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■「小島志ネットワーク開設に寄せて」 小島志塾さっぽろ 山本 克郎 (2006.9)
 東京小島志塾は小島慶三先生のご人徳とご指導により、坂井さん、最首さん、磯浦さん達のご努力で今日まで継続してきました。まさに継続は力なりです。しかし、先生がご高齢になり、お体がご不自由になった今、東京小島志塾の例会を閉じられることはやむを得ません。
 しかし、小島先生が先見性を持って提唱されてきた「ヒューマノミックス(人間復興の経済)」とか先生が監訳されたシューマッハーの「スモール・イズ・ビューティフル−人間中心の経済学−」と言う考え方や理念が今こそ重要になっていると思います。それは農業問題は勿論、水、温暖化、砂漠化などの環境問題を具体的に論ずる基礎となっています。


 20世紀に飛躍的な発展を遂げた生産力や経済成長を主として人々の生活水準の向上や労働時間の短縮、自由時間の拡大に還元して、「ヒューマノミックス」「人間と自然環境保全の経済」の目指す方向へ転換していれば、国民生活の質を向上し、生態系の保全、省資源・省エネルギーに寄与して自然環境の保護と世界の平和・安全に貢献出来たでしょう。そうすれば、21世紀は競争を通じて磨かれた共生社会、洗練された成熟社会を形成し、地球環境を保全しつつ国際平和の基礎を築くことが出来たかも知れません。
 産業革命に始まる工業文明は20世紀に科学技術の急速な発展に支えられて大量生産・大量流通・大量消費・大量廃棄のシステムを肥大化させましたが、二度に亘る世界大戦と冷戦を経て巨大な「石油文明」へと変貌しました。
61年前に第2次世界大戦が終結し、平和を希求する人々の喜びも束の間、世界を東西に二分する冷戦が勃発し、再び40余年戦乱が続きました。東西両陣営共に疲弊し、ベルリンの壁が崩壊し、マルタ会談を経て漸く東西の和解が成立しました。その結果、東西を隔てる障壁は瓦解しましたが、この間潜在化していた矛盾が地域紛争、宗教対立という形で顕在化する一方、ボーダーレス化が米国主導のグローバル化の流れとなって、世界を席巻して行きました。



 冷戦体制は終結しても矛盾は寧ろ激化する方向を辿っているように見えます。バブル経済の最中にあった日本では「冷戦体制の終結が意味するもの」についての理解が浅く、構造不況の対応が出来ず、「失われた90年代」を彷徨うことになりました。バブル経済とその崩壊、それに続くデフレによる過剰競争と競争の増幅は経済社会に精神的な荒廃をもたらし、順法精神を希薄化し、モラルの退廃を進めました。
 その結果、政界、官界、経済界から医療界、学界まで広く、公共性・公益性が薄れ、手段を選ばず利潤優先を追求する企業グループと経営者達が闊歩するようになりました。公務、民間を問わず広い分野で汚職・横領・背任・談合等々の犯罪が多発してきました。こうした社会秩序の軽視、倫理観の喪失が社会に広く浸潤して、更に犯罪の増加、低年齢化、検挙率の低下、治安の悪化と悪循環を招いています。
 小島先生は文明の衰退の原因として「自然環境の破壊」「社会システムの機能不全」「モラルの退廃」の3つを上げて居られます。現在社会は見かけの繁栄とは裏腹にこの3つが相互に関係し、関連しあって地球環境も人々の内なる環境(身・心の健康)も止まることなく病み・痛み続けています。このまま「対症療法」と「問題先送り」に終始していると、人類社会も日本社会も破綻の道を辿っていくと危惧されます。


 21世紀の世界経済・日本経済の現実は20世紀社会が歩んだ路線をひた走りに進んできました。日本はバブル崩壊後、自ら招いた金融危機を脱する過程で大手金融機関の合併が相次ぎ、利潤追求を目指したM&Aが横行し、金融経済システムは益々巨大化し、寡占化を進めています。国際化、グローバル化がこうした巨大化・寡占化に拍車をかけています。荒廃した日本の経済風土に外資が進出し、恰も外来種の動植物が在来種を食い荒らして繁殖するのにも似た様相もありました。これは金融以外の各種産業分野でも同様です。
 情報通信産業等新産業分野などでは特に業界全体の移り変わりが早く、多くの商品は寿命が短くなり、そのスピードも速くなっています。先進諸国間の競争が激化する一方、途上国からの低賃金を武器とした追い上げで企業の海外進出が加速し、そのために倒産する中小企業、下請け企業が増大しました。過当競争が世界的な規模で激しさを増しています。その結果はリストラという形で雇用の不安定感を増し、従業員の賃金・労働条件等にしわ寄せされ、国民の暮らしに不安の影を落としてきました。


