先天性股関節脱臼の治療方針


要約:先天性股関節脱臼の治療をおこなう際に、亜脱臼(タイプA)なのか脱臼(タイプB,C)なのかということをはっきりさせることが重要です。亜脱臼とは、骨頭と臼蓋との関係は正しくないけれど、骨頭は臼蓋の中にある場合です。このような場合には治療はそれほど難しくありません。骨頭を臼蓋の中に入れる、という操作は不要であり、多くの場合は関節を取り巻いている筋肉のバランスを回復させれば骨頭と臼蓋との関係を正すことができます。亜脱臼の中でも軽度の例[実際にはこうした例が数としては一番多い)では自然治癒することも多いものです。これとは逆に、完全脱臼とは、骨頭が臼蓋から完全に外れている状態です。難しく言えば、骨頭の軟骨と臼蓋の軟骨どうしが離れているために完全に接触を失っている状態です。この場合には、骨頭を臼蓋の中に入れる、という操作が必要になります。この骨頭を臼蓋の中に入れるということを厳密な意味で整復と呼び、整復をどのように行うか、ということが昔から議論され、今もなお学会の主要テーマとなっているわけです。診断においては、亜脱臼と脱臼を判別することが極めて重要なのであり、昔のベテランの先生は、視診・触診でこれを行なっていました。今では画像診断法が格段に進歩したので、視診・触診に加えてこれらの画像診断を駆使すれば亜脱臼と完全脱臼の鑑別は難しいものではありません。
脱臼整復には様々な方法がありますが、治療を始める前にそれぞれの原理を理解し、その方法の長所短所を確認しなくてはなりません。重要なことは脱臼度を正確に診断し、それに応じた治療方針を選択することです。漠然とした治療をいきなり始めると、合併症併発のおそれがあるだけでなく、整復に失敗した後の治療が極めて複雑困難なものになってしまう可能性があります。
水野病院ではタイプB,Cの完全脱臼に対しては開排位持続牽引整復法で治療しますが、入院が1か月以上必要と判断される場合には、牽引の後、全身麻酔下での徒手整復法を行っています。

 脱臼の整復(脱臼した大腿骨頭を本来の受け皿である臼蓋におさめること)そのものは多くの場合それほど難しいものではありません。もちろん整復のむずかしい脱臼もありますが、整復を妨げている原因をあきらかにして整復方法を選択すれば良いわけです。問題は、赤ちゃんの大腿骨頭はその特異的構造から損傷(大腿骨壊死)を受けやすく、ひとたび傷つき変形がおこると正常な発達をすることが困難である、ということです。したがって、いかに大腿骨壊死を発生させずに脱臼を整復するか、ということがこれまでの小児股関節に関する学会の主要テーマであり、今でも最も重要な課題であることに変わりはありません。様々な整復方法がありますが、重要なことは、それぞれの方法の特性ならびに適応を理解して用いることと考えます。

わが国における代表的治療方法

1.フォンローゼンスプリント。

主として新生児に使用します。股関節が外れやすい状態のときに、股を広げた状態を維持することにより股関節を安定させることが目的です。脱臼している状態のときに無理やり整復してこの装具で整復位を保持することは危険です。後に述べますが、わが国では乳児時期から治療を開始することが多いので、この装具は最近使われることは稀になっています。

