ランニング研究:その16 北京オリンピック男子マラソンレースの考察 |
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2008年8月24日に北京オリンピック男子マラソンが行われ、ケニアのサミュエル・ワンジル(Samuel Kamau Wanjiru)選手がケニア選手として初めて優勝しました。それもオリンピック記録を更新しての優勝です。研究とまでは言えませんが、このレースの経緯も振り返ってみましょう。 |
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男子レースは女子とは異なり、最初からハイペースで進められサバイバルレースとなりましたが、37kmあたりからワンジル選手が飛び出し、モロッコのジャウアド・ガリブ(Jaouad Gharib)選手やエチオピアのデリバ・メルガ(Deriba Merga)選手の追手を振り切りました。35kmまではメルガ選手が結構いけそうな感じがしましたが、途中少しバテ気味に見えたモロッコのガリブ選手の方が粘り、2位に付けました。 スタート時の気温は21度と涼しいでしたが、後半の気温表示は29度までに上がっていました。いわゆる夏マラソンとなりましたが、その中での2時間6分32秒は凄いスピードレースといえます。日本選手は残念ながら最初からこのスピードに絡むことは叶いませんでした。残念。マラソンは、これからは夏といえどもハイスピードのレースとなると専門家も予想していますね。世界には2時間7分以内のランナーは多くいます。しかし、佐藤選手も2007年福岡ではワンジル選手、メルガ選手と競い合い、トップのワンジル選手と34秒差の3位で北京代表となったわけで、力はあるはずで、今回の結果はまことに残念ですね。 参考に、アテネオリンピックで優勝したイタリアのシュテファノ・バルディニ(Stefano Baldini)のペース経緯と、2007年のベルリンで世界記録を出したエチオピアのハイレ・ゲブレシェラシエ(Haile Gebrselassie)のペース経緯を下に並べてあります。 |
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北京オリンピックの男子マラソン記録と世界記録など参考記録との比較(5km上欄スプリット&下欄ラップ) |
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■気象条件:天候=晴れ 気温=21度 湿度=72%(7:30スタート時点)、 気温=29度(9:30現在) ■北京オリンピックの男子マラソン記録
■アテネオリンピックの男子マラソン優勝記録と比較(参考記録)
■世界記録と比較(参考記録)
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優勝者と第二集団のラップ変化 |
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今回のレースのペース変動は下のグラフのとおりです。30kmほどから先頭グループは3人(ワンジル・ガリブ・メルガ)となり、列が伸びたり縮まったりを繰り返して、37kmからワンジル選手がスパートしています。ガリブ選手は一旦離されそうになりましたが、食らい付き銀メダルを取りました。メルガ選手は、35kmまではしっかりしていてレースを引っ張ってもいましたが、37kmあたりからは急にペースダウンして5km17分台(3.45分/km)となり、ラスト2.195kmも8分半(3.87分/km)と一気にダウンし、トラックで同じエチオピアのツェガエ・ケベデ(Tsegay Kebede)選手に抜かれ4位に終わりました。それだけギリギリのハイペースだったということでしょう。それを克服したワンジル選手は大したものです。 今回のレースとアテネの優勝者バルディニ選手やゲブレシェラシエ選手が達成した世界記録達成レースとで、そのペース変動幅を比較すると、これも女子レースと同様に、オリンピックレースは勝負に徹しているところから、揺さぶりなどがあるせいでしょうか、世界記録達成レースよりもペース変動は大きくなっています。と言ってもワンジル選手はゲブレシェラシエ選手と3秒ほどの違いですが。それに比べ、アテネでは最初のペースとラストとのペースにはかなりの開きがあります。かなりのペースアップだったわけですね。 5kmラップの変動幅は、
となっています。 2位のガリブ選手よりも尾方選手の方がペース変動は小さいことが分かります。尾方選手は、平均ペースは残念ながら上がらなかったものの、ベテランとしてしっかりペースをまとめたと言うことができるのかもしれません。それにしてもP・ラドクリフ選手の5.5秒/km(女子世界記録時)や野口みずき選手の3.8秒/km(女子日本記録時)など(ランニング研究・その15参照)は、ゲブレシェラシエ選手の変動幅と比較してもかなり小さいですね。驚きました。 ※北京の平坦なコースに比べ、アテネのコースはアップダウンが大きく、スタートは標高100m以下ですが16kmあたりで登り坂があり、そして一旦下り20km過ぎからはまた徐々に上り勾配となり、特に25km過ぎたあたりから32km(標高230m)あたりまで登り坂が続きます。そしてそのあとは一気に下ります。ラストのペースアップは下りも利用してのことだったかもしれません。バルディニ選手のペースは、25km手前で登りのせいか一旦ペースは落ちますが、その後は登り坂をものともせずにペースを上げながらフィニッシュしています。最初は牽制し合い、勝負どころで一気にペースを上げ続けたレースの展開は、最初からハイペースだった北京と対照的です。 ※ゲブレシェラシエ選手の世界記録達成レースは、安定しています。そしてラドクリフ選手の世界記録達成レースと同様に、少しずつペースアップし、ラストはレース中最も早いペースでフィニッシュしています。 |