8月15日(金)アフガニスタンへ

 今日は、トライバルエリアを越えて、アフガニスタンに入ることができた。

朝、例の役所、ホームセクレタリーとやらに行く。この前も見かけた役人のおじさん。長い顔で、背が高く白いひげに貫禄のある、なにやら哲学的な雰囲気をかもしだしている人だが・・・が、タカタカタカタカタと旧式のタイプを打っては、とても深いいい声で話している。貫禄があってこんなに偉そうな顔をしているのに、実際は、あのスケベ親父(書類にサインをする上の役人・・いつも、セクハラ発言をしたり、わざとサインをしなかったりするそうだ)の下っ端のようだ。私たちは、そのスケベ上役が来るのを待っている。重役出勤なのか遅い。エリさんは口の端で笑うこともせず、シビアな表情をしている。彼女はなかなかの人である。その横で私は、「このだぼだぼ服を着ていると、きっとおなかに緊張感がないから、きっとみんな出っ腹になるんだな・・・・」なんて考えている。書類を持ってきた若い男の人も、みんな顔や他の部分はそうでもないのに、腹が妊婦のように出ている。私が、そんな間抜けたことを言っても、エリさんは笑いもしない。少しして、9時10分過ぎほどに、例のスケベ上役が来た。そして、今回は、エリさんの迫力に気圧されたか、あまりごたごた言わずに書類を書き直してくれたようだ。結局、トライバルエリアの通行許可が、警備局の方にファックスされていなかったのか、それとも、ファックスが届いていたのに、何かの手違いだったのか、それは、結局双方で「自分のミスではない」と言っているのだろう。いずれにせよ、今回はすぐに書類が回り、無事、警備局からは、銃をもったベレー帽のお巡りさん(ガードマン?)が、乗り込んで、私たちは出発することができた。

 トライバルエリアに入る。以前は鉄道も走っていたそうだが、今は線路が走っているだけみたいだ。これから先、「外国人は許可なくして立入禁止」の立て札が立っている。パキスタン領でありながら、パキスタンの実行支配が効かない場所なのだ。いろいろな民族の人々がそれぞれの自治を保って暮らしているのだそうである。

 入った早々、人々(ほとんどやはり男だが・・・)の行き交う市場を通る。助手席に座った銃を抱えたガードマン氏は黒々とひげをはやし、鼻が高く、するどく端正な顔をしている。ベレー帽をかぶりまっすぐ前を見て座っているが、どうも、うとうと眠そうである。当てになるのだろうか?大丈夫なのかな?本当に、ここは襲撃などがあるところなのだろうか?この無法地帯では、彼らはパキスタンに税金を払うことなどはせず、電気も勝手に引き込んだり・・・しているとか、誘拐なども横行しているとか?

 道々、道ばたに立て札が立っている。まるで、「鹿の飛び出し注意」とか「イノシシ飛び出し注意」とか「園児に注意」みたいな標識である。それが、ベレー帽に銃を持った兵士の絵だ。これは何だというのだろう?「兵士襲撃に注意?」「兵士飛び出し注意」だろうか?ひぇ〜〜と思って、エリさんに聞くと「チェックポイントがあるんじゃないですか?」という、まともな答えが返ってきてしまった。

 でも、その兵士襲撃注意、または飛び出し注意でも、不思議ではないほど、道端に、よく見ると、銃をもった男たちがたむろしている。

 乾いた景色である。ユーカリしか育たないのだろうか?ユーカリだけが、ポチポチと生えている。あちこちに砦のような土の壁がある。壁に穴があいていて・・・・あれは、中から外をねらって撃つためだろうか?などと思うと、ここは、私が踏み込むような世界ではない。本当に異次元世界だ。私はどうして、こんなところをこんな格好して通っているのだろう?どうして、ラオスじゃなくて、モンのところじゃなくて、日本じゃなくて、ここにいるのだろう?もし、今ここに一人でおかれたら、私はどうなるのだろう?この人たちは、たとえばラオスで迷子になった時に、人々がよってたかって、あーだこーだと親切にしてくれるように、なんとかしてくれるのだろうか?