2.リ−メンビュ−ゲル法。

我が国においては広く普及しています。リーメンビューゲルを用いた脱臼の治療成績については、1994年第33回日本小児股関節研究会で主題として取り上げられ、8大学4病院の成績では、整復率は約80.2%で、骨頭壊死発生率は14.2%であったことが報告されています。ただし、これはさまざまな脱臼度を度外視して、軽度のものから重度のものまでのすべてをひっくるめての成績です。私達の成績も似たようなものでしたが、これをさらに詳細に調べてみると興味深いことがわかったのです。リーメンビューゲルは亜脱臼( タイプA 脱臼)では整復率100%で合併症も極めて少ない(ただしまったくないわけではありませんが)のですが、真の脱臼(タイプB、C脱臼)にたいしては整復成功率は約50%で、整復成功しても骨頭壊死発生率は30%にも昇ることがわかりました。すなわち、脱臼度の低いたとえば軽度の亜脱臼では整復率は高く、合併症もすくないのですが、完全脱臼では整復率は極端に悪くなり、たとえ整復されたとしてもしばしば骨頭壊死などの合併症の発生することがわかったのです。また、整復されないままこの装具を装着しておくと、たしかに股の開きは大きくなって一見改善されたように見えるのですが、実はこの状態は大腿骨頭が臼蓋の後ろ深く潜り込んで、次の整復をいっそう困難にしてしまいます。重症度を無視して赤ちゃんを十把一絡に扱う、というのがどれほど深刻な問題を生み出しているかおわかりでしょう。このことに関してくわしく知りたい方は、整形外科雑誌で世界的にもっとも権威のある (Journal of Bone and Joint Surgery 78-B,1996 年発行、631-635ページ)を参照してください。リーメンビューゲルによる整復率や合併症については約10年前から小児整形外科学会でもおおきなテーマとなっており、現在でも様々な専門施設で臨床研究が進められているところです。このことについては、日本の代表的な整形外科の雑誌の1つ、(臨床整形外科24巻 No.5, 1989年、598-629 page)を御覧下さい。

リーメンビューゲルは危険であるとして全面禁止を主張する医師(ヨーロッパのある有名な医師)もおりますが、リーメンビューゲルを漠然と装着するのではなく、その原理を理解し、適応を厳格にすれば簡便で大変優れた方法と考えます。たとえば、タイプAIなどの亜脱臼においては、骨頭を臼蓋の中心に向けて、この中に正しくおさまるようにする操作を行えばよく、整復による合併症も少なく、リーメンビューゲルの良い適応です。

2.徒手整復法。

全身麻酔をかけて徒手的に整復する方法です。昔は無麻酔で行い、その後の固定は股関節を極端に開いた状態でギブスを巻いていましたので、ほぼ50%以上に骨頭壊死が発生していました。こうした歴史があるので、この方法を嫌う人もいますが、まえもって牽引を行い、整復時には全身麻酔をかけ、内転筋の切腱(股を開きにくくしている筋肉の腱の1部を切開すること)をおこない、ギブスを巻くときは股を開きすぎない位置(human position と呼ぶ)で巻くなどの注意をすれば骨頭にかかる圧力は極力避けることができるので、決して成績は悪くはありません。ただし、緊張した筋肉をそのままにしたり、股を開きすぎてギブスをまくと骨頭壊死が発生する確率が高くなります。このことは動物実験その他で明らかにされ、これに関する論文はたくさんあります。
ギブス固定そのものが骨頭壊死の原因であると主張する人もいますが、股を開きすぎていることが問題であって、股関節を開き過ぎないようにすればギブス固定そのものは問題ないことが実証されています。
牽引、内転筋の切開、適切な位置でのギブス固定などの原則が守られれば徒手整復法は優れた方法です。とくに筋肉の緊張が強いお子様の場合は第一選択となります。私達の経験でもこれまで良好な成績が得られております。
関節内介在物が多く、整復した骨頭が安定しない時にはギブスの中で再脱臼することがあります。このような場合には数か月の間を置いて再度徒手整復を行います。それでも整復困難な場合には手術的整復を行います。ただし、これまでの私たちの経験からすると、手術的整復に至るのはすでに手術を受けているとか、他の疾患を合併しているとかいったケースで、通常の場合には全例手術しないで整復されています。

3.オーバーヘッドトラクション法。

牽引しながら整復する方法です。最初は水平牽引をおこない、その後すこしづつ下肢を持ち上げて頭を超えるくらい(オーバーヘッド)まで持ってゆきます。このようにして膝屈筋を緊張させることにより上方に転位した骨頭を下方に下げてゆきます。骨頭が充分下方の下がったところで股関節を牽引したまま開くことにより整復を行うものです。オーバーヘッドトラクション法単独では整復率はそれほど高くないのですが、牽引によって股関節周囲の固くなった筋肉を和らげ、骨頭に無理な力をかけないようにしているという点で優れた方法です。

