★ ミラー・クッキング

 南カレーの調理小屋では珍味の調理に長けた鞭叩きがその腕を振るっているわけだが、この厨房では金縁の鏡を手に入れることができる。また、読むことのできない文字が書かれた羊皮紙もそこにはあるのだが、これはおそらく調理のレシピではあるまいかと想像できる。しかし鏡のほうはよくわからない。流しの壁に備え付けられているのならともかく、箱の中に持ち手付きの鏡が入っているのだ。この金縁の鏡という奴はアナランドでは KIN の触媒に使われる魔法の品だ。アナランドの魔法を鞭叩きが使えるかどうかについては大いに疑問ではあるが、カーカバードにはアナランドのそれに似た魔法が多く伝わっているのは事実。現に、同じカレーの絵描きは KIN に酷使した魔法を使ってくる。なれば、鞭叩きが使えないはずという道理はあるまい。

 さて、いかに料理人が KIN を使いこなすのか。生み出した複製を戦わせることしか考えていないアナランドの魔法使いには思いもつかないかもしれないが、調理や下準備に失敗しないよう複製を使って試してみるというのはあり得そうな話だ。それに活け造りにしてあれば、味見もいけるはず。何しろ鞭叩きは珍味料理の名手だ。使われる素材はいずれも希少なものに違いない。複製の術はさぞ重宝しているだろう。
 こうなると、先の羊皮紙の内容も何となく見えてくる。『モンスター事典』の鞭叩きの項目には彼らが優れた料理人であることは記されているが、魔法の才があるとは書かれていない。こいつはレシピではなく、鏡の取り扱いについての覚書と見た。

(8/14/22)

【追記】
 『ソーサリー・キャンペーン』ではこの羊皮紙、はっきりと「ルーン」とされている。まさか調理のレシピがルーン文字で書かれているとも思えないし、ここはやはり金縁の鏡を使った複製魔法についてなのではないだろうか。魔術師御用達・魔力増強料理などであれば調理法がルーン文字で記されているとも考えられるが、それでは鏡の存在理由が不明瞭になってしまう。

 ……しかしこう書いておきながら、ついついヘンテコ料理のほうが面白いかもと思ってしまう自分がいる。主人公が戦士ではなく術師であるときにのみ何か効能がある料理が食べられるとか、そういう広がりが出そうだというのが理由なのだが、どうでしょうかね?

(8/30/22)

【追追記】
 これ、実は食材用ではなくて、多忙な時に料理人を増やすための品なのかもと思い当たりました。

(10/14/22)

★ フェネストラの父ちゃん

 第三巻及び第四巻で大きな力になってくれるフェネストラとコレトゥス。『タイタン』によれば彼らの間には繋がりがある。マンパンの大魔法使いに一撃を喰らわすことに失敗し、盲目となったコレトゥスを介護したのがフェネストラだったのだ。コレトゥスは見えない目でマンパンから下り、荒野を彷徨い彼女の元へたどり着いたらしい。そこはスロフの寺院(グループSNEによる新訳では「聖域」)だったとあるので、もしかしたら第三巻で訪れることができるあの神殿廃墟がそうなのかもしれない。もっとも、先に述べた通り『タイタン』には「マンパンから下る荒れ地を彷徨って」とあるので、これをバクランドの荒れ地と解釈するのは難しいかもしれないが……。いずれにせよコレトゥスがスロフの信者になったのは回復した後とのことなので、件の寺院での体験が大いに影響を与えたに違いない。
 一方のフェネストラだが、彼女は黒エルフでありながら善に与するという変わり者だ。今はスナタ森に暮らす彼女だが、この時はスロフの寺院に出向いていた、あるいは身を寄せていたということになる。彼女とスロフの繋がりについては『ソーサリー!』本編でも語られることはなかったし、『タイタン』も上記以上のことを伝えてはいない。しかしおそらくはスロフとの繋がりこそが、彼女が善の立場をとる理由と関連づいているであろうことは想像できる。あるいは、彼女の父親が関係しているかも知れない。第四巻で出会うコレトゥスは老人とされており、『タイタン』に記されたエピソードは彼が若かりし頃となっていることから、当時フェネストラの父親はまだ生きていたはずだ。フェネストラの父を殺した水大蛇は、『ソーサリー!』本編の十二年ほど前に死霊術によって生み出されていると魚尾ヶ岩のシャドラクは語る。若かったコレトゥスが老人と描写されるのに十二年しか経っていないとは考えにくい。

 彼女の父については「そこそこ評判の魔術師」としかわかっていないが、大蛇に殺されたことからマンパンとは敵対していた可能性がある。もしかしたら彼こそがスロフの信者だったのかもしれない。もしそうならフェネストラに輪をかけた変人であったということになるが……。
 ちなみにスロフは土大蛇に力を与えている神であり、このことから大魔法使いがかつて信奉していたという仮説が成り立つ。つまり、この黒エルフは悪に染まりつつある同胞――大魔法使いを止めようとしていたのかもしれないのだ。

 現在のフェネストラがスロフと関係が無いように見えるのも、彼女の父の死と共にスロフとの関係がきれたためと考えることもできそうだ。黒エルフの死に際し、かの神は何もしてくれなかったのかもしれない。

