マリコのこと                         2012年4月15日(日)

 マリコは、メリーの最初の4匹の子の末っ子。実家(ビエンチャンから40kmほど離れている)のお姉さんの一家にもらわれた。4匹の子犬たち(クマ、ポチ、パンダ、マリコ)は、最初はコロコロとじゃれあって仲が良かったが、乳離れする頃から、マリコとパンダ、ポチが壮絶なるケンカをするようになり、噛み合っているのを放そうと水につけても、まだ噛み合っている・・・というケンカをして、結局、マリコが里子に出されることになったのだ。

 お姉さん一家にもらわれてから、田舎暮らしで、田んぼにもついていくようになった。お姉さんの家は小さな田舎やであるが、マリコは、誰かが家に近づくと、吠えまくって噛みつこうとするおっかない番犬となった。家の前には、「マーハイ(凶暴な犬)」という手書きの札がたっていた。
 でも、実際に、マリコはかわいらしい犬で、3か月ほど飼っていた私やノイが行くと、しっぽを振ってじゃれついてきた。ずっと覚えていてくれた。マリコは、知り合いには吠えないので、札には、その後「マーハイ・スゥ・マリコ(凶暴犬、名前はマリコ」と書き添えたそうだ。家に用事がある人は、吠え付くマリコに
「マリコ、マリコ」と名前を呼ぶと、マリコは吠えるのをやめるという。

 マリコは子犬の時、うちで育ったので、ちょいと贅沢に育ってしまったか、田舎暮らしの中でも、肉しか食べようとせずに、お姉さんの家計を困らせた。焼き鳥を買ってくると、遠くからでも走って迎えたけれど、ご飯しかない時は、フンと見向きもしなかったのだそうだ。
「ふんって顔を横にむけてすねるんだからねぇ」とお姉さんが言う。

 そのマリコが、ポチと同時期に子犬を産んだ。そして、ついこの前、死んでしまった。おっぱいにしこりができて、それがどんどん広がって、あっという間に死んでしまったという。そんな気の強いマリコだが、子犬のことはとてもかわいがっていて、最後までおっぱいを吸おうとする子どもたちを、抱いたまま死んでしまったのだという。
「みんなで泣いたのよ。マリコがかわいがったマリコの子どもたちは4匹、全部育てることにしたわ」
 説明してくれながら、泣きそうになるお姉さん。私も、最期に子犬を抱いてそのまま息を引き取ったマリコを思い浮かべると、一緒に泣いてしまった。

 ここでは、犬は埋めるものではなく、捨てるものなのだそうだ。マリコは村はずれに捨てられた。
「マリコは、もう腐っちゃったかしら、見ておいで」
 とお姉さんに言われ、子どもたちは、マリコをしばしば見に行った。
「マリコはまだ腐ってないよ。臭くもなってないよ」
と見てくるたびに、子どもたちは言ったそうだ。
 ラオスの人たちが、命に対して、過ぎ行くものとして、執着しすぎない感覚を持っているのが、わかる気がする。マリコの魂も、何かに生まれ変わるように、輪廻していく。

 でも、マリコは最後までみんなにかわいがられて、短いけど幸せな人生だったと思いたい。


 姪っ子に抱かれるマリコ

 私に抱かれるマリコ

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