アナランドの国境村で日夜カーカバードを見はっている物見の戦士たち。旧訳ではサイトマスターという訳で登場していた彼らだが、新たに「物見」という訳語を得てから、「役職名みたいになった」とか、「4巻で登場する時はどうなるのだろう?」などと某匿名掲示板などでは言われているようである。(ちなみに原文は「Sightmaster」)
たしかに物見という言葉は、見張りの者という感が強い。彼らは人間の戦士で、目が良いので選ばれて見張りの役を与えられているのだという印象を受ける。さらに、物見の中のえらい人を「物見頭」としているために、この印象は強くなる。こちらの原文は「Sightmaster Sergeant」。旧訳では「サイトマスターの軍曹」であった。旧訳では、物見は種族名という印象が強かったため、新訳での違和感が強いのだろう。
…だが、よく考えてみたまえ。
もしかして、もしかするとだよ。物見って本当に種族名じゃないのかもしれないよ?
ファンタジー物のゲームなどで良く聞く言葉に、ソードマスターという言葉がある。これは「剣を極めし者」、すなわち剣術に長けた者に関せられる称号なのだ。
では、サイトマスターという言葉はどうか。同じように、視覚に長けた者に与えられる称号なのではないか? つまり、彼らは一種族を構成しているのではなく、特殊技能を持った「人間」なのかもしれないということだ。
マンパン砦の中にいる物見達は、アナランドからやってきた者達だということが判っている。彼らはマンパンでは見張りという職業についているわけではないが、かつて「Sightmaster」と呼ばれた栄光を忘れられず、それを今でも名乗っているのかもしれない。
さて、なぜこんなことを思ったのかというとだな。実は物見って、載っていないのですよ。『モンスター事典』に(少なくとも日本語版には)。
【追記】
英国復刻版の第四巻を手に入れたことで、再び私は「物見は種族名である」派になってしまった。実は、英国復刻版には創元版には収録されていないイラストが一枚あったのである。(この一枚だけだった)それは第四巻のパラグラフ568に対応するイラストで、中庭でたむろしている3人の物見達の姿を描いた物である。問題はその「目」の描き方で、それは第一巻の物見頭のイラストと同じなのだ。実は巻ごとに微妙に絵柄が異なるこのシリーズにおいて、巻が違うのに同じ描き方をされているという事実が意味することは、それがそれをそれと決定づける大きな特徴であるということだ。この場合は、あの目は物見特有の特徴であるということである。
つまり、彼ら物見は、物見特有の身体特徴を持っていることになる。物見という名称が特定の技能をもった人間に与えられる役職名・称号であるならば、こうはならない。やはり「物見」とは、視力に優れた人間型の種族の名称ということになる。
『モンスター事典』に載ってないのは不思議であるが、それでも物見は種族名であると確信する。
【追追記】
大変今さらであるが、第四巻パラグラフ325にて種族であると明記されていたことに気がつきました。
【追追追記】
この「物見」という訳に関してだが、第四巻で出会うジャヴィンヌの台詞にその採用理由があったようだ。「あの化け物見ども」というのがそれだが、これはジャヴィンヌを苦しめる連中を指した、彼女自身の言葉である。化け物 ⇒ 物見と繋いでいるわけで、一種の掛詞である。
実はこれ、原文だとリドルになっているのだ。「Sight-monster(サイト-モンスター ⇒ 視力の化物)」を「化け物見」と訳しているのである。言うまでも無く、原文は「Sightmaster」のもじりだ。この他にも「あたしにはないものを人並み以上に持っている」(パラグラフ61)など、ジャヴィンヌとの会話を通じ、1つのリドルを形成している。ジャヴィンヌをいじめる連中は誰か? というわけなのだ。
創土版の「化け物見」という表現の中では、はっきりと「物見」と言ってしまっている。「Sightmaster」のもじり「Sight-monster」という意味では良い訳だとは思うが、リドルとしては微妙だったと言わざるを得ない。一方創元版ではどうだったかというと、こっちはそもそも「奴らはサイトマスターと呼ばれている」とはっきり言い切ってしまっている。リドルどころか掛詞ですらない。旧訳しか知らない人だと、このリドルの存在すら知らないんじゃないだろうか。自分も原文を読むまでは知らなかったし。