4.開排位持続牽引整復法。

1993年から滋賀県立小児保健医療センターで実施している新しい整復方法です。5段階から成り立ちますが、第3段階が重要です。他の方法と異なる点は、1.骨頭を整復するときに超音波断層像で骨頭を監視しながら、牽引の錘を少しづつ軽くして可能な限り骨頭への圧力をなくすることをめざしたこと、2.超音波断層像を使って、骨頭を積極的に臼蓋の正面に誘導してゆきます。整復率、骨頭壊死の少なさにおいて他の方法と比べ圧倒的な優位差があるのは、上の2点によるものと考えています。詳しくは、開排位持続牽引整復法のページをご覧ください。
タイプB、タイプCの脱臼(完全脱臼)が適応となります。他の先天奇形や麻痺などを伴っていない脱臼であればほとんどの例が合併症なく整復に成功しています。もちろんこの方法が絶対的なものではありません。たとえば骨頭を臼蓋に正しく向けたときに、臼蓋の中に整復を妨げる介在物が大きければ、骨頭を臼蓋に向けた状態を維持することはできません。これまでそうした例に対しては、ギブスを巻く時に骨頭が下に落ちないように工夫したり、数カ月期間をあけて再度牽引を試みるなどしてほとんどが整復できてきました。

5.手術的整復法。

最後の手段です。関節内介在物があまりにも大きくてこれを除去しないと整復が不可能と判断されたときにおこないます。私の経験では、他の全身奇形を伴う場合で極端な高位脱臼の例、内臓奇形を伴う為長期入院が不可能な場合、手術的整復後再脱臼した例、には最初から手術的整復の適応と考えます。


水野病院における治療方針


生後3ヶ月未満で発見された場合。

軽度の亜脱臼、たとえばタイプAI脱臼であれば、下肢運動を妨げないように注意すれば多くの場合、自然治癒してゆきます。タイプAIIで半数以上の例、,或いはタイプB,Cのほとんどの例では自然治癒は稀ですので整復治療が必要です。治療開始時期については、生後なるべく早く、できれば新生児期に脱臼を発見して直ちに治療を開始する、という考え方と、治療は生後3−4ヶ月頃開始する、という2つの意見に分かれています。
前者を支持する医師は、幼弱であればあるほど関節は柔らかく、整復もより簡単であり、また早く整復したほうが臼蓋の発達も早くから期待できる、というものです。しかし、問題は幼弱であればあるほど大腿骨頭も幼弱で傷つきやすい、と考えられることです。本当に傷つきやすいか、ということについては実は賛否両論があって決着はついていません。私の個人的経験からは、確かに小さければ小さいほど傷つきやすい、という印象をもっていますし、わが国の先天股脱臼治療をリードしてきた先生方の中にも新生児時期の治療を極端に嫌う方もおられるのが事実です。
このようなことからわが国では後者を支持する人が多く、確固たる根拠はないのですが私も同じ立場をとります。したがって、生後3ヶ月になるまでそのまま待機します。それまでは、脱臼の予防のところで述べたように、赤ちゃんの下肢の自由運動を妨げないようにオムツの当て方、抱っこの仕方などの注意をしておきます。
詳しくは「脱臼の予防」をご覧ください。


乳児期の治療方法

股関節を曲げた時の大腿骨頭の位置によって脱臼の程度をA, B, C 3つに分類し(診断のページ参照)、脱臼の程度に応じた治療をおこなっております。

タイプA脱臼とは、大腿骨と臼蓋とのズレがわずかで、両方の軟骨どうしは常に接触を保っている場合を言います。タイプAの中で、股関節の位置によっては骨頭と臼蓋とのズレがなくなる場合もあり、これをタイプAIと呼びます。さらに、タイプAIのうち、臼蓋の形成が良好な場合をタイプAI-I, 臼蓋の形成が不十分な場合をタイプAI-IIと分類します。

