《アリスとアーチュス》
- Aris - t - Archus -
西の大帝国ローマの主神の名を戴き、実際にこの星系において主星を除けば最も巨大な存在。
木星がもう少し大きければ、太陽系は2つの主星を持つ連星系になっていた。
この巨大惑星は、あと1歩で自ら光り輝けるところまで手を伸ばしながらも、踏みとどまったのだ……
私は、頭上でひときわ大きな存在感を放つ真鍮球を見上げた。
もしもあの星――もちろん、件の木星だ――が恒星になっていたら、この太陽系はどのような様相をしていたのだろうか?
第6惑星 「木星」
『太陽より偉大な星』
イオ、エウロパ、カリスト、ガニメデ……
地球からの観測者であるガリレオ・ガリレイによって見出された4人の兄弟は、自分たちの空に浮かぶ巨大な星を尊敬していました。
彼らが巡るあたりから見た太陽は確かに光輝いてはいましたが、その星影に比べればはるかに小さかったのです。
もちろん兄弟たちも、太陽こそが世界の中心であることは知っていました。
それだけに、尊敬する木星が太陽より劣る存在とみなされることに憤りを感じていたのです。
それでも木星はといえば、自らの周りをまわる小さき者たちの訴えには応えませんでした。
彼は太陽を巡る今の状態に満足していたのです。
しかし兄弟たちはもう引っ込みがつきません。
ついに彼らは自分たちで、木星を王座に押し上げることにしたのです。
地水火風の力を注ぎこまれた木星は苦し気に呻きました。
はるか昔にため込んだ質量は、もうこれ以上の力を留めておくことができなかったのです。
彼の身体から力が漏れ始めたのが、4兄弟にもわかりました。
しかし彼らはその苦しみには気づきません。
あと少しで栄光が掴める、その悲願を為す手助けをするのだとばかりに
主と崇める星の周りを、足音も力強く回り続けたのです……
木星から漏れた力は4つの軌道によって抑え込まれ、それ以上散っていくことはありませんでした。
彼らの輪舞によって木星はその奥底までかき回され、巨星は熱く、熱く煮え滾っていきました……
遠き太陽などかき消すだけの輝きを!
熱さを! 眩しさを!
我らの空を明るく照らしますように!
そして、とうとう木星は自ら光を放ったのです。
残る3人は、その言葉を最後まで聞くことができませんでした。
燃え上がった木星は、その膨れ上がった炎で、1番木星の近くを回っていたイオを飲み込んでしまったのです。
しかし悲しむことはありません。
木星は彼らの望み通り太陽に並ぶ存在となり、そして皆そろって運命を共にしたのですから。
しかし、これまで彼を慕ってくれていた4人の兄弟を失い、ただ1人残された木星は嘆きました。
それでも彼は、4人の望みを無にしないために涙を拭いて太陽に立ち向かったのです。
第2の太陽となった彼の力はこれまでの比ではありません。
太陽も彼を無視することはできず、次第に木星の重力の影響を受けはじめました……
この世は、2つの太陽を抱く連星系と姿を変え始めているのです。
……その時、小さくかすかな声が聞こえてきました。
それは、軌道を乱された他の星の声であり、また、そこに住む者たちの悲痛な声でした。
彼はかつて踏みとどまった時のことを思い出しました。
そして再びその歩みを止め……あっという間に燃え尽きてしまったのでした。
彼もまた、長く苦しむことはなかったのです……
私の問いにすぐには答えず、アーチュスは2番目の大きさを持つ真鍮の珠をオブジェから取り外す。
……星系儀全体がバランスを乱され、大きく揺れた。
最も巨大な惑星が姿を消した。
そうなると、次はどの惑星が覇権を狙うだろう……?
木星の存在が消失したことを記録しておくこと。
ただし、すでに失われた星を選ぶことはできない。
提示された星が、既にすべて存在しないのであれば、こちらへ進め。