「火星と木星の間に惑星がなければならぬ」
 かつてヨハン・ダニエル・ティティウスは、そう呻いたにちがいない。

a/AU=0.4+0.3*2n

 これが、彼が発見した数列だった。
 この数列は、太陽からそれぞれの惑星までの距離を表しているのだ。
 水星に始まり、当時知られていた土星までがこの数列にピタリと乗っていた。

でも、1つだけ空欄が残っていたのよね。
火星と木星の間に惑星がなければならなかったのに、そこには何も無かった……

 のちに土星の外側に天王星が発見されたとき、この新しい惑星もまた法則に従っていたことがわかった。
 こうなると、いよいよ空白を埋めなければならないということになったのは当然のことだったろう。

 果たして惑星は見つかった。
 それがケレスだった。小さな小さな星だ。

でも……小さな星が同じあたりに次々と見つかって、10を超えたころに流石にこれはおかしいってことになった……

こうして小惑星帯が認識されるようになったと

 最初に発見されたケレスは、それでもそれらの星屑の中で最も大きかった。

そして、自らの重力で球形を成していた。
だからこの太陽系モデルでは、惑星の1つに数えられることになったのよ

 私たちは頭上で鈍く光る真鍮の珠を見上げた。
 これこそ火星と木星の間、ティティウスの数式の空席に座する星・ケレスなのだ。


第5惑星「ケレス」

『星のパティシエ』


 昔々、太陽がまだ独りぼっちだったころの話です。

 この燃える星は、何か甘いものが食べたくなりました。
 そこで太陽は周りを漂っていた塵を集め、いくつかのお菓子を焼き上げました。

太陽
さぁさ、おいしくこんがり焼きあがれ。
カリカリでおいしいビスケットになぁれ

 こうして水星から火星までの星々が生まれました。
 その出来があまりにもよかったので、太陽はこれらを食べてしまうのがもったいないと思いました。

 でしたから太陽は、今度はもう少し遠くの埃を集めはじめました。

太陽
さぁさ、おいしく出来あがれ。  
フワフワであまーい綿飴になぁれ

 この時に木星から海王星までの星々が生まれたのです。
 けれども今度も太陽は食べませんでした。同じように食べるには惜しい出来栄えだったのです。

 太陽は周りを改めて見渡しました。
 まだ幾分かの塵や埃は残っていましたが、もうお腹はすいていませんでした。
 彼の空腹は孤独からくる不満の表れ。今や惑星たちを得た太陽は、十分に満たされていたのです。

小さき者
……私もいつか、みんなみたいな立派なお菓子に仕上げてもらえるかなぁ?

 残された埃の中で、1番大きな――とはいえ、小さな小さな存在でしたが――者がそう呟きました。
 でもあまりにもか細かったので、その声に太陽が気付くことはありませんでした。

 彼女は今でもずっとその望みを持ち続けています。いまかいまかと輝く太陽に届かぬ声で囁きながら、その周りを廻っているのです……


 ついに作られなかった幻のお菓子。
 ケレスは今もその日を夢見て、ティティウスが見出した空間を漂っている。

でもさ、小惑星帯の星を全部集めても、たいした大きさにならないんだよね。
地球の月ほどにもならないじゃなかったっけ?

月の1/35程度なんて言われてるわね。ケレスの3倍程度よ。

隣の木星があれだけ巨大だから……
それなりの質量を持っていかれているはず

 幻のお菓子は、哀れなケレスの希望の内にのみ存在する……
 いつか立派になって、他の惑星を見返してやるという空しい意気込みにすぎないのかもしれない。

……なんか親近感を覚えるわね。
私たちも小さな星だもの

今こうして惑星を消していっているのも、もしかしてケレスみたいな気持ち
……嫉妬とかがあるかもってこと?

 元より惑星になれなかった存在――ケレスを表す真鍮の珠を取り外しながら、二人で笑いあう。
 たしかに……最初は人類を消してみようかというだけの話だったのに、今では太陽系そのものが損なわれ始めている。

さあ? 私はそんなこと考えてないつもりだけど……

お茶菓子の小さな欠片にすらなれなかった星が抱いている感情なんてわからないわね

GET READY FOR NEXT PAGE!
もし、それでもいつか立派な星になりたいと望むのなら……
どのような手があるだろう?

    A)木星に奪われた物を取り返すしかないと思うのなら ⇒ 木星

    B)なんとか材料をかき集めるつもりなら、木星から離れて別天地へ向かうしかない。
      木星に背を向けたなら、その先には内側を回る赤い星がある…… ⇒ 火星

    C)あるいは、もっともっと中央へと向かい
      小さくてもいいから星として作り上げてほしいと訴えるのも手かもしれない ⇒ 太陽

いずれを選ぶにしても、ケレスが外されたことを忘れないように。

ただし、すでに失われた星を選ぶことはできない。