タイプAI-I(軽度の亜脱臼)の場合は下肢取り扱いの指導のみで経過観察します。

軽度の脱臼であれば、赤ちゃんの育児環境を良好に保つことにより、自然治癒を促すことが可能です。赤ちゃんの下肢取り扱い方法とは、特別に難しいものではなく、その基本は赤ちゃんの下肢の動きを妨げないということです(詳しくは予防のページを参照)。下肢の動きをなるべく制限しないような薄いおむつ(紙でも布でもかまいません)、おむつカバーを股間に当て、赤ちゃんの下肢の自由な動きを妨げないことが基本です。したがって下肢の動きを制限するようなおしめカバーや衣服は使用しないことが重要です。しばしば見られる誤りは、股の間に厚いおしめを当てることによって下肢を無理やり開かせることです。股関節の開きを強制的に赤ちゃんに押し付けると後に、深刻な股関節変形が生じることがありますので注意してください。赤ちゃんを抱く場合は、抱く人と赤ちゃんとがお互いが向き合うようにするのが大切です。そうすれば赤ちゃんの下肢は自然な形をとり、ある程度自由な運動が可能になります。赤ちゃんを横にして抱くと、下肢の動きが制限されるので横抱きは避けるべきです。よく見られる誤りは、抱くときに、赤ちゃんの股に手を入れることです。このような抱き方をすると一方の下肢の運動が制限されますのでよくありません。赤ちゃんにミルクの飲ませる時も、赤ちゃんがお母さんの膝にまたがるようにします。
このタイプの脱臼ではほとんどのケースが3−5か月くらいで自然治癒をします。ただし、その後の定期的診察で臼蓋形成が良好なことを確認してゆくことは大切です。

タイプAI-II(軽度の亜脱臼だが臼蓋形成不全がある)の場合は入院の上リーメンビューゲルという装具を装着して治療します。入院後、リーメンビューゲルを装着し股関節が無理なく開ける状態での牽引をおこないます。開きの改善に応じて牽引の方向を変えてゆき、股関節が70度まで開くようになったら重垂を軽くしてゆきリーメンビューゲル装着のまま退院します。入院期間は約23日です。牽引中は必要に応じて抱っこすることはかまいません。また、激しく泣くようでしたらすぐに抱っこすることが重要です。このタイプにおいて骨頭壊死などの合併症は少ないのですが、「激しく泣いたら抱っこ」という原則を守るとさらに合併症発生率は低くなります。退院してからは寝るときに下腿に小枕を入れて股が開きすぎないようにすることが大切です。これも合併症を少しでも減少させる上で守らなくてはなりません。
退院後はリ-メンビューゲル装着期間は2週おきに外来通院していただき、経過を観察いたします。リ-メンビューゲルは約3ヶ月装着し、その後は1ヶ月かけてすこしづつはずしてゆきます。装具除去後は、定期的診察で臼蓋形成が良好なことを確認してゆくことは大切です。稀ですが問題の出てくる場合があるからです。

タイプAII(亜脱臼)では股関節をどのように動かしても大腿骨頭と臼蓋との間にはズレがあるのですが、幸い骨頭は臼蓋の中にあるため、骨頭を臼蓋の中に入れるという操作は必要ありません。ほとんどの場合、牽引等により股関節周囲の筋肉の緊張を和らげることにより大腿骨頭と臼蓋のズレは矯正されます。
まず牽引をおこなって上方に移動している大腿骨頭を引き下げます。その後リ-メンビューゲルを装着して股関節を無理なく開いた状態での牽引をおこないます。開きの改善に応じて牽引の方向を変えてゆき、股関節が70度まで開くようになったら重垂を少しずつ減らしてリ-メンビューゲル装着のまま退院します。入院期間は1−4週間です。
牽引中は必要に応じて抱っこすることはかまいません。また、激しく泣くようでしたらすぐに抱っこすることが重要です。このタイプにおいても骨頭壊死などの合併症は少ないのですが、「激しく泣いたら抱っこ」という原則を守るとさらに合併症発生率は低くなります。退院してからは寝るときに下腿に小枕を入れて股が開きすぎないようにすることが大切です。これも合併症を少しでも減少させる上で守らなくてはなりません。

退院後はリ-メンビューゲル装着期間は2週おきに外来通院していただき、経過を観察いたします。リ-メンビューゲルは約3ヶ月装着し、その後は1ヶ月かけてすこしづつはずしてゆきます。装具除去後は、定期的診察で臼蓋形成が良好なことを確認してゆかなくてはなりません。

タイプB(完全脱臼),タイプC(高度な完全脱臼)においては、脱臼した骨頭を臼蓋の中に入れる、という操作が必要です。この点が亜脱臼と根本的に異なります。完全脱臼においては開排位持続牽引整復法を用います。