 構造改革は単なる規制緩和、自由化に止まって対症療法や問題先送りに脱すると、かえって混乱を生じます。そうした背景からむしろ悪質な企業の成長を促し、一部大手企業もまたこれに見習って不当な過剰競争を現出し、手段を選ばない粉飾決算やM&A等が横行する社会環境を造り上げました。営利を目指すルールなき競争は不正を増殖させ、市場を歪め、寡占化を進めてモラルの退廃を普及するという悪循環に導いてきました。
 今求められている構造改革は20世紀的な「カネ・モノ中心の社会システム」から21世紀「人間と環境の社会システム」を目指して根本的な規制改革へ舵を切ることです。それは「石油文明」の解体と再編、即ち地球環境の保全と人間復興を基調とした社会ステムの再生ではないでしょうか。20世紀の枠組みを超えない構造改革では21世紀の展望が拓くことが出来ないと思います。
 現在の国連や米国政府、日本政府等にその変革を促すには政策提言だけなく、その裏づけとなる具体的な実践がそれぞれの国や地域や分野で推進されなければなりません。適正な生産・適正な流通・適正な消費とリサイクル社会の未来を実験しつつ実証して、スモール・イズ・ビューティフルのモデルを形成していくことが必要です。


 戦後わが国の国土政策は全国総合開発計画を皮切りに人口の都市圏集中を進めてきました。過疎から過密へ半世紀も「人口流動」は今も止むことなく続いています。並行して少子高齢化が進み、2005年から総人口は減少に転じました。社会減に加えて自然減で人口の減少する地域が急速に増加し、このままでは地域崩壊が始まるでしょう。他方高齢化した「ふるさと」を喪失した流民が大都市に沈殿して複雑で困難な社会問題を増幅させるでしょう。
 経済とは経世済民をいうとすれば、それは人々の「くらしとその環境」を正すべきものと考えます。業種の別、規模の大小に関わりなくあらゆる事業は「人」によって盛衰が決まるので、あらゆる分野・地域で、家庭と職場で「人間復興」が必要です。


 知識情報社会は益々人と感性が重要な役割を担うので、どこでも人財が最大の問題です。しかしわが国の学校教育の現状は幼児教育が混乱し、学生・生徒の学力低下や大学のランキングの低下など憂うべき状況にあり、大学全入時代の到来がそれを二極化し、加速しようとしています。人財育成と研究を事業としている柳平さんはその根源を「啓育と訳すべきEducationを、教育と大誤訳した明治初期に始まった」と説いています。
 私はこの誤りがやがて戦争と敗戦への道に繋がる遠因となり、さらに戦後の今日にも引き継がれて「教育」を歪める結果となっていると考えています。
 それはわが国の学校教育が偏差値に偏って受験学力にシフトした「教育」が様々な矛盾を生む結果になったと思います。豊かな感性や知的好奇心を養うことを難しくしている今の家庭や学校などくらしの環境に問題がありますが、同時に「教」に傾斜して「育」を蔑ろにしてきたシステムを問い直し、改革することが急務と思います。


 農業問題一つ取り上げても、小島先生の農業三部作「文明としての農業」「農に還る時代」「農業が輝く」(ダイヤモンド社刊)に指摘されたとおり「農は国の本」です。その日本農業は米の自由化から10年経過し、予測されていたように「北海道でのコメ造りが消える?」のではないかという危惧が現実化しつつあります。農業の再生は生産者だけでなく、消費者や流通も含めた魅力ある発展を地域の特性、人と人との繋がりを軸に存在意味のある形で伸ばしていく、ネットワークにしていくことが求められていると思います。
 成熟社会においては既成の各種製造業や卸売業、百貨店・スーパー・コンビニなどの小売業、その他各種サービス業等の多くは殆ど過剰になり、既に過当競争になっています。これらの分野でこれ以上単なる営利企業の増大は殆ど不用です。バブル崩壊でこのことが証明されたはずでしたが、そうした根本的な命題に多くの識者が気付かずに相変わらず競争を激化させて無用なトラブルを惹き起こしています。量より質への転換が求められ、競争を通じて共生への道が必要なのです。量的な経済成長より質的な改善による環境と人に優しい持続可能な発展へ道を拓く「進化」が求められているのです。


