☆★ 記憶力と判断力のゲーム

 創土版『ソーサリー!』では、本文中のアイテム名が太字になっていて、これは実にわかりやすくプレーヤーの助けになる。しかしながら、果たして「わかりやすさ」は本来意図されたゲーム性に含まれているのだろうか?

 では思考実験だ。英語原文で『ソーサリー!』を初体験してみたと考えてみよう。ルールを確認した読者は、冒険に出る前に魔導書で勉強することになる。48もの魔法とその触媒について覚えなければならないが、三文字のアルファベットはもちろんのこと、触媒のほうもすこぶる手ごわい。 Jewel of Gold(☆金の装身具/★黄金石)に Jewel-Studded Medallion(☆宝石をはめこんだメダル/★宝石細工のメダル)、Sun Jewel(☆★太陽石)なんかはもうわざと Jewel かぶりにしているのかと思える。Pearl Ring(☆真珠の指輪/★指環)と Ring of Green Metal(☆緑色の金属の指輪/★指環)とリングも二種類だ。ややこしいたらありゃしない。

 とにもかくにも何とか魔法を覚え、冒険に出発だ。最初の集落であるカントパーニで買い物をしてみれば、袋の中からゴブリンの歯に類人猿の歯、それからスナタ猫と死の猟犬のそれに、巨人のものまで歯がザックザクとくる。生き物の歯を触媒とする魔法があったはずと思い出すも、これだけ歯があるとどれがどの魔法の触媒やら混乱する可能性は高い。魔法の学習からしてそうだったが、明らかに紛らわしいものを混ぜて迷わせて来る造りとなっている。死の猟犬の歯が「数本」となっているのがさらに混乱を招く。この曖昧な記述をどう扱ったものか。全てはプレーヤーに委ねられているのだ。こいつはどうも創土版の「わかりやすさ」と相反するような気がしてくる。

 冒険を進め、リー・キまでたどり着いたところでまた別のケースに遭遇する。巨人のものと思わしき頭蓋骨がある洞窟で、ずらりと並べられた描写の果てに「好きなものを持っていって良い。一部だけでもいいぞ」とくるのだ。巨大な壊れた腰掛けや編み目のばかに大きい網はハズレアイテムだ。ここでのアタリは頭蓋骨の一部である「巨人の歯」なのだが、これがまた何本持っていけるのかがはっきりしない。イラストも無いので本数は完全に不明となっている。プレーヤーは何本でも――人間と巨人の差がサイズだけなのだとしたら、最大32本ということになるが――持っていけると解釈することも可能ではないか? 個人的にはこのシーンに挿絵があったら完璧だと思う。
 実はここでは他にもアイテムを拾うことができる。POP の触媒となる small pebbles(☆★小石)だ。物々しく展示された腰掛などのアイテムの説明の前に、洞窟の状態が描写されていて、その中にさりげなーく混じっているのだ。


The cave is not deep and appears to be empty. Rubble, mostly small pebbles, on the floor includes some large items such as a huge-shaped stool,(後略)
第一巻 パラグラフ221

 そしてアイテム羅列描写が終わると「You may take anything - or any part of anything」となるわけだ。実に巧妙と言わざるを得ない。多くの読者にとって small pebbles なんて普通の単語は、前述の物々しい Jewel of Gold やら Ring of Green Metal の後ろに霞んでしまっているに違いないのだ。

 こうして冒険序盤を見ていくと、著者ジャクソンは明らかに読者を相手に記憶力と判断力のゲームを仕掛けていると思われる。創土版の配慮はこの点、逆にゲーム性を損なっているとも言えるのかもしれない。

(8/4/22)

【追記】
 ちなみに創元版創土版共に、パラグラフ221では「小石」という単語が含まれている形で訳されている。
 ただし創土版のほうは太字になっていない。

(8/4/22)

【追追記】
 そしてこの小石も、数については何も触れられていない。後に「冒険の最後まで使える分たっぷりある蜜蝋」なんてのも出てくるのだから、いくつでも好きなだけ持って行ってもゲームバランス的には問題ないというスタンスなのやもしれない……フェネストラとの物々交換で相場を破壊しそうなのは否めないが。

(8/11/22)

★ 妄想・緑の鬘

 カレーで四行詩を集めている過程で出会うであろう長老ロルタグ。彼はルーン文字の解読に悩んでいるのだが、ここでうまいことお手伝いができないと詩の一行を教えてもらえない。首尾よく正解を見つけることができたなら、長老は感謝とともに君に緑の鬘をくれるだろう。「カレーでは人以外の者のほうが事情に通じていることも多い」と。もちろんこの鬘は RAP と YAP に必要な触媒で、人以外の者どもと会話が可能になるというものなのだ。
 しかしちょっと残念なことに、実際の冒険の中では有用な活用シーンはないというのが現状だ。だがせっかくの好意を無駄にするのは忍びない。ロルタグのためにも鬘が効果を発揮しそうなシーンを妄想してみようではないか!

