☆ 「一撃君」

 『ソーサリー!』全編を通じ、最も印象に残る「よくわからない」敵を一体だけあげよ。

 こんな問いがあったなら、多数の人間が挙げるであろう生き物がマンパン砦(第四巻)に住んでいる。そう、禿げ頭のずんぐりしたあいつ。昼間から寝ているあいつ。最初は高圧的だが、大声で話し掛けられてしまうだけ(脅されたわけではないのがミソw)でやたら腰が低くなって食事を運んでくるあいつ。そして戦闘になると、サイコロを振るまでもなく一撃で死んでしまうあいつである。

 この愛らしい(?)生き物は、作中では一体なんという種族なのかすら明確にはされていない。呼び名が無いと不便なので、とりあえず「一撃君」と呼ぶことにしよう。さて、彼は一体何者なのだろうか?

 まずは一撃君のマンパン砦での立場を考えてみよう。
 彼が居るのは第二のスローベンドアと第三のスローベンドアの間、砦の本丸セクションである。同セクション内には、空の衛兵バードマン達の詰め所、スログの台所及び食堂、大魔王の腹心ナッガマンテーの拷問部屋などがある。ここを超えたら大魔王の住む塔まであと僅かという位置関係からも、かなり重要なセクションであると考えてもさしつかえないだろう。そして彼は、一室を与えられている立場にあるようだ。突然部屋へ進入してきた主人公に対し棍棒を持って脅しにかかるという反応は、この部屋が彼の持ち場であることを示している。

 では種族的な方面ではどうだろうか。
 はっきり言って、一撃君はこの砦に住む誰とも似ていない。しかし、もともとこの砦の住民は有象無象の集まりなので彼も外から流れてきた独り者である可能性は高い…。
 だがそうは考えにくい理由がある。新参者で信用度が低いであろう外部からの流れ者達は基本的に本丸内部にはいない。現にレッド・アイやサイトマスター達だって皆中庭どまりなのだ。本丸にいる外来者といえば、商人のナイロックぐらいであろう。ナイロックの場合は商人という職業柄、多少の信用があると考えられる。だが一撃君にその手の信用があるとは思えない。一撃君がその武勇をもって信頼されているというのはもっとありえない。冒頭で書いたとおり、彼はソーサリー最弱の生き物なのだ。
 第一、彼は脅しに弱い。威嚇されるだけで、及び腰になってしまうのだ。だから侵入者に大声を出されたぐらいで、こともあろうかその侵入者に食事を運んでくる羽目に陥ってしまうのである。
 この反応は、一撃君は普段から使い走り的な扱いを受けていると思わせるに十分な材料であろう。一見さんには強気に出るが、やっぱり腰が低いのである。

 実力で勝ち取ったとは思えないが、何かを任されている…。
 彼の部屋の近くを覗いてみよう。一体どんな仕事があるだろうか? ナッガマンテーの拷問部屋、バードマンの詰め所、そしてゴブリンミュータント達の部屋。…どうやら一撃君の微妙な立場が見えてきたようだ。

 門番にはとてもなれないであろう一撃君。皆がやりたくない仕事を押し付けられていそうな一撃君。そんな彼の仕事というのは、混沌きわまるゴブリンミュータントたちの世話係ではないだろうか。おそらく彼自身も、ゴブリンミュータントの一人なのではないだろうか。

(7/9/02)

☆ 陽の蛇・その後

 ちょっとしたバグを発見してしまった。
 バグとは言っても選択パラグラフの番号ミス致命的なものではないので安心してくれ。ちょっとした矛盾する描写があるのを発見したのである。充分致命的だという意見もあるかと思うが、まぁその是非は今はおいておこうではないか。

 問題の個所は第四巻『王たちの冠』に登場する、拷問名人ナッガマンテーの台詞の一部である。


「おやおや! アナランド人だ! 大蛇が言っていたとおりだ…」

 第三巻『七匹の大蛇』にて、主人公がマンパンへ向かっているという情報を運んでいる大蛇を一匹でも逃してしまった場合、ナッガマンテーの部屋に入った時にこの台詞を聴くことができる。
 ぱっと見問題無いように見えるがそうではない。首尾よく大蛇達を倒した主人公が、マンパン砦内部で初めて正体がばれた場合(中庭でレッド・アイ達にばれる展開がある)に矛盾が発生するのだ。つまり、大蛇は一匹もマンパンに戻っていないのにナッガマンテーは大蛇からの情報を聞いていることになるのである。

