商品市場(一部レベレッジローン債権も含む)は全体で約18兆ドル(約1,800兆円)、そのうち1.2兆ドル(120兆円)がサブプライム。サブプライムローンがなかったとしても、長く続いた経済や金融市場の上昇基調の転換により、金融市場や資本市場に、大きな混乱と損失が生じたことでしょう。
 また、金融収縮は、不良債権や運用損失を、上記推定値より更に拡大する恐れがあります。この現象は、程度の違いはあるものの、ヨーロッパや日本、そしてBRICsの国々にも波及します。過剰流動性のもとで、金融商品から実物のエネルギーや商品市場(貴金属や食糧)に向かった資金も、この金融収縮に影響され、実際の需給に近い相場に戻るのは、時間の問題であると思われます。



ばくち業務の経営と責任−損失を格付け機関の責任にするとは?


Wブルーンバーグの情報によると、「2007年の早い時期から、米国の個人投資家であるA氏は、サブプライムをショート(売り)するタイミングを狙っていました。これが功を奏し、数か月後に、かれは、米国では、個人投資家としては、歴代2番目に相当する途方もない金額を手に入れました。丁度そのころ、サブプライムの問題が世の中で顕在化していました。彼は儲けた利益の一部を慈善団体に寄付し、静かに沈黙を守り続けているようです。」“
 余談ですが、プロのトレーダには、Bull(上昇)が得意なタイプと、Bear(下がり)が得意がタイプの2つに分かれます。両方の才能を持ち合わせたものは、殆どいません。米国の或る金融機関では、Bullに強いものとして、フットボールを始めとした攻撃型のスポーツ経験者を雇っています。Bearに強いものは、哲学者のような静かなタイプが多いようようです。A氏は恐らく哲学者のような人かも知れません。それまでの長いBull Market下では、静かに市場の動向を観察していたのではないかと推察します。2007年はじめに、サブプライムローン市場の変調を察知し、ここぞとばかり、ショート(売り)を実行に移したものと思われます。


 金融商品は、多くの場合、格付(レーティング)をベースにトレード(取引)されます。格付機関のより慎重な分析と判断が必要であったことも事実です。しかし、単独の金融商品として、積極的に引き受け、また、他の金融商品とパッケージにして証券化し、また、それらを買って、自己勘定で運用したり、他の投資家に売却したのは、金融機関です。他の大きな運用者としてヘッジファンドがあります。この時点では、売った方も買った方もプロです。プロの経営者には、運用上のリスク管理に対する大きな責任があります。格付機関を信じきったといっての責任逃れは、余りいただけません。
 また、サブプライムもMoney Market 商品です。金融機関の自己勘定の運用損益は、市場の動向に応じて、買い(Long)又は、売り(Short)かのポジションとその運用管理で勝負が決まります。これは、優良債券である国債でも同じです。金融機関やヘッジファンドの運用責任者のみでなく、経営陣にとっても、投資対象商品の分析・評価は勿論のこと、ポジション管理と、その、毎日、短期そして長期の戦略は、極めて重要です。 実際に、米国の証券会社のなかには、サブプライム又はその関連商品を、ある時点から売り(Short)にして、多額(数千億ドル)の利益を上げたところもあります。また、中立(スクエアー)を維持し、利益も損失も、なかったところもあります。
 一方、多くの損失を被った金融機関やヘッジファンドもありました。この中には、価格の上昇局面では、買い(Long)ポジションで、大きな利益をあげたところもあるでしょう。正に、経済や市場の変化を捉えきれず、ギアチェンジに失敗してしまったのでしょう。これらの機関は、サブプライム以外の証券化金融商品の運用やレベレッジローン等の分野でも、多額の損失を被った可能性があります。


 相当以前から、世界の金融機関にとって運用部門は極めて重要となりました。彼らの損益は、従来のローンやコミッション収入が限界に達し、為替や国債も含め、金融商品の運用業績に大きく左右されるようになりました。金融商品や保有証券やローン債券が永遠に右肩上がり若しくはフラットということはありません。Money Marketでの運用に成功するためには、経済や市場動向の変化とともに、潮の流れの微妙な変化を感じ取る鋭い感覚が必要とされます。市場参加者の多くは、そんな能力を十分に持ち合わせていないことも知っています。金融機関や証券会社は、何人もの専属エコノミストやストラテジストを採用し、しっかりしたリスクやポジションの管理並びに戦略体制を構築してきたはずです。
 しかし、神様ではないので、経済や市場の動向を見誤り、また、管理上の間違いが生じる場合もあるでしょう。こんなとき、組織の最高責任者が、大きな運用損失の責任を、いとも簡単に他人ごとのように回避し、それに対して疑問を感じない世の中も不思議です。神様と仏様ではなく、サブプライム様に祈念する世の中になってしまったようです。




