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■「GATE 核廃絶後の核を生かす道」最首公司 (2009.9)



僧侶たちの沈黙の行進
 アメリカの町中を、砂漠の街道を禅僧たちが編み笠片手に黙々と歩いて行く。ただひたすら歩いて行く。1人の僧はランタンを下げている。中で灯る火は1945年8月9日、長崎に投下された原爆の火である。長崎の町がまだくすぶり続けているとき、@人の僧がその火を持ち帰った。いま、広島、長崎の記念碑の前で灯る火はその分身だそうだ。
 仏教には「輪廻」とういう思想がある。1つの現象が次々と転生してついには円となって終結する。原爆を投下された広島、長崎市民の怨念は日本人の怨念となってアメリカ人を憎み、アメリカ人は・・・アメリカで生まれた原爆はソ連に転生し、そして中国、インド、パキスタンと拡散していく。政治家がいくら「核拡散防止」「核廃絶」を唱えても、核兵器は増え、核武装国も増えるばかりだ。この憎悪の再生産をどこかで終わらさなければならない。
 それは、人間を目標に投じられた最後の原爆、長崎の「原爆の火」を、この世で最初に原爆実験が行われた米国ニューメキシコ州トリニティ実験場に戻すことだろう。怨念―報復―恐怖・・・の転生は、終わりの地から開始の地へ戻ることによって円となり、閉じるはずだ。長崎で自らも被爆した禅僧たちはそう考えた。
 2005年7月、長崎を出発した「原爆の火」は、僧侶とともに帆船「日本丸」でサンフランシスコに運ばれ、ここからトリニティまでの2500kmを徒歩で届けようというのだ。この映画はそれを記録したものだ。
 異様な姿で黙々と歩く僧たちに、胡散臭そうな目を向けていたアメリカ市民たちも、地元メディアの報道で僧たちの真意を知ると、食べ物を差し出し、隊列に加わっていく。休暇をとり、オートバイで救急医療品を届けに来た保健所長。放射能被害を受けていた実験場風下の住民たちも行進の後につく。思わず胸が熱くなる。



ブッシュ大統領も迷った
 この映画を企画し、メガフォンをとったアメリカ人監督マット・テイラー氏はアメリカで生まれで、少年時代を広島で被爆した一家で過ごした経験を持つ。だから原爆に対する思いは、日本人以上に重い、ということが画面での被爆僧侶たちとの対話の中で知ることができる。
日本語も上手だ。8月27日、八王子市で開かれた曹洞宗青年部主催の自主上映会のあと、壇上に現れたテイラー氏が撮影中の出来事を語った。
 トリニティ核実験場は塀に囲まれ、門は固く閉ざされている。軍関係者以外、入域できないし、ここを訪ねようなんてもの好きはいない。その門(Gate)に僧侶と途中から随伴のアメリカ市民が近づいていく。
 ゲートは堅く閉ざされたままだ。ゲートを固める衛兵たちは、異装の僧侶一行を見てたじろぐ。イラク戦争のまっ只中である。旗を振り、プラカードを掲げ、シュプレヒ・コールをしながらやってくる反戦運動集団ならゲートを閉ざしておけばいい。だが、僧侶たちはただただ黙々と近づいてくる。
 画面には現れないが、衛兵は上官の指揮を仰ぐべく司令部に電話した。司令官はさらに上層部へ、そしてペンタゴンからホワイトハウスへ。最終判断はブッシュ大統領に委ねられたが、大統領も判断しかねたのか、決定権は現場指揮官に戻されてきた、というのがテイラー監督が会場で打ち明けたエピソードである。温顔で近づく僧侶たちを前に、兵士たちはごく自然な笑顔で迎え、ゲートを開き、そして僧侶たちと握手を交わす・・・映画の題名「GATE」はこの場面からつけられたのだろう。



「核兵器解体基金」(GND Fund)
 この映画の版権は全て「核兵器解体基金」(GND Fund)に帰属する。GND(Global Nuclear Disarmament)Fundというのは、私も今回初めて知ったのだが、2005年、つまりこの映画の撮影が制作された年、国連・核拡散防止条約再検討会議に参加したNGOの人々が「私たちの税金でつくられた核兵器を、納税者の私たちで解体できないだろうか」と呼びかけて発足した団体だそうで、拠点はサンフランシスコ、モスクワ、東京にあるという。代表は映画監督のマット・テイラー氏だ。06年5月にはテイラー氏とロシア政府との間で、市民参加型核兵器解体協定書が調印された。


解体濃縮核燃料は薄めて原子力発電に
 解体された核ミサイル、原子力空母、潜水艦などの核物質はどうするか?基金では、これら高濃縮核燃料を再処理工場で低濃縮核燃料に加工し、既存・新設の原発で使おう、と提案する。つまり、核廃絶には原発、再処理施設、処分場が必要ということなのだ。
現存する3万発の核ミサイルを解体して燃料にすれば、全世界の原発を15年間運転できるという。 いま、各国、各電力会社はウラン鉱区を求めて、利権獲得に奔命している。行き過ぎれば国際紛争にもなりかねない。核兵器解体燃料を優先的に使うことになれば、ウラン採掘、燃料加工での放射能被曝事故や健康被害も避けられる。
 オバマ大統領の「核廃絶」演説以来、この問題がにわかに内外の政治課題として浮上してきた。だが、廃絶後の高濃度放射性物質をどうするのか、そこを解決しておかないと選挙目当ての空論に終わってしまう。この映画には、その有力な回答が示されている。反核運動家も反原発論者も、そして原発やエネルギーに関係する人たちも、是非、この映画を観てほしい。


「GATE」自主上映会のお知らせ

 ・10月10日(土)第1回14時 第2回18時
 ・狛江エコルマホール(小田急線狛江駅北口隣接) 入場料1000円
 ・自主上映事務局:042-481-0667

※確定した都内での次回上映会は来年8月15日(9月12日現在)だそうです


(この1文はEPレポート09年9月11日号「エネルギーを見る目」に1部加筆・訂正したものです。)


映画「GATE」に関する情報はこちら ※「会員からの情報提供」に記事をアップしました
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