《アリスとアーチュス》
- Aris - t - Archus -
直径800,000Km以上。土星を飾る円環の大きさだ。
主な成分は氷で、薄さは10mから1km程度。数多に重なる輪によって構成されている。
太陽系内には輪をもつ天体が他にも存在するが、土星のそれはそれら中でも随一の規模、そして美しさを誇っている。
かのガリレオ・ガリレイが望遠鏡を土星に向けた時、彼はこの惑星には「耳」があると記録した。
きっとアーチュスはそういうのが好きだろうなと言ってみると、果たして彼女は笑みを浮かべた。
その後の観測で「耳」は円盤状の輪であることが判明し、その美しさが知られることとなった。
しかし、それを快く思わぬ者が現れるものまた必定。
照らす光が強ければ強いほど、それだけ生まれる影は濃くなるのだから。
第7惑星 「土星」
『破滅の山』
あるところに1人の王様が居りました。
大きな耳を持っていて、世界中の訴えを聞くことができるのです。
その耳は広く空に広がって星を取り巻き、誰も全体を見たものはいないほどでした。
その裁きは見事なもので、民は皆、王を頼りにしていました。
ところが悪魔としては面白くありません。
誰かを誘惑しようとしても、王によってたちどころに聞き咎められてしまうからです。
そこで悪魔は一計を案じ、世界中に立札をばらまきました。
なんて素敵な考えであることか!
誰もが王のようになれば、きっとこの世界はもっともっとよくなることでしょう。
悪魔は老人の姿で囁きます。
こうして、世界中の人が北へ向かいました。
北の果てにある六角峰は険しい山でしたが、皆は王のようになりたい一心で登り続けました。
そして足元を見おろせば……確かに王の耳が地平に霞みながら、ぐるりと取り巻いているのが見えたのです。
しかし、彼らは山を下りることができませんでした。
次々と人々が登ってくるのです。そこには誰一人通れるような隙間はありません。
後から来た人々は、六角峰の頂で動けなくなった人の上へ上へと登っていきました。
こうして山が高くなればなるほど、足元に見える輪は、その美しい全貌を露わにしていきました。
最後の1人が感極まってそう言った瞬間、人の山が崩れました。
皆ばらばらと宙に投げ出されていきます。あまりにも高く積みあがっていたので、誰も彼もが星の外へと落ちていきました。
人々は必死になって、輪に――王の素晴らしき耳に――取りすがりました。
けれど……全ての声を聴くことができた王の耳は、全ての命を受け止めるには脆すぎました。
あっというまに輪は砕け、王の耳はバラバラになって虚空へと落ちていきました。
静寂に閉じ込められた王が、その間際に聞いたのは……守るべき民の絶望の悲鳴。
悲しくて悲しくて、王もまた、虚空へと身を投げたのです。
この星系で最も美しく大きな輪を纏う土星。
しかしその寿命は短い。
氷の雨となって降り注いでいるため、1億年もすれば消えてしまうと言われている。
そう呟きながらアーチュスは土星を手に取り、これまでに取り除いた星々の横に並べる。
死を纏い、悪魔に滅ぼされた星。
……これで、土星も消え失せたというわけだ。
悪魔が次に狙うのは何だろうか?
土星が去ったことを記録しておくこと。
A)太陽の近くには、幻の星があるという……それを狙うのではないか ⇒ 水星へ
B)いや、まだ太陽の「輪」ともいえる小惑星帯がある ⇒ ケレスへ
C)最も美しい輪を奪ったのだ。あとは不和の女神のもとへ戻るしかあるまい ⇒ エリスへ
もちろん、すでに失われた星は選ぶのは無しだ。
これらの星がもう存在しないのであれば、こちらへ進め。