8月16日(土)ジャララバードにて

 昨日の夕食は、そうめん・揖保の糸と、なすの炒め物を作り、買ってきたカバブ、そして、アフガニスタンのトマトとタマネギのサラダ。そして、ビールにワイン・・ウィスキー・・・を、ジェネレーターの電気で回せるエアコンで冷えた部屋で食べ、そして飲んだ。

 夜は、軒下にベッドを4つ並べて、それぞれ蚊帳を吊り外で寝る。私には、布団が暑かった。朝6時起きて、シャワーをあびる。朝もすぐに暑くなる。

 朝は、ドディ(ナン)と、そして、卵、マンゴジュース、お茶、コーヒー。

 まったく、壁の中の生活である。壁の外からは子どもたちの声、シャンシャンと鈴を鳴らして走るロバの音(もちろん、音だけだから想像にすぎない)いろんな生活の音が聞こえてくる。壁によじ登って外を見てみたい。扉をあけてもらって、道で子どもたちが遊んでいるのをのぞいてみたい・・・・と思うけれど、それは、どうもいけないことらしい。どこでどう狙われるかわからないとか?きっと、私は、じきに耐えられなくなるだろうなぁ・・・と思う。こんな短期で来ているのに、不平ばっかり感じて悪いなぁ・・・とは思うのだけど。

 さて、8時過ぎにオフィスへ行く。オフィスに入る前で、女の子たちが怪しげなきれいな色をしたアイスキャンディーを食べている。カメラを向けると、笑う。さぁ、車は壁の中に入る、扉は閉じてしまった。再び道路に出て子どもたちとは遊べない。

 土曜日はオフィスは休みだそうだが、数人が来て働いている。今回訪ねることになっているダライヌールは、パシュトゥ語ではなくてパシャイ語だそうで、バトゥーという陽気で調子がいい、でもなんだか飽きっぽさそうなアンチャンに、パシャイ語を教えてもらった。彼は、パシュトゥ語、ダリ語、ウルドゥー語、ペルシャ語、英語、パシャイ語・・・・とにかく、7つか8つの言葉を話せるそうで、イランの絵本の翻訳をパソコンに打ち込んでいた。パソコンで、右から左へと文字が打ち出されるのはなんだか不思議な感じである。パシャイ語もパシュトゥー語に輪をかけて難しいようで、まったく、どうして、こんなに努力して、今後、他のところでは役にも立たず応用もきかない言葉を覚えなくちゃいけないんだか・・・我ながら、頭が痛くなってきた。

 まったく、こんなパシャイ語を覚えるのに時間を使っている自分はナンなのだ?と思う。子どもたちに会う、その時の一瞬の出会いのために、その時に、子どもたちが絵本に出会えるために、やってきたのだから仕方ない。がんばろ。

 さっき、バトゥーと、ハニーフおじさんが、図書館につれていってくれた。ここもそうは遠くないのに、車で行く。でも、車からの乗り降りの時に、道に足をつけてうれしい。舗装のしていない砂埃だらけの道。回りの街路樹はほこりだらけになっている。馬鹿でかい大型トラックが、材木を積んで止まっている。道が不整備な割に、大馬鹿でかい車が走っている。向こうからロバが荷車を引いて走ってきた。カメラを構えていると、近づいてきた。シャッターを切る。怪訝な顔をして見ている。



ライブラリーは、家の敷地の一角の小さな家?(物置?)を改装して作ったらしい。その奥が、大家の家なのだろう。大勢子どもたちがいるようで、覗きに出てくる。子どもたちはとてもかわいらしいく、笑顔を向けてくれる。ハニーフおじさんはとても穏やかな対応をしている。図書館には私が思っていたよりも、ずっと絵本があり、そして、壁には大きなかぶの絵が描いてあった。本の大部分は、イラン、パキスタンなどのものだという。こんなに絵本が出ているのか?と思う。イスラム教国で、すでにこういう絵本が出ているのならば、あまり絵本を持ち込むことに対して抵抗感を覚えなくても大丈夫だろう・・・と思った。私は、偶像を嫌うイスラム国では、絵本の存在すら認められるのだろうか?と不安に思っていたのである。すでにこうしてあるならば、あぁよかった・・・と思ったのだった。

 小さいけれど、なかなかいい感じの図書館である。 

 

 その後、今日は一日中、オフィスの部屋で言葉を覚え、そして、パソコンを打っている。そろそろ気分転換がしたいけれど・・・どこへも行けない。エアコンは、エリさんの部屋と市川さんの部屋が交互につけている。エアコンがないと、さすがにだんだん暑くなってくる。磯部さんは、暑さの中も、会計のことをこつこつと・・・やっている。さすが会計マンだなぁ・・・と思う。こんな一日二日いただけで、愚痴を言うようでは、本当にエリさんにも市川さんにも申し訳ないばかりだけれど・・・私はとうとう飽きてしまった。壁の中の仕事・・・私には無理のようである。

「ねぇねぇ、遊びに行こうよぉ」。市川さんは仕方ないなぁ・・とばかりに、

「じゃあ、行きますか。ぼくは床屋行きたいんだけど、安井さんも床屋に行く?」「うん、行く行く」

「でも、女の人が床屋なんか行ったら、みんなに見られるぞぉ」「いいのいいの。いこいこ」と。

でも、実際には私は床屋には用事はないので、「アイスクリーム」を食べに連れて行ってもらうように、イブラヒムにアレンジしてくれた。こうして、私は、とうとう遊びに行けることになった。