(8/14/22)

【追記】
 結構熱い男であったと思われるこの男。名が伝わっていないのは実に惜しい。娘のフェネストラの名はラテン語で「窓」なので、ここは仮に「ポルタ」というのはどうだろうか。ラテン語で「扉」の意である。

(8/14/22)

☆★ 第三訳に想いをはせて

 近頃AFF2や「ファイティングファンタジー・コレクション」で活発な動きを見せているグループSNE。本当にありがとうございます。
 さて、その「ファイティングファンタジー・コレクション」に『ソーサリー!』もいずれ収録されるのではないかという可能性が濃厚になってきた今日この頃。ついついどうしてもかつての新訳旧訳論争を思い出しますが、あれは実に不毛でした……原本が英語なので、日本語訳に差が出るのは必然。個人的にはその差を楽しめばよいと思うのです。

 さて、グループSNEといえば既に『ソーサリー・キャンペーン』及び『ソーサリー・スペルブック』を翻訳されております。となれば、これを踏襲してくることはほぼ間違いありますまい。創元版、創土版とも細い部分では違っていた『ソーサリー・キャンペーン』。改めて見てみようではないですか。

 既存二訳の差で話題になったといえば、まずはカタカナ訳ですかね。あとは Kharé でしょうか。Kharé について先に言ってしまうと、これは「カーレ」となっています。SNE翻訳版の『タイタン』などでも「カーレ」になっているので、ここは間違いありますまい。以前発音について調べてみたことがあるが、その時もカーレと思しき結果だったので、これは妥当ではないかと。
 カタカナ訳に関しては、ざっと見た感じモンスターに関しては創元版よりもさらに徹底しているように感じます。サイトマスターやレッドアイ、ミニマイトのみならず、例えば Living Corpse(☆生ける屍/★生き骸)は「リビング・コープス」となっていますし、Mantis Man(☆カマキリ男/★かまきり男)も「マンティスマン」です。一寸変わったところでは She-Satyrs(☆シーサチュロス/★女サテュロス)が「女族サチュロス」となっていますが、これは原文からして「She-」なので個人的には妥当と思えます。あとは「七匹の大蛇たち」や「大魔王」、「神の頭を持つヒドラ」などは創元版を踏襲しているようですが、この辺りはフレーバー優先なのでしょう。一般モンスターはカタカナ、ユニークエネミーは外連味ある命名という意図があるように感じました。
 例外は Stranglebush(☆締り木/★くびり薮)で、これはカタカナでもなく締り木でもなく「くびり薮」となっています。

 一方で地名の「カーカバード」「スナタ森」は創土版と同じとなっています。もっとも、カーカバードについては元々SNEの安田さんが訳されていた社会思想社版『タイタン』からこっちでしたので、特に創土版に合わせたわけではないでしょう。スナタ森に関しては、この影響か Snattacat(☆スナッタキャット/★スナタ猫)も「スナタ猫」になっております。また全てが創土版と合っているというわけでもなく、「バクランド」などは創元版に同じくとなっています。もちろんグループSNE側でAFF2の翻訳を行う際に何かしら法則というか取り決めはあるのでしょうけれど、結果として新旧訳が混在している形になっているようです。
 これは人名も同じで、例えば Glandragor は☆グランドレイガーではなく★グランドラゴル、Javinneは☆ジャビニーとなっており、★ジャヴィンヌではありません。新旧どちらとも異なる訳になっているケースもあり、Farren Whyde(☆ファーレン・ホワイデ/★ファレン・ワイド)や Valignya(☆ヴァルギニア/★ヴァリーニャ)などは、それぞれ「ファレン・ホワイド」「ヴィラーニャ」となっています。ファレンはわかるんですが、Valignya のほうは何故……?

 そして文体がどうなるかも気になるところです。『ソーサリー・キャンペーン』はゲームブックではないのですが、TRPG用シナリオなので「GM向けのプレーヤーへの説明テキスト」が各シーンについています。これを読む限りでは、創土版のような「―ぬ」は特にありません。新訳のような文語体ではないが、翻訳の精度は上がるという旧訳のマイナスポイントを補う形になるのではないかなと想像している次第です。

(8/24/22)

【追記】
 Mutant Meatball(☆ミュータント・ミートボール/★変異現象団子)は『ソーサリー・キャンペーン』においては、旧訳と同じくカタカナ化で対処しているようで、言葉遊びの部分がどうなるかは気になるところです。サイトマスターとサイトモンスターのとことかもどうなるんだろう……

 ちなみに Arbil Madarbil に関しては「ラブーリ シベムイ (忌むべし リーブラ)」と日本語での逆さ読みになっています。神への冒涜も入っていて、きちんと説得力のある形です。

(8/24/22)

【追追記】
 一つおやっと思ったのが、スログの厨房で働く Monion(☆ミニオン/★下人)たち。彼らは同じグループSNEによって翻訳された『超・モンスター事典』では「ミニオン」という一種族ということになっているのだが、『ソーサリー・キャンペーン』では「手下」となっているのです。個人的には創土訳での「下人」というのがしっくり来ていたので(つまり『超・モンスター事典』を編纂するときに無理やり加えられたように感じているということですね)、手下のほうが納得度高かったりしますが……

(8/24/22)

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