 そうした方向へ向かうことが出来なかったのはわが国の内部事情もありますが、国際環境に影響されるところも大きかったと思います。
21世紀の初めの年9月11日に起きたニューヨーク貿易センタービルを崩壊させたテロ事件はアフガン侵攻となり、イラク戦争となって未だ先の展望が立たない状況にあります。米国はブッシュ政権の支持が下落して政策の維持が困難になりつつあります。これと固く結んだ英国のブレア首相の率いる労働党も大幅に支持を失っています。EUの中で英国の他に米国に協力したスペイン、イタリア等の国々では政権の交代が行われてきました。その他のEUのフランス、ドイツ等の国内事情も変化し始めています。
 また、一方ロシアと周辺諸国をめぐる動きの変化も目立っています。アジアでは中国の急速な経済発展が今後の世界に大きな影響を与えると云われていますが、同時に環境問題の深刻化や貧富の格差が増大し、政治的に大きな危険性を孕んでいるように思います。その他のアジア、オセオニア、中南米、アフリカどれをとっても緊張を増しており、20世紀の延長線上に21世紀はないと思われます。現在世界を席巻しているようにみえる「グローバリズム」は必ずや破綻の憂き目に遭遇するでしょう。
 国内で提唱されている「構造改革」も同様な問題を含んでいます。内外の新しい動きに注目すると、小島先生が提唱してこられた考え方が21世紀世界の進むべき方向を示しています。「人間復興の経済」は小島先生が戦中・戦後直面してきた日本の社会経済の現実をどう認識して、どう問題解決するかの立場から生み出された思想であり、理論です。先生の所論は今こそ、わが国はもとより、欧米先進諸国にとってもアジア諸国にとっても、21世紀の国際・国内政策の立案や推進にとって貴重な見解だと考えます。


 私は小島先生との出会いがあり、小島志塾との出会いがあって、多くのことを学ぶことが出来人生を豊かにすることが出来ました。先生のご薫陶のお陰と感謝しています。多くの小島志塾の塾生も同感だと思いますので、この志を存続・発展させたいと思います。
 小島志塾が提唱し続けてきた自己啓発・相互啓発・地域起し・農業問題・環境問題への取り組みはITを活用したHPや遠隔研修・TV会議などで可能な時代になりました。会員がお互い意見交換・情報交流をして行くことが出来れば大変良い役割を発揮し、社会に貢献すると思います。
 そのためにはIT時代に相応しく小島志塾のHPを立ち上げて、これを基礎に交流し、各地域や各塾生が取組んでいる問題をめぐって日常的な情報交流を進め行くことが出来ます。小島先生のエッセー、社会評論、俳句なども頂ければ励みになります。小島先生の人脈があり、東京にも全国にも多くの知識人、経済人、技術者、ビジネスマン等々がいます。


 東京小島志塾はじめ多くのメンバーからの寄稿や鳥取小島塾・札幌小島志塾の情報、宮城の峰浦さんなど多くの活動している人々のコメントなどがあります。小島先生が40年前に提起された塾創設の「志」を塾生が連帯してその一人一人の「志」を糾合する時だと思います。
 超高齢社会を目前に本質的な構造改革が問われている今まさに小島先生が先見的に提起してこられた理念を中心に交流を通じ、認識を深めてそれぞれの仕事や暮しや地域の改善・改革に役立てて行かねばならないと思います。
 村上和雄筑波大学名誉教授の言を借りれば、遺伝子のスイッチをONにして、小島先生と塾の志を継承し交流を深めて、社会に貢献していくのです。
 そうした人々の「志」を結集し、小島志ネットワークのHPを情報発信・情報交流のツールにして、研修会・懇親会も是非年に一度は継続していきたいと念願します。


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