 バグをバグと報告してそのまま終わり、とするのは簡単だが面白くない。
 そこで、これが本当に矛盾しているのか? 何とかつじつまをあわすことができないだろうか、と考えてみることにする。勘のいい貴方ならもうとっくに気が付いていることと思う。そう、今回のタイトルである「陽の蛇」ならこの問題を解決できるのだ。陽の蛇は、七匹の大蛇の中で唯一倒す展開が用意されていない存在である。作中でこの蛇はスナッタの森に住む魔女フェネストラに捕われており、マンパンへ戻ることはない。倒すことができないと言うよりは、倒す必要がない存在なのだ。しかし我々は、残る六匹の大蛇を倒してなお、ナッガマンテーが大蛇の報告を受けている展開が用意されているのを知っている…。

 語られていない事実は明らかである。主人公がフェネストラの塚を去った後、陽の蛇は何らかの手段を用いて彼女の手から逃げ出すことに成功したのだ。大蛇達の気質からして、フェネストラが無事で居るとはとうてい思えない。おそらくは殺されてしまったのだろう…。
 それもこれもレッド・アイに正体を見破られるなんてポカをしたのが主人公が原因なのだ。(ちょっと違う気もするw)こんなこじつけで殺されてしまったことになってしまったフェネストラもとんだ災難ですな。

(7/19/02)

☆ オーガブラザーズ?

 ナッガマンテーといえば、悪名高きマンパンの拷問係である。サイクロップ(一眼巨人)の愛称で親しまれる(?)彼の種族はオーガであることはわざわざ明記する必要がないであろう程有名ですね。

 ところで、このカクハバードには他にもオーガが2人いる。一人はカーレで賭け試合の選手をしているケグー。「鉄腕オーガ」「ダドゥーリーのケグー」「頭蓋骨割り」等の二つ名を持つ彼は、その賭けバトルのチャンピオンとして君臨している力自慢である。試合の間にマネージャーからこっそり体力回復のまじないをかけてもらっているとは言え、その実力は相当なものだ。だが今回のメインはこの男ではない。

 もう一人のオーガ。それはシャムタンティのシャンカー鉱山で働くオーガである。彼にしか回せないであろう重たいハンドルを持つ機械が存在し、しかもその機械が宝石のカッティング&研磨機であることを考えると、彼は非常に鉱山にとって重要な人材といえる。労働以外にも彼は仕事を持っている。それは衛兵として戦うことだ。鉱山に侵入した主人公に果敢に向かっていったし、カーレの南門の牢屋にいた老人の談によれば、以前にも魔法使いの片腕を奪う快挙をあげている。

 マンパン砦とシャンカー鉱山。このカクハバードの北と南の端に存在する2人のオーガには何やら接点があるらしい。何と、マンパン砦内のナッガマンテーの部屋の鍵を、シャンカー鉱山のゴブリンが持っているのだ。ナッガマンテー自身がこの鍵を渡したとしか思えない。なぜならば、もしも盗まれたりしたならば扉の鍵を新しいものにしてしまうだろうから。この拷問名人は、実は意外と几帳面なのだ。それは彼の拷問部屋がきっちりと整理されていることからもわかる。
 件のゴブリン自身がナッガマンテーの知り合いだとは考えることもできる。だがそれなら、同じオーガのほうが接点を想像するのは楽である。多分同郷なのだろう。ひょっとしたら兄弟かもしれないw
 鍵は銀でできており、これに目をつけたゴブリンがオーガをだまして奪い取ったと私は考える。

 この鍵は鉱山内ではまったく実用的ではない(なにしろあう鍵穴が鉱山内には無いのだ)。そしてゴブリンが鍵を首にかけている事実。彼にとって、この鍵はアクセサリー以外の何物でもないのだろう。

 …しかし考えてみると妙である。
 この銀の鍵は、マンパン砦にある扉の鍵である。そして、シャンカーで働く者がこの鍵をナッガマンテー自身から受け取ったのである。すなわちシャンカーにこの鍵を持ってきたものは、マンパンからやってきたということである! シャンカー鉱山で採掘された宝石が一体どこに流れているのかは作中では語られていなかったが、マンパンが候補地として浮上してきた。そう考えればこの鉱山で働いているのがゴブリンやオーガなのも納得がいく。クリスタタンティとカントパーニの間に位置するこの鉱山に人間の姿が無いのはおかしいと思っていたが、そういうことだったのか。

 やはりマンパンの大魔王の手は、カクハバード中に伸びつつあったようである。
 しかしアナランドもつくづく警戒心の低い国だ。シャンカーからアナランドまでは徒歩で2日とかからない。大塁壁があるからって油断しすぎであるよ。

(9/14/02)

【追記】
 しかし混沌極まるカクハバードにおいて、このオーガという種族はずいぶんと社会的な生活を送っているようだ。作中に登場する3人が3人とも、職についているのだから。

(9/16/02)

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