 といっても、ずっと車の中である。市川さんと磯部さんが、床屋で降りる。イブラヒムは、私に乗っていろというけど、私も降りて、彼らが床屋台に座った写真を撮る。みんなすごぉく怪訝そうな目をして見る。本当に怪訝そうな、異物を見るような目である。でも、たまににこっと笑う人もいる。笑いを返していいものかどうか、戸惑う・・・・

 私は、イブラヒムと、そして、同乗していたバトゥーと、学校建設のスタッフ、ナシェルおじさんと一緒にドライブに出かけることになった。しかし、車の中も外も、確かに男だけである。道を歩くのは、ひげのむさ苦しい・・まだ小さい・・若い・・年寄り・・・のすべて男である。女の顔は滅多に見えない。女の人で外を出歩いている人は、ブルカを被っている。いやぁ、こんなに外で女の顔を見ないんじゃあ・・・つまり、自分の家族以外の女性の顔を拝む機会がないわけである。そりゃあ、この私でさえも珍しがられるわぁ・・・と納得した。はじめは、あちこちで降りて写真を撮りたかったが、そんなことしてもいけないのかなぁ・・・と、乗りっぱなしであった。

 ジャララバードの中心地の市場は、ごった返していた。男で・・・。トウモロコシを灰の中で焼いて売っている。揚げ菓子を売っている。すべて男・・・みんな、車の中に座っている異邦人の女らしき顔を見て、とっても、物珍しいモノを見る・・・という目つきで見る。確かに「人」を見る目ではないかもしれない。

ジャララバードで一番長いという橋を渡った。観光名所なのか、あんなにすっ飛ばしていた車が、ゆっくりと渡った。川幅は広いのに、水が流れているのは、ほんの一部。蛇行して流れている。その川の向こうに兵士のチェックポイントがあった。いかにもムジャヒディン?(イスラム自由戦士)という感じの目つきの鋭い、銃をもった男がいる。ムジャヒディンは私を見て、ニコーっと笑った。思わず笑いを返すと、またニカァーと笑う。笑うといけないのかな?とも思うし・・・よくわからないけれど、でも、少なくとも無表情よりもいいか!と思う。笑うと笑いが返ってくる。もちろん、「なんだあれは?」という目つきのままの人も多い。

 こうして車に乗っているうちに、私は、イブラヒム、バトゥー、ナシェル、そして運ちゃんの4人のパシュトゥンの髭面男たちに囲まれて車に乗り、連れ回してもらっている、そのこと自体が面白く思えてきた。暗くなってきた。

いよいよ、アイスクリームやにつれていってくれる。真っ暗。もうやっていないのか?と思ったら、停電だという。駄目か?と聞くと、今、ジェネレーターが回るから入れ入れ・・・と入れてもらった。そのアイスクリームの店は、まるで怪しげなスナックである。ピンクや緑や、赤やブルーの怪しげな照明が天井から下がっている。「これがアイスクリーム屋かい?」という感じ。本来なら女連れの客は、ファミリールームと呼ばれる個室に行かなくてはいけないのだろうが、停電のせいか誰も客がいなかったので、端のテーブルに、カーテンも引かずに座った。アーモンドアイスクリームを注文。イブラヒムは、まだ30歳くらいなのに血圧が高いのだそうで、甘いものは食べない。彼はノンアルコールのビールを頼んでいた。こうして、お髭の男たちとアイスクリームを食べるなんておもしろいなぁ・・・・そして、それをサーブするのが、深い皺に人生を刻み込んだようなおじいさんなのであった。このスナックバーみたいな店と、アイスクリームと、そのおじいさんはあまりにも、組み合わせがしっくりこなくて、おかしかった。アイスクリームは一つ35ルピーほどである。私はもちろん全員分払おうと思ったのだが、イブラヒムが、
「You are our guest(あなたは私たちのお客だ)」と言って払ってくれた。アフガニスタンの人は、とても客を大切にする人々で、無理をしてでもおごってくれてしまうという。

 夕食はカレー。戻ると、市川さんと磯辺さんが、すでにジャガイモをむいている。私もタマネギを刻み、一緒に作る。すでに缶ビールをあけて作り出したが、イブラヒムとワヒドがエリさんと一緒に戻ってくる。ワヒドは平気だが、イブラヒムは、やはり特に女性が露骨に酒を飲むのはイヤなのだという。それで彼が来たとたん、隠しつつ遠慮しがちに飲むこととなった。(どうせバレている)

 私の両側には市川さんと磯辺さんが座ったので、「両手に腹」で、エリさんの両側にはワヒドとイブラヒムが座っていて「両手に鼻」と言い、笑う。2人の腹は出ていて、2人の鼻は高い。イブラヒムに自分の鼻が視野の中に入るか?と聞くと、「ワヒドは見えるだろ」と。ワヒドは、「もちろん見えるよ」と・・・・自分の鼻の先を視野の中に入れて生活するというのは、どんな世界観になるのだろうか?

 ワヒドは言った。

「もし、状況がよかったら、君をクナールにつれていくのに。ぼくの故郷さ」という。クナール州は、今もたくさんアメリカ兵が入っているのだそうだ。昔は緑があったけれど・・今は少ないと。「でも、冷たい水の川が流れているんだよ。水に1分間も手をつけていられないほどだ」とワヒドは言った。その言葉に、長年の戦争で荒れてしまった故郷を愛しく思う彼の心を感じた。

 アフガンの男たちを見ていると、まるで「ベンハー」とかに出てくる人たちが、マントをひるがえして歩いているのでは・・・・・というように感じる。身体が大きく、歩くと、だぼだぼシャツが翻り、髭がなびくのである。ふと、時を共有しているのが不思議になってくる。

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