第5段階終了後の診療:骨頭が整復され、安定した後には、経過観察期間となります。再脱臼の傾向は無いか、あるいは臼蓋は順調に発育しているかなどをチェックします。最初は数カ月おきに通院となりますが、その後順調であれば、15歳ぐらいまで1年ごとの診察になります。装具が除去され、歩行できるようになった後では、1)骨頭の外扁化、2)臼蓋形成不全、に注意して経過観察をおこないます。骨頭の外扁化は歩行開始とともに多くの例で出現します。股関節周囲の筋力がまだ不十分なためにおこるものとされていますが、改善するのに半年から1年くらいかかる場合があります。外偏化の改善がおもわしくない場合には夜間に装具を装着することを検討します。また、臼蓋形成不全が持続したり新たに発現することがあります。多くの例では5歳ころまでには改善するのですが、脱臼度が強かったり、遺伝的素因がある場合にはあまり改善が望めいことがあります。この場合には追加手術(手術的に臼蓋の被覆をする。たとえばソルター手術)が必要となりますが、この手術は股関節を整復する手術とはまったく異なり確立した安全な手術です。

途中で(たとえば第4や第5段階)で再脱臼がおこる場合もあります。再脱臼の場合にはその原因が必ずあるはずですので、それを確かめた上でもう一度開排位持続牽引整復法を途中の段階から繰り返します。

整復されないまま長期間にわたってリーメンビューゲルを装着していた場合やタイプCの中で脱臼の程度がより強い場合には第1段階で骨頭が下がりにくかったり、第2段階で骨頭がなかなか適切な位置に動いてこない場合があります。このようなケースでは長期入院が必要となります。子供病院であれば長期入院が可能ですが、水野病院のように御家族に赤ちゃんの面倒を見ていただいている場合には、1か月以上の入院生活は好ましくありません。したがって、開排位持続牽引整復法をおこなった場合に入院が1か月超えると判断された場合には、開排位持続牽引整復法の途中から全身麻酔下での徒手整復法に切り替えております。この場合、1か月近くにわたっておこなった牽引は全身麻酔下での徒手整復に極めて有効であることが分かっています。たとえば、牽引をしないでいきなり全身麻酔下での徒手整復をおこなった場合には、同時におこなう内転筋の切腱も小さくて済みますし、整復後の再脱臼や骨頭壊死の可能性もはるかに小さくなると考えられているからです。

関節の中に整復を障害する組織がぎっしりつまっている場合は、開排位持続牽引整復法でも整復が難しい場合があります。このような場合には一回の試みではうまくゆかずに、間をあけて2回目、あるいは3回目の挑戦でうまくゆくことがあります。このようにして、これまでほとんどの症例の治療に成功していますが、何回か繰り返してもうまく行かない場合、あるいはうまくゆかないと予想される場合には全身麻酔下に内転筋切腱後、徒手整復術をおこなったり、それでも整復されない場合には1歳以後に手術的整復をおこなう場合があります。

赤ちゃんの中には、緊張の強い子もいます。このようなケースでは牽引の効果が出にくく、むしろ牽引によって筋肉の緊張を高めてしまう場合があります。このようなお子様の場合には牽引を行わずに全身麻酔下に内転筋切腱後、徒手整復術を行います。


歩行開始以後の治療法

先天性股関節脱臼を1歳過ぎから治療を始める場合には、長期の脱臼により股関節周囲の筋肉や靱帯なども変化しているため簡単ではありません。また、脱臼の程度も強く、ほとんどがタイプC、すなわち骨頭と臼蓋が完全にはずれている状態です。従って乳児期の治療とは異なり、骨折治療で用いられるような鋼線牽引の後で開排位持続牽引整復法を行いることもあります。

開排位持続牽引整復法でこれまでこれまでに39ヶ月の完全脱臼の治療に成功しています。途中で(たとえば第4や第5段階)で再脱臼がおこる場合もあります。再脱臼の場合にはその原因が必ずあるはずですので、それを確かめた上で次の方針を決めます。もう一度開排位持続牽引整復法を途中の段階から繰り返しますこともありますし、手術的整復をおこなう必要もあるかもしれません。


ホームページのトップへ