 砦、土の壁・・・これは、戦うためにあるのではないだろうか?戦い続けてきた人々・・・

それにしても、なんとなんと厳しい景色なのだろう?ちょぼちょぼとはえたブッシュと、ユーカリだけ・・・何も育たない・・・そんな乾いた景色。ここで、食べ物が手に入らなければ、すぐに飢餓がやってくるのはわかる気がする。普段だって、いったいどうやって食べているのだろう?どうしてこんなところで暮らしていけるのだろう?

 もし、ここに一人で取り残されたら・・・・人々が救ってくれるくれないを別にしても、のどが渇いてすぐ死んでしまうだろう・・・・死という言葉が身近に感じられる環境、戦いという言葉が日常の中にある人々・・・そんな厳しさがある。

 


向こうから、カラフルに装飾しまくったハデハデトラックが荒い運転で走ってきた。なんと前のバンパーの前に三人の少年が座っている。ちょっとでも振り落とされたら、そのままその車にひかれてしまうじゃないか。なんて無鉄砲な荒くれの少年たち。すごい・・・あっけにとられる。

 この大型トラックが頻繁に荒くれに行き交う中を、運転手のマンガルは、やはり暴走おやじで、「おいおい、この隙間で、この大きな車を追い越すのかい?」というところを、気短に追い越していく。もちろん上手なのだろうし、のろのろ運転していたらどこへもいけないんだろうけれど、これじゃあ、事故が起きても仕方ないよなぁ・・・こっちがよくても、向こうだって、こっちだって、あっちだって、みんな輪をかけて気の荒い運転だ。

 私は、カメラのシャッタースピードを一番早くして押しているが、どのくらい写ったかわからない。荒涼殺伐とした風景を撮りたかった。

 本当は、その中で生きている人を撮りたい。が、あんまり遠くに通り過ぎていくだけだ。

 カイバル峠は荒涼とした吹きさらしの峠かと思ったら、いきなり市場?と思った人々があふれた地域がそうだった。人々と大きなトラックと、物が行き交う。国境独特の喧噪が砂埃の中にあふれかえっている。小屋のようなイミグレで出国のスタンプをもらう。ドクターナカムラの名前を言っていた係官は、片言の日本語を話す。

 アフガンサイドに入ると、これまた満面のお髭面で眉までつながったワヒドが迎えにきてくれていた。顔中ひげだらけの濃い〜〜顔だが、陽気でとても親しみやすい人だ。映画「ナビィの恋」で出てきたアイリッシュのバイオリン弾きみたいにバイオリンを弾いて踊ると似合いそうなかんじである。

 エリさんは「アフガンに入るともっと緑は少ないですよ」と言うが、なるほど、乾いた大地が広がる。川の跡はあるが、干上がっている。作物はどこで育つのだろう?

やはり土の壁の囲いが見える。「もしかして、あれ家?」と聞くと、果たしてそうなのだ。一軒一軒の家が砦なのだ。要塞なのだ。家族は壁に囲われて、外から見えない世界に住んでいる。外部から内部を守る必要性があったからこそ、そうなっているんだろう。開けっぴろげで中と外がつながっている東南アジアとは大いなる違いである。縁側からこんにちは・・・と隣とつながり、お互いの生活が見える世界とは大違いだ。土壁には頑丈な、それこそ城の扉みたいな扉がついている。エリさん曰く、中に入るとゲストルームがあり、お客の男はそこまでしか入れないそうである。女は中まで入れる。その壁の中だけが女の世界なのだから、せめて、女の自由を壁の中で、より守っているのだろうか。