サブプライム問題の日本の個人投資家への波及は限定的


 日本全体では、サブプライムそのものの直接の被害は、それほど多くはないようです。プロとしての運用の失敗が、個人や公的資金の返済に影響を与えることは問題です。一つの関心事は、銀行も当時の郵便局も大々的に窓販を開始した、投信への組み込み状況です。預金限度額を超えた主婦やお年寄りが、窓口の奨めで、その内容も良く解らないまま。随分投信を買ったようです。その中のいくつかには、サブプライムもしくは関連商品が組み込まれていたかもしれません。ある調査によれば、日本での投信への組み込みは、極めて限られているとのことです。ひとます安心です。さもなければ、解約時まで、問題が、そのまま、封印されていたかも知れません。
 サブプライムの影響は少ないといえ、1,400兆円と云われる個人資産の活性化をも狙い、あれ程、宣伝し、積極的に個人に売りこんだ投信について、最近ほとんど聞こえてきません。個人の資金を、投信に向けさせて減少させるよりも、安い預金金利で、儲かった銀行の利鞘分を、公的資金の返済に充てた方が、まだ、まともです。問題は、銀行が金融商品、ローン債権の運用や不動産やM&Aのノンリコース・ローンに失敗し、公的資金も返済できないまま、預金者に対しては、低い預金金利で我慢を強いる事態です。




日本の下方転換と金融収縮


 右肩上がりに限界があるのは日本も同じです。昨年の秋以降、株式市場が下降に向かい、不動産市場にも、不安な要因が垣間見られる状況になりました。金融庁の指導があったか否か不明ですが、金融機関の融資スタンスが大きく転換しました。大都市及びその近郊を中心とした不動産投資市場の過熱の幕が、今年に入ってから、完全に閉じました。金融機関が相当厳しい融資抑制を始めた結果です。この融資規制は、買って値上がり期待で転売する、という不動産やM&Aファンドに特に強いようです。
 不動産市場の深刻な状態は、このところ、ようやく一部で、表面化しだしました。多くの不動産ファンドのノンリコースローン(5年間)の借り換え(Refinance)時期が迫っています。銀行がこの種のファイナンスを極端に抑制しています。買い手へのローンも特別な買い手以外には、難しくなりました。借り換えができないので、売ろうとしても、買い手がなくて売れません。3月決算では、銀行も、一部の融資不動産へのドラスティックな対処を延ばしたようです。9月の決算期には、大幅な投げ売りがでると想定されます。ピーク時の半分若しくはそれ以下の価格が妥当なようですが、銀行のスタンスが変わらない限り、底が見え難くなっています。日本の大手不動産会社、証券会社、リース会社、銀行系不動産会社、商社そして一部の大手外国投資家、そして、しばらく前からこの機会を虎視眈々と狙っているファンド(シンガポールや中東の国家運用資金が中心)にとっての好機となるのかも知れません。


 金融機関のローンが復活しない限り、多くの不動産関連業者や建設業者、そして中小企業やM&A中心に拡大してきた一部の中堅企業が、深刻な事態に陥るものと推定されます。これに、経済情勢の悪化が追い打ちをかけます。既に、一部の不動産やM&Aファンド、そして、借入により企業買収を増やし、短期間に大きくなった企業の問題が表面化し出しました。まさに、日本版金融収縮です。金融機関としては、自分で自分の首を絞めることにもなりかねません。幾つかの金融機関の不動産やM&A関連のローン債権には、既に含み損が発生しつつあるはずです。
 また、サブプライムの影響は少ないといえ、運用資産の損失が増えていることも推察されます。公的資金も完済してない金融機関が、再度大きな不良債権を抱える事態に陥れば、これまでの政府の金融政策と銀行に対し、厳しい国民の批判が集まることになります。これも、全て、サブプライムにその責任を被せるのでしょうか。


平成20年6月1日
草刈啓一



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