ジャヴィンヌがいるマンパン砦の中庭には、物見達の他にも同じ目に特徴がある赤目達がいる。衛兵達もいる。さらし台に囚われた戦争屋もいる。いずれ劣らぬ危険な存在である。赤目と戦争屋は選択肢によってはバッドエンド一直線だし、衛兵達も正体がばれている場合には、極めて高い確率でバッドエンドとなる。ジャヴィンヌの言葉から相手を推測し、選択することは危険回避という意味で重要なのである。
しかし第一巻に登場し、そして第四巻でもじるという言語ギミックを把握した上での新訳「物見」なのだと思うと、ただただ感服するばかりである。
ゲーム的な仕掛けだけではなく、「Sight(視力に)Master(優れたもの)」という、この種族がなぜ物見と呼ばれるようになったのか。そんな背景設定をも想像できる語だというのも素晴らしい。
今までゴブリンの歯は消耗品だとばかり思っていたが、ある日実はどこにもそのような記述が無いことに気が付いてしまった。どうしよう。このサイトのアイテムの項でも消耗品扱いにしてあるんだが。…でも、実際の入手頻度から考えると消耗品のような気がするんだよなぁ。さてさて。
もしも消耗品ではなく、再利用が可能だとしたらどうなるだろう。ちと脳内シミュレートしてみることにしよう。アナランドを出発した主人公は、まずカントパーニでお買い物としゃれこむ。すると、歯の入った袋の中に早速4本入っているのだ。次に主人公はシャンカー鉱山で出会ったゴブリンたちを倒す。ここでも死体から歯を入手。早くも計12本となる。この時点で主人公は(選択肢にGOBがある時限定だが)12人の部下を引き連れた軍隊長様になっているのである。サイコロでの勝率は低くとも、12人も居れば相手の体力をじわじわ削ることは可能だろう。まさに人海戦術。第一巻のボス的存在であるマンティコアもたじたじに違いあるまい。
旅はまだまだ続く。次に訪れるカレーでも6人増える。さらに、マンパン砦内部でも粘液獣の巣から2人を加えることができるので、最終的には20人もの部下を抱えることになる。(実際には、フェネストラとの物々交換でもっともっと増やすことも可能だ。おそらく反則ネタであろうが、金貨を魔法の触媒として数えてしまう暴挙に出れば、軽く50人ぐらいはいけると思われる。)
これならばマンパン砦の衛兵たちにも対抗できるのではないだろうか?
もちろんGOBが選択肢に現れなければ意味がない軍団であるけれども、もしもこれがゲームブックでなく、普通のTRPGだったなら…。恐ろしいではないか。数にモノを言わせてカーカバードを突き進み、かの大魔法使いを倒した後、「軍団」と「諸王の冠」を使って自らマンパンの帝王になることも可能だろう!
…実際に試してみればすぐ判るとおもうが、この無謀な試みを行った魔法使いはあっという間に過労死する。(ゴブリン1人を作るのに体力点1が必要だからな。)
【追記】
ちなみに巨人の歯(YOBの術で使用)も消耗品とは明記されていないようだが…… まぁ、こちらは一回の術で一本しか使えないので、巨人軍団は無理なのであるが。
【追追記】
日本語訳AFF2『ソーサリー・キャンペーン』に同梱されていた『ソーサリー・スペルブック』では、ゴブリンの歯は消耗品とのことでした。(巨人の歯については明記無し)
以前イギリスだがアメリカだかで(おそらくイギリス)携帯電話を使用して遊ぶ『ソーサリー!』があった。http://web.wirelessgames.com/で提供されていたが、現在はそのコンテンツにソーサリーの名前は無い。
詳しくは不明だが、かろうじて当時押さえておいたMAP画面を見る限りではシャムタンティ丘陵を舞台にした冒険(『シャムタンティの丘を越えて』に相当するものと思われる)だったようだ。ちなみにこれがそのマップである。
小さくてよくわからないが、村々の位置など、『シャムタンティの丘を越えて』とは相違点があるようだ。もっともカレーの方向がいまいちはっきりしないので、なんとも言えないのではあるが。原作ではカレーを目指してジャバジ河の上流方向を目指すのだが、このマップを見る限りでは海岸線沿いに進むのではないか? これではジャバジ河の上流ではなく、河口へと出てしまう。
左上のほうにはドラゴンらしき姿を確認することができる。まさか「シャグラッドの危険な迷路」か?(多分違うとは思いますがまた、明らかにカントパーニとアナランドの間に何かあるのがわかる。やはり原作そのままではなかったらしい。
おまけ:がんばって解読を試みてみました。
【追記】
PCを整理していたら、WAP版『ソーサリー!』のサイトで拾っていた画像が見つかった。
時代を感じるなぁ…。