《アリスとアーチュス》
- Aris - t - Archus -
「火星と木星の間に惑星がなければならぬ」
かつてヨハン・ダニエル・ティティウスは、そう呻いたにちがいない。
これが、彼が発見した数列だった。
この数列は、太陽からそれぞれの惑星までの距離を表しているのだ。
水星に始まり、当時知られていた土星までがこの数列にピタリと乗っていた。
のちに土星の外側に天王星が発見されたとき、この新しい惑星もまた法則に従っていたことがわかった。
こうなると、いよいよ空白を埋めなければならないということになったのは当然のことだったろう。
果たして惑星は見つかった。
それがケレスだった。小さな小さな星だ。
最初に発見されたケレスは、それでもそれらの星屑の中で最も大きかった。
私たちは頭上で鈍く光る真鍮の珠を見上げた。
これこそ火星と木星の間、ティティウスの数式の空席に座する星・ケレスなのだ。
第5惑星「ケレス」
『星のパティシエ』
昔々、太陽がまだ独りぼっちだったころの話です。
この燃える星は、何か甘いものが食べたくなりました。
そこで太陽は周りを漂っていた塵を集め、いくつかのお菓子を焼き上げました。
こうして水星から火星までの星々が生まれました。
その出来があまりにもよかったので、太陽はこれらを食べてしまうのがもったいないと思いました。
でしたから太陽は、今度はもう少し遠くの埃を集めはじめました。
この時に木星から海王星までの星々が生まれたのです。
けれども今度も太陽は食べませんでした。同じように食べるには惜しい出来栄えだったのです。
太陽は周りを改めて見渡しました。
まだ幾分かの塵や埃は残っていましたが、もうお腹はすいていませんでした。
彼の空腹は孤独からくる不満の表れ。今や惑星たちを得た太陽は、十分に満たされていたのです。
残された埃の中で、1番大きな――とはいえ、小さな小さな存在でしたが――者がそう呟きました。
でもあまりにもか細かったので、その声に太陽が気付くことはありませんでした。
彼女は今でもずっとその望みを持ち続けています。いまかいまかと輝く太陽に届かぬ声で囁きながら、その周りを廻っているのです……
ついに作られなかった幻のお菓子。
ケレスは今もその日を夢見て、ティティウスが見出した空間を漂っている。
幻のお菓子は、哀れなケレスの希望の内にのみ存在する……
いつか立派になって、他の惑星を見返してやるという空しい意気込みにすぎないのかもしれない。
元より惑星になれなかった存在――ケレスを表す真鍮の珠を取り外しながら、二人で笑いあう。
たしかに……最初は人類を消してみようかというだけの話だったのに、今では太陽系そのものが損なわれ始めている。
A)木星に奪われた物を取り返すしかないと思うのなら ⇒ 木星へ
B)なんとか材料をかき集めるつもりなら、木星から離れて別天地へ向かうしかない。
木星に背を向けたなら、その先には内側を回る赤い星がある…… ⇒ 火星へ
C)あるいは、もっともっと中央へと向かい
小さくてもいいから星として作り上げてほしいと訴えるのも手かもしれない ⇒ 太陽へ
いずれを選ぶにしても、ケレスが外されたことを忘れないように。
ただし、すでに失われた星を選ぶことはできない。