 この国境から続く道は、おおよそ舗装されていた。道の脇には街路樹が続く。乾いて少し葉が茶色くなっているけれど、幹は太く大きい。とても大きな菩提樹や、ユーカリのような木も生えている。これは、ジャヒル・シャー国王が植林させたものとか?以前はあちこちが美しく植林もされ、もっと緑緑していたそうだが、ソ連、そしてその後続いた戦いで、ほとんど残っていないという。ワヒドが「昔はこのあたりはたくさんのオレンジが植わっていたんだ。今はない」と。それでも、しばらく走っていくと、緑の地帯もある。川が流れ、子どもたちが水浴びをしている姿は、なんともいいものだ。

 あちらこちらに、井戸も見える。やはり、水は救いだ。















 里芋のようなものが植わっている。トウモロコシも見える。ずっと続く小さな木が林立している。オリーブだという。こうして緑があるのを見ると、人々が生きていけることを実感する。 しかし、また、砂漠のような砂礫の大地も、大きく広がる。

 町になったと思ったら、ジャララバードだった。大きな菩提樹の下の果物屋で、ワヒドが降りてブドウと水を買った。窓を開けてカメラを出すと、少年が二人、おもしろそうに見に来た。が、私を見ると、なんだか神妙な面もちで笑いもせずに立っている。大人たちも、にこりともしない。へんてこな、異教者が来たと思っているんだろうか?

 




















今、ジャララバードの宿舎にいる。こうして、アフガニスタンでパソコンを打つことになるとは思わなかったが、さすがにジェネレーター(発電機)の音はうるさい。ここでは、平穏な静けさと、ジェネレーターの騒音を引き替えることによって、電気を得るしかない。

 ジャララバードのオフィスと宿舎は、本当に歩いて100メートルもないのに、それなのに、車で行き来している。「一人で歩いちゃいけないの?」と聞くと、「うーん、あんまりよくないですね。歩けますよ。でも、その時はショキドール(ガードマン)にきてもらわなくちゃいけないし・・・・」つまり、いけないのだ。道ばたで、女の子たちが井戸で水を汲んでいた。水の流れに気持ちよさそうだった。でも、結局、車の中から見て通り過ぎるしかない・・・・・そんな活動ってあるのかな?仕方ないのだろうけれど・・・・何がそんなに危ないのだろう?

 市川さんは、オフィスの向かいのUNのオフィスはこの前、手榴弾を投げられた・・・と言っていた。そして、フランスの団体にも手榴弾が投げられた。夜間外出などもちろんのこと、暗くなってからオフィスで働くのも危ないのだとか・・・私には、何が危ないのかよくわからないが、それは、私のように、今日さっき来た人間が言うことではない。私だって、ここで命は落としたくないもの。ここの人が言うようにしなくてはいけない。

 確かにここで働くのは、精神的につらいだろうなぁと思う。私はほんの10日くらいのことであるからいいけれど・・・アフガニスタンは思ったよりも、すごいところだ。とんでもなく遠いところに来てしまったよ・・・という気がする。

 壁の中の世界。壁の外に子どもたちの声が聞こえる。その声の主は見に行けない・・・

しかし、唯一、こっそり隠れた楽しみ。酒が飲めるのであった。カブールに、外国人専用の店で、酒類をしこたま売っている店が1つあるという。そこで、まとめ買いしてくるそうである。夕方、仕事から帰ってきて、宿舎のジェネレーターを回すと(昼間は回していない)、市川さんは、急いで冷蔵庫にビールをつっこむ。ハイネッケンだ。エリも急いで、エリの買いだめワイン倉からワインを冷蔵庫につっこむ。そして、夕食を作っている間に冷やしたビールを満喫できる・・・というのは唯一の救いとなった。もちろん、日本人はアフガンの人たちに知られないように、こっそり隠れて飲むわけであるが・・・

 さて、ショキドールは、警備兼、門番兼、そしてメイドさんだ。当然男である。お茶を入れたり、そして、洗濯物を取り入れてくれたり、してしまった。なにやら申し訳ない・・・・・やっぱりメーバーン(タイ語でメイドさんのこと。家の母という意味)が男というのは、奇妙な感じだ。 

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