 とはいえ第二巻で重要なヒントを勝手に追加するのは NG と思うので、別の方面でお役立ちになるであろう形を探すのがよさそうだ。いずれもささやかではあるが、ざっと思いついたのは以下のシーンである。

 ・海賊の「船員狩り」に遭ったのち、船倉にいる(であろう)ネズミに YAP を使うと、海賊の船長がヴィクなる人物に恩があるということを聞いたと教えてくれる。これにより、グランドラゴルのイベントを通過していなくとも、ここ限定でヴィクの名を出して助かる道が開ける。(実はここで RAP を使うことができるが、残念な結果にしからない)

 ・肥喰らいから、下水道の出口の場所や願いの井戸の底――愚か者たちが放り込んだ金貨が溜まっているはずだ!――などを聞き出すことができる。(実際は YAP を使うことができるが、このような結果がえられないのは残念だ)

 ・願いの井戸に術をかけても返事がない(この井戸は生き物ではない)ことで、その嘘をなんとなく見抜くことができる。

 ・カーニバルの踊る熊や熊使いが幻影だと見抜くことができる。やはり生き物ではないので、返事はないはず。

 ・正直ハンナのくじで、中のマイトに「よさげな物」を落としてくれるよう頼める。

 個人的には銀魚の「Bwrthhrs」の真意を聞いてみたいところではあるが、残念ながらあれはロルタグの家に着く前に配置されているイベントなのだった。

(8/11/22)

★ シハウナの秘密について

 第四巻冒頭で出会うことになるかもしれない女サチュロスのシヒンブリ(もっともすでに死んでいるが)。のちに遭遇した女サチュロスたちの話によると、死を予感した女サチュロスは村を出て、人知れず洞窟で死んでいくとのことだ。姿を消したシヒンブリは震え病にかかっていたらしく、村の衆の多くがその死を悼んでいる様子が読み取れる。さて、そのシヒンブリが死に場所として選んだ洞窟の隣にも小さな洞窟があるわけだが、ここでは瓶に入れられた手紙を見つけることができる。主人公には読むことができない未知の文字で書かれているが、この手紙を読んだ女サチュロスの女王シフーリは「我らが種族の秘密で、重要なものだ」と主人公が届けてくれたことに礼を述べる。本来なら物々交換になる取引を「贈り物」として受け取ることができるようになるのだ。
 彼女曰く、手紙を書いたのは長老のシハウナで、少し前に姿を消したとのこと。先のシヒンブリの話と合わせると、シハウナもやはり死を前に村を出たものと思われる。シハウナは手紙があった洞窟で死んだのだろう。すでに死体が残っていなかったということは、すでに自然に還ったか、あるいはこの周辺に出没するスカンク熊に喰われてしまったということなのかもしれない。

 ところで、そんな重大な秘密を自らの死とともに葬ろうとしたシハウナの真意はなんだったのだろうか。手紙に書かれていた内容がわからない以上確かなことは言えないが、シハウナが隠匿しようとした情報がシフーリにとっては重要であったことは間違いない。シハウナは現女王のシフーリから「長老」と呼ばれており、もしかしたら先代の長がシハウナであったということもありえそうだ。シフーリにとって重要な情報であるとすれば、これは女サチュロスの統治権についてのなにがしかの可能性があってもおかしくはないのではないか。シハウナは彼女に長の座を譲ることに反対し、継承に関する重要な何かを墓までもっていこうとしたのかもしれない。あるいは……シハウナが村の反逆者であったという線もありうるだろうか(例えばマンパンに通じていた、など)。

(8/11/22)

【追記】
 『ソーサリー・キャンペーン』には、この手紙の内容が「家系の歴史と血統について」と明記されている。シフーリはこの情報が失われたと思っており、大いに喜ぶとのことだが……これは先に推測した一方の説である「シフーリが女王を名乗るには、実は何かが足りていない」には合致しているように思われる。
 彼女が本来なら正当な長を名乗れないにもかかわらず一族をまとめていられる理由だが、これはすぐ近くにマンパン砦があることで説明はつくだろう。彼女たちは大魔法使いには与していない。外敵に対抗するため、隙を見せるような真似はできない……となると、もしも件の手紙を届けることなく冠の奪還を達成したアナランド者が現れたときには、女サチュロスたちの間で争いが起きるというようなこともあり得るのかもしれない。

(8/13/22)

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